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悲恋の大空  作者: 暴走機関車ここな丸
第2傷『心青』
46/75

第10話「偏愛初心者」後編

[朝蔵 大空]

 「ダブルデートしよう!」




 私って案外影響されやすい人間なんだなぁ〜って思う。




[永瀬 里沙]

 「『ダブルデートしよう!』って言われても……」




 里沙ちゃんの次の言葉に間が空く、そして里沙ちゃんはめいいっぱい息を溜めて……。




[永瀬 里沙]

 「私今、彼氏居ないんだってばーー!!」




 空に向かって叫んだ。




[朝蔵 大空]

 「大丈夫!里沙ちゃん!」




 私は叫び散らかした後の里沙ちゃんに向かってグッドポーズをする。




[永瀬 里沙]

 「な、なんなのその手は……何が大丈夫なのよ?」



[朝蔵 大空]

 「私、見つけたの!里沙ちゃんに相応しい相手!」




 "あの子"ならきっと里沙ちゃんも、認めてくれるはず!




[永瀬 里沙]

 「私に相応しい相手?って、誰の事よ?」



[朝蔵 大空]

 「あのね、1年生の仁ノ岡塁くん!知ってる?」




 得意げに話してる私もつい最近まで知らなかったんだけどね。




[永瀬 里沙]

 「仁ノ岡塁くん……?はぁ、聞いた事無い名前ね」




 里沙ちゃんはカバンをガサゴソと漁りだす。




[朝蔵 大空]

 「ね!同じ学校なのになんであんなにカッコ良い男子がいるって気が付かなかったんだろー!?」




 あの顔面なら嫉束くんみたいにファンクラブのひとつやふたつあってもおかしくないのにね。



 あれ絶対1年トップでしょ!




[永瀬 里沙]

 「……?この学校のイケメンなら全員把握してるつもりだったけど……あれぇー?」




 里沙ちゃんはとてもとても分厚い、自作のイケメンノートを(ふところ)から取り出し、パラララララと(めく)りだす。




[朝蔵 大空]

 「中学の時から書き溜めてたよねー、それ」




 里沙ちゃんが持っている本には、過去のイケメンについての情報がたくさん書き記されている。




[永瀬 里沙]

 「あれれー、どこにも載ってないぞー」



[朝蔵 大空]

 「まあ聞くより見るのが早いよ!行こ行こっ!」



[永瀬 里沙]

 「あちょ、行くってどこよー?」




 昼休み、私達ふたりは急いで1年生の教室に向かった。




[永瀬 里沙]

 「その子1年って言ってたわよね?クラスはどこ?知ってんの?」



[朝蔵 大空]

 「分かんない!でも顔は覚えてる、すっごくカッコ良いから、見れば分かるよ」




 私は仁ノ岡くんを探してひとクラスずつ、回って見る事にする。




[不尾丸 論]

 「あれー、朝蔵先輩?」




 不尾丸くんが1年2組の教室から杖をついて出てくる。




[朝蔵 大空]

 「あ、君は……」




 不尾丸くんか……なんか久し振りに見たな。




[不尾丸 論]

 「あいつ?洋助なら3組だけど?呼んであげようか?」




 ゲゲッ……洋助って確か原地くんの事だよね。




[朝蔵 大空]

 「そ、その子には用事はありませんが」




 誰があんな危険な子に、自分から会いに来るもんですか!




