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悲恋の大空  作者: 暴走機関車ここな丸
第3傷『新緑』
73/75

第11話「報連相」前編

[音乃 渚]

 「食欲の秋! と言うことで、本日は調理実習でーす!」



[古道 大悟]

 「あれ? 土屋のお坊ちゃま居ないね」




 古道が周囲を見渡すと、土屋の姿が無い。




[花澤 岬]

 「サボりだろ」




 数分後……。




[古道 大悟]

 「オレ一旦洗い物するわ〜」



[花澤 岬]

 「おう」




 古道が先に洗いに出された調理器具を片付ける。




[古道 大悟]

 「あれ、なんでこんな所にバスケットボールが……」




 古道は作業台の上に置かれた謎の球体を見つける。




[花澤 岬]

 「ハンバーグだが?」




 バスケットボールの正体はハンバーグだった。




[古道 大悟]

 「火通んないから……」



[花澤 岬]

 「……そう言えば、フランベと言う調理法が前テレビでやってたな」




 花澤がコンロの前に立ち、フライパンを熱し始める。




[音乃 渚]

 「フランベ……赤ワインを使うやつだね! 花澤くん、よく知ってるねー」



[花澤 岬]

 「黙れ」



[古道 大悟]

 「やめとけって……」




 古道が盛り上がる花澤と音乃のことを、軽く止めに入ろうとする。




[花澤 岬]

 「ワイン……無いから料理酒でいいか、よっと」






 ジョボジョボジョボ……。






[古道 大悟]

 「危ない!」






 ボワっ……!!






 突然の料理酒の投入により、炎が激しく立ち登る。




[花澤 岬]

 「だ、大悟、こ、これどうすればいい?」




 どうしたら良いか分からずあたふたする花澤。




[古道 大悟]

 「ちょ、水! 水掛けろ!」



[花澤 岬]

 「そんな……せっかくここまで頑張ったのに」



[古道 大悟]

 「ほら早く、シンクに持って来て!」



[花澤 岬]

 「しかし食材を無駄にするわけには……」

 


[古道 大悟]

 「いいからフライパンから外せ!!」




 その時だった。




[音乃 渚]

 「花澤くん、そこを動かないで!」




 水が入ったバケツを音乃が抱えている。




[花澤 岬]

 「え……こっち来ないで下さい」



[音乃 渚]

 「今助けに行くよ! って、おわっ……!?」






 つるんっ!






 床に落ちていたバナナにより音乃は足を滑らせ、花澤のほうに突っ込む。



 そして発火したままハンバーグは窓の外へと飛んで行く……。






 ヒューン!






[朝蔵 大空]

 「体育だる〜」



[永瀬 里沙]

 「楽しみ♪」




 今から1組の女子と一緒に体育の授業が行われる。




[朝蔵 大空]

 「ん、あれは……」




 ふと上を見上げると、火の玉のようなものが落ちて来ているのが見えた。




[永瀬 里沙]

 「隕石だー!」



[朝蔵 大空]

 「……」




 終わった、世界滅亡。




[加藤 右宏]

 「んおーーっ!!」



[朝蔵 大空]

 「!?」




 私が諦め掛けた時、私の前にミギヒロが現れ、隕石を弾き飛ばした。



 スーパーヒーロー……?




[音乃 渚]

 「いてて……」



[花澤 岬]

 「会長、マジ最悪です」



[音乃 渚]

 「あーごめんね花澤くん!」



[古道 大悟]

 「だ、大丈夫……?」



[花澤 岬]

 「は、ハンバーグは……?」




 その時、窓から焼けたハンバーグが返却されてくる。




[花澤 岬]

 「おっ、よく焼けてる」



[音乃 渚]

 「特大ミートボール……じゅるり……」



[花澤 岬]

 「ハンバーグですよ」



[古道 大悟]

 「えぇ……?」




 上手に焼けました。




[加藤 右宏]

 「大空〜!!」



[朝蔵 大空]

 「ミギヒロ!? あんた平気!?」



[加藤 右宏]

 「んァ? あぁ、オレは大丈夫」



[朝蔵 大空]

 「ありがとう、助けてくれて……」




 今のなんだったんだろ?




[朝蔵 大空]

 「今日サッカーだよね」



[永瀬 里沙]

 「うん!」




 憂鬱な体育、しかもサッカーだなんて。




[永瀬 里沙]

 「大空ー! パス!」



[朝蔵 大空]

 「え、私!?」




 いつものようにただボールを追うだけに徹していようとしてたら、今日は里沙ちゃんが私にパスを回して来た。




[朝蔵 大空]

 「わわ! きゃっ!」



[???]

