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ひだまり  作者: 美月
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第3章 君の名は

子猫は沢山食べてスクスクと成長していった。

優佳は名前を付けなくてはならないと思っていた。


優佳には6歳違いの妹、千秋が居る。

その千秋と電話で話していた時である。


「優佳ちゃん、猫拾ったんだって?」

「そうだけど」


「その猫黒猫なんでしょ?」

「そうよ」


「名前は決めた?」

「まだだけど、何で?」


「黒猫だから、ジジにしなよ~」

「えー!イヤだなー!」


優佳はそう答えると笑ったのだ。

黒猫がみんなジジになってしまったら、世の中の黒猫たちはみんなジジになってしまう。


優佳は名前に悩んでいた。

この片目が不自由な、だけど可愛らしい黒猫くんの名前を考えていた。


話すのが遅れたが、この黒猫は男の子であった。

しかし、良く「にゃ~!にゃ~!」と喋るのだ。


猫にしてはとても珍しいと言える。

ご飯が欲しくても喋るし、他の用事でも喋るのである。


優佳は黒猫なのだから“クロちゃん”で良いのではないか。

と、思っていた。



それに、そんなカッコイイ名前を付けてもこの黒猫には似合わないと感じていたのだ。

何しろ、この黒猫は優佳に慣れてくると本当に甘えん坊であった。


優佳がキッチンで食事などを作っていると足元に来て、脚にスリスリしてくるのだった。

その仕草がとても可愛らしいと感じていた。


「そう、名前はクロちゃんでいいのよ」

優佳はそう思っていた。


なので、名前はクロちゃんに決まったのだった。

優佳はクロちゃんを名前で呼んだ。


すると、優佳の所にスルスルと歩いてきた。

クロちゃんにこう話した。


「今日から、あなたの名前はクロちゃんよ。分かった?」

「(わかった)」


クロちゃんは理解した様でまた手にスリスリしてくるのであった。

優佳はクロちゃんの頭を優しく撫でていた。


その姿を犬のマルが遠くから見ていたのである。

マルはとてもやきもち焼きであった。


***


優佳が住んでいるのは横浜市であった。

港北ニュータウンの端っこに平屋の一軒家を借りていたのだ。


外見は古い一軒家だったが、部屋の中は綺麗にリフォームされていて、床は全面フローリングだった。


その一軒家に犬のマルと一緒に暮らしていたのである。

マルはカニーヘンダックスの女の子だった。


年齢は5歳であった。

人間の年齢で言うと36歳くらいである。


人間の女性で言うならまさに脂が乗ってきてイイ女だったかもしれない。

マルはとても可愛い顔立ちをしていた。


それに、とても温厚で頭の良い子であった。

無駄吠えなどは一切しなかったのだ。


だが、凄いやきもち焼きやさんでもあった。

優佳とクロちゃんが一緒にじゃれているといつも遠くからそれを見ていた。


クロちゃんの年齢はようやく2か月くらいであった。

人間の年齢にしたら3歳と言うところであろう。


クロちゃんが初めて優佳の家に来た時、マルはとても不思議な顔をしてみていた。

だが、段々とクロちゃんに慣れてくると一緒に遊ぶようになってきた。


クロちゃんがまだ幼児だったころ、マルは優佳と一緒に世話をしていたのだ。

赤ちゃん猫は自分で排泄ができない。


本来、母猫が居れば母猫がお尻を舐めて排泄を促すのである。

だが、母猫から引き離されたクロちゃんにはその排泄をする母猫が居なかった。



いつも優佳が少し温めた布でお尻を刺激していたのだ。

その刺激でおしっこやうんちをクロちゃんはしていたのである。


それを見ていたマルはクロちゃんの排泄の手伝いをしていたのだ。

マルはクロちゃんのお尻を舐めてあげていた。


そのお陰で、クロちゃんはちゃんと毎日排泄ができたのである。

クロちゃんからしたら、マルはちょっとしたお母さんだったのかも知れない。


そんな、犬のマルに半分育てられたクロちゃんは、自分は犬だと思っている所があった。


それと同じく犬のマルは猫の世話をしていたので、自分は猫ではないかと思っている所があった。


クロちゃんは猫なのに犬っぽく育った。

マルは犬なのに猫っぽく変わっていったのだ。


この2匹はとても仲が良かった。

優佳の取り合いはいつもの事だった。


***


この日は土曜日だった。

週末だったので雅人が優佳の家に遊びに来ていた。