[不尾丸 論]

 「ふぅーん?」




 なんなんですかその意味有り気な表情は……。




[永瀬 里沙]

 「そーう言えばあの子、最近あんま絡んで来なくなったわよねー。大空、寂しいんじゃな〜い?」




 里沙ちゃんの言う通り、数日前まで毎日のように付きまとって来ていた原地くんが、私達の教室にも来ないし。



 朝登校する時も放課後の時も、彼の姿を見ない……。



 おかげで今は平穏な日々を過ごせている。




[朝蔵 大空]

 「……」



[不尾丸 論]

 「先輩〜?」




 聞く話によれば、狂沢くん達が色々注意をしてくれたらしい。



 原地くん、彼も素直にその注意を聞いたんだね。




[朝蔵 大空]

 「そそそんな事より!不尾丸くん、仁ノ岡塁くんって子知らない?今探してるんだけど……」



[不尾丸 論]

 「……!」




 私がそう言った瞬間、不尾丸くんが眠そうな目を見開いて、私を真っ直ぐ見つめる。




[朝蔵 大空]

 「……?」




 不尾丸くんのこんな冴えた目、初めて見た。



 眠そうな顔しか見た事無い……。




[不尾丸 論]

 「あんたが塁になんの用があるって言うの……」




 不尾丸の様子がまた変化した。



 不尾丸くんは声を震わせながら私にそう問い掛けてくる。




[朝蔵 大空]

 「用?用って言われると……」




 うーん、用ね……。



 なんて言えば良いんだろ?



 『ダブルデートの相手になってほしい』とか?



 いや、何も知らない不尾丸くんからしたら意味不明でしょう。




[不尾丸 論]

 「てか、どうやってあいつの存在を……滅多に学校も来ないのに」




 え、仁ノ岡くんってまさかそう言う子?



 でも、この前の文化祭の時には間違い無く学校に来てたよね。



 まさかあの時会えたのは奇跡?



 喫茶店に居た時はあんなに真面目そうだったのに、仁ノ岡くんってば意外と不良?




[朝蔵 大空]

 「えっ!来てないの?」



[永瀬 里沙]

 「だから私のスーパーウルトライケメンスペシャルファイルにも掲載されてなかったんだ……」




 うーん、この不良属性が里沙ちゃんにはどう刺さるか……。



 私は途端に不安になる。



 学校に来ないんじゃ、仲良くをなれないし、里沙ちゃんに紹介する事すら出来ない!



 完全に詰んだ!!




[不尾丸 論]

 「……?」




 あの時喫茶店で会えたのもきっと奇跡だ。



 ……ん?



 いや奇跡じゃない、バイト先なんだからまた働きに来るに決まってる。



 つまり、仁ノ岡くんとはあそこで会える!



 よし!



 今日もいちごミルクを飲みに行こう!!




[不尾丸 論]

 「それで……なんで塁に」




 今度は里沙ちゃんと一緒に!






 キーン♪コーン♪カーン♪コーン♪






 授業開始のチャイムが鳴る。



 あ、やばい!



 次、理科室に移動だ!!




[朝蔵 大空]

 「ごめんありがとう!じゃあね!お身体(からだ)に気を付けて!」




 私はそこで1年生の教室を後にした。




[永瀬 里沙]

 「あっ!ちょっと待って大空〜!!」



[不尾丸 論]

 「……」




 大空達が去った後、不尾丸の顔が曇る事になる。




[不尾丸 論]

 (なんなの、あいつ)




 ……。




[永瀬 里沙]

 「はぁはぁ……ごめん、ちょっと部活長引いた……」




 半乾きの髪を拭きながら里沙ちゃんは息を切らして走って来た。




[朝蔵 大空]

 「良いよ、早く行こう!」



[永瀬 里沙]

 「わ、私こんな髪濡れてるけど良いかな」



[朝蔵 大空]

 「そんなの走ってれば乾く!行こう!」




 放課後、私は部活を終わりの里沙ちゃんを連れてまた例の喫茶店に行ってみる事にした。




[朝蔵 大空]

 「えっと仁ノ岡くんは……」




 私達は店に入るなり、席に座って周囲を見渡す。



 もちろん注文そっちのけで。



 周りの店員は私達を怪しむ様に見てくる。




[永瀬 里沙]

 「うーん。店員、皆んな顔面偏差値65って感じじゃない?正直微妙。私は1千万(いっせんまん)を期待して来たんだけど」




 そんな事まあまあ大きな声で言わないでよ里沙ちゃん……。




[如月 凛]

 「あ!ソラ様!いらっしゃってたんですね!」




 すると厨房の方からリンさんが出て来た。




[朝蔵 大空]

 「あぁ、リンさん」




 リンさん、ちゃんと働けてるようで良かった。




[永瀬 里沙]

 「居たっ!いつしかの1千万!!」




 里沙ちゃんが席から立ち上がってリンさんの顔に指をさす。




[如月 凛]

 「およ?」




 リンさんは突然指をさされてキョトンとしている。



 里沙ちゃんこの人は違う!!



