#1 騒乱・特援団入団の日
目の前のドアが赤に塗られ、ドアノブは白い瑪瑙と金属で作られており、足元のふわふわとしたフランネルのカーペットと相まって、さらに目を引きます。
窓の外から差し込んだ陽光が、水晶の飾りに屈折し、万華鏡のような輝きを光っていた。
これほどに壮麗で豪華な環境の中では、誰しもが初めてこの地を訪れた際に 驚きで圧倒されるのだろう。
石の壁にかかった いくつかの長方形の旗は風に揺られ、その刺繍には国内の著名な騎士団の紋章が描かれている。
外からの鳥の鳴き声が聞こえ、不安な気持ちをさらに強めた。
廊下を見渡すと、剣を腰に下げた凛々しい騎士が、自分に対して珍しいものを見るかのような視線を送っていた。
「あの……邪魔してすみません、僕たちは本日特援団に入団した団員です……その、特援団の事務室はどこにありますか?」
不安を押し殺しながら、隣にいる騎士に声をかけようとするさえ、全力を振り絞る。
「チッ、特援団か……そこに曲がれ。」
その騎士は眉をひそめ、一瞥もせずに廊下の片側を指さして言った。
「……新人の報到日なのに、どうして誰も迎えに来ないんだ……」
指示してくれた騎士に礼を言った後、少年ルオンは手元の地図と道筋を確認しつつ……場所は間違っていない、どうやら昨夜地図を暗記した甲斐があった。
とはいえ、先ほどの騎士の態度や多くの疑問が、ルオンの心に残り続けていた。
答えを考えているうちに事務室の前に辿り着いた。
固いジャケットの襟から、茶色い光沢のあるブーツまで……
震えている手以外は、身だしなみは問題なし!
深呼吸して、乱れた思考を整えようとしたが……
突然の息で逆に激しい咳が出てしまった!
緊張を抑えながら、冷たいドアノブを両手でしっかりと握った。
目を閉じ、歯を食いしばり、頭を高く上げ、腕を前に伸ばし、堅い柏のドアを力強く押し開けた!
このドアの向こうには、期待に満ちた喜びが待っているのか、それとも挑戦が待ち受けているのか。
いずれにせよ、新しい生活がここから始まるのだ……!
「……うっ!」
しかし、すべての幻想は、ドアを開けた瞬間に灰のように消え去った。
やや強すぎた勢いでドアが室内の男性の額に直撃したのだ。
その男性は倒れた姿勢と距離から見て、ちょうどドアの内側から出てこようとしていたのだろう。
この一撃は彼の痩せた体を地面に打ち倒すには十分だった。
男性は額を押さえてもがき、弱々しく足で地面を蹴っていた。
その苦痛に満ちた微かな呻き声は、見ているだけで忍びないほどだ。
ドアノブを握り、すべての光景を目の当たりにしている少年は、恐怖と驚愕で頭がいっぱいになり、隣にいた少女が袖を軽く引っ張っていることさえ気付いていなかった。
「ルオン……ルオン!早く彼を起こさないと……」
少女の細い声の中、不安が込められていた。
「あっ!すみません!大丈夫ですか?」
ルオンは驚きからようやく我に返り、慌てて地面の男性に手を差し出した。
しかし、なぜかその痩せた男性は動きを止め、四肢を脱力して倒れたままだった。
微かな息だけが残り、黒クマにしてる瞼しか少し動いる。
この時、自分の顔色は、ドアの瑪瑙よりも青ざめているのが違いない。
ルオンは驚愕しながら唇を噛み、無意識に自分の麦色の髪をいじり始めた。
騎士団の城内で、まずは医務室に助けを求めるべきか、それとも騎士団のメンバーに謝罪すべきか……
どちらにしても、他人からの評価は地面のナメクジ以下になるんだろう。
考えがそこまで至ったとき、焦った涙が視界をぼやけ、額もズキズキと痛み始めた。
ルオンはしゃがんで、まずは地面の男性をドアから離れた安全な場所に移そうと試した。
