第5章 パイプカット
クロちゃんは生後半年を迎えた。
人間の年齢にすると9歳くらいである。
そろそろ、去勢手術をしないといけないと思っていた。
だが、この頃、優佳は仕事が忙しかった。
仕事も事務だけではなく、部屋の内見案内なども行っていたのだ。
毎日、内見案内などが続いていた。
それと同時に事務の仕事もこなさなくてはならなかった。
非常に忙しかったのである。
そうこうしているうちに、猫ちゃんの恋の季節が来てしまった。
クロちゃんも恋する年齢になっていた。
クロちゃんは生後約9か月になっていたのだ。
人間の年齢にすると13歳くらいである。
クロちゃんは恋人が欲しくて毎日鳴いていた。
その声は凄く大きかったのだ。
優佳は慌てて奥津動物病院に電話をした。
「先生、クロちゃんのシーズンが来てしまったんですが、シーズンが来てからでも去勢手術はできますか?」
「ええ、大丈夫ですよ。連れてきてください」
「分かりました。いつ連れて行けばいいですか?」
「今日の午前中に連れてきてください」
「はい、分かりました」
そう言うと電話は切れた。
優佳はクロちゃんをキャリーケースに入れようとしたのだが、クロちゃんはそれを嫌がった。
1人と1匹で部屋中、追いかけっこをしていたのだ。
クロちゃんはとても動きが早い子だった。
捕まえるのも一苦労である。
優佳は逃げ回るクロちゃんをようやく捕まえて洗濯ネットに入れることができた。
「さ、クロちゃん、大人しくケースに入ってね…」
「(イヤだぁぁああ!!)」
殺されるような声を上げて抵抗するクロちゃん。
やっとの思いでケースに入れた。
キャリーケースを持ち車にそれを乗せて動物病院に向かって走ってゆく。
クロちゃんは車に乗せても「ギャー、ギャー」と鳴きわめく。
優佳は動物病院の駐車場に車を停めた。
キャリーケースを持ちドアを開ける。
受付を済ませて待合室の椅子に腰かけた。
待つ事数分。
「崎山さーん」
名前が呼ばれたので診察室の中に入っていった。
「先生、お久しぶりです」
「そうだね、その後はクロちゃんはどう?」
「元気なんですけど、シーズンが来てしまって」
「大丈夫ですよ。マルちゃんは女の子だったから一泊お泊りしましたけど、クロちゃんは男の子なので日帰りで大丈夫です」
「日帰りで大丈夫なんですか?」
「はい、ちゃんと精巣とパイプを取り除きますから、そこから病気になるような事にはなりませんよ。10分もあれば手術は終わりますから」
「じゃ、よろしくお願いします」
「はい、では、夕方迎えに来てください」
「わかりました。お願いします」
優佳はそう言うとクロちゃんを残して病院を後にした。
夕方迎えに行けば良いのだと思ったのだ。
***
夕方の4時頃に優佳はクロちゃんを動物病院に迎えに行こうと思っていた。
支度を整えると車に乗り病院に向けて車を走らせた。
病院に着くと受付を済ませ待合室の椅子に腰かけて待っていた。
「崎山さーん」
呼ばれたので診察室に入っていった。
クロちゃんが奥からキャリーケースに入れられて連れて来られた。
先生はこう言うのだ。
「まだ、麻酔が効いているのでちょっと腑抜けな状態になってるけど、麻酔が切れたら元通りに元気になりますから大丈夫ですよ」
クロちゃんはまだ麻酔が効いているらしくちょっと虚ろな目をしていた。
優佳は大丈夫だろうか。
と、心配になっていた。
支払いを済ませ、キャリーケースを持ち車に乗せ自宅へと車を走らせた。
自宅に戻り優佳はクロちゃんをケースから出した。
ちょっとふら付いて歩いている。
優佳はクロちゃんをフカフカの犬用ベッドに寝かせた。
すると、また眠ってしまったのだ。
もう少し時間が経てば、麻酔も切れるだろうと、思っていた。
それから数分してからだった。
クロちゃんは自分から犬用のベッドから起きて歩き出したのだ。
優佳はその姿を見て安堵した。
クロちゃんはお腹が空いていたらしく優佳に鳴くのだ。
「(優佳ちゃん、お腹が空いたぁ)」
クロちゃんは本当に良く喋る子なのだ。
優佳はクロちゃんにカリカリのキャットフードをあげた。
それを美味しそうにカリカリと食べているのだった。
その姿を見て優佳は安心したのである。
こうしてクロちゃんはオス猫でもメス猫でもなく中性猫になった。
中性猫になった事で、性格もとても温厚になった。
益々、甘えん坊になって行ったのである。