 人じゃないけど!天使だけど!




[永瀬 里沙]

 「あの!前うちの学校に来てた人ですよね?」




 思い出せば里沙ちゃん、一時期は一度見ただけのリンさんに夢中になってたね。



 確かにリンさんはパッと見凛として見える、『凛』だけに。



 でもこの人全然クールじゃないんだよ!お馬鹿なんだよ!!




[朝蔵 大空]

 「あ、あの里沙ちゃん……」




 里沙ちゃん、貴女のタイプには当てはまらないと思う。




[永瀬 里沙]

 「大空!私、この人とデートしたい!!」



[朝蔵 大空]

 「えぇ〜?」



[如月 凛]

 「〜?」




 リンさんは横でただ困惑している。




[朝蔵 大空]

 「ごめんなさい、リンさん。仁ノ岡くん今日居ないですか?」



[如月 凛]

 「えっ、ルイ様?ルイ様なら今日はシフト入ってなかったと思いますけどー」




 マジかー……。



 無駄足だった。




 ……。




[不尾丸 論]

 「ちょっと良いー?」



[仁ノ岡 塁]

 「……ノックをしろ」




 机に向かい、教科書を開いてシャープペンシルを動かしている仁ノ岡。




[不尾丸 論]

 「あ、ごめんごめん。でも良いじゃん、オレらの仲じゃん。昔はよく一緒に、お風呂にも入ってたし……」



[仁ノ岡 塁]

 「それで、なんの用だ」




 仁ノ岡は不尾丸の言葉を無視し、ペンを持つ手を動かしながら要件を聞き出す。




[不尾丸 論]

 「……2年の、朝蔵先輩って分かるでしょ?」




 仁ノ岡は一旦手を止めて不尾丸の話を聞こうとする。




[仁ノ岡 塁]

 「……?あぁ、知っているが?それがなんだ」



[不尾丸 論]

 「今から重要な事言うね。1回しか言わないからちゃんと……」



[仁ノ岡 塁]

 「早く言え」



[不尾丸 論]

 「……その先輩が、何故かお前に会いたがってる」



[仁ノ岡 塁]

 「えっ」




 不尾丸の思いも寄らない言葉に仁ノ岡は思わず声を出して後ろに振り返る。




[仁ノ岡 塁]

 (あの女が俺に……?)



[不尾丸 論]

 「オレの知らない内にお前と先輩の間に何があったみたいだけど。あの先輩は洋助のものだから、手出しちゃダメだよ」



[仁ノ岡 塁]

 「そんなのは知っている」




 冗談を言う不尾丸に仁ノ岡は冷たく返す。




[不尾丸 論]

 「てーか、塁にはオレだけでしょ?」



[仁ノ岡 塁]

 「……」




 仁ノ岡は再度ペンを持ち、机の上のノートに視線を移す。




[不尾丸 論]

 「……塁」




 不尾丸は椅子に座っている仁ノ岡にユラユラと近付き、仁ノ岡の背中にピタっとくっ付く。




[仁ノ岡 塁]

 「っ……!気色悪いぞ貴様!」






 ドンッ……!!






