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悲恋の大空  作者: 暴走機関車ここな丸
第3傷『新緑』
70/75

第9話「トリトカブト」後編

 ピンポーン♪






[朝蔵 葵]

 「はーい♪」




 朝蔵母が笑顔で玄関のドアを開ける。




[不尾丸 論]

 「おはようございます。 ぼく、土屋高1年の不尾丸と言う者です」



[朝蔵 葵]

 「まぁ、なんて可愛い子……」



[不尾丸 論]

 「えへ、突然すみません。 大空さんいらっしゃいますか?」



[朝蔵 葵]

 「大空ー! 学校の子が来たわよー!」



[朝蔵 大空]

 「ええ?」




 あれ、不尾丸くん?



 家教えたっけ……。




[不尾丸 論]

 「先輩おはよ! 昨日は怒りすぎました……仲直りしよ? このお花もあげる」



[朝蔵 大空]

 「わ、私のほうこそごめんね!」




 私は謝りながら不尾丸くんから花束を受け取る。




[不尾丸 論]

 「ふふ、じゃあまた学校でねー」



[朝蔵 大空]

 「うん!」



[朝蔵 葵]

 「ちょっと! ちょっと! あんな美少年で素朴な感じの良い子、いつ捕まえたのよ!」



[朝蔵 大空]

 「お花きれー」




 でもお花に関しては詳しくないからなんの花か分かんないや……そうだ!



 私はケータイを持ち、写真検索で花の名前を調べる。




[朝蔵 大空]

 「へー、トリカブトって言うんだ!」






 ピコン♪






[朝蔵 大空]

 「あ、メール……誰これ」




 ──『不尾丸だよ! 今先輩が手に持ってる花の花言葉は「栄光」だよ!』




[朝蔵 大空]

 「あー、不尾丸くんなんだこれ。 『栄光』かぁ……」




 連絡先教えたっけ……。



 ……。




[卯月 神]

 「……」




 卯月の今の頭の中。




[不尾丸 論]

 『年上のくせにオレらに負けちゃってみっともなーい、そんなんじゃ女の子守れないでしょー?』



[仁ノ岡 塁]

 『安心しろ、貴様の代わりにメリィは我ら最強の三銃士が幸せにしてやるからな!』



[原地 洋助]

 『貴方みたいなヘタレな人が彼氏だなんて、大空先輩が可哀想なんですけど。 早く別れてもらえます?』



[仁ノ岡 塁]

 『ちなみに今晩のおかずは鮭と菜っ葉のカレー風お好み焼きだ!』




 卯月の頭の中終了。




[卯月 神]

 「はぁ……人もどきとしても、神ですらも半端な僕の存在意義って?」




 卯月は憂鬱な表情で自身の拳を見つめる。




[狂沢 蛯斗]

 「珍しく落ち込んでるじゃないですか」



[卯月 神]

 「狂沢くん、彼氏って難しいですね……」



[卯月 神]

 (しまった、ついポロっと……)




 その時だった。




[仁ノ岡 塁]

 「メリィー!♡ 迎えに来たぞー!」



[原地 洋助]

 「大空先輩ー! ボクらとご飯食べましょう!」



[朝蔵 大空]

 「わっ! なになに?!」



[仁ノ岡 塁]

 「下で論も待ってるぞ!」



[原地 洋助]

 「行きましょ先輩! ほら早く!」




 仁ノ岡と原地に両腕引っ張られてどこかに連れ去られてしまう大空。




[永瀬 里沙]

 「ぎゃー! 大空取られた!」



[卯月 神]

 「おお……」




 1年生のあの若々しい行動力、見習いたいものですね。




[文島 秋]

 「ねぇ、取られて良いの?」



[卯月 神]

 「え?」



[木之本 夏樹]

 「モタモタしてんなよ! マジで!」




 あれ……?




[狂沢 蛯斗]

 「ちょっと一旦会議しましょう! 巣桜くん! 1組から刹那くん呼んで来て下さい! ボクは3組から嫉束くん達呼んで来るので!」



[巣桜 司]

 「は、はい!」




 あれ、皆さん怒ってない?



