第5話「トリプルトラブル」前編
ぱーーーんっ!!
[古道 大悟]
「おめでとう岬! 明後日から3日間好きな子と一緒とか、岬ったら宇宙一幸せ男だぞ〜!」
花澤の周辺をうろちょろして桜の花びらをばら撒く古道(※あくまでイメージです)。
[花澤 岬]
「遊びに行くんじゃないんだ。 あんまり浮かれすぎんな」
教室の中でクラッカーを鳴らす古道に花澤は注意する。
[古道 大悟]
「なんだよ! 《《オレのおかげ》》で一緒のグループになれたんだから、ちょっとはお前も喜べって!」
[花澤 岬]
「別に俺から誘おうとしてたし」
[古道 大悟]
「えー、ほんとかなぁ? ……?」
その時、古道は自分達に向けられる視線のほうを見る。
[白井 櫻子]
「あっ……///」
少し遠くのほうで座っている白井櫻子は古道と目が合った瞬間赤面して顔を逸らす。
[古道 大悟]
(……またあの子こっち見てるし)
[花澤 岬]
「……!」
花澤が窓から教室で過ごしている大空の姿を見つける。
[古道 大悟]
(うわ、こっちはこっちで好きな女の子のこと見てる)
土屋高の3年の教室は、1、2年先生とは別の向かい側の校舎にあり、窓の外を見れば2年の教室の様子を少し覗くことが出来る。
[古道 大悟]
(いいねー、皆んな幸せな恋が出来て)
……。
昼休み、私と里沙ちゃんはグラウンドまで出て来ていた。
[永瀬 里沙]
「やっぱ皆んな練習してんねー」
[朝蔵 大空]
「うふふ、ちょっと早い体育祭だね」
グラウンドでは二人三脚の練習に励む生徒がチラホラ見られた。
いつもサッカー部っぽい人達が昼休みにサッカーをしてることは多かったけど、こんなに大勢で運動場に集まっているのを見るのは、なんだかワクワクするなぁ。
[永瀬 里沙]
「アン子行くぞ!!」
[杉崎 アンジェリカ]
「おい永瀬……その呼び方なんとかならないか?」
[永瀬 里沙]
「アンジェリカじゃ長いし、友達なのに杉崎だとー、なんかあれじゃん? だからアン子!!」
[杉崎 アンジェリカ]
「あ、貴女と友人になった覚えは無いけどっ!」
ふーん、アンジェリカさんってツンデレだったんだぁ……。
[剣崎 芽衣]
「あ! 朝蔵さーん」
長くて綺麗な髪をポニーテールにし、可憐に揺らして歩いて来ている芽衣様の姿が見えた。
[朝蔵 大空]
「こんにちは! 芽衣様!」
ポニーテールの芽衣様、ちょっと可愛いすぎるっ……。
[剣崎 芽衣]
「う、うん。 私達も、練習しよっか」
[朝蔵 大空]
「はい!」
芽衣様と組みたがりそうな子って他にもたくさん居そうなのに、芽衣様はなんで私なんかを選んでくれたんだろ?
私、運動出来ないし足も遅いのに。
[剣崎 芽衣]
「まずは歩いてみる?」
[朝蔵 大空]
「は、はい、そうですね……!」
私と芽衣様は片足を紐で結んだ状態で、同時に歩き出す。
[剣崎 芽衣]
「いけそう?」
[朝蔵 大空]
「はい! 大丈夫です」
私がそう返事すると、芽衣様がペースを早めてきた。
[剣崎 芽衣]
「おけ! ペース上げるね」
[朝蔵 大空]
「あ、ちょ……」
バタンっ……!
ペースを上げた途端、私はバランスを崩し前方へと倒れてしまった。
[朝蔵 大空]
「ぎゃふ……」
[剣崎 芽衣]
「あ、朝蔵さん大丈夫!?」
芽衣様が倒れた私を心配してその場で腰を下ろす。
[朝蔵 大空]
「いてて、すみません……」
あ、周りの皆んなが見てる……。
なんてこった、私のせいで芽衣様に恥をかかせてしまったかもしれない。
[朝蔵 大空]
「ご、ごめんなさい! もう1回お願いしまっ……っ!」
立ち上がろうとした時に痛みを感じた、膝を見ると少し擦りむいて血が出ている。
[朝蔵 大空]
「あっ……」
[剣崎 芽衣]
「無理しちゃダメだよ? ほら、保健室行こ」
私は芽衣様と一緒に保健室まで向かった。
……。
[剣崎 芽衣]
「こんにちはー」
[嫉束 界魔]
「あ、剣崎さんこんにちは」
[朝蔵 大空]
「……!!」
あれ? 嫉束くんと芽衣様、結構普通に喋ってる?