 次の瞬間、仁ノ岡が不尾丸を突き飛ばした。




[不尾丸 論]

 「うっ」




 そのせいで不尾丸は壁に打たれその場に倒れ込む。




[仁ノ岡 塁]

 「……あぁっ!論!!」




 自分のしてしまった事に気付いた仁ノ岡は、心配して不尾丸に駆け寄る。




[不尾丸 論]

 「あっ、久し振りだ。名前で、久し振りに……」



[仁ノ岡 塁]

 「ごめん、ごめんっ……」



[不尾丸 論]

 「……いいよ」




 不尾丸は息を整えながらそこから立ち上がろうとする。




[仁ノ岡 塁]

 「……」



[不尾丸 論]

 「その、先輩の事だけど……良い人だと思う」



[仁ノ岡 塁]

 「……良い人」



[不尾丸 論]

 「うん……」




 不尾丸は仁ノ岡の背後にある勉強道具がたくさん広げられた机を見る。




[不尾丸 論]

 「偉いなお前、天才なのに努力も怠らないなんて」



[仁ノ岡 塁]

 「ん、まあ……」



[不尾丸 論]

 「学校、もっと来てほしい、オレも」




 不尾丸は真剣な目で仁ノ岡の事を見る。



 仁ノ岡もそれに真っ直ぐ目を合わせる。




[不尾丸 論]

 「お前の事、理解してくれる人が絶対居るから。ね、お願い」



[仁ノ岡 塁]

 「……ありがとう、ごめん」




 ……。




 その夜、SFC会議が開かれた。




[杉崎 アンジェリカ]

 「今日の議題は……」




 どこから鳴っているのか分からないドラムロールの後に、大きなスクリーンに大空の姿が映し出される。




[杉崎 アンジェリカ]

 「通称『魔性の女』朝蔵大空さんについてです!!」




 スクリーンに視線が一斉に集まる。




[女子A]

 「劇では確かに良いものが見れた、でも!」



[女子B]

 「許せない!ひとりで校内のイケメンを独占するなんて!」



[女子C]

 「2年のS級イケメンはみーんなこの子が取っていっちゃったわ!」




 いつの間にか陰で増殖していた大空アンチが次々と叫び散らかす。




[剣崎 芽衣]

 「か、可愛いもん!モテて当然……」



[杉崎 アンジェリカ]

 「ご存知ですかミス剣崎」



[剣崎 芽衣]

 「は、はい?」



[杉崎 アンジェリカ]

 「1年、1組の仁ノ岡塁、2組の不尾丸論、3組の原地洋助」



[剣崎 芽衣]

 「だ、誰〜……?」




 名前を聞いても誰の事だか分からない剣崎。




[女子D]

 「仁ノ岡塁って?」



[女子E]

 「ほら、あんまり学校来ないレアイケメンの子だよ」



[女子F]

 「あー、あの子もめっちゃカッコ良いよね〜」



[剣崎 アンジェリカ]

 「私は予言します、この3名……近い内に朝蔵大空に夢中になるでしょう!!」




 根拠も無く宣言する杉崎。




[剣崎 芽衣]

 「何言ってるのアンちゃん……?」



[杉崎 アンジェリカ]

 「それではこれで会議を終わりにしたいと思います。皆様、お気を付けてお帰り下さいませ」



[女子G]

 「お疲れっした〜」




 杉崎の掛け声でぞろぞろと帰って行く会員達。




[剣崎 芽衣]

 「か、勝手に終わらないでよ〜」




 そして剣崎と杉崎以外誰も居なくなった部屋。




[杉崎 アンジェリカ]

 「ん〜〜〜〜芽衣っっ!!」



[剣崎 芽衣]

 「!?」



[杉崎 アンジェリカ]

 「皆んなの前でその呼び方辞めてっていつも言ってるでしょー!!」



[剣崎 芽衣]

 「アンちゃん?」



[杉崎 アンジェリカ]

 「それ!恥ずかしいから辞めてほしいのに〜!」



[剣崎 芽衣]

 「あはは、ごめん」



[剣崎 芽衣]

 (アンちゃん可愛いなぁ)




 その頃の大空……。




[朝蔵 大空]

 「はっっっくしゅっ!!やば、風邪ひいたかなー」






 「偏愛初心者」おわり……。

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