第11話「報連相」後編
あなたの一番大切な存在はなんですか?
両親、兄弟、友達、先生?
それとも、物?
何故大切なの、なんで好きなの、どうして欲しいの、それをどうしたいの?
もしかして…………。
──自分?
……。
[朝蔵 大空]
「ねぇ卯月くん」
[卯月 神]
「はい」
[朝蔵 大空]
「週末、家に来ない?」
[卯月 神]
「朝蔵さんの……家ですか?」
[朝蔵 大空]
「うん! あの、お泊まり的なやつ///」
家族に卯月くんを会わせたことが無い、ずっと恥ずかしかったから、会わせようとしなかった。
[卯月 神]
「……分かりました」
[朝蔵 大空]
「やった! 楽しみだね」
[卯月 神]
「失礼の無いように、頑張ります」
[朝蔵 大空]
「そ、そんなかしこまらなくて良いよ〜……」
卯月くんはやっぱり真面目、冷静で素っ気無い、でもそんな所が好き。
種族が違っても好き、混じり合えないとしても、それでも好き。
貴方が最初に、私の前に現れた時から、運命を感じていた。
貴方が来てくれて、私の生活が明るくなった、何もかもが変わった気がした。
……。
放課後、ひとりで家までの道を歩く。
今日は卯月くんが家に泊まりに来る日。
[朝蔵 大空]
「……」
[如月 凛]
「ソラ様ー!」
[朝蔵 大空]
「え?」
リンさん?
まだ居たんだ……。
[如月 凛]
「はぁ、はぁはぁ……」
[朝蔵 大空]
「だ、大丈夫ですか?」
[如月 凛]
「あの、ミギヒロ様知りませんか?」
え、ミギヒロ……?
[朝蔵 大空]
「ミギヒロですか? ミギヒロなら、私の家か……商店街とか?」
[如月 凛]
「そこにも居なくて……」
リンさん、なんでミギヒロのこと探してるんだろ。
[朝蔵 大空]
「あの、なんでミギヒロのこと……」
[アリリオ]
「どこ探しても居ないね」
[朝蔵 大空]
「……」
…………誰?
よく分かんないけど、かなり可愛い男の子。
[アリリオ]
「あーれ、君と直接対面するのは初めてだっけ?」
[朝蔵 大空]
「ん?」
な、何を言われているのだろうか私は。
[アリリオ]
「僕の名前はアリリオ、悪魔だよ」
[朝蔵 大空]
「悪魔!?」
2人目の悪魔!!
[アリリオ]
「そうだ、大天使リン様」
[如月 凛]
「なんですかアリリオ様?」
[アリリオ]
「今は監視の目も無いようだし、僕らから例の話をするってのはどう? シン様ももう、半分やる気無いよね」
[如月 神]
「ミギヒロ様は、何をお考えになっているか分からないですからねぇー」
[アリリオ]
「データは十分集まったし、これ以上長引かせても、時間がもったないよ」
な、なんの話をしているのふたりとも……。
私はふたりに連れてかれ、人目が無いと言うことでカラオケの一室に3人で集まった。
[如月 凛]
「おほー! これが人間界のビッグカルチャー! カラオケボックスなのですね! 初めて来ました〜! ひゃあ、なんか楽しいですぅ〜!」
[アリリオ]
「音がうるさいねー、ここ」
とりあえず来てみたけど、ふたりともカラオケ代分のお金持ってるのかな?
まさか会計、私じゃないよね??
