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<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

途上の人々


「……あー、待った待った。毎度ながら面倒くさいな、これ。全員で移動しちゃえば多少は楽になるんだろうけど、自由な気まま旅を味わうなら王都とは距離おきたいしな。

 ま、報酬デカいから離れにくいんだけど」

 エニイペアは王都で一人、愚痴を吐いていた。背負った(シールド)で隠される形となっている背負い袋(バックパック)には、受け取ったばかりである遺跡踏査の褒賞が五人分しっかりと仕舞い込まれている。仲間から絶大な信頼を得ているエニイペアが、まとめて受け取って運ぶことに誰も異を唱えなかった。信頼され過ぎて嫌でも襟を正さざるを得ない気分になる。もっとも技士と盗賊の境界線上にいるウェイジャーなどは疑っているのだろうが、表立っては反対しなかった。これも信用の形の一つなのだろう、とエニイペアは苦笑する。

 昼になってから四日が経っているので出発を決めるには、いきなりの夜営をする覚悟が要りそうである。時告石(じこくいし)を見てみれば緑色にも桃色にも濁っていない真っ白だったので、ちょうど明一刻(午後零時)だろうと見当がついた。数刻(数時間)後に夕暮れが来なければ、そのまま乗合馬車でも捉まえて出立しても良いのかも知れない、と軽く考える。今のところ任務を受けていないエニイペアと仲間たちの稼ぎ口は、今は離れて行動している仲間たちが何かを請け負っていなければ何もない。

 エニイペアの仲間たちは天穴(スカイホール)を右手に見つつ、街から街へと渡り歩いているはずである。仲間たちと別れた街へは戻らず、二つか三つ先の街へ狙いを定めて移動するのが常となっていた。街で合流が叶わなければ追いかけたり留まったりはエニイペアが判断しながら動いている。よほどのことがない限り夜に出発するのは避ける約束だから、仲間たちが進んでいそうな街は何となく目星がついていた。


 ともあれ出立より先に解決すべき問題があった。昼食である。風光刻(午前六時から六時間)を踏査報告の審査で潰されてしまったので、軽い朝食を入れただけのエニイペアは先ほどから空腹に襲われていた。食費を抑えて屋台で適当に摘まむか、ちゃんと飯屋に入って腹を満たすか、暖かすぎる懐事情を考えながらエニイペアは少しだけ悩む。別に仲間の分まで使い込むくらい贅沢をする訳ではないので、飯屋に入ることを決めた。街や村などに比べて物価が数割増しであることは見なかったことにする。

 エニイペアが昼食を求めて飲食街へ移動した矢先、「みんなの食卓」という牧歌的な屋号を掲げている食堂が目についたので、迷わず入ろうとするものの見事に混んでいた。忙しそうに店内を歩き回っている店員をどうにか捉まえて相席できる卓がないか尋ねるも、少し待たないと厳しいだろう、と返ってきた。諦めて別の食堂へ移動しようとするエニイペアに向かって横合いから声がかけられた。

「おぅ、あんちゃん。今ここ空くぞ。どうする」

「ありがたい、助かる」

 何の仕事をしているのか想像できないが小ざっぱりとした風体の二人組が席を立ち始めていた。声をかけてきたのは、その片割れである。椅子の温もりも冷めないうちにエニイペアは腰を落ち着け、礼を言う。

「助かった。腹が減って死にそうだったんだ」

「じゃあ、命の恩人だな! 酒の一杯でも奢って貰いたいもんだが、もう行かにゃならん。あんちゃんは運が良い。じゃあな!」


 二人組が去った後には店員が残っていた。エニイペアの注文を聞くつもりなのだろう。逃がさず問いかけた。

「何か腹の膨れるものを適当に見繕ってくれ。幾らだ」

「黒パンに半身の蒸し鶏と野菜の汁物で銀貨四枚」

「それでいい、よろしく」

 やっぱり安くはないな、とエニイペアは思いつつ銀貨四枚を店員へ渡す。「毎度ありぃ!」と威勢の良い返答を残して店員は厨房の方へ立ち去って行った。と同時に別の二人組から声をかけられる。

「そこ空くかい」

「いや、注文したばかりだ。相席なら構わんぞ」

「二人組なんだ」

「じゃあ悪いが他を当たってくれ」

「そうする。邪魔したな」

 二人組は素直に引き下がって、どうやら別の店へ移動するらしく食堂から出て行った。特に何事もなく刻八半(七分半)ほど待って、やや大きめの黒パンと蒸した鶏の半身と野菜が煮込まれた汁物が運ばれてきた。

「はい、今日のおまかせ」

「ありがとう」


 ここまで来れば、やることは一つ。エニイペアが空腹を存分に満たしていると、再び声をかけられた。

「ここ、いいかい」

「構わんよ」

 礼儀にはかなっていないが、エニイペアは食べながら返答した。相手は気を悪くした風もなく「助かった」と言いながら椅子を引いている。店員は他の客に対応しているようで、まだ注文を聞きに来る気配がない。

