第14章 クロちゃん
引っ越しが終わって半年が経っていた。
クロちゃんは新しい家にも慣れてきた。
お天気の良い日などはベランダに出ては日向ぼっこを愉しんでいた。
ハーネスを付けてもらいお散歩にも行くようになっていた。
クロちゃんはクロちゃんなりに新居で愉しんでいたのである。
お留守番もしっかりとしていた。
何しろ優佳を守ろうと決めたのだ。
その気持ちに嘘はなかった。
だが、クロちゃんは環境が変わった事でお腹を壊す様になっていた。
下痢を繰り返す様になっていたのだ。
下痢だけではない。
嘔吐も繰り返す様になっていた。
優佳はクロちゃんが心配で奥津先生の病院に足しげく通うようになっていた。
下痢止めや整腸剤、吐き気止めをもらい飲ませるのだが一時的にそれらは治るのだった。
しかし、また数週間すると下痢や嘔吐をしてしまう。
暫くするとその下痢止めも吐き気止めも効かなくなってゆく。
優佳は奥津先生にこう話した。
「クロちゃんはどうなってしまうのでしょうか?」
「下痢止めも吐き気止めもやってるのに効果がないとなると、暫く様子を見るしかないね」
「そうですか…」
優佳はお腹に良いとされるビフィズス菌をネットで購入した。
1か月で4,000円もするビフィズス菌のカプセルだった。
それをカプセルから出し、ちゅーるに混ぜてお皿に乗せてクロちゃんに与えていた。
そうすると少し下痢は収まるのだった。
クロちゃんは11月がお誕生日だった。
もう15歳になっていたのだ。
人間の年齢にすると76歳くらいだった。
後期高齢者である。
猫の平均寿命は15歳くらいである。
下痢を繰り返すクロちゃんを見て優佳はこの寿命を考えていた。
クロちゃんは段々とお薬を飲むのを嫌がるようになってきた。
そんなクロちゃんを見て優佳は思った。
「もうこれ以上、クロちゃんにお薬を飲ませるのはやめよう」と。
そして、優佳はクロちゃんにお薬を飲ませるのをやめた。
それはある意味クロちゃんの死を早める行為でもあった。
しかし、もう下痢止めを飲ませても吐き気止めを飲ませても効かないのである。
動物病院に連れて行っても良くなる見込みはなかった。
ならば、これ以上クロちゃんを苦しめる事はしないようにしようと思ったのである。
お薬を飲まなくなってからクロちゃんは少し元気になってきた。
クロちゃんは床に座っている優佳の膝に乗ってきては“ふみふみ”をするのだった。
クロちゃんの甘えぶりは優佳にとってもとても嬉しいことだった。
やはり、お薬を飲むことがストレスになっていたのかも知れないと思っていた。
季節は暑い夏を迎えていた。