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悲恋の大空  作者: 暴走機関車ここな丸
第3傷『新緑』
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第8話「わたしのうみ」前編

 温かい。



 かつて私は、貴方の腕の中で眠っていた。



 貴方こそが、貴女だけが、私にとって最大で絶対的な味方だった。



 でも今は……。




[中学時代の担任]

 「朝蔵大空は今日も休み、っと……」




 私の欠席が多くなったのは中学2年生からで、いじめが酷くなったのも、その時ぐらいだった、かな。




[中学生女子A]

 「またズル休みかよ〜」



[中学生女子B]

 「別に来なくて良いけどねー」




 (つら)く、酷い言葉、そればかりを思い出す。




[中学時代の担任]

 「あ、数学の宿題まだの奴急げよー、今日までだからなー」




 当時のクラス、担任の先生含め皆んな私を居ない者扱いしてきた。




[中学生男子A]

 「ずっと休んでる奴って誰だっけ?」



[中学生男子B]

 「さぁ? 1回も喋ったこと無いから分かんねぇ」




 私を心配する人はいなくて、むしろ鬱陶しがられていたと思う。



 あの頃の空は青くなくて、悲しいくらい澄んだ橙色をしていた。




[朝蔵 真昼]

 「ただいまー」



[朝蔵 大空]

 「あ……おかえり」



[朝蔵 真昼]

 「……今日も休んだの?」




 そう言えば、非の打ち所の無い真昼と何も出来ない自分を比べて、悲観的になることもあったっけ。




[朝蔵 大空]

 「やっぱ、『学校来るな』って言われたことが……」



[朝蔵 真昼]

 「言い返せよ、お姉ちゃんには、学校に行く権利があるでしょ」



[朝蔵 大空]

 「うん、それは分かってるんだけど……」




 真昼も私と同じように、友達は少なかったみたいだけど、真昼は私と違って心が凄く強い。



 弱い私はただ、言われたことや嫌がらせに傷付き続けることしか出来なかった。



 夜になれば眠らなきゃいけない、だけど私はひとりじゃ眠れない。




[???]

 「……」



[朝蔵 大空]

 「ねぇ、今日も一緒に寝てくれる?」




 そんな不甲斐ない私を、責めることも無く私のまま受け入れてくれた人。



 何も言わず私の傍に居てくれた貴方がいたから、私はあの時生きていられた。



 私、また貴方に会いたいかもしれない。



 ごめんね、皆んな。



 ……。




[女子B]

 「ねぇあの子、上がって来ないけど……」



[女子A]

 「し、知らない。 行こーよ!」



[女子B]

 「うん……」




 湖の側から急いで離れていく女子達を、ミギヒロが見つける。




[加藤 右宏]

 「まさか……!」




 ミギヒロは躊躇い無く湖の中に飛び込む。




[加藤 右宏]

 (暗い……どこだ?)




 フラッシュを焚いてミギヒロは大空のことを探す。




[加藤 右宏]

 (いた!)



[朝蔵 大空]

 「……」




 水の底まで沈んで行く大空を捕まえ、ミギヒロは大急ぎで地上へと戻る。




[朝蔵 大空]

 「…………ミギヒロ?」



[加藤 右宏]

 「良かっタ! 生きテた!」




 あれ、私はどうして……。




[加藤 右宏]

 「オマエ、水の中で何か見たのカ?」



[朝蔵 大空]

 「えと……」




 私はまだ、振り返ることが出来なかった。



 あそこで振り返ってしまったらもう、戻れない気がしたから。




[卯月 神]

 「朝蔵さん! しっかりして下さい!!」



[加藤 右宏]

 「大空!! オイ!!」




 卯月くんとミギヒロが、私の名前を叫んで呼ぶ。



 今の私には、たくさんの味方だと思える人がいる。



 両親や兄弟、大切な友達、慕ってくれる後輩、支えてくれる先輩……。



 だからまだ大丈夫。




[二階堂先生]

 「朝蔵ぁー!!」




 先生の声が聞こえる。



 そこから先の記憶は無い。



 ……。




 車のエンジンが掛けられる音が聞こえる。



 私は意識が朦朧(もうろう)でありながらも、薄く目を開いた。



 私は車の後部座席に寝かされていた、運転席には誰かの背中が見える。




[朝蔵 旭]

 「……帰るぞ、担任の先生の判断だ。 念の為、病院にも行く」




 え…………お父さん?



 気が付けば私は病院の診察室に座らされていた。




[医者]

 「何も異常はありませんでした、お大事にして下さい」




 診察室を出て病院の廊下をゆっくりと歩く。



 車に帰ったら、お父さんと何を話そう?



 ……何を話せば良いの?




[精神科医]

 「あれ? 私、貴女のことを覚えてる気がするわ!」



[朝蔵 大空]

 「は、はい?」




 白衣を着た女の人に呼び止めらて私は足を止めた。




[精神科医]

 「大空ちゃんだよね? 昔よく相談受けてた○○です」




 え……?