「それ、なんだ」

「今日のおまかせ。黒パンと蒸し鶏と野菜汁だとさ。銀貨四枚」

「なるほど、俺もソレにしよう。ありがとよ」

 エニイペアは左手をひらひらと動かして相席客の礼に答える。やがて客の対応が終わった様子の店員を、相席客が手を挙げて捉まえた。エニイペアへ宣言したとおり、相席客も同じものを注文して支払いを済ませる。店員とのやり取りを聞くとはなしに聞きながら、エニイペアは野菜汁が染みた黒パンの残り一欠片を口へと放り込んでいた。当然ながら完食である。

「ふぅ、喰った」

「見事な食べっぷりで。美味そうに食べてたんで注文したが、そんな美味いのか」

「腹が減ってりゃ大抵うまいだろ」

「違いない」


 人心地付いたエニイペアが改めて相席客を観察すると、どうやら同業のようだった。鱗鎧(スケイルアーマー)革長靴(レザーブーツ)を着け、卓には革手袋(レザーグローブ)が乗せられており、革兜(レザーヘルメット)はエニイペアの(ヘルメット)と同じように足元へ置かれている。

 卓に立てかけてある得物もまた、エニイペアと同じような(ブロードソード)と盾だった。もしも戦うことになればエニイペアに負けるつもりはないものの、鱗鎧は少し面倒だな、という感想を抱く。観察するエニイペアの視線に気づいたのか、気がつくと相席客もエニイペアを見ていた。琥珀色の瞳が狼を連想させる。

「何か」

「いや、すまん。どんな奴が相席してたのか気にしてなかったんでな、つい」

「気にしない。こっちは最初から狙ってたしな」

「それは、どういう……」

「ちょっと仕事に誘おうかと思ってな。話をする暇はあるか。あるなら食べ終わるまで待ってて欲しいんだが」

「喰いながらじゃダメなのか」

「落ち着いて食べたい」

「なるほど、じゃ待つよ」とエニイペアは手を挙げて店員を呼び止める。「蜂蜜酒を」「銀貨一枚」とのやり取りがあり、一瞬だけエニイペアの手が止まりはしたが注文を終えた。程なくエニイペアに杯一杯の蜂蜜酒が運ばれてくる。エニイペアが酒を口にする頃には相席客の食事も大体は終わっていたのだが、気にせず味わう。やはり銀貨一枚は安くない。


 相席客の食事が終わると同時にエニイペアは杯を呷った。

「待たせたな。退屈はしてなかったみたいだけど」

「食後の一杯も、なかなか良い。安くないがな」

「じゃ、出ようか。客足はまだ鈍らないみたいだし」

 エニイペアは無言のまま頷いて答える。二人は荷物をまとめて席を立った。「ありがとうございました!」という元気の良い店員の見送りを背に受ける。

「で、どうする。まだ昼時だ、立ち話でもするか」

「いや、俺の宿に行こう。開いている酒場を探すのは骨だし、立ち話も何だし」

「わかった」

「で、俺はシェア。冒険者やってる」

 歩きながら自己紹介くらいは済ませておこう、という趣向らしい。どうせなら話も済ませてしまえば良い気がする。エニイペアは踏み込んだ。

「俺はエニイペア。まぁ、似たようなもんだな。探検家もやってる。で、仕事は」

「……宿に着いてからで良かったんだが、別に大っぴらで話せないことでもない。俺は隊商護衛を請けているんだが、あんたもどうかな、って」

「行き先次第だな」

「ノヴェンバー、でわかるか」

「一応わかる。俺の希望はヴィクターかチャーリーなんだが、理由次第で請けてもいい。どうして俺を選んだんだ」

「あんたと戦ったら面倒そうだな、と思ったんで」

「奇遇だな、俺もそう思ってた。ところで幾らだ」

「それは宿に着いてからだな。雇い主と交渉してくれ」

「わかった」





 シェアの投宿している宿に着くと、すぐに商人と会うことになった。食事や酒を出していない宿屋なので、面接は商人に割り当てられた二階の部屋で行われた。シェアとは戸口で別れ、扉が閉められたことを確認してから商人が口を開く。

「君が希望者か。私はエンプロイ。街から街へと根無し草で食品を商っている」

「エニイペアだ。目的地がノヴェンバーということなんで、とりあえず話を聞きに来た」

 エニイペアは勝手に脂ぎった男を想像していたのだが、実際の商人は筋骨隆々と言っても良いような鍛えられた男だった。エニイペアやシェアよりも年上で、顔に刻まれた皴が深い。

「ノヴェンバーが最後の目的地、という訳ではないんだがね。街を巡り続けているのさ。

 ……それはさておき仕事は馬車二台の積み荷と乗員の護衛。荷物で少し狭くはなっているが、移動中は馬車に乗ってもらう。賃金は日に銀貨三枚で、夜の旅になれば一日に銀貨六枚。何か有事があった場合は、その都度で交渉。支払いは人里に着くたび。道中の宿代は、こちら持ち。飲食は自前。どうだ」

