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悲恋の大空  作者: 暴走機関車ここな丸
第3傷『新緑』
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第1話「進捗は夕方」後編

 灼熱の太陽の下、ミギヒロは屋根の上に腰を下ろしていた。



 ──(しり)を少し浮かせて。




[加藤 右宏]

 「アチぃ……」



[アリリオ]

 「あれ、王子。こんなとこで何してんの?」




 見掛けたアリリオが空から降りてきて、ミギヒロの隣に立つ。




[加藤 右宏]

 「あいつが彼氏と電話するからっテ、オレを追い出しやがったんだヨー」



[アリリオ]

 「ふーん、ブラブラだね」



[加藤 右宏]

 「それ言うなら"ラブラブ"なー」



[アリリオ]

 「あぁ、そうだったね」




 そう言いながらアリリオは、ミギヒロの頭上に日除けとなる日傘を掲げる。




[加藤 ミギヒロ]

 「ウーん」



[アリリオ]

 「でも良いの?あの天使、天使のくせして人間と一緒になるんでしょ?もうひとりの方は帰ったみたいだけど……」



[加藤 右宏]

 「アイツが良いならそれで良いンだろー」



[アリリオ]

 「えっ、だからそれだと今までの計画が……パーになるって事じゃない?」



[加藤 右宏]

 「エっ?」



[アリリオ]

 「パーだよ」




 アリリオは両手を文字通りパーの形にしてひとボケを披露(ひろう)する。




[加藤 右宏]

 「計画が、パァ!!?」




 くつろいでいたミギヒロは勢い良く腰を上げる。




[アリリオ]

 「うん……王子、魔界に戻って勉強しなきゃね」



[加藤 右宏]

 「なっ……そ、ソれは」



[アリリオ]

 「……?」



[加藤 右宏]

 「そんなのダメだー!ぐぬぬ……なんとかなれー!」




 その時、空に一瞬黒い光が走った。




[卯月 神]

 「じゃあ僕バイトなのでそろそろ切りますね」



[朝蔵 大空]

 「あ、うん!じゃあね!」



[卯月 神]

 「はい」






 ピッ。






 ……。




[朝蔵 大空]

 「海!?」



[朝蔵 葵]

 「ええ、そうよ」



[朝蔵 千夜]

 「超良いじゃん!」



[朝蔵 真昼]

 「また急だね」




 今は夏休み序盤お母さんが突然、『明後日海に行くわよ』と言い出した。




[朝蔵 葵]

 「そう、巣桜さんに『ご一緒にどうですかー』って誘われちゃってね♪」



[朝蔵 大空]

 「そうなの?」



 

 巣桜さんって、燕さん達の事だよね?



 それって司くんも来るって事なのかな?




[朝蔵 千夜]

 「巣桜さん?……って、誰?」




 千夜お兄ちゃんが横を向いて真昼に尋ねる。




[朝蔵 真昼]

 「うちの隣の家の人」



[朝蔵 千夜]

 「えっ、あれ空き家でしょ?」



[朝蔵 真昼]

 「引っ越して来たの」




 それに真昼はゲームをしながら簡潔に答える。




[朝蔵 大空]

 「海ってどこの海?」



[朝蔵 葵]

 「いつものとこよー」




 "いつものとこ"って……。



 お母さん、最後に家族で海行ったのいつだって思ってるんだろ?



 私も最後がいつだったか曖昧だけど。



 ……曖昧、だな。



 ……。




[巣桜 燕]

 「今日はよろしくお願いしますー」



[朝蔵 葵]

 「こちらこそよろしくお願いしまーす」




 海に行く日の朝、互いの母親達が挨拶を交わし合う。




[朝蔵 大空]

 「……司くんは……?」



 司くんも来ると思ってたのに姿が見えないんだけど……。




[巣桜 燕]

 「ほら司、挨拶!」



[朝蔵 大空]

 「……?」




 不思議に思っていると、燕さんの背後から何かが顔を出した。




[巣桜 司]

 「うぅ……」



[朝蔵 大空]

 「!?」




 司くんずっと燕さんの後ろに隠れてたのー!?



 気が付かなかった!!




[朝蔵 葵]

 「司くん、おはよ」



[巣桜 司]

 「こ……こんにちはぁ……」




 司くんはか細い声で言葉を返した。




[朝蔵 真昼]

 「ふん、相変わらずみたいだね」



[朝蔵 大空]

 「うん……」




 全くもう司くんったら、狂沢くんが横に居ないとほんとダメになるよね。



 司くんの性格上、仕方無いけどさぁ。




[朝蔵 千夜]

 「かっ……」



[巣桜 司]

 「ぅっ……?」




 私達と並んで立っていたお兄ちゃんが、一歩前に出る。




[朝蔵 千夜]

 「可愛い〜〜〜!!」



[巣桜 司]

 「ひきゃっ……!?」




 お兄ちゃんは腕を大きく広げて司くんに飛んで抱き着く。



 周囲にはピンク色のハートマークが見える。




[巣桜 燕]

 「まあ……」




 燕さんはその様子を見て口をポカンと開けて驚いている。

 



[巣桜 司]

 「なっ、何するんですかぁ!?」



[朝蔵 千夜]

 「君が司くんだねぇ?めっちゃくちゃ可愛いじゃん!今度僕に着せ替えさせてー!」




 着せ替え……?