 「いっ……」




 後退(あとずさ)ると、誰かの足を踏み付けてしまった。



 私は血相を変えて後ろを振り向く。




[朝蔵 大空]

 「ご、ごめ……」



[???]

 「チッ」




 ……!



 今、舌打ちされた。




[赤城 成美]

 「……」




 この人は赤城(あかぎ)成美(なるみ)さん、1組の中心的存在の人。




[朝蔵 大空]

 「すみません……」




 もっと謝ろうと思ったけど、その前に赤城さんはどこかへ行ってしまった。




[朝蔵 大空]

 「やっちゃった……」




 怒らせたかも、だって舌打ちしてたし、返事してくれなかったし……。



 授業が終わった後も、私は赤城さんのことが頭にあった。



 なんか、昔を思い出しちゃうなぁ。




[永瀬 里沙]

 「なんか元気無くなーい? なんかあった?」



[朝蔵 大空]

 「あ、ううん、なんでも無いよ」



[永瀬 里沙]

 「そう?」




 気まずくなって私はトイレに出掛ける。



 トイレの前までやって来た時だった、中から複数人の女子の声が聞こえる。




[女子A]

 「さっきの体育の時、成美めっちゃキレてたよね!」



[女子B]

 「見た見た! あの《《男好き》》全然動かないしマジ最悪だよねー、成美可哀想〜」




 男好き……私、そんな風に呼ばれてるの?



 私、運動出来ないから迷惑掛けてるのは分かってたけど、改めて言われるとつらいな。




[女子C]

 「あの子里沙しか友達居ないよね」



[女子A]

 「里沙もちょっと可哀想だよねー、あんなのと一緒にいても、なんも楽しくなさそー」



[女子B]

 「2組の奴から聞いたけど、あいつ男と喋る時だけイキイキするらしいよ」



[女子C]

 「きっしょー! 可愛くないくせに」




 嫌だ……こんな所もう居たくない。



 私はトイレから離れて歩き出す。




[朝蔵 大空]

 「……あっ」



[赤城 成美]

 「……」




 廊下を友達と一緒に歩いている赤城さんの姿が見えた。



 どうしよう、『さっきはごめんね』ってもう1回謝ったほうが良いかな?



 でも、友達と一緒に居るから話し掛けづらい、また舌打ちされたらどうしよう、しつこいって思われたらどうしよう……。




[朝蔵 大空]

 「……」




 そんなことを考えている内に、赤城さん達は私の横を通り過ぎて行った。



 ああ、赤城さんからは、私のことなんて見えてないんだ。



 私が気にしすぎ、気にしすぎなんだ。



 その日の夜……。




[朝蔵 大空]

 「眠れない……」




 私は自室を出て、コップに水を入れてソファに座る。




[朝蔵 大空]

 「あ、そうだ、書かないと……」




 ケータイを持ち、卯月くんに送る日報を考え始める。




[朝蔵 大空]

 「……はぁ」




 いつもすらすら書いてた日報も、今日は進まなかった。



 起きた事をただ書けば良いのだが、嫌な事を思い出すのが時々つらい。




[朝蔵 大空]

 「男好き……か」




 別に、そんなつもりは無いんだけどな。



 男子の友達のことはもちろん好きだし、里沙ちゃんだって親友だと思ってるし。



 それに、芽衣ちゃんとか、アンジェリカさんとだってもっと仲良くなりたいし。



 私のことなんも知らないくせに、勝手に言わないでほしい。



 ……つらいな。




[朝蔵 大空]

 「……」




 自分の部屋にはミギヒロが居る、私にもひとりになりたい時がある、そんな時私はいつもお父さんの部屋に逃げる。



 私はお父さんの部屋に忍び込み、日報は途中のまま動画アプリを開く。




[朝蔵 大空]

 「癒されたいな」




 実は私、音フェチ動画を漁るのが好き。



 私は気になった動画をタップする。




[朝蔵 大空]

 「おお……良い、めっちゃ」




 このチャンネル、初めて見るな……ふーん、『なぎさん』って言うんだ、チャンネル登録しよっと。




[なぎさん]

 『今日はどんな一日でしたか? 今日の疲れは、今夜中に癒しちゃいましょうね』




 やば、めっちゃ眠くなる。



 まだ日報書いてないのに……。




[朝蔵 大空]

 「…………」




 大空の部屋にて。




[加藤 右宏]

 「かー、ん……ぁ、朝かぁ? アーまだ夜かぁ………あれ」




 横で寝ていた大空が居ないことにミギヒロは不思議に思う。




[加藤 右宏]

