第2話「いっけなーい!遅刻、遅刻〜!」後編
[二階堂先生]
「んじゃ、ばいなら☆」
ざわざわざわ……。
[朝蔵 大空]
「卯月くん、今日バイトだったけ?」
[卯月 神]
「はい、そうですよ」
[木之本 夏樹]
「おいっ!!」
[大空&卯月]
「……っ!!?」
帰りのホームルーム後すぐ、皆んなが部活に行く準備やら帰宅の雰囲気でいる時だった。
木之本くんが私達の元まで駆けて来たと思ったら、いきなりの大声。
なになに、怖い!
[木之本 夏樹]
「俺はもう我慢出来ねぇ! お前らさぁ! いい加減に付き合ってるって言えよ!」
木之本くんのせいでクラス中の注目が私と卯月くんに集まる。
[朝蔵 大空]
「木之本くん! あの……ちょっと」
わ、私は一体なんて言えば……?
[卯月 神]
「ゴクリ……」
そばに居る卯月くんも焦っている表情を見せている。
[文島 秋]
「さぁて、どうなるかな」
突然の事に、私は目を泳がせながら戸惑っていた。
[男子A]
「おっ! んじゃ手始めにお前らふたり、キスしてみろよー!」
クラスの男子達も横から面白おかしく茶化してくる。
[木之本 夏樹]
「なっ!?」
顔を真っ赤にする木之本くん。
な……なんで貴方が顔を赤くするの?
き、き、き、キスって!!
ここで……!?
[卯月 神]
「……」
卯月くんはなにも言わないし、ここは私がなんとかこの場を収めないと!
[朝蔵 大空]
「わ、私ちょっと御手洗に……」
[卯月 神]
「はぁ……」
横からバカデカい溜め息が聞こえた。
[朝蔵 大空]
「……?」
[卯月 神]
「言いますけど。 僕らの仲に、貴方が何か関係ありますか?」
えっ!?
卯月くん、めちゃくちゃはっきり言うじゃーん。
[文島 秋]
「おぉ」
[木之本 夏樹]
「そ、それは……」
返せる言葉が無い様子の木之本くん。
私も釣られて口を閉じてしまう。
[卯月 神]
「……?」
[木之本 夏樹]
「お、お前らが認めてくれないと、こっちだって……」
[朝蔵 大空]
「……?」
木之本くん、何が言いたいんだろ?
[卯月 神]
「……帰ります」
[文島 秋]
「……」
あっ、卯月くん出て行っちゃった。
[木之本 夏樹]
「ごめん」
木之本くんが私に謝ってくれる。
[朝蔵 大空]
「えと……大丈夫」
私と木之本くんの間に気まずい空気が流れ、私も沈黙していた。
[永瀬 里沙]
「おいおい暗い暗い!」
[朝蔵 大空]
「あっ、里沙ちゃん」
里沙ちゃんが私の肩に手を置いて、木之本くんの方に視線を向ける。
[木之本 夏樹]
「な、なんだよ」
[永瀬 里沙]
「あんたさー、まだ諦めてなかったの?」
[木之本 夏樹]
「な、何がだよ」
木之本くんは額に汗をかいて狼狽える。
[文島 秋]
「とぼけんなって木之本!」
文島くんが少し離れた席から声をあげる。
[木之本 夏樹]
「ん、んだてめぇ」
[文島 秋]
「ねぇねぇ」
真剣な顔で文島くんが私の所まで歩いて来る。
[朝蔵 大空]
「なぁに?」
[文島 秋]
「朝蔵ちゃんもさ、ほんとは不満に思ってんでしょ?」
[朝蔵 大空]
「……卯月くんの事?」
[文島 秋]
「木之本もこんな感じだしさ……」
[木之本 夏樹]
「あん?」
木之本くんが文島くんを威嚇して睨みつける。
[文島 秋]
「ふたりって…………朝蔵ちゃんは、彼と付き合ってて大丈夫なの?」
[朝蔵 大空]
「それはっ」
どうしよ、文島くんに直接聞かれた。
文島くんってなんだろう、特有の圧があるから。
私、本当の事話してしまいそう……。
[永瀬 里沙]
「ちょっとちょっとー、文島くんまでやめなってー」
