最下位チームの屈辱
勢いで応援隊をやるって言ったはいいものの、この異世界について全然理解してないし、大丈夫かな…
「私たちはずーーっとビギナークラス優勝を目指しているの!けれど毎年最下位の最弱チームなの…」
「けれど、あなたがいれば絶対に優勝できる!」
”やったー、優勝決定だー”とぴょんぴょん跳ねながら喜ぶ彼女を、ただ見ていた。
怪我で二度と選手として活躍はできないけれど、応援という新しい形で活躍できることが嬉しかった。目のまえで喜んでくれる可愛い女の子もいるし。
「俺でよければ、全然やりますよ」
「嬉しいーー。あ、よければ寮生活しません?」
「寮!?」
「うん!私たちチームはみんな寮で生活していて、食事も寝所も練習もずっと一緒なんですよ。これもまた、チームを優勝するための秘訣なんです」
鼻高く自信満々に話している。
「いいけど、費用とかは…?」
「なに言ってるんですか。応援師は雇われる側なんですから、費用なんかかかりませんよ」
「そうなのか、じゃあ入りたいね」
「やったー、じゃあみんなに報告してくるね」
選手たちが集合する。
「てことで、最強の応援師が入りましたー、拍手―!」
「うぉーーー、すげえ!!」
「これでようやく最下位脱出だな」
「ちょっとーー、私たちが目指すは優勝でしょ」
「そうだったー、相変わらず厳しいマネージャーだなぁ」
彼女は口を膨らませ少し怒ってる。
「”多間セイヤ”です。40のおじさんですが、よろしくお願いします」
「ちょっと冗談きついですよー。どこがおじさんなんですか?ねぇマネージャー?」
え?あれ、手をよく見るとシワが全然ないぞ。顔も凄いスベスベしている。そっか俺は転生して20歳ぐらいの年齢になったのか!
となると、、、脚の怪我も治っているのか?
「私の自己紹介もまだだったわね。”染谷ミレイ”よ。もちろん、ぴちぴちの20歳!」
「あとの詳しい自己紹介は寮に行ってからにしましょー」
軽い自己紹介を終え、寮へと向かったのだが、衝撃の光景が待っていた。
「え…なにここ…」
目のまえにはボロボロの宿舎。窓にはヒビが入っており、かなり年季を感じられた。
「万年最下位にしては、いいと思わない?」
「そうなんだね...」
「あれぇ、もしかして綺麗な所で住めると思ってた?ごめんね」
「最下位だから試合報酬も少なくて、稼げてないのよ」
「他に収入はないの?」
「ないわよー。この世界は野球でしか稼げなんだから。」
「試合で勝つ。それだけがこの世界で稼ぐ手段なのよ」
おいおい、まじかよ...
(めちゃくちゃじゃねーか。この異世界どうなってんだよ)
「1階がリビング、大浴場、とかモロモロよ。2階は寝室のみ」
通された2階には大きな広間1つと、小さな部屋しかなかった。
「ここの大広間だからね」
「え、ここの小さな部屋は?」
「あーだめだめー、ここは女子部屋です。絶対に入らないでくださいね」
「いくら応援の力が凄くてもそれだけは許せませんから」
「あぁ分かってるよ」
大広間は思ったよりも綺麗ではあった。
その日は大勢で食卓を囲んで、男みんなで大浴場に入り、修学旅行のような気分で物凄く楽しんだ。そ して、眠りにつくのも早かった。
----- 翌朝 -----
グランドにみんあ集まり、マネージャーのミレイが声をかける。
「さぁ練習始めるわよー」
「俺はなにしようかな」
「あなたは応援の練習よ」
「応援に練習がいるのか?」
「当たり前でしょ。この世界では選手の力よりも応援の力によって試合が左右される、と言われるほどよ」
「応援の力か...」
「まず、応援の種類は2つ。鳴物と応援歌。鳴物は、楽器隊の演奏。応援歌は手拍子しながら歌うスタイル」
「つまり、俺は応援歌スタイルってことか」
「そうよ。けど、少し違う。鳴物はミートやパワー、走力、守備力などの選手ステータスの上昇。応援歌は、やる気や練習効率などを上昇させる精神保護なのよ。けれど、セイヤは”応援歌スタイル”なのに、ステータス上昇もかかっていたわ。特殊なのよ」
「まじかよ。俺の応援歌にはそんな力があるのか」
「2つの効果があるし、ステータスのビジョンが見えるのも、天性の才能よ。だから、あなたは大きな声と手拍子の音を出せる練習してね」
「音が大きくなれば効果も高くなるってことか」
「さぁみんな集まって練習始めるよー」
「今日のメニューはバッティング練習ね!」
「ケイトからも何かある?」
「え?あーっと。。。頑張るぞー!」
「お、おぉー!!」
『やる気が3上昇、練習効率が2上がった』
「あれ、あんまり上がらないな」
「掛け声の練習が必要なようね」
ガゴーーーーーーーン!!
グラウンドの鉄の扉が大きな音を立てて開く。
「おいおい、万年最下位の雑魚がグラウンド使ってんじゃねーよぉぉ!!!」
黒短髪でアロハシャツを着ている男が、叫びながら近づいてくる。
「あの人は誰なんだ?」
「いつも私たちの邪魔をする”レイヤーズ”っていうチームの応援師よ」
「無視してんじゃねーよ、雑魚がよぉ」
「私たちはしっかりグラウンド予約したのよ」
「残念、いまさっき俺らが”その上に”予約してきた、へへへ」
「そんな話通用するわけな...」
反抗しようとしたところ、ミレイに止められた。
「いいのよ」
「なにもよくないだろ。」
「違うの。チームのクラスによって優先順位が変わるのよ。私たちのチームは最下位だから、グラウンドを借りる優先順位が一番下なのよ。」
「ざんねーーーん・で・し・た」
男はふざけた態度で煽ってくる。
「今の俺らはお前らなんかに負けないのに」
「お?じゃあ試合するか?」
「セイヤくん...大丈夫なの?」
「あぁ大丈夫」
「試合決定だ、絶対に勝ってやる」
「じゃあ明日の13時。ここに集合な。絶対に逃げんじゃねーよ、へへへ」
「逃げなんかしない。俺らは絶対に勝つ」