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ひだまり  作者: 美月
13/15

第13章 引っ越し

マルが虹の橋を渡ってから3年が経っていた。

クロちゃんは14歳になった。


人間の年齢にしたら72歳くらいである。

もう立派なおじいちゃんだった。


この年の9月の事だった。

この日は日曜日だった。


夕方、家のインターホンが鳴った。

誰だろうと思いながらも玄関のドアを開けた。


すると、見知らぬ初老の男性と女性が立っていた。

優佳は話しかける。


「どちら様ですか?」

「はい、この物件を管理しているドリーム不動産ですが」


「何の、御用でしょうか?」


「実は、ここの平屋なんですが、オーナー様がこの度分譲住宅をお建てになることになりまして、立ち退いて頂きたいとの事なんですが…」


「え?いきなり立ち退きですか?」

「いえ、12月までに立ち退いて頂ければ大丈夫ですので」


「12月まで?早いですね?」

「はい、引っ越し先は私の方で何件かご用意させて頂きますのでご安心ください」


そう言うと初老の女性が何件かの物件の間取り図とタオルを置いて帰っていった。

優佳は余りの突然の事で頭が真っ白になってしまった。


とにかく、冷静にならなくてはいけないと思った。


不動産屋に勤めていながら立ち退きを迫られるとは思ってもいなかった。

優佳は不動産屋が置いて行ってくれた間取り図を何枚か見ていった。


その中でペット可の物件を探した。

できれば、今住んでいる横浜市内で見つかれば良いと思っていた。


すると、丁度良く現在住んでいる最寄駅から徒歩10分位の所に物件があるのを見つけた。

優佳は直ぐにドリーム不動産屋に電話を掛けた。


「もしもし…」

「はい、ドリーム不動産です」


「先ほど、立ち退きの件で来て頂いた者ですが」

「はい、崎山さんですね」


「そうです。内見の件でお話しがあるんですが」

「はい」


「来週の日曜日に内見に行きたいのですがいいでしょうか?」

「はい、わかりました。ではお家までお迎えにあがります」


「迎えに来てもらえるんですか?」

「はい、オーナー様の理由でのお引越しですので」


「わかりました。日曜日にお待ちしています」


そう話すと優佳は電話を切った。

こうして早々、次の休みの日曜日に物件の内見に行くことになったのである。


***


内見に行く日曜日の朝11時に不動産屋が車で迎えに来てくれた。

クロちゃんはお留守番である。


車に乗り込む優佳。

車は10分程走っていった。


物件は本当に今住んでいる所から近かったのである。

程なくして物件があるアパートに到着した。


外観はちょっと古そうな感じがするアパートだった。

担当者が鍵を開けてくれた。


部屋に入ってゆく。

担当者が雨戸などを開けて窓も開け放ちてくれた。


窓を開けると日が差し込んでとても暖かく明るかった。

部屋は外観と違い完全リフォームされており、とても綺麗だった。


キッチンなどは新しいシンクが取り付けられていた。

バスやトイレも別々だった。


6帖二間でキッチンも6帖だった。

この広さなら今の荷物も入るだろうと優佳は思っていた。


それに何よりもクロちゃんと一緒に住めるのだ。

それが最大のメリットだった。


優佳はこの部屋以外の物件も見たのだが、イマイチピンとくる物件がなかった。

初めての内見で直ぐに見つかるとは思っていなかった。


だが、面白いもので、始めて見た内見の物件で決まってしまうのだった。

引っ越し費用は全て今住んでいるオーナーが出してくれることになっていた。


引っ越しは11月に決まったのだ。

優佳とクロちゃんは新しい家に引っ越しすることになった。


***


引っ越し当日。

この日はとても良い天気で気温も高かった。


引っ越し屋さんには猫ちゃんを逃がさないように…と、強く言われていた。

なので、朝の8時からクロちゃんはキャリーケースに入れられていた。


今回、優佳はらくらく引っ越しパックを頼んでいた。

なので、全て引っ越し屋さんが梱包から荷解きまでしてくれるのだ。


優佳はクロちゃんの入ったキャリーケースと一緒に部屋の片隅で引っ越しの様子を見ていた。


引っ越し屋さんは物凄い速さで梱包をしてくれた。

そして、家具なども素早く運び出してくれた。


優佳はそれをただ見ていた。

クロちゃんは何の騒ぎだろうと不安になって鳴き続けていた。


午前11時くらいに全ての荷物はトラックに積みこまれた。

優佳は部屋の窓を全て閉めた。


そして、部屋に鍵を掛けて外に出た。

自分の車にクロちゃんを乗せて引っ越し先まで行ったのである。


駐車場も借りていたので、アパートの敷地内に停めることができた。

新しいアパートの部屋の鍵を開ける。


直ぐに雨戸や窓を全開にした。

窓を開けると眩しい日差しと心地よい風が部屋の中に入ってきた。


クロちゃんはまだ鳴き続けていた。

そのクロちゃんを優佳はあやすように話しかけていた。


「クロちゃん、もう少しで終わるからね」

「(優佳ちゃん、僕、何だか怖いよ…)」


クロちゃんはそう言って鳴いていた。

引っ越し屋さんは素早く荷物を運んでくれる。


荷解きも早かった。

たちまち、平屋に住んでいた時の様な部屋になっていったのだ。


その速さに、優佳は驚いていた。

夕方の5時過ぎに引っ越しは終わった。


引っ越し屋さんにお礼を言い、飲み物とお気持ちを渡した。

引っ越し屋さんが帰るとようやくクロちゃんはキャリーケースから出してもらえた。


初めての引っ越しである。

新しい部屋をクンクンと匂いを嗅いで探検していた。


優佳はお風呂場の扉を開いておいた。

クロちゃんがおしっこをすると思ったからだ。


すると、クロちゃんはお風呂場を見つけるとそこでおしっこをした。

優佳は直ぐにそのおしっこをシャワーで流した。


新しいアパートの近くにはコンビニが無かった。

仕方ないので引っ越しをした夜はカップラーメンを食べた優佳だった。


こうして、優佳とクロちゃんの引っ越しは終わったのだった。


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