幸いなことに、この先輩は背は高いのに、体重が驚くほど軽かった。
隣にいた少女:ニッタもその時、ドアをそっと閉めて、外の騎士団メンバーに気づかれないようにした。
「最初から先輩を倒したなんて、これじゃ入団もできなくなるかも……」
ルオンは倒れた体を引きずりながら、ため息を漏らし続けた。
しかし、後悔している最中に、先ほど閉められた事務室のドアが、軽やかなノック音の後に開かれた。
ルオンの背筋は冷たくなり、衣服はすでに冷や汗で濡られていた。
耳元に響く足音はすぐそばに迫っており、仕方なく覚悟を決めて立ち上がり、両手を挙げて降参の姿勢を取った。
「オースト!新しい依頼が入ったぞ……」
ドアから入ってきた男性は、鮮やかな橙髪を持ち、黒い瞳は明るく輝いており、自信に満ちた笑みを浮かべていた。
背は高くないが、その親しみやすさが際立っていた。
男性は手に開封された手紙を握り、軽やかに左右に振っていた。
しかしすべての動きは、ルオンたちを見た瞬間に止まっていた。
正体不明の侵入者と、倒れて動かない同僚の姿を目の当たりにしたら、誰だって驚きを隠せないだろう。
ルオンもそれは十分わかっており、相手が誤解をする前に、急いで言い始めた。
「その……本当に申し訳ございませんでした!僕たちは今日入団したばかりの新人です!でも、ドアを開けた時に油断してしまい、この方を倒してしまって……」
緊張で言葉が硬くなってしまったが、ルオンは橙髪の男性に向かって、一連の出来事を説明した。
「そうか……オーストは強いから、少し休ませれば大丈夫だよ。最近疲れたみたいだしね!」
橙髪の男性は前に進み、膝をついて倒れた男性 ―― オーストのそばに座った。
怪我がないことを確認したら、オーストをソファへと軽々と移した。
ルオンがこの親しみやすい男性に目を向けると、彼の胸に副団長の特有の徽章が付いていることに気づいた。
「君たちがルオンとニッタだね?俺は特援団の副団長、アンサだ。」
橙髪のアンサは明るい笑顔を浮かべながらも、リーダーシップを感じれる。
「入団したばかりだけど、急ぎの依頼があるから、早速一緒に手伝ってもらいたいんだ!」
「は、はい!ありがとうございます、副団長!」
ニッタとルオンは声を揃えて叫んだ。
アンサも二人の返事に気に入ったみたいで、軽やかな足取りで門を出て、新人二人と並んで歩き出した。
厩務員から茶色の駿馬を借り、ルオンはようやく自分が『騎士団員』と名乗れると思った。
しかし、馬丁が荷車を牽いてきたとき、ルオンは思わず眉をひそめた。
それは木製で、平たく小さな二輪の荷車、雨除けがなく、快適な座席さえもなかった。
アンサが当たり前のように運転席に座り、手綱を軽く引くと、馬の蹄の音が響き、馬と荷車に乗った三人は城の石造りのアーチを抜け出た。
城門を出て右に曲がり、石畳の道をまっすぐ進むと、市街の市場に差し掛かった。
ルオンは周囲を見回した。狭い木製の荷車の上で、ニッタが荷物をいじっていた。
その中には馬の餌となる数本のニンジンも含まれていた。
しかし、巡回中の騎士や通りを行く人々は、皆三人のことをじろじろと見ていた。
このような視線は、居心地が悪くなるものだ。
「…アンサ副団長、質問してもいいんですか?」
市街地を抜け、広大な草原に入ったとき、ルオンはおずおずと声を出した。
「アンサでいいよ、ルオン。」
アンサは笑って答えた。ふんわりとした橙髪が軽く揺れた。
「団員は今のところ四人しかいないし、肩書きはむしろ気恥ずかしいよ!それで、どうしたんだい?」
「…特援団は、人々の依頼を受けて、関連する支援を行う騎士団だと聞いています。でも、実際にはどのように人々を助けているのでしょうか?」