「こっちはヴィクターかチャーリーを希望なんだが、方向は同じか」

「同じだが、場合によっては合わせても良い」

「それと街まで一ヶ月ぐらい、だろう。ちょっと安くないか」

「銀貨四枚の八枚では、どうか」

「五の十」

「……いいだろう、気に入った。五の十でノヴェンバーまで頼む」

「ところで気になっているんだが、そろそろ夜にならないか」

「昼夜を問わず、移動するときは移動する。荷が荷なんでな」

「ということは、もう数日待って出発してくれれば、こっちにはお得だな」

「残念ながら、そうも行かない。護衛の補充は一人で足りている。消耗品の補充にもう数刻かかるだろうが、それが終われば出発だ」

「わかった。その間に俺は自分の宿を引き払ってくる。この宿に集合で問題ないんだろうが、屋号は何だったかな……」

「『ベースの快適な宿』だな」

「わかった。ここへ戻ってくる。戻ったら、あなたかシェアに声をかければ良いんだろう」

「それでいい。それじゃ、よろしく」

 その声と同時にエンプロイが右手を差し出してきた。エニイペアが差し出された手を握り、エンプロイも応えて握り返す。書面など一枚もないが契約は成立した。


 エニイペアは「ベースの快適な宿」の場所を忘れないように注意深く投宿していた宿まで戻って、宿の主人に「少し早いが宿を出る」と告げた。愛想のない親父が「わかった」とだけ答えて宿賃を清算する。とは言え最初から二泊の予定で投宿していたので、前金の半分が戻ってきただけだった。一泊で大銀貨三枚という、街とは比較にならない高級な宿である。昨晩の食事には美味い部類のものが出たのでエニイペアは急に少しだけ惜しくなり、なるべく覚えておこう、と決めて屋号──「上げ膳据え膳」を改めて確かめた。

 美味い晩飯に別れを告げ、エニイペアは「ベースの快適な宿」へ舞い戻った。シェアの部屋が何処か確認するのを忘れたな、と宿の戸口で考えていると丁度良く当のシェア本人が二階から下りてくる。

「宿を引き払ってきた。出発はまだ、だよな」

「ということは狙いどおりか。改めて、よろしく頼む。出発まで余裕があるようだから、この隙に他の連中と引き合わせよう。来てくれ」

 シェアの案内で、二階の客室の一つを訪れる。シェアが小さく扉を叩きながら「いるか」という問いに、「まだだろう」と言いながら扉を開けて出てきたのは全体的に濃い大柄の男だった。細かく編み込まれた黒髪に濃い茶色の瞳、肌は褐色に焼けているのか元々そういう肌色なのかわからないが、ともあれ健康に問題はなさそうである。

「ん、後ろのが新入りさんかな。コンボイだ、よろしく」

「エニイペアだ。よろしく」と挨拶しながら握手を交わしていると隣の部屋の扉が開く。出てきたのは金髪の眩しい若い女だった。素早くエニイペアに近づくと、こちらも握手を求めてきた。


「私はローン。あなたがエニイペアね、実は聞こえてた。よろしく」

「そういうことなら、こちらこそよろしく」

「エニイペアを含めて、この四人がノヴェンバーまでの護衛だ。あと一人、二台目の御者がいる。部屋はこっちだ」

 コンボイとローンの二人と別れて、通路を反対側へ進んでいく。エンプロイの隣にあたる扉をシェアが小さく叩くと、少年と呼んで差し支えなさそうな若い男が顔を出す。エニイペアを見止めると納得顔になって口を開いた。

「あぁ、父から聞いてます。エニイペアさん、ですね。インヘリターと申します。エンプロイは父です」

「なるほど。よろしく」

「二台目の御者台にはインヘリターが座っている。機嫌を損ねると手綱が荒れるので要注意だ」

「しませんよ、そんなこと。しませんからね。よろしくお願いします」

 シェアへ文句を言いながら、インヘリターはエニイペアに頭を下げている。

「さて、これで隊商の全員と面通しは終わった。こうなると出発まで準備を整える以外にやることがないんだが、あんたどうする」

「旅の準備ならもう終わっているし、同業の連中ともうちょっと仲良くなっておきたいかな」

「だったらコンボイの部屋に集まろう。先に行っててくれ。俺は部屋に寄ってから行く」

 シェアはそう言い残して、まだ入ったことのなかった部屋の扉を開けて中に消える。エニイペアは言われたとおり先ほど訪れたコンボイの部屋の扉を叩いて、出てきたコンボイに事情を告げた。

