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ユメが結んだ十二使徒  作者: 成瀬丈二
1/1

契約は計画的に

うん、これはとある海外TRPGの影響を受けていますね。

ですが‥‥これはファンタジー世界ですよ。ファンタジーです。大事な事なので繰り返しました。

◆歴史じゃくて神話の時代

 かつて神がひと柱だった時代。

 ただ、仮面を作り出し、それを被っていた。

 無の中にたゆたう『灰色の闇』を素材に、仮面の神は世界を造り出そうとした。

 仮面の神は自分が全能ではないと知っていたので、世界を形作るべく、地水火風の精霊を、灰色の闇から引きずり出した。

 しかし、精霊たちは自分が従う法則通りにしか動かず、神が命じなければ何もしなかった。

 そこで仮面の神は思考をめぐらし、自分の代わりに、精霊たちに命ずる下僕を作り出そうとした。

 自らを引き裂き、産み出したのが、天使と魔皇である。

 天使たちは、自ら知恵をめぐらし、いちいち精霊に指示するための『もの』を作り出した。それは奥行きも幅もあり、高さのある『紋章』だった。

 天使は仮面の神が、眠っている間に、仮面からこの『紋章』を産み出す。

 この『紋章』による命令に従い、精霊たちは世界を造りだした。

 これを快く思わないのは魔皇であった。

「自らならもっと上手くできる」

 その言葉は天使たちへの嫉妬であった。


 嫉妬で動く魔皇たちは、不意を打ち仮面の神を打ち殺した。

 はいだ仮面を砕き、自分たちだけの『紋章』を作り出す。

 こうして、世界に死と虚言、嫉妬がばらまかれた。

 魔皇たちにとって『紋章』は支配の言葉だった。

 お互いを支配し合い、あるいは欺き合う。

 こんな混乱が世界を闇に落とし込む。

 世界の源となった『灰色の闇』──この禁断の混沌を支配しようと試みる魔皇──もっとも愚かな魔皇により、世界は乱れに乱れた。

 矛盾した語彙による『紋章』の拘束力も乱れ、精霊たちは最後に下された指示を破り、世界を造り変えた。

 そこで生まれた小さきもの達。それは人と呼ばれた。

 最初の人は、仮面の神の死体から生まれた。

 つがいである彼らは魔王にも天使にも、争いをやめるように懇願し『灰色の闇』を世界の外に追い出そうとした。

 最初の聖女『ルアー』は世界を支えるために、矛をひくように『天使』に懇願し、最初の賢者『ルバート』は『魔皇』たちに、騒乱をやめるように懇願した。

 賢者と聖女は、仮面の神の死体を材料に、ひとふりの剣を作り上げた。銘は『時』という。


 この剣は『灰色の闇』を斬り裂いた。

 また賢者と聖女は力を合わせ剣の銘をとり『時の法則』と呼ばれる世界を包む法則を作り出した。

 内容は、永遠などない。精霊が生み出した世界にいるものはいずれ『寿命』で死ぬ。

 この法則は自らを不滅と信じ、専横を行う魔皇も天使も、恐れざるを得なかった。


 彼らは世界の天頂に吹き込んだものと、天底に落ちた『灰色の闇』を素材にして産み出した、宮殿に引きこもる。

 天使と魔皇の間に協定が結ばれた。

 新たな秩序である『紋章』に従い、下位の天使や魔皇は相変わらず、世界を訪れる。

 しかし、お互いの首魁が出なくてはいけないような、大いくさは起こさない、という盟約が結ばれた。