 むしろ協力しようとしてくれてる?




[刹那 五木]

 「知ってたよ、君らが付き合ってること」



[卯月 神]

 「そうだったんですか!?」



[笹妬 吉鬼]

 「何回も一緒に帰ってるとこ見たし」



[嫉束 界魔]

 「むしろなんでバレてないと思ったの?」




 隠していたつもりだったのですが……。




[卯月 神]

 「怒らないんですか? 刹那くん」




 刹那くんと朝蔵さんは幼馴染み、僕のことが憎くてしょうがないはず。




[刹那 五木]

 「あ、おれ? いやまあ最初はショックだったけど……」




 おかしい、誰も僕のことを殺そうとしないし、朝蔵さんのことを殺しに行かない。



 不尾丸くんはあんなに手が早かったのに。



 しかも心中までしようとしてたのに。



 皆さん将来地獄行き予定の悲しい運命を持った人間のはずなのですが。




[木之本 夏樹]

 「やっぱりさぁ、言えよ! ちゃんと好きって!!」



[文島 秋]

 「木之本〜、それブーメランじゃね?」



[木之本 夏樹]

 「う、うっせー! 今俺のことは良いんだよ!!」



[卯月 神]

 「言えない理由は……」




 最初は目的のため、天使転生のため、だけど本当は……。




[卯月 神]

 「自信が無いんです、僕は人としては何もかもが平らで、皆さんみたいにカッコ良くないし、個性も無いし」



[刹那 五木]

 「え! おれら急に褒められてる?」



[狂沢 蛯斗]

 「……思ったのですが」



[巣桜 司]

 「そう、ですよね?」




 狂沢くんと巣桜くんが顔を見合わせる。




[狂沢 蛯斗]

 「卯月くん貴方、以前より感情豊かになってますよね?」



[嫉束 界魔]

 「それ僕も思った!」



[卯月 神]

 「え、そうでしょうか?」




 あんまり自覚無い。




[刹那 五木]

 「よし、自信が無いんだよね! そうと決まれば特訓だ!」




 やる気になった刹那くんが席から立ち上がった。




[卯月 神]

 「特訓……?」



[笹妬 吉鬼]

 「まあ、体力作りは大事だよな」



[刹那 五木]

 「基本は体だよ! 体動かしてリフレッシュしよう!」



[笹妬 吉鬼]

 「まずはグラウンド10周から?」



[刹那 五木]

 「いいや、30周ぐらい行こう!」




 鬼……?




[嫉束 界魔]

 「やばーい! ね、どうせなら皆んなで走ろうよ!」




 嫉束くんがそう全員に提案する。




[木之本 夏樹]

 「俺らもやんのかよー。 文島はどうする?」



[文島 秋]

 「別に構わないよ」



[狂沢 蛯斗]

 「1番に30周走り切ってみせます!」



[巣桜 司]

 「ぼ、ぼくスポドリ買ってきますねー!」




 グラウンドに出て僕達は共に走る。




[二階堂先生]

 「おっ、なんだお前ら! マラソン大会かー?」



[刹那 五木]

 「あはは! 体育祭もあるのでー!」



[二階堂先生]

 「なんか青春だなぁ」




 『青春』……?



 なんか僕ら、友達みたい。




[不尾丸 論]

 「何アレ」



[仁ノ岡 塁]

 「ここは競馬場かー?」



[原地 洋助]

 「ダサ」



[朝蔵 大空]

 「ん……ここは?」




 気を失っていた大空が目を覚ます。




[原地 洋助]

 「あ! 先輩起きたー!」



[仁ノ岡 塁]

 「おー、あの小さい奴速いな……」



[不尾丸 論]

 「先輩おはよう」




 え、私仁ノ岡くんと原地くんに担架で運ばれてるんだけど……。



 しかも縛られて身動き取れない。




[朝蔵 大空]

 「あ、卯月くん……」




 グラウンドで私がよく知ってる男の子達が楽しそうに走っているのが見えた。



 何してるか全然分かんないけど、皆んな仲良さそうに見える。




[不尾丸 論]