「聞いてねぇぞ。まぁ、いいか。ともかく入れや」


 エニイペアがコンボイの部屋を訪れた直後、扉が閉まるのも待たずにローンが顔を出した。ローンは「この部屋に四人は狭いよ」と言いつつも滑り込んでくる。「今から飲みに出る訳にもいかんしな」とはコンボイの弁だ。やがてシェアがリンゴを四つ抱えて入ってきた。「一応は部屋主の意向を確認しろ」とコンボイは抗議の声を上げたが、シェアは黙殺した。黙殺してリンゴを全員に配りつつ、エニイペアへ話を振る。

「で、具体的には何が聞きたいんだ」

「護衛のお作法みたいなものがあれば聞いておこうかと。あんた達、随分と気心が知れているようだし、ならではのやり方があるなら合わせた方が楽そうだからな」

「そういうことなら、コンボイの出番だな」

「仕切りはシェアじゃないのか」

「逆だよ。俺は一番の新入りだ」

「ほぅ」

「じゃあ、ご指名のようなんで……基本的に俺たちは馬車に乗って待機だな。一台に二人ずつ。組分けは今やっちまうか。得物は盾持ちの剣だな」

「そうだ」

「じゃあ全員が盾持ちだ。鎧がまた上等だな」

「ありがとう」

「じゃあ俺かローンと組んでくれ。防御力なら、あんたとシェアが双璧になる。俺とローンは快適さ重視で革鎧(レザーアーマー)なんでな」

「速さ」とローンが口を尖らせて抗議した。


「あんた達の得物も教えてくれ」

「俺は戦棍(メイス)で、ローンは多彩だが主は小剣(ショートソード)だな。唯一の(ボウ)使いでもある」

「弓は上手じゃないけどね。何より矢が勿体ない」

「貧乏性だよな」

「うるさい」

「そういうことなら俺はコンボイと組むか。新参は仕切りやすいところにいた方が安心だろう」

「わかった。それじゃあエニイペアは俺と一緒にインヘリターさんの馬車へ。ローンとシェアはエンプロイさんの馬車だ」

「おぅ」「はいよ」と二人の返答が重なる。

「ところで、あんた達はもう結構、長いのか。シェアが新入りとは、さっき聞いたけど」

「長いと言っても数ヶ月だ。シェアが一番の新入りだと言ったってノヴェンバーからだから、もう一ヶ月ぐらいは一緒にやってる」

「実際の戦闘経験は」

「無駄に歳喰ってるのもあって実戦経験は俺が一番だろうが、この三人になってからは一度だけだな。夜営中だ。ほれ、この隊商は夜も構わず移動するんでな」

「襲撃は何人だった」

「六人。素で危なかった。ローンが初手で一人、射殺してくれたんで助かった」

「だからって私の弓が百発百中だとは思わないでね。一応は狙ったけど、かなりの博打だったんだから」

「その博打に勝ったんだから、いいじゃないか」

「毎度アテにされると困っちゃう、って話よ」

「それでも先手を取れるのは強いな」とエニイペアは言葉を漏らした。


 もうしばらく話を聞いてからエニイペアは一旦、頭の中で話を整理する。役割としては防御力に覚えのあるエニイペアとシェアが隊商全員の防御へ入りながら、コンボイとローンが外敵を排除してゆく、という感じのようだ。この動きに固定してしまうと問題はあるが護衛である以上、エンプロイとインヘリターへの防御だけは外せない。さすがに革鎧と比べれば激しい動きに難のある者が二人いるので、そのまま防御を固めてしまおう、ということらしい。

 どうやら並の者よりは耳目の鋭い様子のローンが、この護衛たちの要であるように感じられた。後手に回ることが少なくない護衛にあって、ローンの耳目は頼りになるだろう。本人は謙遜なのか、頼りにするな、と言うものの実際の役割として隊商の目や耳を担っているのはローンで間違いないようだった。

 戦闘指揮はコンボイの役割のようだ。本人も実戦経験は一番多い、と言っていたが、少なくともシェアやローンがそれを疑っている様子がまったくない。一度でも死地を一緒に潜り抜けているのなら、疑いが芽吹けば花開くのも早いはずである。それがない以上、その状況判断は的確に感じられるものであろう、と推察することは難しくなかった。

 三人の中では一ヶ月ほどしか組んでいないシェアだが、エニイペアの目からは既に十分、馴染んでいるように見える。日常の息は合うが戦闘では息が合わない、などということがあり得るのならば、この三人が今日この場に揃って生きているはずがない。鱗鎧の防御力もあって隊商の盾、とでも言うべき存在になっているのだろう、と思われた。

 つまりエニイペアは旅慣れた冒険者たちと一緒に旅ができることを、喜びこそすれ落胆する謂れはなかった。一人で百枚ほどの大金貨を運ぶよりも余程、確かな安全が手に入ったこととなる。四人で雑談に興じながらエニイペアが、こんなことを考えている間にも時は過ぎており、インヘリターがコンボイの部屋に顔を出した。