 「あっちの部屋か」



 ミギヒロは特に気にせず二度寝する。



 ……翌日。




[朝蔵 葵]

 「おはよー、朝ご飯出来てるわよ」



[朝蔵 大空]

 「あ……いいや、今日は、行って来ます」




 朝起きると私は食欲が無くて、朝食を抜いて学校へと向かった。




[朝蔵 葵]

 「え、食べないのー?」



[加藤 右宏]

 「……」



[加藤 右宏]

 (あいつ、まさか……)




 教室に着いてまず私は里沙ちゃんに会う。




[永瀬 里沙]

 「おはよー!」



[朝蔵 大空]

 「おはよう」




 私は真っ直ぐに自分の席に座る。




[木之本 夏樹]

 「おはよーーーっす!!!」



[永瀬 里沙]

 「あー! 木之本うるさーい!」



[文島 秋]

 「木之本、教室では静かにね」




 周りに次々と人が集まって来る。




[巣桜 司]

 「おはようございまーす……」



[狂沢 蛯斗]

 「おはようございます!」




 狂沢くんと司くんの声が聞こえる。




[朝蔵 大空]

 「……」



[文島 秋]

 「……?」



[木之本 夏樹]

 「ど、どうしたんだよ!」



[文島 秋]

 「元気無いね、どうしたの?」




 あ、私問い掛けられてる?




[朝蔵 大空]

 「あ……ううん」



[狂沢 蛯斗]

 「顔が暗いですね?」



[巣桜 司]

 「……大空さん?」




 私はその場から逃げたくなり、席から立ち上がった。



 あ……こんなんじゃ、皆んなから変な奴だと思われる、嫌われる。



 せっかく皆んな、心配してくれたのに。




[卯月 神]

 「朝蔵さん」




 廊下に出て階段を下りていると、後ろから卯月くんが追い掛けて来た。




[朝蔵 大空]

 「あ……」



[卯月 神]

 「あの、昨日の分がまだなのですが……」




 昨日の分……?




[朝蔵 大空]

 「えっと……」



[卯月 神]

 「一日の報告です」



[朝蔵 大空]

 「あ、日報か……ごめん、後で出すね」




 昨晩そのままお父さんのベッドで寝てしまい、日報を出すのを忘れていた。




[卯月 神]

 「な、なるべく早くお願いします」



[朝蔵 大空]

 「……に、日報ってなんで書かなきゃいけないのかな?」




 私はこの機会にずっと気になっていたことを聞いてみた。




[卯月 神]

 「それは……」



[文島 秋]

 「束縛でしょ?」



[卯月 神]

 「え?」




 曲がり角から文島くんが姿を現した。




[朝蔵 大空]

 「文島くん……」



[文島 秋]

 「違う?」




 文島くんが卯月くんと目を合わせる。




[卯月 神]

 「……僕と朝蔵さんの問題なので」




 出来れば私もちゃんと聞きたい、卯月くんがどうして毎日の日報を欲しがっているのかを。




[文島 秋]

 「彼女の元気が無いのは、君が抑え付けてるからじゃないの?」



[卯月 神]

 「そう言うわけでは……僕は」



[朝蔵 大空]

 「違うよ」



[文島 秋]

 「朝蔵ちゃん我慢しなくて良いよ」




 本当に違う、私のせいだから、私が人に嫌われるような人間だから、私がダメだから。



 あんな悪口言われるのも、全部私が悪いから。




[朝蔵 大空]

 「……」




 色々苦しくなって、卯月くんと文島くんの前なのに涙を流してしまった。




[卯月 神]

 「昨日、嫌なことありましたか? 言って下さい」



[朝蔵 大空]

 「うん」



[卯月 神]

 「話して下さい。 話したら、忘れられますから」




 話すことで、嫌な事が忘れられる?



 そう、なの……?




[卯月 神]

 「話してほしいです」



[朝蔵 大空]

 「うん……」




 私は話した、いつもは卯月くんに言わないようなこと、悪口を言われたこと、酷い言葉を。



 泣きじゃくりながら、呼吸を乱しながら。



 そしたら、少しだけ心が軽くなった気がした。



 つらい事って、誰かに話すとちょっとだけ楽になれるのかもしれない。




[卯月 神]

 「朝蔵さんは、こうやってひとりで抱え込むタイプです。 ですから、こちらから義務的に話させる必要がある」



[文島 秋]

 「ふむ、そう言う意味での日報なんだね。 納得した」



[卯月 神]

 「はい。 ですから朝蔵さん」



[朝蔵 大空]

 「……」



[卯月 神]

 「ちゃんと日報、出して下さいね」






 つづく……。

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