第3話「クッキー☆」後編
土屋先輩、今なんて言ったの?
[朝蔵 大空]
「え、なに」
[土屋 遊戯]
「聞こえなかったの? スカート脱げって言ったんだよ」
こ、この人何を言ってるの?
スカート脱げって……いやらしいこと要求されてるよね私!
[朝蔵 大空]
「い、嫌です」
[土屋 遊戯]
「ざんねーん! 一般生徒がぼくに逆らうことは、校則で禁止されてるのです♪」
そう言って土屋先輩はその場でターンを決める。
[朝蔵 大空]
「そんな校則聞いた事無いですっ!!」
学校規則の手帳なんて真面目に読んだこと無いけど、絶対『一般生徒は土屋遊戯に逆らってはならない』なんて、書いてない!!
[土屋 遊戯]
「何? 恥ずかしいの? あのさぁ、何勘違いしてんのか知らないけど、君にエッチな要素とかなんにも感じてないから」
[朝蔵 大空]
「へ?」
[土屋 遊戯]
「ほら早く、スカート脱げ」
[朝蔵 大空]
「だから嫌です!!」
土屋先輩自体は校内でも有名な人物だけど……なんで今日初めて話した"男"の人の前で、スカート脱がないといけないの!?
[土屋 遊戯]
「まーあ脱いだらこのブランケット被ってー、ぼくあっち向いててあげるから」
[朝蔵 大空]
「拒否権無し?!」
[土屋 遊戯]
「はいっ」
土屋先輩はふわふわとした手触りの布を私に無理やり押し付けてくる。
[朝蔵 大空]
「私の話聞いてくれます!?」
[土屋 遊戯]
「〜♪」
土屋先輩は向こうを見たまま棚から箱のようなものを取り出して、何かの準備を始めた。
[朝蔵 大空]
「ぬ、脱ぎますよ? 脱ぎますからね。 私、嫌って言いましたからね……」
私は涙目になりながらスカートを脱ぎ、貰ったブランケットで身を隠す。
[土屋 遊戯]
「脱げた? 貸して」
数秒経ったのち、土屋先輩が私に手を差し出してくる。
[朝蔵 大空]
「な、何するつもりなんですか」
[土屋 遊戯]
「すぐ終わるから待っててー」
土屋先輩が私の手からスカートを引っ張り取る。
[朝蔵 大空]
「ああ!」
数分後……。
[朝蔵 大空]
「土屋先輩! 私のスカート返して下さい!!」
[土屋 遊戯]
「んもぉ、手元が狂うから静かにしてよ! ……あ、そこにある紅茶飲んでいいよー」
[朝蔵 大空]
「は?」
テーブルを見ると、グラスに氷とアイスティーが容れてある。
暑い季節にこの飲み物は凄く美味しそうだけど……。
[土屋 遊戯]
「それ飲んで少し落ち着きなぁー」
[朝蔵 大空]
「な……」
何か入れられてそう! 例えば睡眠薬とか!!
[朝蔵 大空]
「結構です……」
[土屋 遊戯]
「よし終わった」
[朝蔵 大空]
「…………何が終わったんですか?」
土屋先輩がこっちに駆け寄って来たかと思えば、私のスカートを広げて見せる。
[朝蔵 大空]
「ん? あれっ」
朝から取れ掛かっていたまま放置していたボタンが綺麗に直されている。
[朝蔵 大空]
「もしかして、土屋先輩が直してくれたんですか?」
[土屋 遊戯]
「うん!」
どう言う事? 訳が分からない。
て言うかこの人、この形で裁縫とか出来るんだ……意外。
お坊ちゃんだから、身の回りのことは全部メイドやら召使いにやらしてるから、本人は甘えてなんにも出来ないとか思ってた。
[朝蔵 大空]
「あ、ありがとうございます」
一応、有り難いことをしてもらった自覚はあるからお礼を言う。
[土屋 遊戯]
「もう着て良いからね」
[朝蔵 大空]
「え? は、はい」
……。
[朝蔵 大空]
「ありがとうございました……じゃ、私はこれで」
そう言って私は土屋先輩に向けて頭を下げた。
[土屋 遊戯]
「ねっ、この後暇?」
[朝蔵 大空]
「え?」
この後家帰ったら即行漫画読むって言う予定はあるけど……。
[朝蔵 大空]
「えと……暇では」
[土屋 遊戯]
「暇でしょ」
[朝蔵 大空]
「暇……かもしれませんね」
暇と認めるしかない。
[土屋 遊戯]
「じゃっ、ぼくと遊びに行こっ♡」
[朝蔵 大空]
「え、私が貴方と……?」
なんで急に!?
