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こんなはずじゃなかった

 なんで、なんで、なんで! なんでよ!!

 お義姉様よりもあたしの方が可愛いのに! お義姉様よりもあたしの方がお父さんにもお母さんにも愛されて育ったのに!!


 ダニエル様はあたしを見ない。あたしをここにいないお義姉様だと思い込んで、あたしをお義姉様の名前で呼ぶ。あたしよりもお義姉様の方が良いみたいに。


 たまに正気に戻ったと思ったら、あたしを罵る。お義姉様を連れ戻せと言って、酷い言葉であたしを追い出そうとする。

 そのくせ、あたしをお義姉様と思い込んでいる間は「誰よりも君が愛しいよ」とか「君だけを愛してる」なんて言う。


 お義姉様のどこが良いのか分からない。絶対にあたしの方が可愛いのに。


 夜会でだって、お義姉様よりもあたしの方が男性に人気があった。甘い言葉に乗ってあげれば喜んで、つれなくすれば悲しんで。みんながあたしの言動に一喜一憂してた。

 お義姉様はといえば地味な装いでダニエル様と連れだって挨拶回り、ダンスはダニエル様とだけ踊って、そのあとは一人で壁の花か女性とばっかり話している。そして時々ダニエル様が様子を見に来る。


 そんな地味で冴えないお義姉様なのに将来は侯爵夫人が約束されていて、あたしは婿を取って伯爵夫人。お義姉様は養子なのに、そのくせあたしより地位が高くなる。そんなのおかしいじゃない。

 ダニエル様だって地味で冴えないお義姉様よりも、可愛くてみんなに人気のあるあたしの方が良いに決まってる。

 そう思って、あたしは聞いてあげた。


「ダニエル様もあたしのこと大事に思ってくれてますよね」

「うん、そうだね。大事だよ」

「うれしい……」


 あたしがはにかむように笑ってみせればダニエル様も微笑んで答えてくれた。

 だからお父様にあたしをダニエル様の婚約者にしてほしいって頼んで、あたしがダニエル様の婚約者になったのに。


「なぜだ……?」


 ダニエル様は蒼白い顔をして地の底を這うような声であたしに聞いた。


「なぜ、なんのために、婚約者が入れ替わるんだ……?」

「だって、あんなお義姉様よりもあたしの方が将来の侯爵夫人に相応しいじゃないですか。それにダニエル様だってあたしの方が可愛くて好きでしょう?」

「なにを言っているんだ? 君のどこがアイリスより侯爵夫人に相応しい? なぜ僕が君を好きだなんて思うんだ?」

「はぁ? なによそれ。お義姉様よりあたしの方が可愛くて人気があって、ダニエル様だってあたしのこと大事だって言ったじゃない!」

「君がアイリスの家族じゃなければ大事だなんて思わない」


 吐き捨てるようにダニエル様はそんなことを言う。頭がおかしいのかしら。まるで、あたしがお義姉様より劣ってるみたいな言い方。しかも、婚約者をお義姉様に戻せなんて言う。

 そんな酷いことを言われたとお父様に言いつけたら、お父様はお義姉様を修道院に入れてくれた。これでダニエル様はお義姉様を婚約者に戻すことなんかできない。お義姉様なんか目に入らない。


「どうしてそんな非道なことができる!!?」


 ダニエル様に詰め寄られてあたしは腰を抜かした。男の人に怒鳴られたのなんて初めてだった。使用人が止めてなかったら殴られていたかもしれない。


 意味が分からない。

 非道ってなに? なにが非道なの? あたしが伯爵夫人止まりで、お義姉様が侯爵夫人になることの方が非道じゃない? あたしの方がリグリー伯爵の本当の娘でお義姉様はただの養子なのに。


 社交界でだって、ダニエル様とお義姉様が婚約していたのは政略のためで、両思いのあたしたちをお義姉様が妬んであたしを虐めたから修道院に送られたんだって噂になってる。みんながそう思うのは当然じゃない? だってあたしの方がお義姉様より可愛い。女性は誰だってあたしに嫉妬するし、男の人なら誰だってお義姉様よりあたしを良いって言う。


 それなのにダニエル様はお義姉様を返せとしか言わなくて、段々とおかしくなっていった。幽鬼のようにお義姉様を探して、あたしに怒鳴りつけて、暴れる。


「アイリス、こんなところにいたのか」


 ある日、婚約者としてうちに来たダニエル様はあたしを見てほっとしたようにそう言った。


「当然か。ここは君の家だ」


 お父様もお母様も、付き添ってきたダニエル様のお母様のノーリッシュ侯爵夫人も呆然とするなかでダニエル様は「なんだか久しぶりに会った気がする」なんて言う。あたしの見たことがない優しげな甘い表情だった。


 敗北感。


 こんなの、あたしが感じるなんておかしい。あたしのどこがお義姉様に負けてるの。今までだってお義姉様よりあたしの方がたくさんの男の人に愛されてたし、好かれてた。ダニエル様だってお義姉様よりあたしを好きになって愛するのが当然のはずなのに。


 おかしくなったダニエル様はそのままノーリッシュ侯爵夫人と一緒に帰っていった。あとからお父様に聞いた話ではお義姉様はもういないと説得してもダニエル様は錯乱するばかり。医者にもかかったがどうにもならなかったらしい。


 じゃあダニエル様との婚約はやめると言ったのに、お父様は「さすがに、それはもうできない」と言った。お父様はなんでもあたしの願いを叶えてくれるはずなのに、今回ばかりは無理だなんて言う。


「アイリスがいない今、カレンがノーリッシュ侯爵と縁を結ぶしかないんだよ」

「じゃあお義姉様を連れ戻せばいいじゃない!」

「そういうわけにもいかないんだ。カレン、どうか聞き分けてくれ」


 結局あたしはダニエル様との婚約を続けることになり、半年後に結婚した。

 ダニエル様は相変わらずお義姉様を求めていて、初夜だって最初はあたしをお義姉様と思い込んで優しかった。でもそんなの納得できない。耐えられない。あたしはあたしなのに。


「あたしはカレンなんだってば!」

「ふざけるな……!! 修道院に行くべきはお前だったのに!」


 どうして、どうして、どうして、どうして!? なんで!!? こんなのおかしいじゃない!!

 直接言えばダニエル様は錯乱して罵倒してくるし、お義母様に訴えれば無言で首を振られる。お父様もお母様も「カレンが選んだ道なのだから」なんて、あたしが悪いみたいに言う。


 夜会に行っても陰口を言われて笑われてるのが分かった。最初はあたしの味方をしてくれた男性たちも段々と離れていった。お茶会だって呼ばれて行っても笑い者にされるだけ。

 どうして、あたしがこんな目に合わなきゃいけないの。


 こんなはずじゃなかったのに!

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とある侯爵令息の婚約と結婚-アルファポリス
https://www.alphapolis.co.jp/novel/493580555/964430884
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