第4話「秋桜」後編
[朝蔵 大空]
「うーん、ちょっと涼しくなってきたかな?」
寒いまでいかないけど、10月近くになって残暑が終わったのか、風が少し冷たいと感じるようになった気がする。
[永瀬 里沙]
「大空おはよー!」
[朝蔵 大空]
「おはよ!」
朝から元気な里沙ちゃんが私の横を走って通り過ぎて行く。
[永瀬 里沙]
「私今日、日直だったから急ぐねー!!」
[朝蔵 大空]
「うんー!」
今日は確か1時間目に合宿の班決めとか色々やるって言ってたよね。
ひゃー、ついに始まるのかぁ。
10月はまさにスポーツの秋、運動マンスリー。
[朝蔵 大空]
「……よいしょっと」
私は下駄箱で靴を履き替えていた。
その時だった……。
[朝蔵 大空]
「あ、胸元のボタン取れてる……」
私はブラウスのボタンが1つ外れていることに気が付いて直す。
[花澤 岬]
「おはよう!」
[朝蔵 大空]
「うひゃっ?!」
横からいきなり声が聞こえてきて、振り向くと花澤先輩だった。
[花澤 岬]
「……?」
[朝蔵 大空]
「お、おはようございますっ……」
先輩だと頭で認知した瞬間、私の心臓がバクバクと動き出した。
な、なんで私はこんな花澤先輩に対してドキドキしちゃってるわけ?!
[花澤 岬]
「家で復習するとか言ってたけど、復習してきた?」
[朝蔵 大空]
「復習……」
復習って、なんのことだっけ。
[花澤 岬]
「してないの?」
[朝蔵 大空]
「あ……したんですけど」
[花澤 岬]
「……けど?」
ああそっか、地理のテスト……あれ結局家帰っても理解出来なくてほとんど放置してるんだよね。
[花澤 岬]
「……?」
花澤先輩が私の顔を軽く覗き込んでくる。
[朝蔵 大空]
「うっ……///」
鏡を見なくても今私の顔面が沸騰しているのが分かる。
なんでなんで、私は卯月くんしか興味無いはずなのに……!
[花澤 岬]
「おいお前、顔赤いぞ。 熱でもありそうだけど」
[朝蔵 大空]
「き、気にしないで下さい、大丈夫です」
花澤先輩に対するこの気持ちは何?
[花澤 岬]
「まあいいや。 あの、今度の合宿のことなんだけど……」
[朝蔵 大空]
「え?」
次の瞬間。
[狂沢 蛯斗]
「花澤せんぱーーーーい!!!!!」
[朝蔵 大空]
「えっ……」
狂沢くんが《《でっかい》》声出しながらこちらに駆けて来た。
[花澤 岬]
「うおっ……」
[狂沢 蛯斗]
「花澤先輩! おはようございます!! 今日もカッコ良いですー!」
[花澤 岬]
「うん……」
急になんなの狂沢くん、花澤先輩めっちゃ引いちゃってるけど大丈夫?
[花澤 岬]
「じゃ……」
あ、花澤先輩が苦笑いしながら早足でどこかへ行ってしまった……。
[朝蔵 大空]
「く、狂沢くん?」
狂沢くんの目がランランと輝いている。
[狂沢 蛯斗]
「あ、大空さん居たんですか」
[朝蔵 大空]
「今の……なに」
[狂沢 蛯斗]
「花澤先輩は……ボクの憧れの人なんです」
花澤先輩、最後何か言おうとしてたけど、なんだったんだろ?
