表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
79/102

徹也の最後

 徹也は、娘である『葉月 萌』との家族の縁を切り、彼女に危険が及ばない様にあらゆる繋がりの痕跡を消した。全ては娘を守る為・・・。そして信頼できる人物である、玉藻井氏の養子とした。


・・・


「俺には家族の愛情は理解出来ない。擬態してフリをしていただけだ」


 海斗が徹也に告げた言葉だった。彼らは正に親友と呼べる間柄になっていた。

 彼にとって、この世界は不要なもので手段だった。彼の現実はソアートにあった。

 徹也の事も、最初は利用するにあたり最も都合の良い存在でしかなかった。

 しかし、徹也と出会い、彼は少しずつ変化していた。


 海斗にも家族はいた。しかし、それはまさに擬態でしかなかった。

 海斗の有り様は、普通の人の理解が及ばない世界。だから、彼には感情を創る事が出来なかった。


「お前は感情がないわけじゃないだろ。お前が望んで止まないお前の世界を求める気持ちは感情に他ならないと思うが?」


 徹也が海斗に言ったその言葉は、その通りだった。

 彼は誰よりも自分の世界ソアートを望み、その世界の住人であるリアーナを愛した。


「そうだな・・・。だが、ひたすらに自分を望み、他人を求めない俺は愛情が理解出来ない。俺のコレは欠陥品のただの・・・欲望だ」


 彼は他人への興味がない。だからこそ自らの世界を望み、それによってどのメティス被験者よりも長く妄想世界を生き、現実世界に戻ってからも生きながらえた。

 メティス計画は欲に制限をかける。欲を解析し、リミッターをかけて人を機械に近づける。欲を解析し、統計データでAIを人に近づける作業を行う彼は、あまりにも皮肉だった。


「愛情も欲望の一種じゃないのか?そして、俺は欲望こそ人の感情、心だと思うけどなぁ」


 徹也の言葉は、いつも海斗の思考の外から刺さる。当たり前の普通の事だが、いつも確実に海斗の疑問の芯を捉えていた。彼は自分を人にカテゴリーする事すら躊躇っていた。

 そんな彼に徹也の言葉が刺さる。


「俺を人間扱いするのはお前ぐらいだ」


 彼は自分を化け物だと自覚していた。おおよそ処理能力が一般的な人と違い過ぎた。

 何をするにしてもスローモーションの様に見え、他人の愚かさを嘆くばかりだった。

 徹也ですらも、その例外ではなかった。だが、彼は海斗にないモノを沢山持っている様に思えた。

 海斗は人の愚かさを嘆いていたが・・・人を見下してはいなかった。

 むしろ、自らこそが欠陥でありイレギュラーであり、化け物だと認識していたのだ。


「はぁ?お前ほど欲望に忠実な奴はいないだろ。ガキみたいな、自分の世界を本気で創り出そうとしている、それを実行しかねない馬鹿なんてどこを探してもいやしない。俺は馬鹿も人の心の本質だと思うぜ?」


 海斗を馬鹿だと言う人物も、きっと彼を除いていないのかもしれない。

 しかし、その言葉もまた、一つの真理だと思えた。


「重永は俺と同種の人間だった。しかし、彼は娘の為に全てを賭してアイズを創った。彼の真意・・・お前はどう考える?」


 それはアイズの封印を解くのに必要な情報だった。


「お前と同種なんだからお前の方が分かりそうなもんだけどなぁ。あぁ、でも自分の事だからこそ分からない事もあるか。そいつがもし、お前と同じなら、それはきっと俺が娘を守りたい気持ちとは別だろうな。だとすれば、重永のそれは・・・意地だったんじゃないか?」


 完璧な自分を求めた結果の、救えなかった娘。愛情ではない、意地とも言える行為。重永にも愛情は存在していなかった。彼は他人の為にそれを行なったわけではない。海斗と同様に、自らの世界を守ったに過ぎなかったのだ、と考えると彼はそれがとても腑に落ちた。


「そうか・・・そうだな。だとすれば・・・。アイズは・・・ディアは、解放できる!」


 海斗に一筋の光明が見えた瞬間だった。

 海斗にとって、徹也は本当に都合のいい存在だった。

 

 だが・・・このままだと、徹也は死ぬ。

 海斗はそれを・・・惜しいと思った。


「なぁ、お前も俺と一緒に来ないか?」


 海斗が思わず溢した、心にもない台詞だった。

 徹也はそれを理解していた。


「俺は別に、人一人分の人生でお腹いっぱいなんだよ。そこを突き抜けて何かをしようなんてのは、特別なんだ。特別、変なんだよ」


 彼はそう笑いながら言った。


「そんな事が出来るのは、お前ぐらいしか俺は知らない。だから・・・お前に託すよ」


・・・


 計画は無事進み、徹也は研究所の所長に。そして、研究の実権を海斗が全て掌握し舞台が整った。そんな頃合いだった・・・。


 徹也の家が、何者かによって襲撃された。

 娘の存在は、厳重に秘匿されその情報が漏れる事はない。

 家には徹也一人だった。海斗の存在は既に戸籍からも消えており、しかしその力と権限を行使できる様に巧みに隠されていた。


 セキュリティは何重にも行なっていたが、それも突破された。

 セキュリティ会社の警備は機能せず、その武力集団はプロの仕事だった。

 テロリストと形容した方、正しいかもしれないその集団はあっという間に建物を制圧し・・・火を放った。脱出ルートも完全に潰された。

 徹也は逃げる事もできず、強固な研究室に立て篭もり、結果、建物ごとテロリストは火を放ち抹殺を図った。


 研究室での最後の時。


『どうせ死ぬなら、やっとくか。極低確率のギャンブルなんて・・・柄じゃないけどな』


 エルザを生み出した際の技術、脳の電子空間トレース技術【テセウス】。

 その改良版は、未だ欠陥だらけだった。実験すら行っていない。

 エルザの時はごく僅かな意志を人工母胎に残す程度で留まった。

 成功する確率は・・・限りなくゼロであった。



 炎に包まれる建物の中、徹也の最後の賭けの結果は・・・。



「イパミニ・・・萌の事は頼んだぞ・・・」



 彼は彼の記録を残し・・・【テセウス】を起動した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