……。
[卯月 神]
「あの、なんの前触れも無く、貴方のプライベート空間に連れて来られても困るんですけど」
卯月はミギヒロに、薄紫色の不思議な世界に連れて来られる。
[加藤 右宏]
「悪ぃな! 話済んダらすぐ解放してやっかラ」
[卯月 神]
「話って?」
[加藤 右宏]
「ああ、なァ契約破棄しないか?」
[卯月 神]
「え……」
[加藤 右宏]
「お前もあいつと一緒に居たら分かるダろ。 あいつは他人を救えるような器の人間じゃナい、人間は弱い生き物だガ、人間の中でモあいつは弱すギる」
[卯月 神]
「弱くても、あの人は優しいですよ」
[加藤 右宏]
「優しいじゃダメなんだよ、強く、強くないと。 オレさ……アレと話してきたよ」
[卯月 神]
「アレ…………」
[加藤 右宏]
「大空のことを、世界で一番愛しているノはお前じゃない、アレなんだ。 あの存在だけが、あいつを救えル」
[卯月 神]
「そんなわけ、無いでしょう……」
[加藤 右宏]
「ン?」
[卯月 神]
「あんなの、あんな歪んだもの、今の朝蔵さんには必要ありません。 僕は認めない……あれは、何がなんでも、消滅すべき存在です」
……。
[朝蔵 大空]
「その話、本当?」
[アリリオ]
「うん」
[如月 凛]
「はい」
[朝蔵 大空]
「その試練を受ければ、卯月くんと一緒になれる?」
私は聞いてしまった、ふたりから。
そうか、卯月くんとミギヒロがずっと私に隠してたこと、この事だったんだ。
[アリリオ]
「やる? 救済」
[朝蔵 大空]
「私に出来るかな……」
こんなダメな私が、すぐ泣いちゃう私が。
人に助けられてばかりな私が。
[如月 凛]
「きっと出来ますよ! やりましょう! ソラ様!!」
[アリリオ]
「君なら出来るよ、アサクラソラさん」
[朝蔵 大空]
「……ちょっと、考えさせて」
……。
[卯月 神]
「初めまして、朝蔵さんの彼氏やらせてもらってる、卯月神と申します。 こちら僕のバイト先で取り扱ってるクッキー10種類セットです。 お受け取り下さい」
[朝蔵 葵]
「まあ、丁寧にありがとうございます……」
今日はお泊まり初日の夜。
始めにお母さんに会わせてみたけど、お母さんなんて言うんだろ……?
[朝蔵 葵]
「……優しそうな子ね!」
『優しそう』って……。
[朝蔵 大空]
「そのコメントやめて?」
[卯月 神]
「え?」
[朝蔵 葵]
「ごめんごめん、一度言ってみたかったのー」
良い性格してるわ。
[卯月 神]
「朝蔵さん? 『優しい』は褒め言葉なのでは?」
[朝蔵 大空]
「人の彼氏に対しての第一声としては、微妙なの」
[卯月 神]
「えぇ……」
ガチャ。
[朝蔵 千夜]
「たっだいまー!」
[朝蔵 真昼]
「ただいまー」
あ、お兄ちゃんと真昼が帰って来た。
お兄ちゃん達、なんて言うんだろ……。
[朝蔵 千夜]
「お、君が大空の彼氏くんだねー? どれどれ…………優しそうな子だね!!」
[卯月 神]
「……」
[朝蔵 真昼]
「学校で見掛ける度、優しそうな人だなって思っていたよ」
お前らの第一印象最悪だよ。
[卯月 神]
「いただきます」
[朝蔵 葵]
「苦手なものあったら、残しても良いからね」
[卯月 神]
「あ、大丈夫です。 苦手なもの無いです」
こうやって卯月くんが、家の食卓に居るのって、なんか不思議な感覚!
もう家族になっちゃったみたい!
[朝蔵 大空]
「ミギヒロ、帰って来ないね」
[卯月 神]
「……」
[朝蔵 真昼]
「また家出かな?」
[朝蔵 千夜]
「んじゃー、アイス買いに行く次いでに、ミギヒロくんを探しに行こう!」
ミギヒロのほうが『次いで』なの笑える。
[朝蔵 葵]
「お母さん、車出そうか?」
モールへ、レッツゴー!
[朝蔵 千夜]
「僕は、ぱんだアイス!」
[朝蔵 真昼]
「バリバリちゃんにしよっと」
[朝蔵 葵]
「お母さんは『砂糖系イケメン特集』にするわ!」
[朝蔵 大空]
「アイスじゃないじゃん……」
[卯月 神]
「……」
あれ、卯月くんまだアイス選んでない。
[朝蔵 大空]
「卯月くんは?」
[卯月 神]
「僕も良いんですか?」
[朝蔵 葵]
「うん、いいよ」
お母さんが卯月くんに、アイスを選んで良いと許可を出す。
[卯月 神]
「じゃあ……これで」
卯月くんが選んだのは、王道バニラとミルクのフレーバーが最高な、『ウルトラカップ』……。
私と一緒だ!
[朝蔵 大空]
「お揃いだね♪」
[卯月 神]
「はい」
[朝蔵 葵]
「買い物済んだし、帰るわよ〜」
帰る、その前に……。
[朝蔵 大空]
「私トイレ行きたーい!」
[卯月 神]
「……」
しまった、卯月くんがいる前で堂々とトイレとか……ま、いっか!
