守りたいという気持ちが
「なぜこいつらはビギナークラスにいたんだ...余裕でレジェンドクラスに居れる実力があるぞ」
相手チーム『ザ・マーチ』のキャプテンである男の天使が驚愕している。
「だが、、、私たちには勝てないぞ」
「魅せてやろうザ・マーチの真の実力をッ!!」
天使は指揮棒を空中に振り回し始めた。指揮棒からは虹色の音符が出始め、選手たちの心の中に入っていく。さっきの怖気づいた態度とは打って変わって、イキイキしている風に見える。
「奏で始めようか、勝利へのマーチだ」
男の天使が指揮をふり続けつづける。
2回の裏となりザ・マーチの攻撃が始まる。打者は何か音楽が聞こえているかのようにリズムをとって、左右上下に揺れている。
そして綺麗な放物線のアーチを描く。打球はフェンス際まで飛ばされ、3ベースヒットとなってしまう。続く打者たちもリズムにのって打ち始めてくる。
打者のあのリズムに乗った打ち方は、独特な間を生み出していて投手のペースを完全に乱させている。だが、何よりもやばいのは、全員に応援が掛かっていることだ。
俺が知っている応援のルールだと、攻撃の場合1人の打者にしか応援効果をかけられない。しかし、ザ・マーチの応援師のあいつはチーム全員に応援をかけている。
「覚醒…」
隣にいるスズカがぽつりと呟く。
「レジェンドクラスの応援師の覚醒レベルよ」
応援師の覚醒か。前回のドン・ファンとの戦いで選手を覚醒させることを知った。応援師も覚醒できる聞いても不思議とは思わない。
実際、俺も覚醒までとはいかなかったが、応援の力が上がって投手の応援効果を1打席から1イニングまで伸ばすことに成功したしな。決してあり得ない話ではない。
クラスが上がれば上がるほど、応援師の重要性は増してきているのか。応援効果の範囲が広くなれば、応援師の実力がどんどんと浮彫になっていく。
「このまま負けてらんねーよ」
俺は力を込めて、投手に応援をかけ覚醒状態にさせる。
覚醒状態になった投手の力はぐんぐんと上がり、球速、球威、変化量が段違いにパワーアップする。さらに、精神力もパワーアップするので、相手のリズムに惑わされにくくなる。
これで完全に止めれる、そう思っていたのだが、力は互角だった。アウトが取れないわけでは無いが、圧倒的力でゴリ押せるという状況でもなかった。
互角の力なので、ヒットは打たれもするし点を取られることもある。そして、このアウトが取れそうな取れない状態が1番精神的に辛いモノであった。
「まだサビにすら入ってないよ~~~」
指揮者の天使は頭をゆらしながら、指揮を取り続ける。
そうして結局3アウトとるまでに、5点を入れられてしまう。ベンチに帰ってくる選手たちが悔しそうな表情をしている。
俺は申し訳なかった。今チームで1番足を引っ張っているのは完全に俺だった。さっきの1回は選手たちの素の力で戦って、こちらが圧勝していた。
けど、応援師が試合に介入し始めた瞬間、形成は逆転した。一気に俺らのチームが押される状況となり、すぐに点数もひっくり返されてしまった。
誰がどう見ても応援師の実力が露呈しているのは分かる。俺が応援師じゃなければ、このチームは勝てているのかもしれない。
いつもはそうやって弱気に考えていた。けど、もう俺は生まれ変わった。決して仲間が、俺に対してそういう事を言わない信頼関係が出来ている。
「そのマーチ、転調させてやるよ」
「ふ~ん、やってみなよ」
3回の表になり俺たちの攻撃が始まる。今の点数は3-6で、3点負けてる状況だ。
俺はこれまでの特訓や過去を思い出した。長いようで短いこの年月で、俺は様々な出来事を体験してきた。辛いことも楽しい事もあったが、そのどれもが大切な思い出だ。
その思い出は一生大切にしたいし、これからも作っていきたい。その為には、俺らがここで試合に勝って、この世界を守らなければいけない、、、
世界を守る?、、、いや、、、仲間を守りたいんだ。
仲間達の顔が思い浮かんできて、みなが俺に話しかけている。「セイヤ!」「セイヤ!」「セイヤ!」俺の心の中が温かくなる。
心の温かさで、奥底の力が湧いてくる。叫ぶような力の湧き方ではなく、じわじわと熱していくような力の湧き方だ。
俺が両手を上に掲げる。何も言っていないのに、仲間がそれを見て真似るように両手を上に掲げた。そして、掲げた俺たちの心が光の線で結ばた。
仲間達と心が通じ合う、その温かな気持ちが選手たちを、そして応援師の俺を強くさせた。
「無駄だ無駄だ。我々のマーチはまだ続くぞ」
天使は指揮棒を振り始めた。
打席に仲間が立つ。ザ・マーチは投手は、さっきの攻撃と同様に独特なリズムを取っている。いつ投げるのか分からない様子だ。
投げた球もリズムに乗っているかのように、ゆらゆらと動いている。物凄く打ちにくい球だが、俺たちはもう変わった。
カキーーーーーーンという響く打球音と共に、球を左中間に飛ばし2ベースヒットを打った。仲間たちの心はまだ光の線で結ばれている。
俺は覚醒することができた。ザ・マーチのようにチーム全体の力を上げることができるようになった。
「守りたいという気持ちが、俺を強くさせた」