 「あんなの見なくていいよ、先輩」




 見ていたら不尾丸くんが(さえぎ)ってきた。




[仁ノ岡 塁]

 「俺様も混ざりに行きたいのだが!」



[原地 洋助]

 「はいはい後にしようねー」




 担架が揺れ、動き出す。



 どこ連れてくの……。




[不尾丸 論]

 「先輩おいで」




 不尾丸くんが膝を叩いて合図してくる。




[朝蔵 大空]

 「い、行かない」




 学校内ではあるけど、人気(ひとけ)の無い所に連れて来られてしまった。




[不尾丸 論]

 「来ないなら迎えに行くね」




 車椅子に乗った不尾丸くんが私のほうに迫って来た。




[朝蔵 大空]

 「こ、来ないで!」



[不尾丸 論]

 「はーい、ぽん」




 抵抗は虚しく、軽々と不尾丸くんの膝に乗せられてしまう。



 隙も無く腰に手を回され、仁ノ岡くんと原地くんもその状態を見ている。




[仁ノ岡&原地]

 「「……」」




 え、なんかふたりとも静かじゃない?



 さっきまで賑やかにしてたのに。



 なんだか、周りを気にしているようにも見える。




[不尾丸 論]

 「ふー」



[朝蔵 大空]

 「ひゃあ!」




 不尾丸くんが私の耳に息を吹き掛けてきた。




[不尾丸 論]

 「ふへへ、可愛いねぇ先輩。 やられてみたかったんでしょ、年下の男の子に」




 そう言われれば書いたような気がする、私の夢小説に。




[朝蔵 大空]

 「は、恥ずかしい///」



[不尾丸 論]

 「うんうん、これからいっぱい恥ずかしいことしよーね」



[朝蔵 大空]

 「な……」




 何言っちゃって……。




[不尾丸 論]

 「さ、始めようかね。 塁は先輩の足押さえてて、洋助は手首ね」



[仁ノ岡&原地]

 「「……うん」」




 仁ノ岡くんと原地くんは従順に不尾丸くんの言うことを聞き、私の体を固定する。




[朝蔵 大空]

 「な、何が始まるの?」



[不尾丸 論]

 「昨日は大嫌いって言ってごめんね、本当は大好きだよ? だからさ、一緒に作ろうよ。 既成事実」




 今なんて言ったのこの子?




[不尾丸 論]

 「さぁお洋服脱ぎ脱ぎしましょーねー」



[朝蔵 大空]

 「そんな! やめて!」




 仁ノ岡くんと原地くんはなんで黙っていられる?!



 ふたりとも、目の前の光景を見たくないのか、どこか違う所を見ている。




[不尾丸 論]

 「いいね、その表情」



[朝蔵 大空]

 「いやぁ! 卯月くん助けて!」



[不尾丸 論]

 「チッ、今そいつの名前出すなよ! 無駄なこと喋んな!」



[原地 洋助]

 「やめろ論!」




 そう言いながら不尾丸くんは腕を大きく振りかぶってきた。




[仁ノ岡 塁]

 「ダメーー!!」



[不尾丸 論]

 「うっ」




 タックルしてきた仁ノ岡くんに、不尾丸くんは吹っ飛ばされる。




[仁ノ岡 塁]

 「やっぱりこんなのダメだよ!」




 共犯だった仁ノ岡くんが助けてくれた?