[土屋 遊戯]
「どこに行きたい?」
私が今行きたい場所は自分の部屋のベッドの上だけど……。
[朝蔵 大空]
「ちょちょ、ちょっと待って下さい。 貴方と私、今日初めて喋りましたよね? 距離の詰め方が、異常ではありませんか?」
[土屋 遊戯]
「ん〜?」
この感じ、この押しの強さ、なんだか狂沢くんと嫉束くんに似てるなぁと、この時私は思ってしまった。
もしかして私、変な人に目を付けられた!?
って、気付くのが遅いよ私!!
早く逃げなきゃ!!!
[朝蔵 大空]
「ごめんなさい、また今度……」
[土屋 遊戯]
「え〜、なんでー?」
[朝蔵 大空]
「なんでって言われても……私と土屋先輩、友達でもなんでもないですよね……?」
[土屋 遊戯]
「むっ……ぼくの前でスカート脱いだくせに」
[朝蔵 大空]
「はい?」
なんでそこでさっきまでの出来事を話に出してくる?
[土屋 遊戯]
「スカート直してあげたじゃん!」
[朝蔵 大空]
「そ、それとこれとは話は別……」
[土屋 遊戯]
「とにかく決定なの! 恩を仇で返しちゃダメなの! いいから一緒に遊んでよー!」
[朝蔵 大空]
「ななな!?」
なんて恩着せがましいの……!?
[朝蔵 大空]
「すみません! ほんとに無理です!」
この人、怖い。
[土屋 遊戯]
「まあいいや」
[朝蔵 大空]
「……! ほっ……」
やっと諦めてくれた、そう胸を撫で下ろした時……。
カチャり。
[朝蔵 大空]
「……?」
今、何が起きているのだろうか。
[土屋 遊戯]
「じゃ、行こっか♪」
[朝蔵 大空]
「は、外して下さい! なんなんですかこれ!」
私の首に、なんと首輪と鎖のリールが繋がられた。
その主導権は土屋先輩が握っている。
[土屋 遊戯]
「ぼくの行きたい所でいいよねっ!」
[朝蔵 大空]
「ちょ、は……?」
そのまま歩き出す土屋先輩に、私は着いて行くしかなかった。
……。
[土屋 遊戯]
「〜♪」
[朝蔵 大空]
「……」
ざわざわ……ざわざわ……。
[通行人A]
「おいなんだあれ……」
[通行人B]
「小さい男の子がJK首輪で繋いでるぞ……」
[通行人C]
「どう言うプレイなの……?」
[通行人D]
「事案よ、あの女の子がショタコンのドMで……ブツブツ」
なんなの土屋先輩、自分はこんな大勢に見られて、微塵も恥ずかしくないの!?
[朝蔵 大空]
「は、恥ずかしい……」
私はこんなに恥ずかしいのに!!
[土屋 遊戯]
「もうすぐ着くから良い子にしててねー」
[朝蔵 大空]
「あ、あの! もう逃げようとしませんから、これとりあえず早く外して下さい!」
[土屋 遊戯]
「ほんと!? 一緒に遊んでくれる?」
[朝蔵 大空]
「遊びます! 遊びます! だから外して下さーい!」
早くこの莫大な視線の数から逃れたい。
いつの間にか、街中に連れて来られてるし……。
[土屋 遊戯]
「そう言えば君、名前は? なんて言うの?」
首輪を外してくれた土屋先輩は、次にそんな事を聞いてきた。
[朝蔵 大空]
「朝蔵大空ですけど……」
[土屋 遊戯]
「朝蔵大空……? ありきたりな名前〜」
土屋先輩は馬鹿にするように笑ってくる。
[朝蔵 大空]
「失礼では?」
[土屋 遊戯]
「あ! そうだ! 調理実習でクッキー作ってたから……クッキー! 君のあだ名!」
[朝蔵 大空]
「やめて下さい、私はワンちゃんじゃないんですよ……」
頭がお気楽な飼い主がペットに付けるやつじゃん……。
[土屋 遊戯]
「じゃあ紅茶クッキー!!」
[朝蔵 大空]
「付け足さないで下さい……」
[土屋 遊戯]
「じゃあダージリン!! アールグレイ! ロイヤルミルクティー!」
[朝蔵 大空]
「連想しないで下さい……」
この人馬鹿なの?
[土屋 遊戯]
「ダーリン!!」
[朝蔵 大空]
「ダーリン!!?」
ダダダ、ダーリンですって?!
[土屋 遊戯]
「ダージリンから『ジ』を取ってダーリン! 決定〜☆」
[朝蔵 大空]
「決定〜☆ じゃないですよ! なんですかダーリンって! 馬鹿なカップルが呼び合うやつじゃないですか!」
そもそも私のダーリンは、卯月くんなんですが!!
