伝説の幕開け
「今日でお前は引退だ」
急に突き付けられた現実。俺は今日、野球部を引退させられた。
小学生から野球を始め、何度も日本代表選手として参加していた。昔から野球センスがよく、1000年に1人の天才とも言われていた。
だが、俺は怪我をした。21歳の夏、いつも通り練習試合をしていたら足を複雑骨折し、2度と走れない体と医者に診断された。
ろくに勉強もせず、野球一筋でやってきた俺は絶望した。その後の人生も最悪だ。野球以外なにも出来ない俺は就職活動も上手くいかず、日本で1番のブラック企業と言われるところで働くことになった。
「くそだ、世の中はくそだ」
現在40歳。毎日、日本酒とウィスキーをガバガバ飲んで、嫌なことを忘れようと精一杯の人生。
「おい!そこは振れよ!!」
「全力で応援してるのに、、、」
テレビで野球観戦をしてヤジを飛ばす日々。プロの選手は声援が力になると言っているが、本当にそうなのかと俺は思う。
”そんな野暮なこと言うな”という意見も分かる。けど悔しんだよ、選手の力になれないことが。
昔みたいに俺は野球ができない、なのに野球が好き。なんのチームの役に立てないんだ。
「酒が足りないや。買ってこないと」
アル中生活の俺にとって酒は生活に絶対必要なもの。家を出てすぐそこにコンビニがある。今日は奮発して、高いウィスキーでも買っちゃおうかな。
そう思いながら、道をのんきに歩いていると、、、
「危ない!!」
猫が赤信号の横断歩道をわたっているのだ。しかも、それに気づかず横からトラックが猛スピードで走ってきている。よく見ると、運転手が眠っていた。
俺は反射的に横断歩道へと飛び出した。
「もう俺みたいに誰も怪我をして欲しくなんだ!」
けれど、すぐに気づいた。俺は脚を怪我していて、走れないことに...
「くそっ、せめて猫だけでも」
怪我をしてない脚の方で前に進み、猫を優しく遠くへ放り投げる。トラックはスピードを落とさず、接近してくる...
そんな俺の危機的状況を知らずに、猫がお礼を言うようににゃ~と鳴いた。
「気を付けるんだz...」
バーーーーーーーン!!
大きな衝撃音を耳で感じた。
「これで俺の人生も終わ...」
「ん??」
でっきり死んだと思ったのだが、景色が全然天国に見えなかった。俺の視界には、西洋の中世ヨーロッパのような町並みが映っていたのだ。
そこで俺ははっと勘づいた。これが噂の転生か!?最近、ドラマやアニメで見たことがあるけれど、そんな非現実的なことが起こるなんて。
「大変だ、大変だぁ~~~~」
「うちの応援師がまた消えちゃったよ~~~」
金髪ロングの可愛い女の子が焦りながら走っている。
「お兄さん、野球の応援できる?」
その子は急に立ち止まり、俺を見ながら質問してきたのだ。
「え、あ、、、うん」
俺は野球という単語に違和感を感じつつも、とっさにYESと答えてしまった。
「え!?やったぁ!!」
「じゃあ、ついてきて」
女の子に手を引っ張られてついていった。あまりにも急展開すぎて、俺の脳みそは一時停止していた。
しかも、女の子は肌が色白く大きな目をしており、綺麗な顔立ちをしていた。今までこんな綺麗な女の子と話してことさえなかったのも、一時停止の要因の1つだった。
(やべえぇぇぇ、、、かわいい子と手を繋いじゃった)
キモいと自分でも思ったがしょうがないじゃないか。なんせ、ろくに青春もせずに野球ばっかしていたからね。
「あ~、もう9回裏だ」
「2ー0で負けてる、、、今日も負けかなぁ」
女の子が悲しそうな顔をしながらつぶやく。
「まだ試合は終わってないよ、諦めるのは早い」
「応援するぞ!!」
俺はかっこつけた。
可愛い子の前だからって、俺は調子に乗ってかっこつけた発言をしてしまった。そして、謎に張り切ってしまった。
野球応援歌を手拍子しながら歌い始める。
すると、選手からステータスのビジョンが浮き出てきた。
『 かいと(外野手)
パワー 20 、ミート 30 、走力 34 』
「ん???なんだあのパラメーターは!?」
しかも、パワーの値が上がっていき、20の数字が50へと変わった。
「あれなんだ?」
俺はビジョンを指さし、可愛い女の子に聞いた。
「なんのこと?」
しかし、女の子は何の事を言っているのか分かってない様子だった。
いや、まさか。俺は一瞬頭によぎったが、そんな非科学的なことが起こるはずはないと自分を言い聞かせた。
「あれ、“かいと”ってこんな筋肉付いてたかしら?」
その瞬間
カキーーーーーーーーン!!
”かいと”が打った球は大きく飛び、球場の外へといった。
「えーーーーーーーーーー!!??」
俺は自分の眼を疑った。
「きゃーーーー!!逆転3ランよ!」
「勝ったよーーお兄さん!もしかしてベテラン!?」
「え、な、なにが?」
「お兄さんやばいよ~」
「応援の力で試合が左右される世界だけど、誰の応援でもいいわけじゃない」
「何十年の努力と才能があるものにしか、選手の能力を大幅に上げることはできないのよ」
俺がさっき頭によぎった考えは間違いじゃなかったんだ。ここは世界はそうなんだ。
”応援で選手の力が上がる世界なんだ!”
「なんか、パワーが30上がったっぽいんだよねぇ」
「え!30も?ベテランの応援でも難しい技よ。それにお兄さんは結構特殊だね」
少しの沈黙の後、可愛い女の子は言ってきた。
「お兄さん!私たちの応援師になって!」
白く小さな手で両手を握られ、お願いされたのだ。”応援師”が何のことかよく分からなかったが、青春を味わっていない俺は、本当にちょろかった。
「い、いいよ」
デレデレしながら俺は言ってしまったのだ。
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