「私もそれを知りたい!」
ニッタは自分の荷物からアーモンド菓子を取り出しながら、顔を上げて尋ねた。
「これか…助け方は色々あるんだ。」アンサは少し考えてるように答えた。
「一度体験してみると、分かりやすくなると思うよ!」
「…自分で体験するって…」
アンサの言葉の意味を考えながらも、ルオンは結論を出せなかった。
四方の風景から人工建築物の影が消え去り、代わりに遠くの山々と緑の草が広がっていた。
馬車が草原の泥道をしばらく進むと、地平線の向こうにゆっくりと村の輪郭が浮かび上がってきた。
「もうすぐだ!荷物を準備して、少し速度を上げるよ!牧場に着いたら、仕事に取り掛かるよ!」
アンサは片肩にバッグを掛け、馬を軽く促しながら言った。
「牧場…?」
ルオンは驚いて、自分の新品のブーツと団服を見た。胸に嫌な予感がよぎる。
馬車が農家の前に停まると、質素な木製の屋根と石瓦の壁が広がり、屋前の広々とした草地は、田舎の風景そのものだった。
そしてアンサたちは、低い木の柵で囲まれた牧場にいた。
しかし、ルオンが困惑したのは、柵の内側に羊の飼育の痕跡があるにもかかわらず、今は一匹も残っていないことだった。
ルオンに考える暇を与えずに、牧場の主人が家から出てきた。
円形の帽子は頭の上に乗り、短い髭と日焼けした肌は、日々の労働の結果だろう。
「お前らが特援団か…本当に羊を連れ帰れるかね?」
牧場の主人は帽子を押さえ、額の汗を拭いながら、目の前の訪問者たちを見回した。
しかし、左右を確認した後、彼の表情はすぐに安堵から疑念に変わった。
「問題ないです!特援団はいつも『使命必達』なんだから。全力で羊たちを家に連れ戻します!」
アンサは自信満々に胸を叩き、陽気な笑顔で主人の表情も少し和らいだようだった。
しかし、一連の展開は、ルオンの想像をはるかに超えていた。
王国の騎士として、農民から作物や家畜を徴収するのは当然だし、国のために農民を教育するのも王家の風格に相応しい。
しかし、農民の迷子の羊を探すとは…ルオンが口元を歪めて聞き流すのも無理はなかった。
「今朝、助手が門を閉め忘れて、25匹の羊が近くの町に逃げ出してしまってね…」
主人はそう言いながら、坂の下の町を指さした。
「向こうに草地があるんだが、大部分はそこに集まっていると思う。確認して、連れ戻してくれ。」
「もちろん!今すぐ沿道を探して行きます。さあ!ルオン、ニッタ、我々は町と草地に分かれて探そう。こうすれば日が沈む前に連れ戻せるかもしれない!」
アンサは二人に呼びかけ、眩しいほどの笑顔を見せた。
「え…馬車に乗らないの?」
ニッタは馬車に乗りかけたところで動きを止め、アーモンド菓子をポケットにしまいながら尋ねた。
「馬車は動きにくいだろう?しかも大きな物は羊を驚かせてしまうかもしれない。草地の羊群を任せて、君たちは町で迷子の羊を探してね?」
アンサは軽やかな足取りで、坂をゆっくりと下りて行った。
「ええ…はい、分かりました!」
ルオンは下がる口角を懸命に抑えようとしたが、返事の声はどうしても力が入らなかった。
アンサは緑の坂を下りていくと、数秒で姿が見えなくなった。
ルオンとニッタは互いに顔を見合わせ、躊躇しながらも草地の坂を下りて行った。
坂を下り始めた途端、清涼な風が顔に吹き付けてきた。
午後の斜陽が青々とした芝生にこぼれ、草の先端が金色に輝きながら風に揺れている。
視線を遠くに移すと、金色に照らされた町は活気に満ち、青空に浮かぶ数個の雲がまるで絵筆で描かれた絵のように見える。
ルオンは周囲を見回した。
案の定、アンサの小さな体はすでに斜面の下の草むらに紛れ込んでいた!
