第8章 事件②
いつもの月曜日。
この日も優佳は仕事に行く支度をしていた。
そして、犬のマルとクロちゃんにこう言った。
「マル、クロちゃん、いい子にしててね」
「(うん、わかった)」
そう2匹は鳴いて答えるのである。
2匹は玄関のゲートの外から優佳を見送った。
優佳は、今日、2匹はお利口さんにお留守番してくれるだろう。
そう思っていた。
最近のクロちゃんは非常に活発で、好奇心旺盛だった。
イタズラも多かったのだ。
そんないつもの月曜日。
仕事に疲れて優佳は自宅に帰って来た。
ゲートのある引き戸を開けて部屋に入った。
今日、部屋はティッシュペーパーだらけではなかった。
内心、ホッとしていた優佳だった。
買い物の荷物を置き、バッグもベッドの上に置いた。
何気にトイレに入ろうとした時である。
トイレのドアが少し開いていた。
何かおかしい…と、感じた優佳だった。
恐る恐るトイレのドアを開けてみた。
すると、どうだろう。
トイレの中がトイレットペーパーで溢れかえっていたのである。
優佳は思わずこう言ってしまった。
「ひょえぇぇぇええ!!」
そう言うとその場にへなへなと座り込んでしまった。
その姿を後ろからクロちゃんは見ていたのだ。
振り返るとクロちゃんと目が合った。
すかさず、優佳はこういう。
「クロちゃんっ!!」
それを聞くとクロちゃんは今度は部屋の中にある箪笥の上にダダダダっと上って逃げた。
どうやらクロちゃんは優佳が閉め忘れたトイレに入りトイレの蓋の上に上がり、トイレットペーパーが設置してあるトイレットペーパーを爪で引っ掛け引き出していたらしい。
面白いようにペーパーが出てくるので、それをやめられなかったらしいのだ。
で、最後まで引き出すとつまらなくなったのかやめてしまった。
こうして、トイレの中にトイレットペーパーが溢れかえったのだった。
優佳はこのトイレットペーパーをどうしようかと悩んだ。
捨てるのも勿体ないと思っていた。
仕方が無いので、トイレットペーパーを芯に巻き付けてゆくことにした。
その作業は数十分程かかった。
トイレットペーパーを巻きつけ終えてから優佳はクロちゃんを呼んだ。
クロちゃんはその声に反応して箪笥の上から降りてきた。
優佳は言う。
「クロちゃん、トイレットペーパーこんなんにしたらダメだよ」
「(え?いけないの?面白かったのに)」
そう言うと鳴くのだ。
確かに優佳がトイレのドアを閉め忘れたこともいけなかった。
クロちゃんは好奇心旺盛なのだ。
それに気を付けていなければならなかった。
優佳はクロちゃんにこう言った。
「ま、クロちゃんが楽しかったらそれでいいか」
そう言うと一人で笑った。
半分諦めていたのだ。
この日を境に、優佳はトイレのドアを閉め忘れることはなかった。