里沙ちゃんが私と文島くんの間に割って入る。
[朝蔵 大空]
「里沙ちゃんっ……」
[文島 秋]
「……」
[永瀬 里沙]
「ふたりにはふたりのペースがあるの。 ね? 大空」
[朝蔵 大空]
「う、うん」
悔しいけど、文島くんの言う通りだ。
私が卯月くんに思ってる不満。
それは──。
……。
[朝蔵 千夜]
「アイス食べよ〜」
パタパタと足を鳴らしながら、お兄ちゃんが冷凍庫に駆け寄る。
[朝蔵 千夜]
「あれっ? 無い!」
[朝蔵 大空]
「どうしたの?」
私はソファからお兄ちゃんの様子を伺う。
真昼はテレビを見ている。
[朝蔵 千夜]
「アイスが無い!」
[朝蔵 大空]
「そ、そう……」
[朝蔵 千夜]
「真昼食べたでしょ!!」
お兄ちゃんがテレビの前に立ち、真昼の邪魔をする。
[朝蔵 真昼]
「食べてねぇわ、退け」
[朝蔵 千夜]
「んもー! 食べたかったのにー!!」
そう言えばさっきミギヒロが……。
いや、これは言わないでおこう。
面倒臭くなりそうだし。
[朝蔵 真昼]
「散歩行って来る」
真昼がテレビを電源を消し、ソファから立ち上がる。
[朝蔵 大空]
「じゃあ私も行こうかな」
運動不足だし、"合宿"の為に今から体力つけておかなきゃ……。
[朝蔵 千夜]
「あー!待ってぇー!お兄ちゃんも行く〜」
私達は外に出る用意をし、夜の散歩へと出掛ける。
[朝蔵 千夜]
「合宿かぁ、懐かしいなぁ」
お兄ちゃんも土屋校の卒業生、こう言う時に話が合うのだ。
[朝蔵 大空]
「うーん、でも面倒臭いよー」
[朝蔵 千夜]
「あの合宿ってさ、2年と3年が親交を深める為にあるみたいなもんで……」
[朝蔵 大空]
「ふーん、そうなんだ。 私、3年で知り合いひとりもいないよ」
私、3年生で名前分かるのはうちの生徒会長の音乃渚先輩しか知らない。
[朝蔵 千夜]
「だから、仲良くなる為にやるんだよ」
[朝蔵 大空]
「あ、そっか」
[朝蔵 千夜]
「うん、大空も歳が上の人と関わるの、慣れといた方が良いよ。 大人の魅力にハマっちゃえ〜♡」
お兄ちゃんが指でハートを作ってキメ顔をする。
[朝蔵 真昼]
「きも」
[朝蔵 大空]
「も〜! お兄ちゃん何言ってんのー」
私には卯月くんがいるっつーの。
て言うか卯月くん、そろそろ私達が付き合ってる事皆んなに言ってほしいな……。
って言っても、私も言うタイミングと勇気が無くて誰にも言ってないけど。
[朝蔵 千夜]
「あはは! そうそう! 間違っても、同い歳のあいつの事なんか好きにならないようにね……♪」
[朝蔵 大空]
「……?」
お兄ちゃん、あいつって誰の事言ってんだろ。
[朝蔵 大空]
「ん?」
橋を渡っている時だった。
川の方に見知った人影が見えた気がした。
[朝蔵 千夜]
「ん、大空?」
立ち止まる私にお兄ちゃんが声を掛けてくる。
[朝蔵 大空]
「あ、ごめん! さっき行ってていいよー」
[朝蔵 真昼]
「千兄〜、コンビニあるけど寄ってく?」
[朝蔵 千夜]
「あっ! 寄る、寄る〜」
コンビニ目掛けて先を進む真昼とお兄ちゃん。
私は川の方が気になって、下まで降りてみる事にした。
[朝蔵 大空]
「…………卯月くん!?」
[卯月 神]
「くしゅんっ」
う、卯月くんが川の中に入ってる。
[卯月 神]
「……あ、朝蔵さん?」
気付いた卯月くんがこちらに振り返る。
[朝蔵 大空]
「キャーー!!」
私は目の前の光景に悲鳴をあげた。
[朝蔵 大空]
「卯月くん! 前! 前隠して!!」
[卯月 神]
「ん? あ……」
な、なんで卯月くん、全裸で川なんかに入ってたの〜?
卯月くんおかしいよ!!!
