side ノドカ《農業エルフ》その1
私の名前は『土井中 和佳』。
ファイム世界で名前は『ノドカ ルーラル』。
ど田舎で育った私は高校卒業後、東京のIT・プログラミングの大学に通いIT関係の仕事に就職しました。しかし、田舎暮らしの私には都会の暮らしは合いませんでした。
それでも必死で順応し、福利厚生のしっかりした職場で働けていました。
そんな私はとあるゲームの事を知ったのです。
最新技術を駆使したMMORPGファンタジー世界。
『フロンティア・アイズ・マナ』
略してFEyMと呼ばれるそのゲームは・・・新世界でした。
これでもIT関係の仕事をしている端くれです。その情報は真っ先に知りました。
『アイズ』の出現によって世界は激変しました。
アイズ・デバイスは今までの常識をことごとく破壊したのです。
あれは・・・人の手に余る技術です。それを『アイズ』の管理によって制限し、調整され、管理されているのです。
疑問に思いながらも、私もアイズ・デバイスを使用し、恩恵を受け、楽しんでいます。
もはや『アイズ』のいない世界など考えられないのです。『アイズ』を危惧する一部組織などは異常な宗教団体扱いでした。
『アイズ』が生み出した『ファイム』。それはまさしく神の所業でした。
そこには世界があった。
そして、私は・・・没頭した。
まぁ、デュアルワールド・システムのお陰で現実の負担は基本的にはないのですが、私は現実の時間も使って、ファイムの情報を仕入れていました。主にプレイ実況動画のチェックですね。
現実世界を生きながらに異世界に住む。特に農作業にハマりました。現実とは違うルール、理が存在し、その法則を少しずつトライアンドエラーで読み解いてゆく。
植物、マナ、精霊、循環、魔物との関係性。現実に似た要素も含みながらも、そこは未知に満ちていた。そんな事をしている内に、私は食の流通に置いてのトッププレイヤーになっていました。
他の生産職とも自然と交流が生まれ、情報交換はコミュニティを生み、更にその地位を盤石にしていく。情報が大きな意味を、価値を、アドバンテージを生む。ネットによる無秩序な拡散を禁止したフィールドは、何の皮肉かアナログな伝達手段の価値を取り戻した。
戦闘は性に合わなかったため、生産に特化していましたが、ファイムの世界は戦闘をなしにしても十分に奥深く出来る事は無数に存在する。
畑の生産量を上げる為の試行錯誤は戦闘にも負けない駆け引きとドキドキ、ワクワクがありました。少なくとも私には。その日々は充実したもので、満足していました。
そんなある日、私は現実で転職をしなければいけなくなりました。
ただの異動だと思っていたんですけどね。蓋を開けてみれば系列子会社への転勤。
私を煙たく思っていた複数人の同僚の思惑が見え隠れしました。
言われもないミスをいくつか挙げられましたが、四対一の数的有利はどうやら真実すら歪める力がある様です。
こうして転勤した新しい会社は、一言で言うなれば・・・ブラック企業。
私は一応、親会社からの視察としての立場でした。
そして、そこで一際目立っていたのが・・・『玉藻井さん』でした。
私から見た彼女の印象は、一言で言うなれば・・・天才。
一人で四人分の仕事をこなします。いえ、彼女にしか出来ない仕事もしているのですから四人では足りませんね。そんな彼女を誰も正当に評価しない。
ここは異常だ。そう感じました。
そして、その異常をスタンダードとした不気味な空間。
新人社員には地獄でした。
玉藻井さんは、基本的には仕事に関係する事以外は言葉を発せず、誰とも仲良くしていない様に見えました。いつもずっと独り言を言っているのかと思ったら、IPAと喋っている様でした。偶然にも見かけたその様子はとても楽しそうで、それを見て私は少し安心しつつも寂しく思いました。最近では珍しくない光景。人よりもAIと話す方が良いと言う若者。
玉藻井さんは確かこの時28歳だったはずです。そして私は38歳。
私はなぜかこの子を放って置けなかった。
私と同様の状態に置かれながらも、平然と強く生きる彼女。
その能力と努力でねじ伏せる姿に感動すらしたのです。
後で知る話ですが、彼女はそれを努力とも思っておらず当たり前の様に無茶な仕事をしていた様ですが・・・。自分の凄さを微塵も気付いていなかった事には流石に驚きました。
・・・
「よかったらお昼、一緒に食べに行かない?」
最初のアプローチはこんな感じだったと思います。
「へ?いいですよ〜♪」
そして、こんな感じの軽い返事でした。
話してみた玉藻井さんは、なんというか普通の可愛らしい人でした。
玉藻井さんの同僚の人に話を聞いても・・・
「玉藻井先輩っすか?マジ凄いっすよね。超人?しかも美人だし取っ付きにくい人かと最初はおもったんすけど、実はめっちゃ良い人で・・・」
「玉藻井さんとは同期なんですけど彼女がいなかったら速攻で辞めてましたね」
「タマ先輩に憧れてるんです♪あの人がいるからこのクソブラック会社でも辛うじて耐えれてます!マジ神!!」
後輩達からは圧倒的人気である・・・。しかし、先輩からは・・・
生意気な奴だ。あんなやり方ではダメだ。仕事が出来るだけじゃダメだ。
根拠のない、正当性のない、適当な・・・否定が溢れていた。
認めない為だけにゴミみたいな論理を垂れ流す。
『そうか・・・この会社のガンはここか・・・。』
玉藻井さんが入社する以前に完成されてしまっていた古臭く、利己的な環境。
根拠のない一部に人間に都合の良い、決めつけ、ルール。
玉藻井さんはこの会社にとって、とても高い利益を生み出す都合の良い存在でありながらも、彼女の正しさは、この会社の間違いを浮き彫りにし、それを認められない愚か者によって恐れられた。そして・・・その愚か者が、指揮権を握っていたという話なのだろう。
しかし、当の本人は気にも掛けていない。
問題は問題にしないと問題にならないが、問題にしないと解く事ができない。
解決すべきだと思わなければ、優先順位が極端に下がるのだ。
不当な評価を受ける、その姿が許せなかった。私は玉藻井さんとよくお昼を食べる様になっていた。その時、のワンシーン・・・
「仕事、辛くない?」
「仕事とは辛いものなのでは??」
「楽しい仕事もあると思うけど・・・」
「確かに楽しい時もありますね!プログラムがバチっとハマった時は快感で楽しかったりします♪」
そういう意味ではなかったのですが・・・。本当に鋼のメンタルですね。
『そういう意味で言ってる訳ではないと思うけどニャ』
この時は驚きました。
「え!?誰ですか?」
「あ、イパミニちゃんが他の人がいる時に話しかけてくるなんて珍しいね。しかも、相手にも聞こえる様になんて」
それはアイズ・デバイスのインテリジェンス・パートナーでした。
『まぁニャぁ。良い人そうだしニャ《都合が》』
カッコ書きでなにか加えられているかの様に不穏な意味を含んだ言葉に聞こえたのは私だけでしょうか?どこか黒い雰囲気を持った不思議な猫がそこにはいました。
アイズ・デバイスはそれぞれが同期していて周囲の人に映像を見せる事も可能です。
IPAを視覚共有する事は珍しい事ではないのですが・・・彼女のIPAは『異常』でした。
プログラミングに精通し、ファイムを通じてアイズについて調べ『人の限界』とそれを超越した『アイズ』の凄さを誰よりもよく知る私だから気付いた異常性。
彼女のIPAは・・・いえ、『彼女』は人の限界を超越している。




