スチームパンクの本当の正体
2回の裏。俺らの攻撃。
現在、8-0で大負けしている状況。だがしかし、2回の表の守備で、相手打線を見事封じ込め、流れがこちらへと向かってきているのであった。
ここからバンバンと点を取っていく、と言いたいところだが、俺はもう2回の表で応援を使ってしまったので、裏の攻撃で応援を使うことができないのだ。
「ん~~どうしよう...」
4番打者のマロンから攻撃が始まる。
「セイヤは知らないのね。私たちだって成長しているのよ!」
マロンはそう言い放ちながら、投手の球を上手くライト前へはじき返し、ヒットになった。
「え!?どうして?」
俺は動揺した。決して選手を信じていなかった訳ではないけれど、まさか応援なしで上手くいくとは思っていなかった。
「投手のスピードは慣れてくるのよ。それに分析係のスズカもいるから、投手のクセが分かって狙い球を絞りやすくなったの」
スズカが自慢げな顔をしながら、こちらを見ている。
なるほどな。選手たちも情報を共有しあって、投手の対策を取っているっていう訳か。
何度も使った俺の練習効率アップの影響もあって、選手の能力も格段に上がっている。
そして続く打者もヒットを打ち、ノーアウトでランナー1,2塁となった。
「よし!このまま点を取るぞ!!」
俺がそう叫んだ瞬間、ガイが突如として指パッチンをしたのだ。すると、投手の機械スーツからこれまでにない量の蒸気が出てきた。
投手の眼は赤く光り、蒸気は常に出ている状態になった。そして、投手の投げる球が異常に速くなったのだ。
ビュンッ!!
目で捉えることすらできないスピードで、キャッチャーミットへと飛んで行ったのだ。時間差で風が突風が出てくるほどであった。
「ま、まさか、、指パッチンが応援なのか!?」
確かに応援の種類に”鳴り物”というジャンルがある。だが、それはメガホンや楽器などを使って、大きな音を出して応援する。
それを指パッチン1つでやっているというのか...
「そんなん応援でもなんでもない。選手をこき使っているみたいで気分が悪いぞ!ガイ!」
俺は怒りが込み上げてきた。まるで手下を使えるような、応援の仕方が俺は嫌だった。
野球はみんなで1つになってプレイするスポーツだ。そこに上も下も存在しない。アイツの野球は野球なんかじゃない。
「うるせーよ、勝てばいんだよ。勝てば」
ガイは見下すような目をしながら言ってきた。
その後も、投手の異常なるスピードの前に選手は成す術がなく。三振を連続で取られてしまい、1点も取ることができず、2回の裏が終了した。
けれど、選手たちの士気は思ったよりも下がってはいなかった。みんな野球そのものを楽しんでいたのだ。
勝ち負けは勿論大事だが、それよりも野球そのものを楽しむことを俺たちは出来ていた。一方で、向こうのベンチは2回の表であまり点を取ることが出来なかったので、どんよりとした空気になっていた。
きっとここの差が試合の命運を決めるだろう、俺はそう確信していた。時が来れば、必ず俺らは勝てる。
3回の表。スチームパンクの攻撃。
『勝利へ導け。華麗に舞い上がれ。魅せつけてやれ剛速球』
俺は前回歌った応援歌を同じように気合を込めて歌った。投手に青白いオーラが出始める。
パチンッ!!
まさかと思い、俺はガイの方向を見た。ガイは指パッチンをして、打者に応援をかけていたのだ。
けど、俺は嬉しかった。なぜなら焦っているのがバレバレだからである。ガイは1回の時、表でも裏でも応援はしてこなかった。
けれど、2回の裏、3回の表と続けて応援を使ってきたんだ。余裕そうな表情を見せてはいるが、深層心理で少し焦り始めているのが丸見えだ。
スチームパンクの打者は、さっきの投手と同じように蒸気が常に出て目が赤く光っていた。
カキーーーン!!
打者の当たりは良く、大きく弧を描いて飛んで行った。しかし、フェンス前のレフトがキャッチした。
「はぁ、使えねーなぁ」
ガイは溜息をしながら、愚痴を吐いた。
それを聞いてベンチはより一層空気が悪くなっていった。ミスをしてはいけない、という怖い雰囲気へと変わっていったのだ。
続くスチームパンクの打者も抑えていって、追加点を許すことなく3回の表を終了することができた。
3回の裏。俺らの攻撃。
相手はもう応援を使ってしまったので、裏で応援を使うことはできない。ここで1や2でもいい、少なくてもいいから点を取っておきたい。
選手たちを信じ、試合を見守った。
すると、ヒットが続いていき、1アウト2,3塁へとなった。
「頼む~打ってくれ~!」
俺は手を握り、祈った。ガイは小難しい顔しながら、試合を見ていた。
打者がスイングをし、打球がセカンドへと転がる。アウトかと思ったが、打球の速度が速くセカンドが追い付かなかった。
ボールはライトまで転がっていき、3塁ランナーがホームに帰ってきて1点を取ることが出来た。
「よっしゃ~~~!!!」
ベンチでみんなが拳を突きあげて、叫んだ。しかも、観客の喜びの声も聞こえたのだ。いつの間にか、俺らを応援する観客が増えたみたいだ。
「てめぇらぁ!いい加減にしろ!!」
ガイは血管が顔に浮き出るほど、怒っていた。スチームパンクの選手は怯え、誰も目を合わせようとしていなかった。
「もういい。お前らアレを使え」
「え、アレを使うんですか?そんな事したら...」
投手が少し怯えながら答えた。
「そうです、アレだけは」
周りの選手たちも続けて答えた。
「あ?いいから使えッ!!!」
と、ガイは怒号を選手たちに浴びせた。
すると、選手たちが機械スーツを脱ぎだしたのだ。
は?どういうことだ。機械スーツを脱ぎだすなんて、自滅行為だろ。一体、ガイたちは何を考えているっていうんだ。
「ぐわああああああああああ」
「うあああああああああああ」
機械スーツを脱いだ選手たちが一斉に叫び始めた。まるで、苦痛を与えられているかのように見えた。だが、驚くべき光景はその後にあった。
ぶくぶくと膨れ上がり、選手たちの体が大きくなったのだ。身長は2メートルぐらいまで上がっていき、体格もゴツくなっていた。
「ははははははッ」
ガイが楽しそうに笑っている。
「一体何の真似だ!!」
「機械スーツは選手を強化するためって俺がいつ言ったかな?機械スーツの本当の意味!それは力の制限なんだよぉ」
「俺らは人間なんかじゃない。人造人間なんだ」
人造人間だと!?俺は考えもしていなかった。けれど、異世界というこの世界ならあり得る話なのかもしれない...
「まさかビギナークラスで使うとは思ってもみなかったぜ~。けど、これが本当の俺たちだッ!!」
「お前らは絶対に勝てない。残念だな」
ガイは楽しそうに話していた。
「なるほどねぇ~。おもしれーじゃん、異世界野球」
俺は二ヤりと口角を上げた。
だが、野球を楽しんでいる俺たちも相当強いぜ。




