表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

遠い世界、魔法使いのジェフ

作者: 23人委員会

 ジェフ、と名付けられた。

 誰に名付けられたのかは覚えていない。


 気付いたら老人でもないのに杖を持っていて、

 銃と剣の世界で魔法使いと呼ばれていた。


 今時、時代遅れだって自分でも思う。

 そんなことないと突っかかってきた魔法使いのトールはこの間死んだ。


 餓死だそうだ。

 魔法なんて使えたって、末路はそうなんだ。


 騒がしい人混みの中を、見知った顔同士が笑い合う寒くて湿気った夜の道を、僕はほうきみたいにバカでかい杖をリュックサックみたいに背負って歩く。



 黄色い点字ブロックを見つめながら、

「わああの人、なんかの仮装かもね」とスマホでパシャパシャ撮られながら。


 竜人を探している____。

 遥々杖で海を渡ってこんな場所にまで来たのは、奴を探して、いぶり殺す為だ。



 カランコロン.



 見知らぬ店。

 腹が減ったからろ銭も持たずに、僕はパンケーキをほおばった。


 カランコロン.

 警察が来たので、慌てて逃げる。

 銃を取り出した警察たちが、杖にまたがり空に舞い上がる僕を見上げ、口をあんぐり開いている。



 ………無知なやつら。

 これだから、都会は……。



 夜風を突っ切る。

 月を横切る。轟音と共に発泡された鉛の弾は僕には届かない。


 ストン、月が見下げる赤赤とした東京タワーの天辺にモカシンの革靴を履いた硬いかかとから降り立った。血の匂い。


 東京タワーの、槍みたいな頂上部分に人が突き刺さって死んでいた。黒いローブをまとった若い女ーー今時珍しい魔法使いだ。


 彼女も海を渡ったんだ。

 それだけの力がありながら、爆ぜた蛙のように内側から胞子状に裂けて死んでいる。


 死骸。

 僕は見なかったことにして、地上に降りた。



 僕の目的は竜人だ。

 トールの兄弟が、竜人の鱗を煎じて飲まないと死んでしまう。だから。




 カランコロン.



 ろ銭を持たない僕は、ストロベリーパフェを腹が砕ける前まで平らげた。今度は警察が来る前に、窓ガラスを突き破って、空へと逃げた。


 だから、帰りはカランコロンが鳴らなかった。





「安西店長、皿洗いがしたいです」





 それが僕の本心だった。

 竜人が見つけられず季節が春になってしまった僕は、

 履歴書を求めない中華料理屋で、週に3日働き始めた。


 6畳ワンルームのフローリングに住む僕は、

 この間ア○マに出たら「生きる知恵を持たないバカな男」とダメ出しされた。


 確かにそうかもしれない。

 なあ、トール。

 生真面目に皿を洗いながら、僕は色白で可愛い顔をした死んだ友人を思い浮かべる。


 僕らは今時、大して役に立たない魔法だけを覚えることに人生を捧げてしまった。


 杖から火や水が出ても、僕らはミサイルには敵わない。

 空を飛べても、ジェット機には抜かされるし大魔法使いでもない限り宇宙ステーションまでたどり着くことも無理。


 情報革命のこの現代に、太平洋に囲まれた小さな島と共に、僕ら魔法使いはすっかり置いてけぼりにされてしまった。




「あ、」




 絶対そうだと思った。

 女物の魔法使いの杖を持った、顔や肩や頬、あらゆる箇所が緑の鱗で覆われた化け物が「バンバンジー」を僕に頼んだ。


 その時、

 僕は店員で黒い伝票を持っていて、

 世界でただ一人の竜人は口の端からニョキリと牙を剥き出しにしていた。


「バンバンジー、一つください。

 チャーハンと取り皿も」


 注文を繰り返して、

 厨房でオーダーを伝えて、それからロッカールームに走った。


 あいつが店から出て行かないうちに杖を手に取り、あいつの所に行って、日本では100円玉にもならない巨大な火の玉であいつを殺さないと。



 ドッカーン、と火山が噴火した。

 僕らは、見知らぬ島にいた。

 僕らの恐ろしい戦いは、東京を廃都と化し、安西店長にこれ以上迷惑は掛けられないと僕らは太平洋のとある諸島の一つに闘いの舞台を移したのだ。


 これは地球規模の戦いなのだ。

 僕らは、僕らの戦いに干渉してくる各国のミサイルをことごとく迎撃し、世の中に恐ろしい魔法の国と化け物みたいな竜人と呼ばれる種族が在ることを全世界に思い出させた。



 最後は、呆気なかった。

 僕が放った空気刃が、大地を裂き海を裂き、空を飛ぶ竜人の肉体を火柱の如きブレスごと切り裂いた。




 竜人の鱗。

 死んだ魔法使いのトールの幼い兄弟に、僕はそれを煎じて飲ませた。


 ラジオから流れるニュースでは、東京はすっかり復興し

 復興の好景気に沸き立っていると若いアナウンサーが浮き足立って話していた。



「…‥…ジ…ジェフ、ありがとう」



 トールによく似た幼い顔が、

 僕のやけに汗ばんだ額を撫でて、そう言った。


 僕らの住む小さな家の前に広がるコバルトブルーの海は、

 波の音もささやかなもので、昔からちっとも大きくならない。


「ねえ、ジェフありがとう」


 ヤシの木に腰掛ける僕に、

 血色の良い顔がそう言ってきんきんのレモネードをくれた。



 ストローで吸い上げると、

 甘くて新鮮な味がした。



 トールが死んでから、魔法使いが暮らすこの島も、やっぱり少し変わり始めた。鼻の奥がツンとして、そんな気がした。















お手数ですが、

感想どしどし下さい(( _ _ )).

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