 こうして、世界の誕生から数万年たった。

 魔皇は世界に自らの下僕『魔王』を設け、天使たちは『勇者』を産み出し、幾度となく争ったのである。

 紋章の強制力ゆえ、地上に召喚される魔皇もいた。天使もいた。

 そんな、人の願いと欲望は尽きるところを知らない。

 魔皇も天使も『紋章』の力を抹消するように信者を動かす。

 とはいえ、世界は滅んでいない。しかし、勝利者などいない戦いであった。


◆歴史じゃない日常の時代

 多分ぼくは頭が良い。

 ユウという男の子は、昔からこう思っていた。

 問題はそれでも自分を肯定できないのである。

 たしかに、神殿で教える読み書きは、一週間程度で基礎を覚えた。

 その延長で計算なども当たり前にこなせる。

 しかし、普通の農夫であるユウの両親にしてみれば、体格の劣って頭が回る子供よりも、健康で体格のいい子供の方が家を盛り立てるにはありがたい。

 読み書きそろばんで畑は耕せない、そんな即物的な考えであった。

 ユウは三男だ。いかに賢しかろうと、長男のコブシには逆らえない。

 しかし、村の寺院で読み書きを教えていた、ビーンという神官は、ユウの頭の良さから、得ることの少ない、鋤と鍬に縛りつけられてしまうのを惜しく思った。

 神官と家族の間で、ユウの将来に関する話し合いがもたれる。とはいえ、ユウの両親の反応は芳しくない。


 だが、そのとき、予期せぬ幸運があった。

 ユウより七歳年上の長女が、未婚のまま孕んだのだ。結婚式をあげないわけには行かない。

 神官は結婚式の代償として、ユウの身柄を引き取った。

 ビーンには、牛一頭を受け取って婚礼を祝福するより、ユウという人材を確保することの方が大事だと思ったのだろう。

 とはいえ、需要と供給は一致した。

 十年の聖都での修行後、ユウは見習い神官となって、村に帰ることが確定事項となった。

 ユウは十一歳、未来は決まった‥‥かに見える。


「とはいえ、こんな子供を引き取るとはな」

 ネイザン師匠が自嘲気に言った。

 彼は魔道師ウォーロックだ。諸々の精霊を友、あるいは下僕として使役し、超常の現象を起こす‥‥と、世間では見られている。

 ネイザンが聖都に向かう馬車の中で知り合った子供が‥‥非常にクソガキ‥‥だったことが判明したのだ。

 馬車で揺られているときに、奥義書を広げていると、隣から覗き込んだ、少年が問うたのだ。

「なぜ、同じ文句を三度繰り返しているの?」

 多分弟子が同じことを問うたら、平手打ちの末に、塔の周辺の箒がけを一週間させる。

 問うくらい奥義書の文章の意味が分かっていれば、その言葉を口に出さない。

 まあ、魔道師の弟子として、奥義書の筆写をすることはある。しかし、それくらいまで修行をすれば、迂闊な質問をすることは、師匠からは理不尽な扱いを受けるものだと学ぶだろう。

 だが、自らの奥義書を持てる域に達するのは大抵十八才か、そこらまでの修行の末。

 だから、ネイザンは興味を持ってしまった。

「ある紋章を並べると、災いが起きる。そのためにこうやって紋章を分けているんだ」

 二重のニュアンスがある、おなじ『紋章』をみっつ繰り返す魔法は少ない。そして、同じ文句を繰り返すことをルールとして叩き込めば、多少文書が欠損しても、頭の中で修復が可能となる。