……。
[古道 大悟]
「岬おはよー!」
教室に入って来た花澤を古道が笑顔で迎える。
[花澤 岬]
「おはよーう……」
[古道 大悟]
「あれっ、岬なんか疲れてる?」
[花澤 岬]
「はぁ。 別に、なんでもない」
花澤はそう言いながら机の中から本を取り出し、読書を始める。
[古道 大悟]
「ねぇねぇねぇ、最近あの子と話してる??」
[花澤 岬]
「んあ?」
[古道 大悟]
「朝蔵ちゃん! 岬が最近気にしてる女の子〜!」
[花澤 岬]
「は?」
[3年男子A]
「えーなになに! 花澤に好きな女出来たの?」
古道の発言により周りの猿のような男子達が、キャッキャと寄って来る。
[3年男子B]
「古道、マジ?」
[古道 大悟]
「マジマジ! 岬ってば、あの子のこと見つけると目で追ってるもん」
[花澤 岬]
「おい、勝手なこと言うんじゃない」
[古道 大悟]
「えー、ホントのことじゃ〜ん♪」
[3年男子C]
「うわ〜、花澤もついに卒業かぁ!」
[花澤 岬]
「卒業って……俺達皆んな今年で卒業だろ」
そう言うと花澤は再び本のほうに目線を戻す。
[3年男子C]
「うわ! 意味分かってないのやば!!」
[3年男子B]
「本物だ!」
[3年男子A]
「天然ものだぁー!!」
[古道 大悟]
「……!」
少し離れたところから、自分達のほうを見つめる視線に古道が気が付く。
[丸眼鏡の女子]
「あっ……」
[古道 大悟]
「……?」
[丸眼鏡の女子]
「……」
丸眼鏡の女子は急いで視線を逸らす。
[古道 大悟]
(うーんと、あれは確か白井櫻子……だったかな。 あの子絶対、岬のこと好きだよな)
……。
[二階堂先生]
「これから来月の合宿に向けての班決めを行う、お前ら! 体育館へ移動だー!」
私達は次々と席から立ち上がり、体育館シューズを持って体育館へと移動する。
ざわざわ……ざわざわ……。
体育館には先に3年生らが集まっていた。
後から入って来た私達に視線が送られる。
[2年男子A]
「……」
[3年男子B]
「……」
いつもはうるさい男子達が、先輩達の前ではちょっとだけ静か。
[朝蔵 大空]
「毎年恒例の肝試しは……?」
[永瀬 里沙]
「肝試しは当日決めらしいよ」
[朝蔵 大空]
「へぇ、当日まで分からないんだ……」
肝試し、嫌すぎる。
私を置いてひとり先に行っちゃうような人じゃないなら、もう誰でもいいけど。
[永瀬 里沙]
「委員長〜、うちら何すれば良いのー?」
[文島 秋]
「うん。 今年はね、学年対抗で二人三脚をやるよ。 まずはその二人一組を決めることだね」
[二階堂先生]
「あっ、まあ出来ればで良いけどー、違うクラスの奴と組んでくれー」
二人三脚って運動会みたいだな……。
[文島 秋]
「ふむ、違うクラスの人か……」
[木之本 夏樹]
「うーむ」
文島くんと木之本くんがふたりして周りを見渡している。
[嫉束 界魔]
「ね! 文島くん、もし良かったら」
[文島 秋]
「ん、組む?」
[嫉束 界魔]
「うん!」
嫉束と文島で組になりその場に一緒に座る。
[巣桜 司]
「はわわ……」
躊躇いの表情で狂沢のことを見つめる巣桜。
[刹那 五木]
「狂沢くーん! やろー!!」
[巣桜 司]
「ちょっ……」
巣桜が狂沢に話し掛けようとする前に、刹那がこの場にやって来る。
[狂沢 蛯斗]
「え、刹那くんとは嫌です、暑苦しいし。 しかもなんでボクなんですか、貴方他にもお友達いっぱいいるでしょう」
[刹那 五木]
「だって、君とやったらめっちゃ楽しそうなんだもーん!」
華奢な狂沢と筋肉質な刹那では体格差があまりにも違いすぎる。
刹那にとってはそれが『面白い』らしい。
[巣桜 司]
「ちょ、ちょっと待って下さーい!」
巣桜が狂沢と刹那の間に割って入る。
[刹那 五木]
「おお、どうしたの巣桜くん?」
[巣桜 司]
「ぼ、ボクには狂沢くんしかいないんです! だから……勘弁して下さーい!」
涙目になってしまう巣桜。
[刹那 五木]
「そっかー、巣桜くんと狂沢くんはニコイチだもんねー。 でもさー、ここはせっかくならたまには違う人と……」
[巣桜 司]
「ボクは狂沢くんじゃないとダメなんですぅー……!!」
巣桜がイヤイヤと言う態度を見せる。
[刹那 五木]
「じゃ、じゃあジャンケンで決めようよ! あっち向いてホイでもいいよ!!」
それを宥めようとする刹那。
[狂沢 蛯斗]
「そこ! 何勝手にボクを景品にして争おうとしてるんですか!! もう付き合ってられません!」
狂沢が卯月の元へと走る。
[狂沢 蛯斗]
「君達ふたり面倒臭いのでボクは卯月くんと組みます。 卯月くん、組みましょう!」
[卯月 神]
「別に良いですよ」
狂沢と卯月が一緒になってその場に体育座りする。
[刹那 五木]
「あー、違うクラスで組むルールでしょ?」
[狂沢 蛯斗]
「" 出来れば " と言うことでしたので」
二人一組が決まったグループから順にその場に腰を下ろして座っていく。
[笹妬 吉鬼]
「……」
うんざりと言う表情でひとり立ち尽くす笹妬。
[嫉束 界魔]
「やーい吉鬼ぼっちー!」
[文島 秋]
「木之本はどうすんの?」
[木之本 夏樹]
「あ、じゃあ俺笹妬と組もうかな、身長近そうだし」
木之本くんがそう言いながら笹妬くんのほうに歩いて行った。
[笹妬 吉鬼]
「……うっす」
[木之本 夏樹]
「てか一緒じゃねぇ? 身長いくつ?」
[笹妬 吉鬼]
「178だよ」
[木之本 夏樹]
「うおー! 予想的中! やっぱ二人三脚は身長近い奴と組むのが1番だよなー!」
おお! なんか男子達のほう、上手いこと決まっててるね。
[永瀬 里沙]
「アン子ー! 組もうぜー!」
[杉崎 アンジェリカ]
「なっ……! アン子ってもしかして私のことか?!」
[永瀬 里沙]
「うん、アンジェリカだと長いから、アン子!!」
[杉崎 アンジェリカ]
「その『子』はどこから来たのだ!!」
あ、里沙ちゃんアンジェリカさんと組んだ。
[朝蔵 大空]
「はっ……!」
わ、私も早く組まないと晒し首に!