[朝蔵 大空]
「って、ここ……」
[土屋 遊戯]
「ゲーセンだけど、苦手だった?」
[朝蔵 大空]
「いえ……好きな方ではありますが……」
[土屋 遊戯]
「なら良かった! 遊ぼ♪」
そう言って土屋先輩は私の手を取り、ゲーセンの中へと走り出す。
[朝蔵 大空]
「あ、ちょっと///」
卯月くん以外の男の子の手が、手の温もりが私の手にっ……!!
[土屋 遊戯]
「どこから行く? ここならなんでも揃ってるよ♡」
[朝蔵 大空]
「…………!」
私はゲームセンターの中にあるもので、あるものに目を奪われた。
[朝蔵 大空]
「可愛い……」
最近ハマってる漫画の猫型のキャラクターのぬいぐるみがUFOキャッチャーにて吊るされていた。
私は自然とそちらに足が運ばれる。
[朝蔵 大空]
「私、この子のこと救いたい……」
[土屋 遊戯]
「これやりたいの?」
[朝蔵 大空]
「……やろうかな」
私はカバンから財布を取り出そうと、手を突っ込む。
今すぐ、このぬいぐるみちゃんをこの箱の中から救出せねば!!
チャリンっ。
[朝蔵 大空]
「……へ?」
[土屋 遊戯]
「はいどうぞ」
私がお金を入れるより先に、土屋先輩がお金を入れていた。
[朝蔵 大空]
「つ、土屋先輩もやるんですか?」
[土屋 遊戯]
「ダーリンがやりたいんじゃないの?」
[朝蔵 大空]
「え、だって私のお金じゃない……」
土屋先輩がお金を入れちゃったら、土屋先輩がやるしかないじゃん。
私がやる訳にもいかないじゃん……?
[土屋 遊戯]
「お金? あー気にしなくていいよ、ぼくお金いっぱい持ってきてあるし、好きなだけ遊んで♪」
[朝蔵 大空]
「え、でも」
[土屋 遊戯]
「早く早く」
『早く早く』って言われると、早くしないといけない気持ちになる。
[朝蔵 大空]
「じゃ、じゃあ1回だけ……」
1回目のプレイ、見事にかすりもしなかった。
[朝蔵 大空]
「あぁ、取れませんでした……」
[土屋 遊戯]
「ダーリン、下手くそだね♡」
別に上手いつもりはなかったけど……。
[土屋 遊戯]
「ぼく得意だよ、取ってあげよっか?」
[朝蔵 大空]
「え、良いんですか? 私が欲しいやつなのに……」
[土屋 遊戯]
「うん」
そう言って、土屋先輩はまた機械にお金を入れる。
[朝蔵 大空]
「!?」
え、なんでこの人は他人のことでこんなにお金を使えるの?
家がお金持ちの人の感覚って、私分からない……。
ほんとに一体何を企んでいるのですか?
[朝蔵 大空]
「あ、あの!」
[土屋 遊戯]
「ダーリンは見てるだけでいいよ〜、なんならそっちで座ってても良いしー」
そうしているうちに、いとも簡単にぬいぐるみがアームに引っ掛かる。
[朝蔵 大空]
「え!」
取れちゃった……たった1回で。
[朝蔵 大空]
「凄い……プロ?」
[土屋 遊戯]
「はいダーリン、抱っこしてあげて♡」
私は取ってもらった猫のぬいぐるみを抱き抱える。
[朝蔵 大空]
「ありがとうございます……あの、お金返します」
[土屋 遊戯]
「え? だからお金とか気にしなくて良いって! ほら、次何すんの?」
[朝蔵 大空]
「え〜〜〜!!?」
その後の出来事、土屋先輩が私がやりたいと言ったゲーム全額出してくれた。
『私が出します』と言っても、土屋先輩はいつの間にかお金を出していて、私はゲームをプレイするしかない状況にされていた。
私は後日、お金を返そうと決意した。
……。
[土屋 遊戯]
「楽しかったね!」
[朝蔵 大空]
「はい……」
私は今日の戦利品が入っている大袋を両手に持つ。
[土屋 遊戯]
「うん♡ これからはぼくのダーリンとして、たくさんいーっぱい可愛がってあげるから、一緒に遊んでよねっ。 じゃーねー!」
[朝蔵 大空]
「あっ、土屋先輩!?」
次第に土屋先輩の姿が見えなくなった。
[朝蔵 大空]
「え…………」
ほ、ほんとにただ、一緒に遊びたかっただけ?
「クッキー☆」おわり……。