 まあ、奥義書が三倍の厚さになるのは、しかたないことだ。

 四倍になるよりはいいだろう。

 もはや、魔道師にとっては、そういう慣習だからとしか言えない、そういう慣例なのだ。

「魔道師様、神官見習いがとんだ粗相を‥‥」

 と、少年を連れていたビーンが頭を下げる。

「魔道師?」

 ユウは小首を傾げた。

「神官とどう違うの?」

 ネイザンはいらぬ教師風を吹かせる。

「神官は神のしもべである神殿が下さった紋章の力で、神の教えを人々に広める者だ。魔道師は、紋章の力で精霊、天使、悪魔に命令を下す者だ」

「ま、魔道師様、子供のいう事ですので」

 ビーンは汗をかき恐縮する。

「魔道師かあ‥‥」

「興味があるのか?」

 ネイザンはつい問うてしまう。

「ユウよ‥‥お前は神官になって村に帰るんだろう?」

「村ではぼくのことなんて忘れるよ」

 ビーンの言葉に、ユウはつい言い返した。

 ネイザンはつい言ってしまった。

「そういう奉仕契約なら、私が少年を買い取ろう。本人が魔道師になりたければ、だがな」

 多分長期の家庭教師の仕事、そこで得た『経済的余裕』がつい軽口を叩かせてしまったのだ。

 ユウは金貨二枚と、銀貨四枚でネイザンに買い取られる。

 金貨一枚あれば牛を買えるのだ。

 安いのか高いのか、それはユウには分からなかった。

 だが、この金貨二枚はユウの自由の対価であった。


◆兄弟子ウィル

 ユウがネイザン言いつけられたのは、書物の整理どころか、雑用であった。

 調理と掃除以外のほとんどすべてを、自分だけでかたづける。

 調理はネイザンが手ずからおこなう。

 掃除は奥義書に直接触れるため、熟練した弟子の分担だ。

 ユウが期待していた紋章の書いてある不思議な本はさわることも許されない。

 だが、そんな中、仲良くなった年上の弟子もいた。

 弟子というのは適当ではない。みずからの奥義書を作り、旅に出た身だ。

 名はウィル、宝探しであった。

 どうにも人間としては薄っぺらい、そんな感じをユウを感じてしまう。

 多分に食事の好き嫌いが激しいのも、ユウの偏見をかきたてる。

 後、宝探しという一攫千金を選べることへの軽い嫉妬もあった。

「いやー、ししょーがまた弟子をとるとはなー」

 十八になるウィルは、ユウのような年下に軽く当たる。

「家庭教師もいいけど、魔道師ならいろんな精霊を従えてナンボだよな」

「精霊? 地水火風だよね」

「まあ、普通の魔道師は精霊を二体従えれば御の字だな。でも裏技があるんだぜ──いや、一周回ってド王道な方法」

「王道に興味はないけど、裏技には興味があるなあ」

「簡単さ、上位の精霊と契約する。で、上位精霊が支配している下僕を貸してもらう」

 また、契約か。ユウはそう思ってしまった。

「まあ上位の精霊に来てもらって、契約するなんて、そうそう出来るもんじゃないな」

 自慢気なウィルだった。

「師匠はどんな精霊従えているの?」

 ウィルは笑って、ユウからの質問をかわし、彼の額をひとさし指ではじいた。

「おお我が弟弟子よ、それは自分で突き止めるんだな。なぞの解けない魔道師は魔道師じゃないぜ」

 弟弟子‥‥間違ってはいないが、納得はしたくないユウだった。


◆初恋

 とはいえ、ウィルが自慢げに魔法を使って見せる事はない。

 精霊を現世に召喚するには、魔道師は精気──生体エネルギー──を精霊に捧げる必要がある。

 単純に言えば『疲れる』のだ。

 彼が眠ったスキに、ユウはウィルの戦利品から古びた本を出して読んでみる。

 多分、これは奥義書と言っても、他人のものだったのだろう。

 ユウはそう思った。奥義書は大事に保管されているものだからだ。

 しかし、ユウが息を殺して奥義書を開くと、拍子抜けした。

 ユウが奥義書をめくるたびに、ネイザンの書物で見たような、みっつの紋章が繰り返されるわけではない。

 所々がこの付近の言葉──帝国語で記されている。

 そこからユウは安直に、単純に古いだけの本と思ってしまった。