[剣崎 芽衣]
「朝蔵さん♪」
[朝蔵 大空]
「めめ、めめめ、芽衣様!!?」
なんと、私の元に芽衣様ほうからやって来た。
[剣崎 芽衣]
「まだ決まってないよね?」
[朝蔵 大空]
「はい!」
[剣崎 芽衣]
「じゃあ、私と……どうかな?」
私と芽衣様が二人三脚!!?
そんな恐れ多い……!
それに、もし転んで芽衣様に怪我でもさせたら私……大バッシングを受けることになる!
[朝蔵 大空]
「はわわわ……」
[剣崎 芽衣]
「ダメ? かな……」
[朝蔵 大空]
「ぜ、全然ダメじゃないです! むしろ、私で大丈夫ですか? 私、めちゃくちゃ足遅いですよ!?」
[剣崎 芽衣]
「ふふ、私気にしないよ。 楽しくやろ!」
そう言って芽衣様が座った後に私も釣られて素早く座る。
[二階堂先生]
「おい、残ったのは刹那と巣桜か? もうそこで組んじまえよー」
[刹那 五木]
「はい……」
[巣桜 司]
「は……? 刹那くんと……」
非常に不満そうな巣桜。
[刹那 五木]
「ほら巣桜くん、もう皆んな座ってるよー!」
[巣桜 司]
「ブツブツブツ……」
司くんが文句言いながら座った……そんなに五木くんが嫌……狂沢くんとが良かったんだね!
[文島 秋]
「今度は当日一緒に行動する5人から6人のグループを決めるみたいだね」
[二階堂先生]
「そうだなぁ、3年と2年半々で組めるのが理想かな」
[永瀬 里沙]
「私は……」
[3年水泳部女子A]
「おーい永瀬ー!」
里沙ちゃんが先輩に呼ばれて行ってしまった。
[朝蔵 大空]
「はぁ……」
最悪だ、私は里沙ちゃんが居ないと誰のところにも入っていけない。
私はもう……余ったところで組めば良いっかな。
と言う風に諦めて、自発的に動くことなく突っ立っていた時だった。
[古道 大悟]
「朝蔵ちゃーん♪」
[朝蔵 大空]
「あっ、古道先輩」
[古道 大悟]
「オレらと組も!」
まさか誰かから声を掛けてもらえるなんて。
あ、でも……。
[古道 大悟]
「んー?」
[花澤 岬]
「……」
だよね、花澤先輩と古道先輩仲良さそうだったもん、このふたりは一緒に組んでるよね。
[朝蔵 大空]
「えと私……」
なんか最初の頃よりは慣れたけど、花澤先輩の前では緊張しちゃう私がまだ居る。
話すのが元々得意じゃない私でも、この人に対しては更に口下手になる……。
[花澤 岬]
「大丈夫か?」
[朝蔵 大空]
「あ、ううん! ありがとうございます、拾って頂いて……」
[古道 大悟]
「あはは! 何その言い方、朝蔵ちゃん面白ーい!」
なんかウケられた……。
それにしても、花澤先輩も古道先輩も、最近よく私のこと目を掛けてくれてるなぁ。
親切心、として受け取って良いんだよね?
[巣桜 司]
「あ、あ! 大空さん!」
[狂沢 蛯斗]
「ボク達もそこのグループ入れて下さーい!」
あ、今度はこのふたりセットで来たのか。
五木くんは多分部活メンバーで組んだんだろうな。
[古道 大悟]
「……お友達?」
[朝蔵 大空]
「あ、はいそうですね。 クラスメイトです」
まあこのふたりが私に着いて来ることはなんとなく予想はしてた……。
[古道 大悟]
「ふーん、なんかどっちも可愛いね君達」
古道先輩の言う通り、狂沢くんはちっちゃくて可愛いし、司くんは女の子みたいな顔してるもんなぁ。
[狂沢 蛯斗]
「ボク達のことですか?」
[巣桜 司]
「ふえぇ……」
司くんが狂沢くんの後ろに隠れる。
[花澤 岬]
「お、お前は……」
[狂沢 蛯斗]
「狂沢蛯斗です! 覚えて下さい、花澤先輩!」
そう言えば花澤先輩は狂沢くんの憧れの人なんだっけ?
林間合宿、不安だけど案外楽しくなりそう? かな!!
おわり……。