 お兄ちゃんの言う着せ替えって、女の子向けのラブリー系の服だよね?



 司くんだったらまあ……似合うとは思うけど。




[巣桜 司]

 「む、無理……」




 まずい、司くんがお兄ちゃんの陽のオーラに吐きそうな顔をしている。




[朝蔵 葵]

 「あらぁ〜、目の保養だわ♡」




 お母さんはその様子を見て、それはそれは微笑ましそうに頬に手を置いて眺めている。




[朝蔵 真昼]

 「お姉ちゃん()めて」



[朝蔵 大空]

 「……」




 真昼に言われ、私はお兄ちゃん達の方へと歩き出す。




[朝蔵 大空]

 「お兄ちゃん、自重して」



[朝蔵 千夜]

 「おっとー、すまんすまん。司くん♡今日は仲良くしよーね〜」




 お兄ちゃんってやっぱり男の人が好きなのかな……?



 我が兄、そこは謎である。




[巣桜 司]

 「ひゅるひゅるひゅる……」




 お兄ちゃんが司くんからやっと離れると、司くんはその場で(しな)びて倒れた。



 さぁ皆んな車に飛び乗って出発だ。




[朝蔵 葵]

 「気持ち良いわね〜」



[朝蔵 真昼]

 「あっつい……」



[朝蔵 千夜]

 「きゃー、ナンパされちゃったらどうしよー、真昼!お兄ちゃんの事守ってね♡」




 お兄ちゃんが真昼に擦り寄ろうとする。




[朝蔵 真昼]

 「近付かないで、気持ち悪い。暑いし」



[朝蔵 千夜]

 「もー♡そんな事言ってるけど真昼も、水着のお姉さん達ばっか見ちゃダメだよ♪」




 擦り寄ってくるお兄ちゃんを早い動きで真昼は()け続ける。




[朝蔵 千夜]

 「真昼も健全な高校生男子♡なんだからさー、やっぱりちょっとそう言うのに期待してるんじゃなーいの?♪」



[朝蔵 真昼]

 「ふん、まさか。ぼくは里沙さんにしか興味無い」



[朝蔵 千夜]

 「えー、あの子まな板じゃん」






 ピキっ。






[朝蔵 真昼]

 「貴様……里沙さんを愚弄(ぐろう)する気か」



[朝蔵 千夜]

 「おっとっと、これはやばい雰囲気……」




 次の瞬間、お兄ちゃんと真昼は砂浜で追い掛けっこを始めた。



 真昼に里沙ちゃんの事を馬鹿にするような発言はNGだよお兄ちゃん……。



 思い出すなぁ、ちょっと前私も里沙ちゃんと喧嘩した時も……。



 大空の回想。




[朝蔵 大空]

 「まったくもーあのクソトリプルAカップ調子乗りやがってー!」



[朝蔵 真昼]

 「……」



[朝蔵 大空]

 「……!? ま、真昼?」



[朝蔵 真昼]

 「お姉ちゃん、里沙さんと喧嘩したんだって?」



[朝蔵 大空]

 「うん……」



[朝蔵 真昼]

 「里沙さんの事泣かせたら承知しないからね、どうせお姉ちゃんが悪いんだからさっさと謝ってよね、ぼく里沙さんの方が大事だから、お姉ちゃんの気持ちなんてどうでも良いから、だから里沙さんの悪口言わないで気分悪いんですけど?」



[朝蔵 大空]

 「……はい」




 大空の回想終わり。



 あの時は一晩(ひとばん)泣いたなー、もう気にしてないけど。




[巣桜 燕]

 「兄弟仲が良いんですね〜」



[朝蔵 葵]

 「うっふふ、イケメンいるかしら♡」



[巣桜 燕]

 「もー、葵さんったら♪ハンサムな旦那さんがいるでしょう?」



[朝蔵 葵]

 「ええ、それは♡ 主人は仕事人間だから、滅多に家に帰って来ないんですー」



[巣桜 燕]

 「あら、うちも一緒でーす♪」




 お母さんと燕さんは、話しながら海の方に歩いて行ってしまった。



 その時、パラソルの下で座っている司くんが目に入った。




[朝蔵 大空]

 「司くん?」



[巣桜 司]

 「あっ、大空そん……ん!」




 司くんは『大空さん』って言おうとしたのだろうが。




[朝蔵 大空]

 「なんで噛むの?」



[巣桜 司]

 「ご、ごめんなさい!緊張しちゃって……」



[朝蔵 大空]

「わ、私別に怒ってないから……」



[巣桜 司]

 「う、うゆーん……」




 そんなに申し訳無さそうな顔しなくて良いのに……。




[朝蔵 大空]

 「隣、良い?」



[巣桜 司]

 「あ、はい!どうぞ……」




 そう言いながら司くんは横に少しズレてくれる。



 司くんの許可を得て私は司くんの隣に座る。




[朝蔵 大空]

 「さっきはごめんね、うちの兄が」




 私がそう言うと、司くんはびっくりしたような顔を私に向ける。




[巣桜 司]

 「えっ!あの人お兄さんなんですか?」



[朝蔵 大空]

 「うん……ああ見えてね。ごめんね、お兄ちゃん距離感バグってて」



[巣桜 司]

 「あっ、大空さんが謝る事は無いです……こちらこそ、ごめんなさい!」




 な、なんで司くんが謝るんだろう?