「随分、仲良くなってますね、皆さん。こちらの荷物の手配が終わりました。火一刻(午後六時)よりも前に出たいので、そろそろ準備をと父からの伝言です」





 時告石が赤に染まる(火一刻)より前に、エンプロイの隊商は王都を出立していた。夕暮れの中で出立とはならなかったので、最低でも一日は昼の中を進むことができる計算となる。馬車で順調に進むことができれば四日ほどの距離にある村で商うつもりの食材以外、エンプロイが商う食材に足の早いものはなく、道行きの商いは手短に済ませるつもりでいた。そもそも王都に来たことですら、一通の手紙に起因する採算を度外視した動きである。街に滞在していた手紙の宛先が、あろうことか王都へ向かった、という話が発端であった。

 手紙を確実に届ける必要は、普段ではあまりない。本来は、商売のついでに、と託される場合がほとんどであるから、手紙が宛先に届かないことも珍しくはなかった。しかし預かった手紙の主に、エンプロイは大きな義理があった。街から王都へと向かう隊商を見つけられなかった不運もある。つまりエンプロイは義理と不運の板挟みにあって、やむなく王都を訪れたに過ぎなかった。

 一日目は出立するには遅い時刻に王都を出たため、エンプロイは二刻(二時間)ほど馬車を走らせた辺りで夜営を張ることとした。馬車の位置を決めると、護衛たちは輪番で歩哨に立ち始めた。歩哨以外の隊商全員で天幕(テント)を設営し、火を熾し、食事をとる。交代で食事をとる護衛を見て、まだ王都から二刻ほどしか離れていないためか「そんなに警戒しなくとも」とインヘリターが不用意なことを言ったため、エンプロイは「どんなときも警戒は怠るな」とたしなめた。

 エンプロイは移動の合間に幾度か入れる小休止の際、護衛たちと話すことを好んでいた。商人仲間には「護衛など最低限の仕事をこなして裏切らなければ誰でも良い」という者もいるが、エンプロイは真逆だった。今の護衛が格段に気の良い者たちであることも理由ではあるものの、単純に様々な話が聞けることをエンプロイ自身も楽しんでいる。更に今回で言えば王都で護衛の入れ替えがあった。新しい護衛と最低限の交渉はしたものの、早いうちに人となりをより詳しく掴んでおくことは、雇い主として必要な行動ですらある。


 エンプロイが新しい護衛を気に入った点は、自分の腕に自信を持って銀貨五枚を要求できるところだった。もう少し要求されるか、とも考えてはいたが先に五枚を提示してきたのは護衛の方だ。街を移動する護衛としては銀貨三枚は相場だが、五枚が高給取りという話でもない。控えめではあったかも知れないが、自らの実力をしっかり計れる人間がエンプロイは好きだった。

 その新入り護衛のエニイペアも、話をしてみれば気の良い者であった。聞けば仲間と離れ、単身で王都を訪れていたそうだ。冒険者の間では、それなりに聞く話でもある。王都で受注した仕事の報酬──総じて大量の貨幣を運ぶために旅路を狙われることも多いそうだが、その辺りは乗り合い馬車を使ったり実力で切り抜けるらしい。エニイペアは「丁度よかった」と言うが、旅慣れた者を素早く護衛として雇えたことはエンプロイとしても僥倖だったし、エニイペアの前に入った護衛であるシェアの眼力にも感謝すべきだと考えていた。

 護衛の頭のようになっているコンボイの話でも、熟練かどうかはともかくエニイペアはちゃんと旅慣れた探検家だ、ということだった。厳密には冒険者と探検家は違うものらしいが、その辺りはエンプロイに見分けがつかない。しかし両者の見分けこそつかないが手入れされた武具や天幕の張り方などを見れば、少なくとも旅慣れていることは一目瞭然だった。

 順調だった旅路も四日目には、とうとう夜に捕まった。三度目の小休止の最中に夕暮れが始まる。そのまま周囲は夜に包まれたが予定どおりに小休止を終えてから二刻ほど進んで、エンプロイは四日目の夜営を張ることに決めた。


 王都を出て最初の村に着いたのは翌日の地二刻(午後四時)ほどであった。エンプロイたちは村に二泊した。エンプロイは翌日を商売に充てたし、護衛たちは稼ぐことこそできないものの羽を伸ばせる自由を手に入れていた。もっとも王都に近い村と言っても、手に入る娯楽は村唯一の宿を兼ねた酒場においての就寝と飲食だけだったが。次の村に着いたのは一週間後だったが移動の途中で昼になった。変わったことと言えば、そのくらいである。

 更に四日かけて次の町へ辿り着いたが、この時は逆に途中で二度目の夜を迎えたため町へ入るときに門衛と少しだけ揉めた。この局面で物を言ったのが商人組合(ギルド)の鑑札だった。街ならばいざ知らず町で商人組合の威光が通用するのか不安を拭い切れなかったエンプロイだったが、王都や街よりは遅い対応だったものの最終的には商人組合の紋章が刻まれていた一枚の木札が門衛を黙らせた。