てっきり私は、ふたりに何かしらの因縁があると踏んでいたのだけど。
[嫉束 界魔]
「大空ちゃん! 怪我したの?」
[朝蔵 大空]
「あ、あはは……二人三脚の練習中にちょっと」
芽衣様は嫉束くんのファンクラブ、SFCの会長なんだよね?
ファンクラブに入ってるぐらいだから、嫉束くんのことが好きってこと、だから……。
他の女子生徒は嫉束くんを見たらキャーキャー言い出すけど、芽衣様はそんな反応は示さない。
これが、『良い女の余裕』? ってやつ?
[嫉束 界魔]
「はい、手当終わったよ」
[朝蔵 大空]
「ありがとう」
頭の中でぐるぐると考えている間に手当は終わっていた。
[剣崎 芽衣]
「嫉束くんは二人三脚の練習しないの?」
[嫉束 界魔]
「あーうん、一応したよ。 でもそんなガチでやんなくても良いかなーって、文島くんもそんな感じに言ってたし」
嫉束くんと文島くんには確かに、スポーツ? のイメージは無いよね。
[剣崎 芽衣]
「そうなんだー?」
[嫉束 界魔]
「楽しければ良いじゃん♪」
さっき、足のめちゃくちゃ速い狂沢くんが卯月くんのことを引きずりながら猛スピードで走ってたのは印象的だったなぁ……。
あれは生身の人間だったら死んでるよね?
卯月くんは人間じゃなくて天使だからなんとか生き長らえてたけど。
[剣崎 芽衣]
「私もそう思う!」
[嫉束 界魔]
「うんうん」
そんなちょっとした話をしてから、私達は保健室を後にした。
[朝蔵 大空]
「あの、失礼を承知で聞くのですが……」
[剣崎 芽衣]
「なになに?」
私はずっと気になってたことを芽衣様に聞いてみようと思う。
[朝蔵 大空]
「芽衣様は、好きな男の子とかいますか?」
[剣崎 芽衣]
「え!?」
芽衣様は肩を跳ねさせ、驚いた顔で口を手で隠す。
[朝蔵 大空]
「ごめんなさい! 失礼なこと聞きました!」
そんな芽衣様のリアクションを見て私は即座に芽衣様に謝る。
[剣崎 芽衣]
「あ、失礼とは思ってないけど、急だなって思って……」
そう言って芽衣様は私に対して微かに口角を上げる。
[朝蔵 大空]
「あの! 芽衣様ってSFCの会長ですよね? だから、ちょっと気になってって言うか。 例えば……嫉束くんとか?」
[剣崎 芽衣]
「嫉束くん…………うーん、そうだなぁ」
芽衣様は考えるような素振りを見せた後、前を向き直した。
[朝蔵 大空]
「……?」
[剣崎 芽衣]
「好き、だよ。 テニスやってる彼のことは」
[朝蔵 大空]
「え、テニス?」
[剣崎 芽衣]
「うん!」
嫉束くんを好きなんじゃなくて、テニスをやっている彼のことが好き!?
[剣崎 芽衣]
「だから、実はね、ちょっと悲しかったの、嫉束くんがテニス部辞めちゃった時は」
[朝蔵 大空]
「あ……そうですよね」
前にも本人が言ってたけど、居辛くなったとか聞いてる……。
[剣崎 芽衣]
「まあ、部活で彼も色々あったから」
[朝蔵 大空]
「色々? あの、その色々って……」
そう私が芽衣様に問い掛けようとした時だった。
[巣桜 司]
「嫌いなんですよ……! 貴方みたいな人、ぼくは!!」
司くんの声で、怒鳴るような声が聞こえてきた。
私と芽衣様は、声がしたグラウンドのほうに走る。
[刹那 五木]
「巣桜くん?」
[巣桜 司]
「はぁ……」
司くんと五木くん?
まさか、あのふたりで喧嘩……?
