水中ヤキュウ
目の前の巨大な湖の中にグラウンドが誕生した。しかし、誰も中に入ろうとはしなかった。いや、できんかった。あれは完全に水中での野球対決を意味していた。
「こんなの無理だよ。呼吸が持たなくて1イニングすら耐えられないよ」
仲間の1人が嘆く。
「姑息な奴らだ。俺らが来るのを想定していて、水中での戦いを準備していたのか。しかも、アイツらは魚人だから水中での戦闘はお手の物のはずだ」
俺はそう言いながら、小さなペン型の先端を押す。先端からは小さなバルーンのものが、どんどん膨れ上がる。
「セイヤ?なんだそれは?」
「これか?実は大陸王から貰ったんだ。『アイツらのことだ。きっとこれが役に立つだろう』ってね」
俺は小さなバルーンを被った。意外にも変な抵抗感はなく、付けている感じがしなかった。透明だから視界が悪くなることもないし、動きであまり邪魔にはならなそうである。
仲間たちは多少の動揺がありつつも、俺のまねをしてペン型の先端からバルーンを作り出し、頭にかぶった。
「これがあると水中でも呼吸ができる」
「ほんとに大丈夫なのかよ。俺心配だぜ」
仲間が心配そうにバルーンを触っている。
「やれるかどうかは重要じゃない。やってみるかどうかが重要なんだ」
「俺たちは大陸、いや世界の運命を背負っている。逆を考えれば、選ばれたチームなんだぞ。さっきまでビギナークラスで負け組と馬鹿にされ、ボロボロの宿舎で詰め合って寝ていた」
みんなの眼に涙が現れ始める。周りの殺伐とした雰囲気と相まって、みんなのところには光が集まっているように見える。
「けど、俺らはここまでやってきた。そして、これからもやっていくぞッ!!!」
俺は仲間を信じ、目の前のでかい湖に飛び込んだ。嫌なぐらい、水中は綺麗だった。太陽の日差しが水中を照らし、幻想的な風景を作り出している。
仲間たちも次々と水中の中へと飛び込んできた。俺たちはグラウンドのところまで、泳ぎ進む。大神蛸のチームは、既に準備が完成しており、こちらを待っていた。
「なんだその被り物?だせーなwww」
赤黒い蛸の魚人が話しかけてきた。身長は2メートル近くあり、8本ある足はうじゃうじゃと動いている。
バルーンを触ってこようとしてきたので、その足を手で払いのける。その瞬間、水中なので体を動かしにくいことに気づく。
「おっほ~怖いねえ~」
蛸の魚人は払いのけられた足を触りながら、ニヤニヤしている。
「卑怯なやり方でうちの代表チームを倒したそうじゃないか」
「卑怯?別に卑怯じゃない、戦略さ!!悔しいならお前らもやればいいじゃないか!?」
蛸の魚人は周りに賛同を求めるように手を広げて訴える。
「俺らにそのやり方はいらない。そんなことしなくても勝てるからな」
「補欠チームが偉そうだなwww代表チームが負けたら敗北同然なんだよ。そういう歴史が決まっているんだよ」
「歴史は変わる。なぜなら、俺がこの世界に来たからな」
俺は一歩前にでて、自分を指さしながら言う。
「生意気なやつだ!さあ試合を始めようじゃないか!!」
蛸の魚人の一声で、鐘の音が水中に響く。鐘は水中にあるが、水の抵抗なく揺れている。きっと特製な何かで作られているのだろう。
魚人たちは余裕そうな表情で、先攻後攻を決めていいと言ってきたので、俺たちは先攻を選んだ。一気に畳かけて、倒していこうと仲間全員が気合満々である。
試合が始まり、打席に選手が立とうとするが、ベンチからの移動だけで一苦労だった。なんせ、頭以外は水中なので水の抵抗感があり、非常に動きづらい。
一方、魚人たちは手や足に水かきがあり、不自由さは全く感じられなかった。投手はサメの魚人で、なんと手でなげるのではなく、牙で挟んでボールを投げるスタイルだ。
牙から発射される球は剛速球であり、牙によって球に穴があき、その空いた場所によって変化球が変わる仕組み。今までにないスタイルの投球と、水中でのバッティングが重なり俺たちは不利であった。
だが、俺たちはあまりにも強くなってしまっていた。水中で素振りをすれば、小さな水流を生み出し球を遠くに飛ばせることができた。これには、敵も味方もびっくりで誰も予想してなかった試合展開になっていった。
まさかの水流を使ってのバッティングで俺たちは初回で2点を獲得する。守備でもそのインスピレーションを受け、手で水流を作ってから球を投げる技を使っていき、三振を連発する。
「おい、どういうことだ。なんで水中なのに俺たちが不利な状況になっているんだよ。どうして、こんな人間どもにやられなきゃいけないんだあああーー!!!」
蛸の魚人は応援席で発狂をしていた。
「まさか。ビギナークラス大会で魚人と戦ったのが、ここで生きるとは思わなかったな」
まさかの展開になり相手たちも焦り、ついに蛸の魚人が応援を使い出す。