草地に散らばる点々とした白い点、遠くから見ると空の雲が地上に降りたように見えるのは、牧場主が迷子にした20匹の羊たちだ。
「……まずい、仕事を忘れないでくれよ!」
ルオンは思考を現実に引き戻し、ニッタと共に背の高い草むらに足を踏み入れ、不器用な歩き方で町へ向かった。
茶色の制服の上着は瞬く間に見知らぬ種子や草片でいっぱいになり、ニッタの髪にも野花や葉が混ざっていた。
ようやく足元が赤レンガの道に戻ると、服の汚れを気にする間もなく、二人は街道へと走り出した。
露店の売り声が響き渡り、手提げ籠を持った行き交う人々が縦横無尽に通り過ぎる。
華やかな看板が頭上に高く掲げられ、二人は商店街の棚の間を駆け抜けた。
いくつもの市場の露店を通り過ぎ、白い石材で建てられた鐘楼を曲がると、町の景色は一変した。
白い外壁の家々に、木材で作られた斜めの屋根がついており、数人の住人や主婦たちが家の前を掃除しながら、お互いに談笑し、輝く笑顔を浮かべていた。
次々と新しい光景がルオンの目に飛び込んできたが、肝心の羊たちは見当たらなかった。
どこから探せばいいのかわからなくなった時、見覚えのある服装をした二人の人物が街区を通り過ぎた。
振り返ると、紺青色の騎士の制服に身を包み、腰には剣を佩いた騎士たちが町の門へ歩いていた。
恐らく、ここに駐在している巡回の小隊だろう。
ルオンは決意し、すぐに騎士たちの前に立ちはだかった。
「えっと……すみません!」
ルオンは襟を整え、騎士たちの傍に駆け寄って言った。
「私たちは特援団です!この村で迷子になった羊を探しています…このあたりで見かけませんでしたか?」
「特援団?確か騎士団の雑用係って言われているやつじゃない?牧羊までやるんだな?」
一人の騎士が皮肉な口調で言い、背の高い体で目の前の二人を見下ろした。
「ご苦労だな……さっき露店の奴が側門の方で見たって言ってたぞ、そっちに見てこいよ!」
騎士たちの背中が西に傾いた太陽に染まりながら進んでいくのを見送り、ルオンは黙ってその場に立ち尽くしていた。
街道の喧騒は笑い声に変わったような、自分を見つめる視線が先ほどよりも増えた気がした。
肩に重い荷物を揺らしながら、二人は静かに側門へ向かった。
側門に到着すると、確かに5頭の羊が門前の道に散らばっていた。
ようやく仕事が終わったと安堵していたその時、荷物を積んだ馬車が門口から勢いよく駆け抜けてきた。
羊の群れの間を見事にすり抜けて行ったものの、衝突はなかったが、羊たちは驚いて四方八方に散らばり逃げてしまった!
「わぁっ!羊が!」
ルオンとニッタは驚いて叫び、身なりや装備など構っている暇はなく、転がるように羊を追いかけた。
羊は四肢が短そうに見えるが、その俊敏な速さには驚かされた。
息を切らしながら追いかけ、どうにか羊に近づく方法を必死に考えていた。
ついにタイミングを見計らって、羊の背中に飛びついたものの、その走る勢いに引っ張られて地面に引きずられてしまった……。
夕日の余光が山の向こうに隠れ、夜の帳が降り始めるころ、灰まみれの服に乱れた襟の新米騎士二人は、後ろに5頭の揺れる羊を連れて、ゆっくりと坂を上っていた。
草むらから聞こえる虫の音と、時折鳴く羊の声以外、二人の道中は静かだった。
「……おお!お疲れ様!すごいじゃん!」
坂の頂上にある牧場に到着すると、副団長のアンサは既に牧場主と一緒に待っており、二人に向かって言った。
「これでちょうど25匹、1匹も欠けていないね!」
「さすがだな……『使命必達』ってこういうことか!ありがとうな。」
牧場主は帽子を取り、ルオンとニッタに向かって軽くお辞儀をした。
「いえ……仕事ですから……」
疲れ果てたルオンの体は、言い訳の一言すら口に出すのが一苦労だった。
「よし、それじゃあ王都に戻ろうか!また機会があれば、この牧場に来てみようね~」
アンサは明るく言い、牧場主と楽しそうに話していたが、初めて会った客とは思えないほどだった。
牧場を後にして、三人は再び馬車に乗り込み、周囲はすでに夜の闇に包まれていた。
馬車が馴染みのある街並みに入ると、周りが灯りに包まれ、ルオンは騎士団の服を着た数人が終え、街を歩いているのを目にした。
そして、自分を見下ろすと、空腹で、体中が草や泥で汚れていることに気づき、内心の不満が湧き上がった。
「……アンサ先輩、どうして特援団がこんな仕事をするんですか?騎士団はもっと高貴で、国のために尽くす者じゃないんですか?なんで……こんなことに……」