[朝蔵 大空]
「卯月くん何やってんの!?」
[卯月 神]
「あ、えと、これは……て、天使の力を使わず人間の生活に慣れようと思ってました」
[朝蔵 大空]
「は?」
か、川に全裸で入る事が人間の生活??
何千年前の話をしてるの……?
[卯月 神]
「……」
卯月くん、何も着てないのに全然恥ずかしくなさそうだけど……。
[朝蔵 大空]
「と、とりあえず早く服着ようよ卯月くん!」
[卯月 神]
「わ、分かりました…………あっ」
自分の服を探している様子の卯月くん。
[卯月 神]
「服が無い……」
[朝蔵 大空]
「えっ!?」
大変!
きっと川に流されちゃったんだ!
このままじゃ卯月くん不審者だよ!
補導されちゃうよ〜!
[朝蔵 大空]
「ちょ、ちょっと私近くで服買ってくるからもっかい川入ってて!!」
[卯月 神]
「えっと……」
[朝蔵 大空]
「!?」
あれ、卯月くん服着てる?
いつの間に……?
[朝蔵 大空]
「あれ!? 服着てるじゃん」
[卯月 神]
「あぁ、魔法で」
[朝蔵 大空]
「最強か?」
[卯月 神]
「あ、また魔法を使ってしまった……」
何故かしょんぼりしている卯月くん。
[朝蔵 大空]
「もー、風邪ひかないようね? 次やってたら私、怒るよ!」
[卯月 神]
「す、すみません」
私は階段を上がり、また橋の上まで戻る。
卯月くんの裸……。
なんと言うか、特に言う事も無いようなものだったな。
[朝蔵 大空]
「あ、今日も"アレ"送るから!」
私は橋の上から卯月くんにそう声を掛けた。
こちらに振り向かないから、多分私の声は聞こえてない。
私は言い直す事はせず、お兄ちゃん達の後を追った。
……。
[加藤 右宏]
「今日から一緒に寝るのはやめるんダぞ」
[朝蔵 大空]
「じゃね」
と言って枕を持って私の部屋から出て行くミギヒロ。
私は机に向かって漫画を開く。
数十分後……。
[朝蔵 大空]
「ん?」
部屋のドアが開けられたかと思ったら。
[加藤 右宏]
「うーン……」
ドアの隙間からミギヒロが顔を出した。
[朝蔵 大空]
「あらミギヒロ、まだ起きてたの?」
[加藤 右宏]
「お前こソ」
[朝蔵 大空]
「で、何?」
早く漫画の続きが読みたい。
[加藤 右宏]
「ひとりジャ眠れないんだぞ」
[朝蔵 大空]
「……」
ミギヒロが勝手に私のベッドにダイブする。
[朝蔵 大空]
「……はぁ」
私は読んでいた漫画を閉じ、証明を消す。
私もベッドに入り、横になる。
[朝蔵 大空]
「……」
横で寝ているミギヒロに背を向け、ケータイを弄る。
私の卯月くんに対しての不満、それは……。
《《報告書》》。
今日あった事、一日の生活の流れ。
誰とどんな会話をしたか、相手はどんな人か、行動も何もかも。
……全部、卯月くんに報告しなくてはならない。
[朝蔵 大空]
「……よし、送信」
メールで卯月くんに報告文を送る、別にそれほど大変な訳じゃない。
だから特に拒絶もしてない。
言いたくない事は黙っとけば良いし。
報告書を送った後の卯月くんからの返信は送られてきた事は無い。
どうしてこんなものが必要なのか、卯月くんに聞いた事もある。
だけど彼は答えてくれない。
よく分からないけど、付き合うってこう言う事?
[加藤 右宏]
「ンー、眠いんだゾ……」
……これが普通なの?
周りのカップル、皆んなやってる事なの?
怖くて里沙ちゃんとかには相談もしてない。
なんとなく里沙ちゃんが卯月くんに怒りそうな感じがするから。
[加藤 右宏]
「ンンン、もう食べられないんだゾ……」
こうやってミギヒロが隣で寝てる事も卯月くんには言ってないし、絶対言わないつもり。
別に卯月くんに命令されてる訳ではないけど、なるべく卯月くんの前では、他の男の子と喋らないようにしてる。
それで卯月くんが安心するなら良いやって思ってるけど。
ねぇ卯月くん。
そんなに、不安?
終わり……。