[刹那 五木]
「お、おれなんか君にやった?」
喧嘩、と言うよりも、五木くんが司くんに一方的に怒っているようだった。
五木くんは困惑した顔で司くんの様子を伺ってオロオロとしている。
[剣崎 芽衣]
「ちょっとやばいじゃん、どうしちゃったんだろ……」
周りで練習していた人達もみんな司くんと五木くんのほうを見ている。
[朝蔵 大空]
「ごめんなさい芽衣様、私ちょっと行って来て良いんですか?」
[剣崎 芽衣]
「う、うん!」
私は芽衣様に断ってすぐに司くんの元に駆け寄った。
[朝蔵 大空]
「司くーん!」
司くんの顔を見ると、怒りに震えたような表情をしていた。
こ、こんな司くん初めて見たかも……。
[巣桜 司]
「あ……大空さん」
[刹那 五木]
「お、おれ、巣桜くんに二人三脚の練習一緒にしようって誘っただけなんだけど……」
五木くんは司くんとペアだし、それ自体は何もおかしいことじゃないよね?
なのに、どうして司くんはさっきあんな大きな声を??
[朝蔵 大空]
「司くん、どうした……?」
[巣桜 司]
「……」
司くんが黙ったまま何も話さない、きっとここじゃ言えないことなんだ。
[朝蔵 大空]
「あの、落ち着いたら後でお話聞かせて、良い?」
[巣桜 司]
「分かりました……」
それから午後の授業を終え、私と司くんは下校を共にした。
途中で家の近くの公園に立ち寄り、自販機でジュースを買って司くんと話す。
[朝蔵 大空]
「司くんは、五木くんと二人三脚嫌だったの?」
決まった時、余り物ペアで組まされてたし、それが司くんには大きな不満になってるのかな?
[巣桜 司]
「正直。 なんであの人と、って思います。 狂沢くんだって卯月くんのところに行っちゃった、し……」
[朝蔵 大空]
「え?」
[巣桜 司]
「ぼく、言ったのに、なのにあの人……ぼくから、最近狂沢くんのこと取ろうとして」
[朝蔵 大空]
「ちょ、ちょっと待って!」
司くんからどんどん暗黒オーラが出てくるので、私は一旦司くんを止めた。
[巣桜 司]
「はっ……! ご、ごめんなさい」
[朝蔵 大空]
「狂沢くんに他の友達が出来るの、嫌?」
[巣桜 司]
「……」
司くんが静かに頷いた。
そ、そうなんだ……嫌なんだ、へぇ。
[朝蔵 大空]
「それってアレ? 友達間で生まれる、ヤキモチ的な?」
[巣桜 司]
「今めちゃくちゃ刹那くんのこと殺したいです」
怖!
[朝蔵 大空]
「司くんそれ言っちゃダメなやつ!!」
[巣桜 司]
「だって! あの人、ぼくと狂沢くんで話してるところ無理やり割って入って来るし、今日なんかお昼ご飯食べる時にも……」
[朝蔵 大空]
「あー……」
[巣桜 司]
「狂沢くんお肉食べられないのに、迷惑だって言ってるのに、あの人『ハンバーグ半分こ〜♪』とかつまらないこと言って狂沢くんに『あーん』とかやりだして…………狂沢くんはぼくが作った大豆ハンバーグだけ食べてれば良いんですよ」
それは五木くんもちょっと悪い、のかな?
[巣桜 司]
「急に『狂沢くん一緒にトイレ行こうよー』とか言って狂沢くんのこと連れてっちゃうし…………トイレで一体狂沢くんに何をしてるんですか……!」
あ、やばい、司くんが指先を噛みだした。
[巣桜 司]
「あの人はただ、誰かをおもちゃにして楽しんで、面白がって、いじめたいだけでしょっ……!」
[朝蔵 大空]
「司くん! 司くん! あんま強く噛まないほうがいいよ!」
[巣桜 司]
「あーもうムカつくムカつく!」
司くんが近くにあった、オレンジ色のタイヤの遊具を蹴りまくる。
[巣桜 司]
「っ……い、痛い〜」
夢中で蹴りすぎたせいか、司くんは脛を押えてその場に倒れ込んだ。
[朝蔵 大空]
「大丈夫……?」
まさか司くんにこんな一面があったなんて……。
つづく……。