ルオンの陰鬱な表情は、しぼんだ皮袋のように力が抜けていた。
「……まずは飯を食べよう。食べながら話そう。入団祝いのご馳走も兼ねてね。いいお店を知っているんだ~」
アンサがそう言うと、馬車はすぐに明るい店の前で止まった。
そこは環状通りの中央に位置し、石で作られた円形のレストランだった。
暖かい火の色、木製の屋根、そして窯から立ち上る蒸気が、安心感を与える。
アンサは慣れた様子で馬車から飛び降り、二人を店内に連れて入った。
ルオンの冷えた四肢も、席について注文を済ませた後には少し落ち着いた。
ニッタは木製のテーブルの前に座り、頬を手で拭きながら、視線をまっすぐ厨房に向けていた。
アンサは店に入ってからずっと店員と話していて、オレンジ色の髪が光の下で一際目立っていた。
ルオンが頭の中の疑問でほとんど溺れそうになった時、一皿の輝く料理が目に飛び込んできた。
それは、白樺のトレイに載せられた、油が光る焼き豚のもも肉だった。
ちょうど良い火加減で焼かれたパリパリの外皮の中には、脂が滴る桜色の肉質が美しい層を成していた。
肉を一口大に切る暇もないまま、フォークを握る右手が引き寄せられるようにして料理を口に運んだ。
適度な脂とパリパリの外皮が絶妙に調和し、酸味と甘みが効いた特製ソースと相まって、飲み込むのが惜しいほどの香りが口の中に広がり、ルオンは思わず涙を流しそうになった。
「……おいしい……今までこんなお店があるなんて知らなかった……」
食べ物に夢中で言葉が出ないルオンに代わり、ニッタが感嘆した。
「やっぱ仕事の後のご飯が最高だ!」
アンサは目を細めて満足そうに微笑み、そしてルオンを見つめながら言った。
「ルオン、シェフが作った幸せを感じれる料理と、騎士団の仕事を比べられると思うの?」
「うーん……どっちが大事かって……違うものだから、比べられないです。」
ルオンはまだ口の中の肉を飲み込んでおらず、曖昧に答えた。
「じゃあ、今日やった仕事も、誰かに幸せをもたらせるなら、それも大事な仕事じゃないかな?」
アンサは優しい眼差しをルオンに投げかけながら、さらに問いかけた。
「でも、やっぱり違う感じがする……」ルオンは小さくため息をついた。
「同じ騎士団なのに、あっちは国を守るのに、こっちは雑用……かっこよくもないし……大事でもない……」
「大事じゃないなんて誰が言った?君たちだって、もうすでに大事なものを守っているんだよ!」
耳元で聞こえたその一言に、ルオンの心は一瞬にして震え、失意の中でうつむいていた頭もすぐに持ち上がった。
アンサが身を傾け、柔らかな笑みを浮かべた唇と、疲れ知らずの輝く瞳は、さらに一層魅力的に見えた。
「俺たちの日常っていうのは、たくさんの人々が一緒に作り上げているんだ!違う仕事、違う個性を持つ人たちが、みんな大切な存在なんだ。そして、僕たち特援団は、みんなの毎日を守るために、どんな任務でもやり遂げるんだ。これが一番かっこいい仕事と思わないかい?」
アンサは晴れやかな笑顔を見せた。その笑顔は朝日のように眩しすぎず、温かみを持っていた。
茶色の素朴な上着と泥まみれの黒いズボンが、まるで騎士の鎧や勲章のように輝いて見えた。
ルオンは、先ほどまで自分の仕事に対して抱いていた疑念に、一抹の後悔と恥じらいを覚えた。
「アンサ先輩……僕はどうすれば、先輩みたいに、みんなの日常を守れるようになりますか……?」
憧れた先輩を前にして、ルオンは思わず問いかけた。
「え?俺のこと?」
アンサは驚きと喜びが入り混じった表情で、照れくさそうに口を開けた。
「うん……ルオンが言った通り、私もみんなの役に立てる特援団の騎士になりたい!」
ニッタは輝く瞳でアンサを見つめた。
「……君たち、今日もすでにとてもよくやったよ。」
憧れを抱く後輩たちに、アンサはそっと両手を二人の肩に置いて言った。
「今やるべきことは、しっかりお腹を満たすことだ。それから、挑戦の機会はいくらでもあるよ!」
「はい……はい!アンサ先輩!」
「レイザ、さっきのおすすめメニューをもう一つ!」
アンサの店員を呼ぶ声と、三人の楽しげな笑い声が響く中、混乱やためらい、そして期待に満ちた特援団入団の日は、満天の星空の下で幕を閉じた。
これから待ち受けるのは、希望や喜びかもしれないし、挑戦や困難かもしれない。
いずれにせよ、新たな生活の序章はすでに始まっていた。
「うぅ……」
うずく額に手を当てながら、オーストはソファから身を起こし、暗くなった窓の外を見つめた。
「……今日の仕事が終わったのか……」