[朝蔵 大空]

 「……」



[巣桜 司]

 「ど、どうしたんですか?」



[朝蔵 大空]

 「あ、ううん、なんでもないよ」



[巣桜 司]

 「あ……そうなんですね」



[朝蔵 大空]

 「……」




 やばいなー、司くんと会話が続かない。



 って、せっかく海に来たのにふたりで座ってるだけなんて勿体無いよね?




[巣桜 司]

 「……」



[朝蔵 大空]

 「じゃあ……泳ぎにでも行く?」



[巣桜 司]

 「えっ、泳ぐ?」



[朝蔵 大空]

 「あ、うん。海だし」



[巣桜 司]

 「さ、鮫」




 司くんの顔が青ざめる。




[朝蔵 大空]

 「さめ?」



[巣桜 司]

 「鮫です! 食べられちゃいますー!」




[朝蔵 大空]

 「あー……」




 司くん、鮫が怖いから海にも入らずひとりで座ってたんだ……。




[朝蔵 大空]

 「じゃあ私だけ行って来ようかな」



[巣桜 司]

 「えっ、大空さん行っちゃうんですか……?」



[朝蔵 大空]

 「こう……波に身を任せてプカプカーっと浮かんでくるの〜」




 私はまるで自分がクラゲになったかのように、腕を動かして踊る。




[巣桜 司]

 「ふひひっ、なんかワカメみたいですね!」




 ワカメ!?




[朝蔵 大空]

 「もー、イメージしたのはクラゲだよー!」



[巣桜 司]

 「えーーーーーーー!!!!!」




 そんな驚く?




[巣桜 司]

 「ごほごほごほっ」




 司くんったら驚きすぎて()せちゃってるじゃん……。



 いちいち疲れそうな動きをする子だなぁ。




[朝蔵 大空]

 「ワカメの真似も出来るよ〜」




 私は同じように腕と腰を使って精一杯ワカメの物真似をする。




[巣桜 司]

 「あ、あまり違いが……」



[朝蔵 大空]

 「よーし、準備体操も終わったと言う事で。私、泳いできます!」



[巣桜 司]

 「大空さん!?」




 司くんと喋っている間にも、私は早く海に入りたくてうずうずしていた。



 私は海を目掛けて体を走らせる。






 ザプーン……!!






[朝蔵 大空]

 「ひえ、飲んじゃったしょっぱい……」




 私は海で泳ぐと言うよりも、ただ波に身を任せて浮かんでいるのが好き!



 でもたまに海の水を飲んでしまう……。




[若い男A]

 「俺さっき小便したわ〜」



[若い男B]

 「お前やば!俺もだけどー」



[若い男A]

 「ギャハハ!!」




 最悪!!




[朝蔵 大空]

 「うぇ……」




 タチの悪い冗談だと願いたい。



 プールとかでもそうだけど、水に入っててバレないからって公共の場で"する"人ってどう言う神経してる訳?



 トイレ行けよ!



 まあ……。



 私もだけど!



 なーんちゃって!



 冗談です、冗談ですー。




[朝蔵 大空]

 「……!」




 神聖な海で馬鹿な事を考えていたのがバチが当たったのか。




[朝蔵 大空]

 「あ、足つった」




 私は足をつらせてしまい、海の中へとひっくり返る。






 バシャバシャ!






[朝蔵 大空]

 「オボボボボ」




 し、死ぬ……。



 他人のおしっこが0.1%混じった海で溺れ死ぬ!




[朝蔵 大空]

 「助けてー!(水中)」



[???]

 「……!」



[朝蔵 大空]

 「……!?(水中)」




 今、何か聞こえた?




[朝蔵 大空]

 「ぷはぁ……っ!」




 私の体が何者かに支えられ、私はなんとか酸素を確保する事が出来た。




[朝蔵 大空]

 「あ、ありがとうございます!」




 誰かに救われた事を察し、私はお礼の言葉を吐き出す。




[巣桜 司(?)]

 「あー、焦った焦った。司の奴、自分で行けないからって人遣い荒いんだよ」




 頭上で、"司くんの声"でボソボソと何か言っているのが聞こえる。




[朝蔵 大空]

 「司くん!?」



[巣桜 司(?)]

 「……?」




 溺れた私を助けてくれたのは、さっきまでの司くんとは違う、違和感のある司くん?だった。



 ど……どうして?






 「進捗は夕方」おわり……。

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