表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
朝焼け色と深海の色  作者: 紫月 紅
4/7

思い出

大公家への攻撃かとも考えられたルイーズの失踪事件は一転終わりを迎えることになる。ルイーズが突然帰ってきたのだ。それも、自室のベッドに。失踪中にも関わらず、普段と変わらずルイーズの部屋の清掃をしていた侍女長ベンネッタがある日の朝突然ベッドで眠るルイーズを発見し、冷静沈着で何事にも動じないはずの彼女の泣き声とも叫び声ともわからない大声で屋敷中が騒然となった。皆が駆けつけた時、ベッドで眠るルイーズの手を掴んで離さず、また消えることが無いように泣きながら名を呼び続けていたことは普段の彼女からは想像もつかないと言われたくらいだ。大公夫人は愛娘のもとに駆け寄るやきつく抱き締めて泣き叫び、長兄はルイーズを抱き締める母ごと妹を抱き締め、次兄はただただ静かに泣き続けた。屋敷中がルイーズの帰還に一先ず安堵し、怪我などが無いことが確認されると執事長始め使用人一同が咽び泣いた。誰からも愛されるルイーズ。大公は陛下への報告と謝辞の為に愛娘の無事を確認したかったが、馬を走らせた。その道中神に感謝し、静かに一人涙する彼の姿は誰も知ることは無い。



ルイーズは皆の泣く声に目を覚まし、屋敷中の者が入れ替わり立ち替わり顔を見に来ては涙している姿に困惑しながらも自身の身に起きたことを聞かされた。そして、驚いたことにその間の記憶が朧気なことに気が付いた。靄がかかったようではあるが怖かった感じは無く、むしろ楽しかった気がすることも不思議だったし、自分の身に起きた夢の中のような話が実際に起きたことが不思議だった。それからしばらくの間は女性の護衛や侍女長を始めとした侍女が交代で片時も離れることなくルイーズを守り、母もほとんどの時をルイーズと共に過ごしていた。父は夜中になると何度もルイーズの顔を見に来ては心配そうに髪を撫でた。寝たフリをする愛娘に気が付いていなかったわけでは無いはずだが、普段忙しく厳格であった父がこんなにも愛してくれているのだと実感することができたことは、それまで愛されているのか不安だった幼い彼女に安心と安寧を与えたことは間違いなかった。兄たちは毎日のように部屋を訪れては大切なものを妹に差し出した。一番上の兄からはわかるが、二番目の兄さえも自分を労り、普段から大切にしていた祖父から賜った美しい宝石でできた家紋を彷彿とさせる小刀まで渡してきた時は何ともくすぐったくて気恥ずかしかった気がした。それからは何ら変わったこともなく日々を過ごし、父が連れてきたミリーと共に育った。ただ時折あの一週間の間の大切な何かを忘れてしまっている罪悪感に苛まれることもあった。それに断片的ではあったけれど思い出すのは一人の男の子の姿。ルイーズより年上の天使のような顔をした美しい彼は何かを話ながらルイーズに花冠をくれた。声が聞けないことや何を話しているのかがわからないことは残念だったけれど、その時の嬉しい気持ちや幸せな気持ちは思い出すことができたのだ。いつしか彼を探したいと思い、内緒で家族に打ち明けた。驚いてはいたが探す努力をしようと約束してくれた。ただ、子供の話すことだけでは特定することは難しく、ついぞ見つけ出すことは叶わなかった。


「彼の方はきっとお嬢様を大切にしてくださると思うのですが・・・・・・。あぁもどかしゅうございます。」

「・・・・・・こんなことならもう一度だけ拐っていただけないかしら。」

「それはいけません。奥さまたちが悲しまれます。ご連絡することができて、ミリーもお連れいただけるなら考えなくも無いですが。」


茶目っ気たっぷりに笑うミリーにホッとした。


「聖堂への出入りは誰かと一緒でなければいけないと言い聞かせていたはずなんだがな。」


ハッと振り向くとドアに凭れた不機嫌そうな次兄ルドヴィスが居た。


「何故私が聖堂に居たと思われるのですか。」

「聖堂への扉が少し空いていたからな。むしろわからないと思っていることに驚きだ。」


やれやれというように溜め息をつくルドヴィスはむすっとそっぽを向くルイーズに片側だけ口角を上げてソファに腰を下ろした。


「あまり心配かけるなじゃじゃ馬。今居なくなったら一大事だ。」

「・・・・・・お兄様は私なんか居なくても良いくせに。」


ぽつりと呟くルイーズの言葉はミリーにしか聞こえていなかったのか次兄は髪を結われているルイーズを見つめていた。ルイーズは背を向けているからわからなかったが、彼女を見つめるその眼差しは慈しみに溢れていて愛しそうな優しい眼差しだった。ミリーはルイーゼが何故勘違いしているのかは分からなかったが、普段からルドヴィスがからかったりしているのが原因だとは思ってはいた。その為、どう声をかけて良いのかわからず苦笑するしか無かった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