第7章 事件①
この日も優佳はいつもの通り、朝車で勤務先の不動産屋に出かけていった。
家を出るとき、犬のマルとクロちゃんにこう言った。
「マル、クロちゃん、ちゃんといい子にしてお留守番しててね」
「(うん、わかったよ、優佳ちゃん)」
2匹はそう鳴いて答えたのである。
優佳は仕事が終わると買い物をして自宅に戻った。
自宅のドアのカギを開けドアを開けた。
玄関にはタタキの様なちょっと広めの段があった。
その段の向こうにマル達がいきなり部屋を飛び出さないようにゲートが張られていた。
そのゲートを開けて引き戸を引いて扉を開けてみた。
すると、どうだろう。
部屋中がティシュペーパーで溢れかえっていた。
思わず優佳はこう言った。
「ひょえぇぇえ!!」
その場に荷物を置きへなへなと座り込んでしまった。
優佳は初め何が起こったのか理解できなかった。
マルとクロちゃんは優佳に、
「(優佳ちゃん、おかえり)」
そう言って鳴いたのだ。
優佳はダイニングテーブルの上に置いてあるティッシュの箱を見てみた。
そのティッシュの箱は空になっていたのだ。
マルとクロちゃんと目が合った。
「マルっ!!クロちゃんっ!!」
優佳はそう強い口調で言ったのは言うまでもない。
すると、マルとクロちゃんは慌ててダダダダっとキッチンの方に逃げていった。
さて犯人は誰か。
と、優佳は思っていた。
カニヘンのマルにはダイニングテーブルの上に上ることはできない。
そうなると、犯人はクロちゃんである。
どうやら、クロちゃんはダイニングテーブルの上に置いてあるティッシュの箱に自分の手を入れて、爪に引っかかって出てくるティッシュが面白かったらしい。
そして、何度も何度もティッシュの箱に手を入れてはティッシュを出していたのだ。
ティッシュが全て出てくるのを確認すると飽きてしまったのかやめたのである。
お陰で部屋中はティシュペーパーだらけになった。
優佳はクロちゃんを探しにキッチンへと行った。
キッチンは6帖程ありちょっと広かった。
そのキッチンの隅っこの方にクロちゃんは隠れていた。
カラーボックスの中に頭だけ隠してお尻が見えていた。
「クロちゃんっ!!」
優佳はちょっと強い口調でそう呼んだ。
「(なに?優佳ちゃん?)」
「ティッシュ出したのクロちゃんでしょ?」
「(僕は知らないよ)」
クロちゃんはそう言うと鳴くのだ。
優佳は仕方ないな、と思っていた。
「クロちゃん、もうティシュ遊びはしたらダメだからね」
「(えー?ダメなの?楽しいのに…)」
クロちゃんはまた鳴いたのだ。
優佳はクロちゃんが大量に出したティッシュをどうしようかと思っていた。
捨てるのも勿体ないだろうとも思っていた。
仕方が無いので1枚ずつ畳み直してティッシュの箱に詰めたのである。
また、クロちゃんがイタズラをするといけないと思ったのでティッシュの箱を裏返しにして置くことにしたのだ。
この事件以降、崎山家ではティッシュの箱は裏返して置くようになった。
だが、クロちゃんのイタズラは留まることを知らなかったのだ。