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朝焼け色と深海の色  作者: 紫月 紅
6/7

忘れていたこと

「二人とも賑やかだねー。私も入れてもらおうかな。」


人の良さそうな笑顔でやってきたのは長兄ジュリアンだった。柔らかな表情と声色は数多のご令嬢や貴婦人をも虜にし、中性的な顔立ちの割りに剣術や経営学に長けていた。ルイーズのことをそれはそれは溺愛し、ルドヴィスとは異なり自他共に認めるシスターコンプレックスだった。勿論、弟のことも可愛がっているし、どちらともに過保護ではあるが、ジュリアンの場合は本人の意思・意見は尊重するタイプだった。・・・・・・ただ、相手をうまく誘導して自分の思う通りに動かすタイプなので彼をよく知る友人たちからは腹黒いと恐れられていた。


「ジュリアンお兄様!!」


大好きな長兄の登場にカップを置いて抱き着きに行くルイーズに面白くなさそうな次兄。可愛い妹を抱き止めながらジュリアンは勝ち誇った顔で弟を見やった。


「お早い登場で。」


「素っ気ないなぁ。ルドもくるかい?」


ルイーズの頭を撫でながら弟にも手を差し伸べるとウゲーと声を出しながら頭を振るルドヴィスにくすくす笑った。


「ミリー、お茶をもらえるかな。」


柔和な笑みを見せてはいたが、やんわりとこれからのことを話そうとしているのだとミリーは察知し、部屋を出た。


「殿下が褒賞としてルイーズを妃にと望む理由はきっと理由があるはずなんだ。情報では外の貴族から反発もあったらしいけれど、一目惚れということにして押し切ろうとしたらしい。ノア様側の人間の前で発言されたと。・・・・・・近頃、皇后様の体調が芳しく無いらしいんだ。殿下は第二皇妃のご実家が怪しいと睨んでいるみたいでね。ノア様のお相手にと噂されるルイーズを潰す目的だったと思う。」


「殿下にも母親を心配する血は残っていたんだな。」


「ルド、不敬だぞ。・・・・・・。これはまだ確かじゃ無いが、皇后の実家である公国の動きがきな臭いと。陛下の崩御を狙っているのでは無いかと囁かれている。ルイーズを手に入れることで何があっても父上を黙らせる算段じゃないかと思う。陛下に何かあれば父上が動くとわかっているからね。」


「政治利用か。考えそうなことだ。最近殿下に資質を問う声があるのも確かだしな。残虐すぎて皇太子に相応しくないと陛下に進言している者も居るらしいぜ。」


「うちの家紋を後ろ楯にすることで統治しようと考えていると見るのが妥当だろうね。それにルイーズについて鍵回っている連中がいるらしいんだ。あの一週間について。」


「今更か?何故?」


「あの一週間の間に何があったのか教会側と接触しているらしい。」


「私何も特別なことなんか無いわ!それに記憶だって曖昧だし・・・・・・。」


兄二人はどことなく変な表情をしてお互い顔を見合わせると、言いにくそうにルイーズに語り始める。


「お前が一週間行方知らずになった時、不思議なことが起き始めた。」


「居ないはずのルイーズの姿を私たち家族は夢に見ることができた。それも鮮明に。居場所は全く検討も付かなかったけれど、ルイーズの無事だけははっきりとわかったんだ。」


「何それ・・・・・・?」


「どうしてかはわからない。でも誰かと一緒に居ることは確かだった。楽しそうに誰かと話している君の姿を見ていたから。声は聞こえてこないけれど、とても穏やかに楽しそうにしていたよ。」


初めて語られる言葉に何故隠していたのかわからず困惑した。それにその魔法みたいなのはなんだったのか。


「一週間して君がベッドで横たわって見付かった時、ベンネッタは薄い金色に輝く膜のようなものにくるまれていたと言っていた。勿論父上も私たちもよく意味がわからなかったけれど、それから時々不思議なことが起きるようになった。」


「不思議なこと?」


「ルイーズの近くにキラキラした何かが飛んでいる時があってね。・・・・・・時々そこには居ない誰かと話しているようだった。もう覚えていないようだけれど。」


その瞬間ルイーズは体が冷たくなった感覚がした。今まで何故忘れていたんだろうというくらい頭の中に断片的に記憶が蘇る。何か大切な約束をしていたこと、ずっと何か大切な者が近くにいてくれたのに忘れてしまったこと。小さい時にだけ見えていた何か。でも断片的にしか思い出すことができない。


「・・・・・・っ!」


「ルイーズ、大丈夫か?しっかりしろ、ルイーズ。」


頭を抱えるルイーズに二人は慌てた。まだ話すべきじゃなかったとジュリアンは後悔し、痛むような仕草をするルイーズの肩を支えるルドヴィスは大丈夫だと言い聞かせるしかなかった。ルイーズは何故こんな大事なことを忘れていたのか思い出せずに困惑した。割れそうなほど痛む頭にどうしていいのかわからなかった。ミリーが慌てた様子で入ってきて手を握ってくれると幾らか落ち着くことができたが、そのまま暗転し、意識を手放してしまった。

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