「け‥‥獣の数? 召喚の名前‥‥」

 ビーンが語っていたおとぎ話だ。確かに聞いたような気がする。

 だが、ネイザンが教えようとしている、ひとつの紋章をみっつ繰り返す派とは別の、紋章の魔法の隠蔽方法であった。

 それからウィルがネイザンを来訪する度に、その奥義書を書き写すのだった。

 まるで忍び恋のようだ。いや、ユウにとっては初恋かもしれない。

 合間合間に、ネイザンが基本的な紋章を教えていく。

 シンプルな語彙であったが、ユウにとっては、ウィルの魔導書を正しく写すのに必須となってしまった。

 しかし、ウィルは急逝する。

 戦士──冒険者にはつきものの不幸だ。

 魔法は万能ではない。

 それから半年の月日が流れた。


◆初めての魔法

 ユウは、ウィルが持っていた奥義書の『完全版』を実行してみたくなった。

 少年は自身の魔法の実践があくまで応用であり、基礎を知ったわけではないことに気づいていない。

 ただ、ユウに分かることは、正しい奥義書と、魔法円の一種『召喚の円』が必要という事だ。

 ネイザンの塔、その地下室にある『召喚の円』の中で奥義書を開けばいい。

 漠然としたイメージだ。

 ただ、ネイザンが掃除を始める前に『召喚の円』は、石に彫りつけてあり、希少な素材を使われている。

「なので中に入らないように──まあ紋章の刻んだものが中に入ったら、迷わず私を呼びなさい」

 この言葉をネイザンが言った事が呼び水となってしまった。

 裸足でユウは『召喚の魔法円』の中に入り込み『完全版』を開いた。全ての紋章が光り輝き、まるで踊りを踊っているようだ。

──そうユウは魔法を見たことがないのだ。

「我が言葉に従え」

「癒しなさい」

「守りなさい」

「探しなさい」

「‥‥」

「‥‥」

「‥‥」

「‥‥」

「愛し合おう」

「ぼくを愛して」

「ぶっつぶせ」

「ケケケ」

 世界を形作る天使、精霊、悪魔が一斉に召喚された。

 幸か不幸か『召喚の円』の『格』では、魔皇や神は召喚出来ない。

 加えて諸々の、動物霊や浮遊霊がユウの体に潜り込む。

 少年の体が、あたかも小規模ないくさの如きありさまだった。

「ユウ?」

 ネイザンが魔法円の掃除に行ったユウが戻ってこないのを、危惧して地下室を叩く。

 しかし、ネイザンの感覚が異常なまでの霊的な事象を感じ取った。

「来たれ!」

 風の精霊に精気を与え、不可視の戦鎚と化した。

 一撃で地下室の扉は吹き飛ぶ。ネイザンは魔法円の中で倒れ伏すユウを視界に捉える。

 魔法円の周囲に無数の影と光が乱舞している。

 だが、視線にとらえたのは──。

「奥義書をなぜ?」

 紋章とユウは接触しないようにしたはずだ。

 考えるよりも早く、ネイザンは手にした剣で、魔法円の一部を砕いた。

 原因は分かったような気がするが、ネイザンは急ぎ精霊たちの退去を試みる。

 魔法円を破壊したことで、これ以上は新たな霊的存在が召喚されることはない。

 ユウが思い違いは『召喚の円』の中に入ったことで紋章が起動したのではない。

『召喚の円』の中に、精霊を召喚して表から契約を結ばせるのだ。

 その力関係が逆転したことで、ユウの肉体は悪魔と言わず、雑霊と言わず、開かれたドアも同然だった。

 ネイザンは自身の使役する上位精霊たちに命じて、上位精霊の支配下にある精霊たちを、ユウの肉体から引きはがす。

 雑霊は力任せに破壊し、天使たちは理を解いて退去を請う。

 ネイザンは悪魔たちにも、上位悪魔──つまり諸々の魔王の権威を借りて、強制的な退去をした。

 ネイザンの知っていることはひとつ‥‥悪魔と契約してはならない。

 ユウは一命をとりとめる。

 しかし、十二体の天使と悪魔と精霊がどうしても引きはがせなかった。上司がいないはぐれた者たちだ。

まだ、終わってねえ!

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