だいぶ大きくなったクロちゃんを見て驚いている様であった。

雅人が話しかけてくる。


「優佳、黒猫随分大きくなったな」

「うん、もう約2か月よ」


「早いな…」

「今、とても可愛い盛りなのよ」


「そうだな、可愛いな。で、名前は何にしたんだ?」

「クロちゃんて名前にしたわ」


「えー?そのまんまじゃん?」

「だって、ジジとかって名前じゃイヤだったんだもん」


そう話すと二人は笑ってしまった。

次の日、優佳も仕事は休みだった。


不動産屋勤務で日曜日が休みだというのもおかしな話だが、面接した時に店長に水曜日以外の休みを日曜日にして欲しいと話してあったのである。


その希望が通って日曜日と水曜日が優佳の休日になったのだ。

一方、雅人の職業は鉄筋工だった。


休みは日曜日だけだった。

だから、優佳は日曜日を休みにして欲しいと店長に懇願したのだった。


そんないつもの週末は決まって二人はお酒を飲むのである。

つまみは雅人が作ったり、優佳が作ったりしていた。


この日は優佳がお酒のおつまみを作ることになった。

えのきのバター炒め、チクキュウ、アサリの酒蒸し、ネギま…。


酒呑みが作る料理である。

二人ともお酒は強かった。


二人はいつも乾杯は焼酎の水割りでするのである。


「お疲れ様でした!!」


そう言うと二人は乾杯して飲み始める。

雅人が話始める。


「今週もキツかったなぁ…」

「お疲れ様でした」


「ありがとう、優佳…」

「どーいたしまして…」


雅人は優佳の家に着くと直ぐに作業服を脱いでシャワーを浴びるのがいつもの事だった。

その間に、作業服を洗濯して乾燥機にかけるのである。


優佳が用意してくれたジャージを着て寛いでいる。

優佳も同じくジャージを着て寛いでいる。


雅人の年齢は38歳である。

優佳の年齢は42歳であった。


姉さん女房である。

二人はまだ付き合い始めて2か月くらいだった。


まだまだ、甘々な関係だったのだ。

今夜、雅人は優佳の家に泊ってゆく事になっていた。


週末はいつも雅人は泊まってゆくのだったが。


***


二人は強かお酒を飲むとベッドへと倒れ込んだ。

お互い酔っているのだ。


優佳はお酒のせいか妙に色っぽくなっている。

そんな姿をみると雅人は自分の性欲を抑える事が出来なかった。


まだ付き合い始めて2か月ちょっとなのだ。

お互いセックスがしたいと思うのも当たり前だった。


優佳が言う。


「雅人、キスして」

「いいよ…」


そう言うと二人は激しくキスをしていった。

二人の舌が縺れ合い艶めかしかった。


雅人はキスをしながら優佳の身体の上に乗り、ジャージを脱がしてゆく。

部屋は灯かりが付いていて明るかった。


そんな明るいところでするセックスも刺激的だと思った二人であった。

その二人の姿を犬のマルは見ていたのである。


優佳も雅人もてっきりマルは寝ていると思い込んでいた。

だが、マルは起きていたのである。


二人のしていることを見ていたのだ。

いつもは無駄吠えなどしないマルがその時「ワン!」と鳴いたのだ。


その声で二人はキスをするのをやめた。

二人同時にマルを見たのだ。


優佳が言う。


「マル、今日はどうしたの?普段は吠えたりしないのに…」

「(雅人、優佳ちゃんをいじめないで!!)」


そう、言っている様であった。


マルから見たら、優佳の身体の上に乗って服を逃がしている姿を見たら雅人がいじめているのだと映ったのかも知れない。


マルはまたワンと吠えてこう言っている様である。


「(二人とも仲良くして…)」


マルから見たら喧嘩をしているように映ったのかも知れなかった。

マルはベッドの近くに寄って来た。


そして、小さな身体をベッドに二本足で立ち、毛布を咥えて引っ張るのだった。

マルはカニーヘンダックスだったので、普通のミニチュアダックスよりも小さかった。


その小さな身体を使って毛布を咥えて引っ張るのだ。

毛布は半分床に落ちてしまった。


二人はセックスをするのをこの時諦めた。

優佳が言う。


「マル、分かったわ。仲良くするから吠えないでね」


そう言うとマルは理解した様でその後は吠えなくなった。

二人はマルが眠るのを待った。


そして、マルが眠った後に、静かにセックスを愉しんだのである。

マルはまるで人間の子供の様であった。




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