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ウイルス非接触バトル  作者: ソーシャルディスタンサー
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昼食篇

 私はソーシャルディスタンスを心掛ける男。

 今は昼休憩。午後の戦いに備え英気を養う食事の時間。

 そう、食事の時間――これはかつてなら仲間たちとわいわい楽しみ、仕事からの解放を意味する尊き時間だった。しかし今ではマスクを外さなくてはならないことから、最も飛沫が飛びやすく、ウイルス侵入の危険が高い、リスキータイムとなってしまった。

 さて、そんなリスキータイムとなった昼食を、一流のソーシャルディスタンサーはどのように切り抜けるのか。

 勿論人が集まる飲食店になどはいかない。今はまだ客足が戻ってきていないとはいえ、ごく稀にソーシャルディスタンスを気にしない若者や老人軍団が来るからだ。それに店員の衛生面だってどこまで信用できるか分からない。飲食店は完全な悪手である。

 ではコンビニ等で弁当を買うのか。これも否。不特定多数が触った恐れのある弁当に触ること自体が危険であるし、そもそもコンビニやスーパーはこの時世で最も人が密集する三密地帯と言っても過言ではない。まず訪問すること自体がナンセンスだ。

 ではデリバリーはどうか? 確かにこれは悪くない。今は手渡しではなく家の前に置いてゆくスタイルが流行っているし、人との接触は最小限に抑えられる。だが残念ながら平日の昼食にデリバリーを摂る余裕はない。これは我が社の休憩時間が比較的短く、デリバリーを待っていては食べる時間が無くなってしまうからだ。それにデリバリーは普通に買うよりも値段が高くつく。仮に時間に余裕があっても常にとはいかないだろう。

 そんなわけで一流のソーシャルディスタンサーである私がどうしているか。答えは簡単。ゼリー飲料である。

 ゼリー飲料は手軽に摂取でき、種類も豊富である。エネルギー、ビタミン、ミネラルをしっかりと補うこともできる。休日にネットを使い大量注文して冷蔵庫に保存しておけば、わざわざコンビニやスーパーと言った三密地帯に行く必要もなくなる。まさに神の食べ物(飲み物?)だ。

 加えてゼリー飲料の最大の利点は、中身が外界と接する機会がほとんどないということだろう。お弁当にしろパン、おにぎりにしろ、食事という行為をする際には、基本的に食べ物を外界の空気に触れさせなければならない。それゆえどれだけ細心の注意を払おうともウイルスとの接触をゼロにすることはほぼ不可能だと言っていい。その点ゼリー飲料は中のぜリーが外界と接する時間はごくわずか。ウイルスの付着を気にすることなく味わうことができる。

 やはりゼリー飲料は神。異論は存在しないだろう。

 ……とはいえ、いくら種類があると言っても毎日飲んでいてはどうしても飽きが来る。それにお腹にも溜まりづらいし、たまには肉でも食べたく……

 ん? あそこに見えるのはいつぞやの空気椅子女子高生ではないか。歩道を何かをもって、いや――食べながら歩いている!?

 ば、馬鹿な! あり得ん!!

 このご時世に食べ歩きなど、もはや食でなくウイルスを食べると言っても過言ではないはず! 電車を空気椅子で乗り切るという、私以上のソーシャルディスタンサーである彼女がなぜこんな愚行を――

 はっ! ま、まさか……彼女が食べ歩いているもの……あ、あれは!! 鍋ではないか!!! 火の付いたカセットコンロに鍋を置き、今まさに熱しながら鍋を食べている!!!!

 こ、これはまたも盲点だ。確かにウイルスはどこにでもいるうえに、最近のやつらは生存能力も高い。だがしかし、沸騰した湯の中に入れれば奴らとて流石に死ぬ。これなら生きたウイルスが体内に入り込む余地はない。

 煮沸消毒をしながら食事をする。なんてアグレッシブな食事方法。彼女はまさにソーシャルディスタンサーの申し子とも言うべき人間だ。

 是非私も彼女を見習おう。そして明日こそは、歯ごたえのないゼリーではなく肉を食べるのだ……。


 次の日。彼女と同じくカセットコンロの火にかけながら鍋を食べようとしたところ、途中で腕の力が尽きてコンロと鍋を落としてしまい、会社が火に包まれた。私は赤く染まりゆく会社を眺めながら、足腰だけでなく腕の筋力も鍛えようと決意した。


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