[朝蔵 大空]

 「えっと……」



[精神科医]

 「あはは、なーんて、覚えてるわけ無いわよねー」




 私が小さい頃にお世話になってた先生なのかな?



 名前、よく聞き取れなかった……。




[精神科医]

 「ねぇねぇ、今もあのお兄ちゃんと一緒なの?」



[朝蔵 大空]

 「お、お兄ちゃん?」



[精神科医]

 「ほら、夕唯(ゆい)くんだっけ?」




 夕唯くん……?



 誰……そんな名前の人、知らない!!




[精神科医]

 「あ! 大空ちゃん!?」




 私は急に胸がざわつき始め、病院の外まで走った。



 外まで出て来ると、近くにお母さんの車が停まっているのに気が付く。




[朝蔵 葵]

 「あ、大空! こっちこっち〜」




 お母さん? お父さんは……?



 もう帰っちゃったの?




[朝蔵 大空]

 「……?」



[朝蔵 葵]

 「無事で良かったわ」




 この世界は広くて深い大海だ。



 皆んな必死に生きようと溺れないように藻掻(もが)く。



 心が休まる時なんて無い、休んでる暇なんて無い。



 だって、こんなダメな私がじたばたするのを()めてしまったら……。



 一瞬にして深海まで沈んでしまい。



 もう二度と、這い上がって来れないから。



 ……。






 ピンポーン♪






 その日の夜、インターホンの音で目が覚めた。



 時計を見ると、短い針が深夜4時を差していた。






 ピンポーン♪



 ピンポーン♪



 ピンポーン♪



 ピンポーン♪






 一定の間隔でそれは不気味に鳴らされ続けた。



 今夜は風が強く、風の音と混ざるようにその音が聞こえてくる。




[朝蔵 大空]

 「え……」




 どうしてこんな時間に、誰が来るって言うの……?



 私は部屋を出て玄関に向かった。






 ピンポーン♪






 未だに鳴らされるインターホンに引き寄せられるように、私はドアの前に立った。



 誰か来てるなら、応対しないと……。



 早く出ないと。




[加藤 右宏]

 「何してルの?」




 出ようとしたところ、背後から声が聞こえた。




[加藤 右宏]

 「どコか行くの?」



[朝蔵 大空]

 「インターホンが……」



[加藤 右宏]

 「インターホン? そんなもの、聞こえナいよ」




 風の音が()んだ。




[朝蔵 大空]

 「あ……」




 無音の玄関で私は立ち尽くす。




[加藤 右宏]

 「戻ろう」



[朝蔵 大空]

 「うん」




 ……。



 翌日、本当なら秋の合宿最後の日。



 私は昨日の夜、湖に落ちたことで強制的に帰宅させられた。



 今日の私の扱いは、『欠席』と言うことになる。



 皆んなはまだ事業所で、行事を続けている。




[朝蔵 大空]

 「お母さん、私ちょっと出掛けて来るね」



[朝蔵 葵]

 「うん、良いと思うよ」




 私は外に行き、まず図書館に寄ってみた。



 テーブルで好きな本を読む。




[朝蔵 大空]

 「ふぅ……」




 大分(だいぶ)ゆっくりしたな、そろそろ出よう。



 いくつか本を読み終わって、下校時間ぐらいの時間になっていた。




[朝蔵 大空]

 「あ、里沙ちゃんからメール来てた……」




 私はメールアプリで里沙ちゃんからのメールを読む。




[永瀬 里沙]

 『やほ、休めた? うちらそろそろ解散するよ〜ん』




 里沙ちゃんからのメールによると……2、3年生がこっちに帰って来るみたい。



 ああ、私も最後まで参加したかったな。




[朝蔵 大空]

 「はぁ……」



[不尾丸 論]

 「浮かない顔してどうしたの、お姉さん」



[朝蔵 大空]

 「ひゃっ……!!」




 私は飛び上がって後ろに退(しりぞ)ける。




[不尾丸 論]

 「あーごめんね? 驚かせるつもりはなかったんだー」



[朝蔵 大空]

 「不尾丸くん!? どうして?」



[不尾丸 論]

 「どうしてって言うか、ここオレの親が運営してる図書館だしー」




 そっかもう下校時間、1年生は学校から帰って来てるよね。




[朝蔵 大空]

 「そうだったんだ……なんか不尾丸くんの家って凄いね」



[不尾丸 論]

 「親が福祉関係に強いから〜」




 へぇ、孤児院の他にも色々経営してそうだな、不尾丸くんの親御さん……。




[朝蔵 大空]

 「不尾丸くん、もうお(うち)帰るの?」



[不尾丸 論]

 「そだけど?」



[朝蔵 大空]

 「また送ってこうか?」




 前にも車椅子引いて不尾丸くんを家まで送ったことあったよね。




[不尾丸 論]

 「おっ、さすが先輩やっさしー♪ でもー、今日はいいや」



[朝蔵 大空]

 「あ、そう?」



[不尾丸 論]

 「今日車だし」




 道路沿いに黒くて大きな車が泊まっているのが見えた。




[朝蔵 大空]

 「あれそう?」



[不尾丸 論]

 「そっ」



[朝蔵 大空]

 「じゃあそこまで運ぶね!」




 私は不尾丸くんを連れて、見送ろうと車の横に立つ。




[不尾丸 論]

 「えいっ!」



[朝蔵 大空]

 「え?」






 ドンッ!






