恐怖に近い興奮。負けられない戦い。
プラマイ作戦。プラスをマイナスに、マイナスをプラス。
マイナスを頑張って0にしようとするから大変なんだ。マイナスにマイナスをかけて、プラスにすればいいだけなんだよ。
滑らないようにするから余計滑ってしまうんだ。その滑りを逆に利用すればいいんだよ。
つまり、水が付着した球を滑らすようにして投げる。球をがっしり握るのではなく、手の平で転がすようにして投げるんだ。そうすれば、滑りで球の回転が上がり送球のスピードも速くなる。
バッティングでも同じだ。バットの中心で打とうとせず、あえて球の上側を打ちスピンをかけて不規則なバウンドにしていく。
「そう!この前のバウンドボール革命と同じ打ち方だ!」
俺はすぐにタイムをかけ、選手を集合させた。そして、俺の考えをみんなに話した。
「なるほど、確かにそれは合理的ね」
「マイナスを0にするんじゃなく、プラスへと考える。あなた意外とやるわね」
「バッティングはこの前と同じだから大丈夫だけど、手の平で転がす送球の守備は初めてだから不安だなぁ」
「それなら安心してくれ、俺の応援で肩力を強化する」
「そうだった、セイヤは強化型応援師だもんな、サンキュー!」
みんな納得してくれて、試合が再開する。
3回の表。魚人チームの攻撃。再開。
「なにタイムかけてんだよ...時間の無駄に決まってんだろぉ」
と、魚人応援師は愚痴を吐いていた。
さきほど応援師が応援をかけた魚人が打つ。カキーーン!当たりがよくライト前に打球が落ちる。
「へっ!またヒットだぜぇ」
「ふっ判断がまだ早いぜ」
俺はライトに応援を使い、肩力を上げた。ライトはすぐに球を拾い、1塁へと送球をする。普段なら絶対に間に合わない。けれど、今回は違う。
「なんせマイナスをプラスにさせて貰ってるんだからね」
ライトは手の平で球を転がせ、思いっきり投げる。球は付着した水を飛ばす勢いで回転をしスピードを上げ、一直線で1塁へと飛んでいった。
魚人のバッターは間に合わず、アウトとなる。
「な、、なにッ!!!」
魚人応援師が顔を真っ青にしている。元から顔は青いが、更に青くなっていた。
「これがプラマイ作戦ってやつよぉぉ」
そして、続くバッターたちも滑りを利用していってアウトにする。
3回の裏。俺らの攻撃。
「俺はもうこの回に応援を使ってしまったけれど、前回の試合でやったことをやれば絶対に打てる」
「俺は選手たちを信頼している」
その言葉通り俺の応援が無しでもヒットを打つことができた。しかし、相手もここまで残ってきている強いチーム。一気に取られた3点を巻き返すことはできず、1点を取って3回裏は終了した。
現在3ー1で負けている状況。
4回もまだ守備に不安があった為、応援を使って守備の補助をした。攻撃は3回と同様ヒットは打つことができ、また1点を取ることができた。
「よしっ、まだ負けているが完全に流れはこっちになっている」
「このまま順調に進めば勝てるッ!」
しかし、5回6回と進んでも追加点を取ることが全然出来なかったのである。
「なんでだ、おかしいぞ。さっきまで逆転の流れが出来ていたのに...」
すると、向こうの応援席で魚人応援師が笑っていた。
「ギャハハハハハッハ!あの困った顔見ろよ!」
「この俺らがそう簡単に負ける訳ないだろ」
大声で魚人応援師が騒いでいる。
「何か絶対に策を打たれたはずだ。けど、それが何か分からない」
ハッっと俺は息を吸った。すっかり忘れていたよ。魚人応援師が防御型だってことを。俺のスキルの『応援の心眼』を使って、相手のステータスや精神状況を見れば何か分かるはずだ。
7回の表。魚人の攻撃。
俺は目に力を入れ、相手のステータスを覗き込んだ。だが特に変わった点はなかった。
7回の裏。俺らの攻撃。
また、俺は目に力を入れ、魚人たちのステータスを覗き込んだ。何枚かページを捲る。すると、、、
『 ボルツ(種族:魚人)
《守備シフト継続中》 』
というのが、映し出されたのだ。他のどの魚人の選手を見ても、この文字が映し出されていた。
「”防御型応援師”...応援バトルだけでその力が発揮されると思ったが、違うようだな」
「昔戦った”妨害型応援師”と似たような感じか。特別な防御シフトを組めるみたいだ」
選手の特徴やクセから推測して、どのような位置にどんな球が来やすいかを想定して守備を決めているみたいだな。こいつは相当な厄介ものだ。
俺は応援を使って、打者の『パワーを200アップ』させた。かなり、強化したのでこの打者はヒットになるだろう、誰もがそう思ったに違いない。
打者は球を上手く打ち、3塁とレフトの間に落ちるような球になった。
パシッ!アーウト!!
「え...」
普段はいないはずのレフトが丁度球が落ちる場所にいたのである。守備シフトをされてなかったら、絶対にヒットになるやつなのに。
「俺が強化したのも計算しているっていうのか!?」
思わず俺は声を大にして驚いてしまった。
「ふっふっふっふっ、、、」
魚人応援師はニヤニヤしながら、俺の反応を楽しんでいた。
そして、7回裏があっさり終了する。もう応援バトルの時間になってしまったのだ。俺が応援バトルに勝ったとしても、この守備シフトを攻略しない限り勝つことはできないぞ。
「これが...準決勝か...」
ただ俺には高揚感しかなかった。恐怖に近い興奮。負けられない戦いだからこそ、湧き出てくるワクワク。俺は最高にハイになっていた。
「さぁいこうぜ、応援バトル!!!」




