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ひだまり  作者: 美月
12/15

第12章 マル

時は順調に規則正しく流れて行った。

クロちゃんは11歳になっていた。


人間の年齢にすると60歳くらいだった。

もう、おじいちゃんである。


同じく、犬のマルも15歳になっていた。

人間の年齢で言うと76歳くらいである。


マルは後期高齢者になっていた。

そのマルだが、数年前から肝臓が悪くなり毎日投薬の生活を送っていた。


マルに薬を飲ませるのは楽だった。


食いしん坊のマルはご飯に薬を混ぜると何の躊躇もなくバクバクとドックフードを食べるのである。


マルは目も悪くなっていたので、毎日目薬を点眼されていた。

だが、マルもとても良い子で点眼などを嫌がることは無かった。


優佳はマルに付きっ切りになることが多くなってきた。

そんな4月の出来事だった。


朝起きて、優佳はマルにご飯をあげた。

だが、食いしん坊のマルはご飯を食べなかった。


仕方が無いので、優佳はクロちゃんの缶詰をマルに与えた。

すると、少し食べるのだった。


優佳はこの時感じていた。

もしかしたら、今日、マルは旅立つのではないか。


そう思ったのである。


マルにお散歩のリードを見せるとお散歩に行きたがったので優佳は散歩に連れて行った。

アパートの近くの電柱の所をマルはウロウロとしていて遠くに行こうとしなかった。


優佳は無理に散歩をさせるのをやめて家に戻っていった。

お昼までは何とか元気なマルだったのだが、お昼を過ぎてからの事だった。


マルは急に元気が無くなったのである。

いつも自分のキャリーケース(ハウス)の中でマルは寝ている。


この日の午後も自分のハウスに入り眠ってしまった。

でも、その表情はとても苦しそうだったのだ。


この日は4月でちょっと暑かった。


優佳は暑いのだろうと思い、マルにアイスノンを見せた。

すると、マルは嬉しそうに目を輝かせてそのアイスノンを見るのだ。


ハウスの中にアイスノンを入れてあげた。

マルはアイスノンに頭を乗せて眠り始めた。


とても気持ちよさそうである。

少しは涼しくなったのだろう。


暫くマルはハウスで眠っていた。

だが、その表情は益々苦痛に満ちたものになっていった。


夕方ごろ、優佳はマルを抱き起してハウスから出した。

身体はぐったりとしていたが息はまだあった。


マルは優佳のベッドに乗って寝た事が無かった。

「ベッドに乗せて!!乗せて!!」と、何回か優佳に言ったのだが乗せてもらえなかった。


優佳は最後くらいはベッドに寝かせてやろうと思った。

そして、バスタオルでマルを包みベッドにバスタオルを敷き寝かせた。


マルの表情はやはり苦痛に満ちていた。

具合が悪いのは明らかだった。


でも、優佳はマルを病院には連れて行こうとはしなかった。

もうマルは15歳である。


いつ、お迎えが来てもおかしくなかった。

それに、苦しい延命処置を優佳は望んでいなかった。


生も死も自然に任せるのが本当ではないか。

そう思っていたのである。


苦しい延命処置はある意味人間のエゴだと優佳は思っていた。

だから、今まで飼ってきた猫達も延命処置はしなかった。


優佳はずっとマルの頭を撫でてあげていた。

マルの傍から離れる事はしなかった。


その姿をクロちゃんは遠くから見ていたのである。

クロちゃんは何だか少し怯えている様だった。


時間は過ぎて夜になった。

優佳は食事もせずにマルの頭を撫でていた。


「マル、頑張ったね。もう頑張らなくてもいいんだよ」


そう優佳はマルに話した。

マルはそれをただ聞いているだけだった。


時刻は夜の8時になっていた。

優佳はマルを抱き上げて抱っこしてあげようと思った。


抱き上げて赤ちゃん抱っこして部屋の中を歩いていた。

マルはこの時血便をしていたのだ。


その血便を優佳は見ていた。

もう、今夜が最期だろう。


そう優佳は思っていた。

優佳は歩くのをやめて床に座ってマルを抱きしめていた。


「マル、頑張ったね。いい子だったね」


そう優佳はマルに話した。

そうすると、マルは一言「ワン!」と鳴いた。


その後、マルの身体が動かなくなった。

優佳はマルの名前を何度も呼んだ。


だが、二度と返事をすることは無かった。

時計を見ると8時22分だった。


マル15歳9か月の犬生だった。

その後、優佳は激しく泣いた。


クロちゃんはその傍にいてそれを見ていた。

優佳はどれだけの時間泣いたのか分からなかった。


泣き終わるとこう言った。


「マル、お外にお散歩に行こうか?」


優佳はマルを抱っこして暗い外に出た。

夜空を見上げると大きく綺麗な満月が輝いていた。


優佳にはその満月が滲んで二重に見えるのだった。


マルは虹の橋を渡って行った。


***


マルが虹の橋を渡ってしまってからだった。

クロちゃんはマルを探すようになった。


優佳にこう言うのだ。


「(マルはどこに行ったの?)」

「マルは天国に行ったのよ」


「(天国ってどこ?)」

「お空の向こうよ」


「(僕、分からない…)」


そう鳴くとまた部屋中を歩きながら


「(マル、どこにいるのー?出てきてー!!)」


と、鳴くのである。

マルが居なくなってからクロちゃんはご飯を余り食べなくなった。


優佳は心配になっていた。

クロちゃんがマルの後を追って逝ってしまうのではないか。


そう、思っていたのだ。

クロちゃんは毎日、毎日、マルを部屋の中に探していった。


でも、マルはもう居なかった。

それを理解できないクロちゃんだった。


マルとクロちゃんは本当に仲良しだった。

良くクロちゃんはマルを追いかけて遊んでいたのだ。


身体もクロちゃんの方が大きかった。


そんな小さなマルをいつも追いかけて遊んでいた。

クロちゃんは良くマルのハウスに入っては眠っていた。


その姿を見るとマルは優佳の所に来て訴えるのだった。


「(またクロちゃんが私のハウスで寝てるの。優佳ちゃんどうにかして!!)」


優佳はその訴えを聞き、マルのハウスで寝ているクロちゃんを引っ張り出してはなだめるのだった。


マルとクロちゃんは良くマルのベッドで一緒に眠っていた。

その姿は本当に微笑ましいものだった。


クロちゃんは暫く食欲がなかった。

でも、日に日にそれはなくなっていった。


マルが居ないことを理解していったのだ。

マルが居なくなってからクロちゃんは益々甘えん坊さんになっていった。


いつも優佳の後を追いかけてはじゃれていた。

クロちゃんは食欲を取り戻し、元気になっていった。


優佳を独り占めできることをクロちゃんは嬉しく思っていた。

そして、クロちゃんは思っていた。


優佳ちゃんは僕がこれから先守ってゆこうと。

マルが居なくなった今、優佳ちゃんを守れるのは自分しかいないと思っていた。


クロちゃんは優佳のナイトになったのだった。


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