[朝蔵 大空]

 「わわわ!」




 車の中に押し込まれ、私を乗せたまま発車する。



 ……。




[朝蔵 大空]

 「ごちそうさまでした……」



[施設の人]

 「はい、もう良いんですか?」



[朝蔵 大空]

 「ダイエットしてるので……」




 今私はアサガオこども院で晩ご飯を頂いている。




[不尾丸 論]

 「デザートにプリンがあるよ」



[朝蔵 大空]

 「もう! お夕飯振る舞いたかっただけなら、あんな誘拐(まが)いなことしなくて良かったでしょ!!」




 怖かったんだから!




[不尾丸 論]

 「あははー、なんかウケるかなって」




 ウケないし!




[朝蔵 大空]

 「なに笑ってるの!!」




 私はプリンを口に入れたまま怒る。




[原地 洋助]

 「ただいまー…………大空先輩!? なんで!?」



[朝蔵 大空]

 「ぎゃっ!」




 食堂に誰か騒がしい人達が入って来た。




[仁ノ岡 塁]

 「ただいま戻ったぞ」



[施設の人]

 「おかえりなさい。 塁くん、洋助くん、バイトと部活動お疲れ様です」




 わっ、仁ノ岡くんと原地くんだ!




[不尾丸 論]

 「おかえりー」



[朝蔵 大空]

 「ありがと! じゃ、じゃあ私帰るね」



[仁ノ岡 塁]

 「もう帰っちゃうの!?」



[朝蔵 大空]

 「うん!」




 私は帰ろうと出口のほうに小走りする。



 その時だった。




[不尾丸 論]

 「ふふ」






 ザー……!!






 もの凄い勢いの雨が降ってきた。



 嵐だ……。




[朝蔵 大空]

 「そんな……! 天気予報じゃ今夜は降らないって……」



[不尾丸 論]

 「先輩今日泊まればいいじゃーん」




 な……なんでそうなるの。




[原地 洋助]

 「先輩がうち泊まるの?!」



[仁ノ岡 塁]

 「やったーーー!」



[朝蔵 大空]

 「めっちゃ喜んでる……」




 確かにこんな雨の中帰るのも嫌だしな……。




[不尾丸 論]

 「ね、頼ってよ先輩」




 頼るって……そっか、不尾丸くん私が落ち込んでるのに気付いてたんだ。



 私を元気づけようとしてくれたの?



 い、意外と優しいところあんじゃん年下のくせに。




[朝蔵 大空]

 「よろしくお願いします」




 ……。



 その夜お風呂を頂いた後、なんだか落ち着かなくて、施設内を勝手に見学させてもらっていた。




[朝蔵 大空]

 「可愛いなぁ」




 施設の子供達が描いた絵とか、折り紙作品が壁にたくさん掲載されていた。




[朝蔵 大空]

 「何これ」




 写真……?



 すぐ横に何かメッセージも添えてある。




[朝蔵 大空]

 「え、これ……」




 この写真、昔の私じゃない?



 ──『アサガオこども院、楽しくてとっても良い勉強になりました! 将来、福祉関係のお仕事に就くのもアリかも』



 そんなメッセージが、私の字で書いてあった。



 中学の制服着てるから中学時代の自分なんだろうけど、全然覚えが無い。




[朝蔵 大空]

 「信じられない」




 やっぱり私、記憶がおかしいのかな。



 納得出来ないまま、私の為に特別に用意してもらった部屋へと向かう。




[朝蔵 大空]

 「あ、あれ」




 ドアが半開き、人の気配もする……。




[不尾丸 論]

 「…………」




 あれ、不尾丸くんがいる。




[朝蔵 大空]

 「不尾丸くん? 私もう寝るよ? ……何してるの?」




 何も言わずに背中を向けている不尾丸くんに私は声を掛ける。




[不尾丸 論]

 「ねーえ、先輩ってケータイにロックとか掛けないの?」



[朝蔵 大空]

 「え……」




 よく見ると不尾丸くんの手には、私のケータイが握られていた。




[不尾丸 論]

 「この、『私の未来の旦那様♥ちゅきちゅきらぶゆー♡』……って誰?」




 それはっ……!!






 つづく……。

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