第11章 嫌い②
またまた月日は流れてクロちゃんは7歳になっていた。
人間の年齢にすると44歳くらいである。
脂ののった大人の猫になっていた。
7歳になっても甘えん坊は変らなかった。
夜、優佳がベッドで寝ている時など「スタ!」っとベッドの上に乗ってきては一緒に眠るのである。
そんなある日の事。
クロちゃんがベッドに上がってきた。
何気に優佳の顔にお尻を向けたのである。
肛門の横に赤い穴が空いているのに優佳は気づいた。
「えー!クロちゃんそのキズはなに?」
優佳はとても驚いてしまった。
クロちゃんを捕まえて改めてお尻を見てみた。
すると、どうだろう。
肛門の横に赤い血がついて丸く穴が空いているではないか。
どこでケガをしてきたのだろうか。
と、優佳は思っていた。
またまた、動物病院行きになってしまった。
洗濯ネットに入れられ、キャリーケースに詰め込まれて「ギャーギャー」と鳴きわめくクロちゃん。
それをよそに病院へ向かう優佳。
奥津先生にクロちゃんを診てもたった。
診察台の上にクロちゃんを乗せる。
すると、また威嚇をする。
「フーハーシャー!!」
と、唸るのである。
先生も少し腰が引けていた。
バスタオルで頭を押さえお尻を診る先生。
診るなり一言。
「うん、臭腺破裂だね」
「え?臭腺破裂ですか?」
「そうだよ。普通の猫ちゃんは自分で臭腺を舐めて中の液体を出すんだけどクロちゃんは舐めても液体が出ないで中で固まるんだね。それで破裂しちゃうんだよ」
「えー?どうしたらいいんですか?」
「大丈夫だよ。抗生剤飲ませれば治るから」
そう言うと先生は抗生剤の注射を1本打ってくれた。
そして、抗生物質の薬を出してくれた。
「この薬を1日1回飲ませてね。そうしたら10日もあれば治るから」
「はい、分かりました」
「でも、臭腺は肛門の両側にあるから、片方に溜まってないか診るからまた連れて来てね」
「わかりました」
優佳はそういうと病院を後にした。
今日は注射を打ったので抗生剤は翌日の朝から飲ませることになった。
クロちゃんはとても良い子で、口を開けて薬を喉の奥に押し込むと「ゴクン!」と自然と飲み込んでくれた。
優佳は毎日この薬を飲ませ続けたのである。
日に日に、お尻のキズは小さくなっていった。
クロちゃんはこのお薬が余り好きではなかったが、優佳から飲まされると何だか頑張れるのだった。
クロちゃんは優佳を独り占めできる喜びを知った。
こうして具合が悪かったり、ケガをすると優佳はとても優しくなるからだった。
そして、また10日後に動物病院に行くことになった。
クロちゃんを洗濯ネットに入れてキャリーケースに詰め込んだ。
相変わらず「ギャーギャー」と鳴きわめいていた。
本当に病院が嫌いだったのだ。
動物病院が好きな犬や猫は多分余りいないだろう。
クロちゃんも同じであった。
先生に臭腺を診てもらった。
「うん、いい感じに治ってるね。反対側の臭腺を絞ろうか」
そう言うと先生は肛門の辺りをギュッと指で摘まんだ。
すると、クロちゃんは悲鳴に似た声を上げるのだ。
その声は、今まさに殺されるのではないか。
と、思える様な叫び声だった。
「うん、やっぱりこっちも溜まってたね。出せて良かったよ。このままにしてたらまた反対側が破裂するところだったよ」
「先生、ありがとうございます」
「いや、これでクロちゃんが元気になればそれでいいから」
そう言うと先生は笑ってくれるのだ。
この奥津先生は本当に良い先生であった。
ここの動物病院は再診料を取らないのである。
お財布にもとても優しい病院だった。
その後、クロちゃんは何回か臭腺破裂を繰り返し、奥津先生のお世話になるのだ。
その度に、殺されるような声を出しては周りの人を驚かせた。
クロちゃんの病院通いは定期的に行われたのである。
何度、病院に行ってもクロちゃんの病院嫌いは直ることはなかった。