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朝焼け色と深海の色  作者: 紫月 紅
2/7

皇太子

読みづらかったので分けました。

現皇帝イリス・フォン・ドラルヴ・レジェラには皇太子アダン、第2皇子ノア、皇女アリドアが居る。苛烈な性格の父親に似たアダンは、欲しいものはありとあらゆる権力や力によって手中に納め、弟妹にすら畏怖の念を植え付けていた。この国はいずれ自分のものになると信じて疑わず、自分のものならば何をしても良いのだと、父親の残虐性や好戦的な思考を正しく受け継いでいた。戦争が大好きで捕虜として捕らえた敵には死よりも苦痛な虐待や実験を行い、時に父皇帝からをも止めるように勅令を受けることもあった。今や皇太子は恐怖そのもの。誰も咎めることはできず、従うほか無い。そして半年前に起こった隣国との戦争で自らも第一線に赴き、見事勝利してみせた皇太子が父、皇帝に褒賞として望んだものは美しい娘ー・・・・・・大公爵家令嬢ルイーズとの婚約であった。


「お嬢様、お加減いかがでしょうか。」

「・・・・・・大丈夫よミリー。眠れないだけだから。もう下がっていいわ。」


聖堂から自室に戻ったルイーズはソファーに凭れ今後について模索していた。小さいノックの後、長年使えてくれている侍女ミリーが心配そうな顔でこちらを窺っていた。その手にはルイーズが一番大好きな紅茶と小さめのスコーンが添えられており、こんな夜更けにもかかわらず自分を気遣ってくれているのだと嬉しく思った。


「旦那様には早馬でお手紙をお送り致しましたので、すぐにお戻りになられると思います。・・・・・・お痛わしゅうございます、お嬢様。」


先程泣いた跡に気が付いてしまったらしいミリーは悲しそうな顔を見せた後、一度下がり冷たい水桶と布を持って戻ってきた。赤く腫れた瞼に添えられた濡れた布は冷たく、優しく手当てをしてくれるミリーにまた涙が溢れた。


「僭越ながら申し上げます。これはミリーの独り言とお聞きくださいましね。・・・・・・私はアマンステラ家に忠義を誓っております。ですが、私は生涯お嬢様の侍女であり、お嬢様を主にと旦那様よりお許しをいただいております。」

「ミリー?」

「お嬢様が殿下とのご婚約をなさるとしても、自由の選択をお選びになるとしましても。私の全てはお嬢様の御心に寄り添い、お傍に居りますことをお忘れなさいませんように。」

「・・・・・・ミリーには幸せになって欲しいわ。心から愛する人と結ばれて生きて欲しい。十分尽くしてくれたわ。」

「お嬢様は失念されております。私の幸せはお嬢様と共に在ることです。この美しい御髪を結える喜びは侍女の中でも私のみの特権ですもの。」


ルイーズの気を紛らわせようと柔和な笑みで話すミリーの優しさに段々と心が凪ぎ、落ち着きを取り戻すことができた。幼い頃、両親共に亡くなり、親類一同から不当に爪弾きにされた元子爵家の娘であったミリーを縁あって父公爵が引き取り、ルイーズの遊び相手兼侍女として共に育てた。内外ともに敵の多かった大公家では選定に幾つか厳しいものはあったが、屋敷で働く者は皆とても大事にされていたし、大公夫人は年端のいかない侍従・侍女にも字の読み書きやマナーを教え、自分の子供達と同様に愛情を持って接してきた。ここでしか仕えたことが無いミリーにもこの待遇が異例であることは十分理解していたし、他の者たちも大公家で働けることに大きな喜びと感謝を持ち、大いなる誇りを持って仕えていた。世間では大公家で働くことは非常に困難であり粗相をすれば一度たりとも許されず、殺される。ドラルヴスの悪魔に仕えることは大変恐ろしいと噂されていた。実際には厳格な周囲統制によって仕える者たちは守られていたし、確かに厳しくはあったが命を取られるなんて馬鹿げたことはもちろん無く、むしろ仕えている者同士が互いを叱咤激励し合い、主に心からの忠誠心を誓っていただけだった。口さの無い噂は大公家で雇われたくとも受け入れてもらえなかった者たちの嫉妬からくるものに過ぎなかった。

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