 町を抜け、王都から数えて三つ目の村に入るまで夜が続く。しかし村に入った翌日には昼が訪れたので、隊商の一同は「幸先が良い」と喜んだ。その幸先の良い旅路の途中で三度目の夜に捕まり、その日の明一刻頃、小休止をしている最中に襲撃を受けた。





 歩哨に立っていたローンが突然、訪れて半日ほどの夜へ目がけて弓を射った。一射目の成果を確認する前に短く「来たよ」と警告を放つ。その後に遥か遠間から濁った声で悲鳴が聞こえた。その悲鳴を合図に追い剥ぎたちも応射を始める。やや散発的ではあるものの、弓なりに飛ぶ矢は隊商を捉え始めていた。即座にコンボイが馬車を盾とするような位置へ、エンプロイとインヘリターを誘導する。エニイペアが誘導を引き継ぎ、二人の盾となるべく立ちはだかった。ローンとは反対側を警戒していたシェアは後ずさりしながらエニイペアたちと合流する。

「囲まれたか」

「いや、囲まれかけ、ってとこだろうね。コンボイ、シェア。出て。援護する」

 コンボイの問いに答えながら、ローンが指示を飛ばした。護衛頭のような立ち位置であろうとも、耳目の指示には逆らわない。盾を構えながらコンボイが先んじ、一拍遅れてシェアも馬車の影から飛び出した。奇襲を画策していたであろう追い剥ぎたちは、奇襲の完全な失敗を悟って姿を現す。姿を現してなお夜の闇に馴染んで見えにくいが、三人の人影は草原を走り出していた。ローンの弓も二射、三射と続くものの、大きく避けられて走る速度を落とさせることには成功していたが、戦闘継続の意志を挫いた一射目ほどの成果は見られない。

 そうこうしているうちに走り込んだコンボイとシェアは三人と激突する。当然の如く乱戦へ発展したため、ローンは弓による援護を諦めた。と同時にローンは振り向き、乱戦に背を向け矢を番えながらシェアの警戒していた側へ目を凝らし始める。エニイペアはローンの指示を待って、商人親子を護りやすい位置から動かなかった。


「来るのか」

「私なら、こっちからも襲う……ほら、二人いた。仕方ない、エニイペア出て。援護する」

 言うが早いかローンは準備を終えた弓を射る。

「頭を低くしたまま、動かないで」

 エニイペアは恐怖で顔が引きつっている商人親子に向かって言い残すと盾を構え、ローンの放った矢を追って草原へと飛び出した。ローンの見立てが正しければ二人いるはずだが、程なくして正面で驚きの混じった悲鳴が上がる。手がかりを与えられたエニイペアにも相手の姿が見えた。背後からの射線を意識して緩い円弧を描くように近寄ってゆくと、風切り音が二度ほど鳴る。しかし風切り音は獲物を仕留めるに至らず、エニイペアは追い剥ぎとの距離を詰めつつ剣を突き出した。

 エニイペアの初撃は小剣で辛うじていなされ、その隙にもう一人が右肩口に矢を突き立てたまま襲ってくる。その一撃を盾で押し返すように流すと、相手の体勢が崩れた。ここぞとばかりにエニイペアは体勢を崩した追い剥ぎを蹴り飛ばす。小剣使いの追撃を剣で弾くと一連の攻防が落ち着き、にらみ合いとなった。よく見ると一人はエニイペアの初撃をいなした小剣使いで、もう一人は肩に矢が突き立ったまま左手で剣を構えている。

 にらみ合いは長く続かず、怪我を負った仲間よりも自分が適任とでも考えたのか、小剣使いが細かく突きを繰り出してきた。これに対してエニイペアは盾で受けたり流したりと対処しつつ、剣使いへ牽制の意味を込めて時折に突きを放っている。剣使いは力の入らない大振りが多いので、利き腕が右だったのだろう、と気づいた。狙いも雑な大振りであったため剣で受けたり、あるいは避けながら戦場に留まり続けた。


 更に攻防を続けていると、素早く草を踏みしめる音が聞こえてきたかと思えばエニイペアの隣で、ローンが小剣を剣使いに叩きつけていた。状況が状況でなければ問い詰めたいところではあったが、エニイペアも小剣使いに盾を叩きつける。

「二人は」

「大丈夫。こっち速攻で片付けて」

 言いながらローンは小剣で突きを繰り出し続け、剣使いの腕や体に小さな傷を負わせてゆく。護衛対象を放り出してくるとは、と思いながらもエニイペアは小剣使いに向き直って、斬り、突き、反攻を受け止め、流した。それから数合もしないうちにエニイペアの大振りが小剣使いの頭に命中するのと、剣使いが腹を深々とローンに斬りつけられて膝から崩れ落ちるのは、ほぼ同時だった。