先に皆を車に戻らせて、私はひとりトイレに寄る。
[朝蔵 大空]
「ふぅ……あれ」
[加藤 右宏]
「……」
ミギヒロが近くのベンチに座っているのが見えた。
私はその横に、静かに腰掛ける。
[朝蔵 大空]
「あんた居るなら言いなさいよ、あんただけアイス買ってもらえてなくてざまぁー!」
[加藤 右宏]
「……」
だんまり。
あ、なんか機嫌悪いかもこいつ……。
こいつたまに無口なのよね。
[朝蔵 大空]
「って、言うのは冗談で……あんたもアイス要る? 今ならこの私が奢ってあげ……」
[加藤 右宏]
「どうでもいい」
そう言うと、ミギヒロは私の肩をガッと掴む。
[朝蔵 大空]
「痛っ! や、やめなさいよ!」
[加藤 右宏]
「16時2分から17時29分の間、お前はどこに居た?」
[朝蔵 大空]
「はぁ?」
その時間って、私とリンさんとアリリオ? くんで、カラオケに居た時間だ……。
なんでこいつは、そんな細かい時間で聞いてくるの?
[朝蔵 大空]
「えっと、ヒトカラだけど」
[加藤 右宏]
「ヒトカラ……?」
[朝蔵 大空]
「カラオケでひとりで歌ってたってこと、それが何?」
[加藤 右宏]
「……」
[朝蔵 大空]
「で、あんたこそ今まで何してたのよ?」
なんとなく、リンさん達のことは言わないほうが良い気がした、今日話されたこともなんか、秘密の会話っぽかったし。
[加藤 右宏]
「……」
ずっと黙ってる。
[朝蔵 大空]
「よく分かんない奴ねー。 アイス買ってあげるから、帰ろうよ。 今日は卯月くんが居るから、お父さんの部屋で寝てね!」
[加藤 右宏]
「お前、最終的に卯月とドうなるつもりなんダ?」
私と卯月くんは……。
[朝蔵 大空]
「結婚する! 私は卯月くんが世界で一番好きだしー、卯月くんも私のこと……」
[加藤 右宏]
「じゃあもう、自分で自分を呪うの、やめてくれる?」
──え……。
[朝蔵 大空]
「自分で自分を呪う……はぁ? ちょっと、変なこと言わないでよ! 中二病もいい加減にして、そう言うノリ私には分からないか……ら」
あ……。
[加藤 右宏]
「ドうした?」
私、何やってんだろ。
[朝蔵 大空]
「……ごめん、お母さんが早く戻れって言ってるから、私先に帰るね」
[加藤 右宏]
「お前はいつまデ、逃ゲるつもりなんダよ」
背後から聞こえてくる、ミギヒロの声なんか聞こえない、もう全部背けたい。
今の私には卯月くんがいる、思い出させようとしないで。
[朝蔵 真昼]
「遅い」
[朝蔵 大空]
「えと、ごめん」
[朝蔵 葵]
「よーし、銭湯行きたい人〜?」
[朝蔵 千夜]
「行く!!」
……。
その日の夜。
[卯月 神]
「ぼ、僕はどこで寝れば……」
[朝蔵 大空]
「私とベッド……ダメ?」
[卯月 神]
「……分かりました」
私と卯月くんは薄暗い部屋に、同じベッドに寝転がる。
私の右隣に、卯月くんが居る。
[卯月 神]
「寝るんですか?」
[朝蔵 大空]
「うん……ねぇ」
[卯月 神]
「はい?」
[朝蔵 大空]
「抱き締めて?」
[卯月 神]
「……はい」
卯月くんが、優しく私を抱き締める。
[朝蔵 大空]
「撫でてほしい」
[卯月 神]
「どこですか?」
[朝蔵 大空]
「頭かな」
温かい卯月くんの手のひらが、私の頭を撫でる。
[卯月 神]
「これで良いですか?」
[朝蔵 大空]
「うん、めっちゃ良い」
貴方の腕の中は、安心出来て癒される。
[卯月 神]
「まだ続けたほうが良いですか?」
私は、貴方がいないと生きていけない。
だからずっと、傍にいて。
[朝蔵 大空]
「……」
[卯月 神]
「朝蔵さん?」
あぁ、寝ちゃいそう……。
[朝蔵 大空]
「やっぱ……似てるなぁ」
私は満足して、眠りにつく。
[卯月 神]
「…………誰にですか?」
静かな部屋に、卯月の声だけが響いた。
「報連相」おわり……。