[不尾丸 論]

 「……あ? 何? 裏切るの?」



[原地 洋助]

 「論やめて! 先輩の前だよ!?」




 杖を持った不尾丸くんが仁ノ岡くんの傍まで歩いて来る。




[不尾丸 論]

 「裏切んなっていつも言ってるよね!?」



[仁ノ岡 塁]

 「ひっ……」



[原地 洋助]

 「いっ……」




 不尾丸くんが杖を使って叩く、原地くんは仁ノ岡くんを庇うようにただ耐えている。




[原地 洋助]

 「う、裏切るって言うか……論のために……」



[不尾丸 論]

 「うるさい! 逆らおうとするな! 追い出すぞ、明日から家無くても良いのか!?」



[仁ノ岡 塁]

 「ごめんなさい! ごめんなさい! もうしません!」



[不尾丸 論]

 「あーもう、どうせお前らオレのこと嫌いだもんね、だからだよね。 ずっとオレが親代わりに見てきてやったのに」



[原地 洋助]

 「そんなことないよ! 大好きだよ、論……」




 そう言って原地くんは不尾丸くんに無理に笑顔を見せた。




[不尾丸 論]

 「あぁ、そうだよね。 媚びることしか能が無いもんねー。 オレが居ないと生きていけない、身寄りの無い原地(孤児)仁ノ岡(精神)だもんねー!」



[原地 洋助]

 「痛い! ごめんなさい……やめて、下さい……」




 何が起こって……。



 私は、何をすれば良いの?



 どうして、仲の良い3人だと思ってたのに、なんでこうなるの?



 誰が悪い?



 今、音乃会長が言っていたことを思い出すなら……。



 ──『本当は優しくて、とっても面倒見良くて、とっても頑張り屋さん』



 今やってることも、言ってることも、本当は思ってない、本心じゃないはず。




[朝蔵 大空]

 「ち、違う、こんなんじゃなくて……私は、私は、ただ『友達』として皆んなと仲良くしたかっただけで……」



[仁ノ岡 塁]

 「……」



[原地 洋助]

 「先輩……?」




 かなり弱ったふたりが私のほうを振り向く。




[朝蔵 大空]

 「わがままだよね、私」




 泣きたいのは仁ノ岡くん達のほうなのに、私は3人の後ろで大粒の涙を流した。




[不尾丸 論]

 「せ、先輩ごめんね? 怖い思いさせたよね。 あ、オレまたやっちゃった……こんなつもりじゃ、もう絶対塁と洋助に嫌われた、もうダメだ。 オレ、独りだ……」



[仁ノ岡 塁]

 「お、俺らは全然気にしてないぞ!」



[原地 洋助]

 「そ、そうだよ!」






 ピピーッ!






 ホイッスルような音がこの場に響いた。




[土屋 遊戯]

 「通報を受けてきました! 全員そこを動かないで下さい!」



[不尾丸 論]

 「……!!」




 土屋先輩だ!




[土屋 遊戯]

 「暴力反対! 現行犯逮捕しまーす!」




 土屋先輩が抜け殻となった不尾丸くんを連れてこうとする。




[朝蔵 大空]

 「不尾丸くん……」




 私はただそれを見ているだけ、なんて出来なかった。




[朝蔵 大空]

 「あ、あの!」



[土屋 遊戯]

 「どしたのダーリン?」



[朝蔵 大空]

 「あの! 4人でプロレスしてました……」



[不尾丸 論]

 「え……」




 私は土屋先輩に咄嗟に嘘をつく。




[土屋 遊戯]

 「なーんだそう言うことだったのかー、でもでも! あんまり白熱しすぎないようにね? ここ、学校だから!」



 ……。



 そして放課後。




[不尾丸 論]

 「どうして」




 今日のことを思い出しながら、家に帰ろうとしたところ、不尾丸くんに呼び止められた。




[朝蔵 大空]

 「きゃっ……」



[不尾丸 論]

 「どうして庇ったの? ねぇ、ちゃんと嫌ってくれなきゃ、オレまた変な期待しちゃうよ?」




 さっきの仁ノ岡くんと原地くん、単に不尾丸くんが怖くて逆らえないと言うよりは、何か他に理由がありそうだった。



 だから私も、ふたりに習うようにした。




[朝蔵 大空]

 「" 友達 " だから!」




 そして後日。




[永瀬 里沙]

 「ねぇ、不尾丸くんって結局どうなったの?」



[朝蔵 大空]

 「えーっとね」




 自主自粛? と言うものをしているらしい。



 仁ノ岡くんと原地くんがそう言っていた。






 「トリトカブト」おわり……。

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