 相手の絶命などを確認する暇もなく、エニイペアとローンは馬車まで戻った。コンボイたちを見やれば、相手が一人減っている、ように見える。

「六人で打ち止め。エニイペア出るよ」

 ローンはそう言い放って走り出す。エニイペアはエンプロイたちを見とめて再び声をかけた。

「残り二人のようだ、片付けてくる」

「……頼む」

 エンプロイの絞り出した声を背に受けながら、エニイペアはローンを追って駆け出した。


 エニイペアが最初に先端の開かれた戦場へ辿り着くと、もう趨勢は固まりつつあった。コンボイとシェアは互いに互いをかばいながら戦い続けている。追い剥ぎたちはコンボイの戦棍を受け流す訳にもいかず、大きく避けることを強要されながらも隙を見て斬り込もうとするが、それはシェアに邪魔されていた。それでは、とシェアへ矛先を向けると確実に避けなければ大事に至るコンボイの戦棍が割り込んでくる。三人いた追い剥ぎのうち、一人はコンボイの戦棍を避け損ね、悶絶しながら草原に沈んでいた。

 ならば一対一で各個撃破を狙おうとしても、今度は二人とも盾に隠れて出てこない。そんな調子のところへローンが飛び込んで、とうとう数的優位に立っていた追い剥ぎと立場を逆転していた。コンボイとシェアの相互補完するような戦術を邪魔せず、ローンは自由に振る舞っている。斬ったかと思えば退き、退いたかと思えば鋭く突いていた。大丈夫そうだな、とは思えたものの、だからと言って手を抜くのも違うのでエニイペアもローンを見習って参戦する。

 エニイペアは戦術をもシェアを真似た。追い剥ぎの一人と正対して注意を引き、ローンを狙う一撃を重点的に叩き落す。こちらからは余程の隙でもなければ目立った攻撃を加えず、防戦に徹した。ローンも途中から察したらしく、積極的にエニイペアを盾として使い始める。もはや五人の乱戦から、二対一の戦場が二つあるだけ、となっていた。それから然程もかかることなく勝敗は決した。





 六人の追い剥ぎについて絶命を確認してから、まだ価値を残している武具などを鹵獲して、とりあえず場所を移す。賞金首に興味を持っている者は隊商の中に一人もいなかったので、犯罪者の証拠は確保せずに移動する。ただしインヘリターが若干、落ち着きを失っていたので落ち着かせるため馬車に寝かされ、御者台には代わりにコンボイが座った。移動の最中、エニイペアはローンへ「護衛する者を放り出すとは何事か」と詰め寄ったが、「仕方ないじゃん」「状況判断だよ」と躱されていた。

 時折に周囲を確認しつつ一刻ほど移動してから、エンプロイと護衛の間で契約どおり有事の際の交渉が持たれた。しかし交渉は極めて穏便に進み、一人あたり金貨三枚が次に支払われる報酬へ上乗せされることと決まる。労使の双方にとって、満足のいく交渉となった。

 襲撃からも夜が晴れることはなかったが、三日ほどで街に一番近い村へ入ることができた。エンプロイたちは村の自警団に道中で襲撃されたことを伝えはしたが、彼らがこの情報をどこまで活用できるか定かではない。王都や街ならば、いや町であっても賞金首の新しい手配書が回っていることは期待できるが、村であれば手配書が古いどころか回っていないことも十分にあり得る。

 それでも手配されているかも知れないならず者が減ったという話は、たとえ村であっても歓迎されるものであった。歓迎の恩恵としてエンプロイは若干、有利な商いをさせてもらえたし、護衛たちは村の酒場での飲食費が極端に抑えられた。唯一、宿で延々と眠り続けたインヘリターだけは恩恵に浴することができなかった。

 丸一日の休養を経て復活したことが、インヘリターにとって最大の恩恵だったろう。御者台に座る者がコンボイからインヘリターへと戻って、村を出る。この村からは数日で街へ着く距離だが、街に近いからと言って追い剥ぎどもの襲撃がないとは限らない。護衛たちは緊張感を持っていたが、途中で夜が晴れたこともあって次第に柔和な顔つきへ変わっていった。やがて一ヶ月と少しの旅路が終わりを迎え、エンプロイ一行は街へと入っていった。





「ここで、お別れかな」

 一ヶ月と少しを一緒に過ごして、さらに共に死地を潜り抜けておいて情が湧かない、と言えば嘘になる。エニイペアは肩をすくめてシェアに答えた。

「そうなるかな、ひょっとしたら。惜しいとは思うが、俺にも仲間がいるんでね。あいつ等の取り分を預かってるんだ」

「じゃあ、仕方ないな。残念だよ」

「ありがとうよ」

 二人の会話を黙って聞いていたエンプロイが口を挟む。

「こちらこそ助かったが、三日はノヴェンバーに滞在する予定でいる。次はロメオだ。君の状況が変わったら、また雇われてくれると嬉しい」

「考えておく。じゃあな」

 手を振りながらエンプロイたちと別れると、エニイペアは次の街へと続く門を目指した。門衛が空振りだったなら、まだ仲間たちがこの街に滞在している可能性もあるので宿屋を総当たりする必要がある。しかしエニイペアの読みでは、もう仲間たちは次の街か、二つ先の街へ移動している頃合いのはずだった。銀貨を用意しながら歩いて行くと二人の門衛が立つ街の出入り口へと着く。エニイペアに気づいている門衛が声をかけてきた。


「街を出るのか」

「いや、まだわからない。俺はエニイペアってんだが、俺宛ての伝言とかってないかな」

「ちょっと待ってろ、他の連中にも聞いてやる」

「ありがとう、助かるよ」

 エニイペアの礼を聞いてから門衛の片方が、門のすぐ側に併設されている詰所へと引っ込んでいく。少し待つと詰所に引っ込んだ気の良い門衛が、残念そうな表情を浮かべながら戻ってきた。

「いま詰めてる奴らだと誰も聞いてないな。あと三刻(三時間)くらいで交代だから、今いない奴らから話が聞けるぞ。あんたさえ良ければ伝えといてやるけど、どうする?」

「いま何刻だ」

光一刻(午前九時)を少し過ぎてるな」

「わかった、ありがとう。他の門衛さんにも話が聞きたいんで、よろしく頼みたい。暇、潰してくるわ」

 そう言いながら銀貨を一枚ずつ門衛に握らせる。別に法に反することをやっている訳ではないので、単なる感謝の意を示す心付けだ。こうしておくと話が円滑に進むことは、もちろん経験的にエニイペアも知っていた。そうして骨を折ってくれるであろう門衛たちと別れ、エニイペアは宿屋を探して適当に街を歩き始める。目についた宿屋へ飛び込むと「ちょっと聞きたいんだが、エニイペア宛ての伝言って預かってないか」と率直に聞いて歩いた。


 街の中でも宿の多そうな通りを練り歩き、十件目の宿屋を出る間際に見た据え置かれている時告石が真っ白になっていた。そろそろ門衛に頼んでから三刻が経とうとしている。宿屋は今のところ空振りだった。今から門へ戻れば丁度良いだろう、と判じてエニイペアは歩き始める。財布代わりの袋から銀貨を数枚、引っ張り出しておくのを忘れなかった。

 門へ着いてみると既に門衛は交代したようで、先ほどとは別の二人が立っていた。片方は女だった。臆せず近づくと女の門衛に「エニイペアか」と問われたので、そのまま頷く。

「だったら三週間くらい前に伝言を預かっている。『いつもどおり』だそうだ。乗り合い馬車で街を出る直前だった」

「わかった、ありがとう。助かった」と言って、エニイペアは門衛に銀貨二枚を握らせた。

 三週間くらい前ということは、いま現在は次の街に投宿中か、二つ先の街へ向かって移動中といったところだろう、とエニイペアは読みを微妙に修正する。街の間は乗り合い馬車で移動し、一つの街では最低でも二週間は投宿するのが「いつもどおり」であるから、今から急げば二つ先の街ぐらいで合流できそうだ、と弾き出した。であればエンプロイの好意に乗せてもらうと都合が良い。


 宿の屋号こそ覚えなかったが、門までの道順は覚えていた。エニイペアは門から道順を逆に辿って、エンプロイたちの投宿している宿に戻る。屋号は「泥のように眠れ」という文学的なのか自棄なのか判断しにくいものだった。ともあれ入ってすぐ宿の主人にエンプロイへ会いに来た旨を告げる。少し待たされると宿の主人がエンプロイを連れて二階から下りてきた。エンプロイが開口一番、疑問を口にする。

「どうした」

「まだ席が空いてるなら、また雇われに来た感じだ。ヴィクターかチャーリーぐらいまで、どのくらいで行く予定だろう」

「もちろん、君なら歓迎だ。街には三日ほど滞在することが多い。移動に昼夜を問わないのは知ってるな。滞在三日で移動がすべて順調ならヴィクターまで一ヶ月。チャーリーまでは一ヶ月半と言ったところだろう。できる限り早く移動するだけなんだがな」

「言い方を変えよう。仲間と合流するまで雇ってくれ」

「銀貨三枚で、夜の旅は銀貨六枚だ」

「五枚……と言いたいが、銀貨四枚と大銅貨一枚で」

「銀貨三枚に大銅貨一枚。夜の旅は倍」

「四の八」

「いいだろう、四枚八枚で。支払いは人里に着く度だが、仲間と合流できるまで街に着く度に契約という形にしよう。また、よろしく頼む」

「助かる。こちらこそ、また世話になる」

 エニイペアが仲間たちと合流するには、更に一ヶ月と半分ほどの日数が必要だった。王都との往復を経た再合流は早ければ二ヶ月ほどで可能だが、合計すると予定していた日数の三倍程度をかけてしまっている。合流直後の仲間たちからの信頼は三分の一ほどに減じていたが、無事に合流できたこともあって刻を置かずして元に戻った。何より次の遺跡踏査が待っている。余計な移動で時間を使った、として報告審査で減額されるかも知れないが、エニイペアにとっては遥か未来の話だった。

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