幼馴染にパーティを追放された俺は食堂に就職する
ハイファンタジー初の作品です。
よろしくお願いします。
王都の町並みで多くの人々が歩く中、その中に溶け込む赤髪の男の姿がある。
しかしその男に笑顔はなく、次の職場を探しているところであった。
「お前は今日限りでクビだ。ご苦労だったな」
どうしてこうなった。
俺は王都を代表する討伐隊、『アルカディア』の回復担当として、ずっと活躍し続けてきたってのに――。
アルカディアのメンバーは総勢10人、王都にいる全てのパーティの中で唯一ドラゴンを倒して帰ってきた強者揃いだ。
その中で俺は唯一の非アタッカーだった。回復だけが超一流なのが採用理由だった。
でもまさかあの一言で追放されるとは思わなかったな。
俺の名前はルビアン・コランダム。俺は幼馴染にしてアルカディアの隊長であるモルガン・ベリルにパーティを追放されたところだ。
彼女はピンクの髪で、それはもう強さと美しさを持ち合わせた凄腕の剣士だ。
追放された理由は至って簡単だ。
回復担当が要らなくなったからだ。
回復薬に必要な材料である『ポーションプラント』が継続的に大量発生するようになり、それによって回復薬の値段が大幅に下がってしまい、回復担当の価値がなくなってしまったのだ。
しかもあの高等回復薬であるエンペラーポーションが格安で誰でも手に入るようになった。
かつてはその希少性から皇帝のみが使う事を許されていたためにその名がついた。
それらの要因が重なり、回復する以外に能がない俺はパーティの一員として通用しないと見なされてしまったのだ。
「ルビアン、そんなに落ち込んでどうしたの?」
声をかけてきたのは食堂のお姉さん、ガーネ・メラナイト。俺が王都へやってきてからずっとこの食堂で料理を作り続けている。俺はここの常連だ。
「この前パーティを追放されちまってな」
「えっ、じゃあモルガンに辞めろって言われたの?」
「まあ、そんなところだ。だから今は無職だ」
「酷い事するなぁ~、仮にも幼馴染なのにぃ~」
「アルカディアが実力主義なのは知ってるだろ。今や誰でもエンポーで回復ができるようになったからもう要らないってさ」
「これからどうするの?」
「さあね……しばらくは職探しかな」
俺はそう言い返すしかなかった。貯金も残り少ない。このままじゃ確実に野垂れ死にだ。
ずっと食堂に居座り、ガーネと話していた俺はようやく重い腰を上げ、食堂から立ち去ろうとしたその時だった。
「ねえ、うちで働かない?」
「えっ!」
まさか彼女に誘われるとは思わなかった。
「良いのか?」
「あなたって、確か食材を新鮮な状態に戻せる魔法を使ってたよね?」
「お、おう。遠征時に食料調達の担当もしてたからな」
「うちはせっかく仕入れをしても、いつも余った食材は処分する事になっちゃうの。だからあなたのスキルが必要なのよ」
「分かった。精一杯頑張らせてもらうよ」
「ふふっ、よろしくね」
俺がパーティを追放されてから約2週間後――俺はこの食堂に就職した。
俺にとってはこれが人生の転換期だった。アルカディアの中にはアタッカーとしての適性がない俺に嫌悪感を抱いたり、あからさまに見下す奴も多くいた。
その時にいつも庇ってくれていたはずのモルガンにまで見捨てられた。もうあんな奴らとは一生関わりたくない。
でもそんな俺を必要としてくれている人もいるんだと知った。
だから俺はこの食堂で精一杯働く事にした。
俺は食材の仕入れを担当する事になり、食材は俺の魔法でいつでも新鮮な状態に戻せる。これによって仕入れた食材を無駄なく使いきれるというわけだ。この魔法を使えるのは王都では俺だけだ。
それもあって食堂は俺=純利益と言える状態になっていた。
パーティ追放から3年後――。
俺はあの日からずっと一緒に働き続けているガーネと結婚した。
彼女は今、俺たちの子供を身籠っている。彼女が産休を取っている間、俺は彼女の代わりに食堂で接客をしているところだった。
「おー、これはこれは、無様にも3年前にうちを追放されたルビアン君じゃないかー」
「オニキかよ。なんか用か?」
「おいおい、客に向かってその言い方はないだろー」
こいつの名はオニキ・カルセドニー。アルカディアの主力の1人でかつての同僚だ。今でもモルガンと同様にアルカディアで活躍している。
口が悪いくせに腕っぷしだけは強いのが憎らしい。
「今は誰に後方支援をしてもらってるんだ?」
「そんなもんねえよ。今は誰でもエンポーを使えるんだぜ。それに攻撃力や守備力まで上げる回復薬まで出てきたんだ。だから後方支援なんて時代遅れなんだよ。お前みたいな回復する事しか能がねえ奴はもうこの世にいらねえの」
「そりゃ良かったね」
マジかよ。そんな回復薬まで出てきたら、俺たち回復担当の役割ねえじゃん。
おぉ、神よ――何故あんたは俺に回復以外の能力を与えてくれなかったんだっ?
「やあ、久しぶりだね」
「モルガン、お前まで来たのかよ」
「相変わらず不愛想だな。そんなんじゃ客も来ないぞ」
「ほっとけ」
「結婚したってオニキから聞いたけど、まさか本当にガーネと結婚していたとはな」
「悪いか?」
「いや、別に。私たちはこれからドラゴンの討伐に行くんだ。またドラゴンの牙をみんなに見せつけられるのが楽しみだよ。回復薬があんなに普及しなけば、お前もアルカディアにいられたのにな」
まるで当てつけのようにモルガンが来るようになっていた。一体何のつもりだっ?
しかもオニキが良からぬ噂を広めまくったせいで、うちの食堂の売り上げが芳しくない。何で回復担当ってこんなに嫌われるんだ?
回復だけに悪役ってか?
俺が追放されてからしばらくの間、アルカディアの強さと名声は最盛期を迎え、彼女たちはその輝かしい時代を謳歌する。誰もが隊長であるモルガン・ベリルの名を知っている。それほどまでに凄まじい活躍だったのだ。
まるで俺がいなくなったおかげで、今まで以上に活躍できるようになったと言わんばかりだ。
アルカディアはその後も活躍を続け、遠征から帰ってくる度にパーティ全員が王都の住民たちからの祝福に包まれていた。
俺はその様子をガーネと一緒に傍から見守るしかなかった。
パーティ追放から7年後――。
何やら食堂がざわついている。常連たちが驚いた様子でアルカディアの事ばかりを口にする。
俺はその真相を探るべく常連たちに話を聞いてみる事に。
「ええっ!? アルカディアが遠征に失敗したっ!?」
「ああ、モルガンやオニキは命からがら生き延びたらしいが、パーティの半数が犠牲になっちまった。こんなに犠牲者が出たのはアルカディア創設以来初めてだ。どうやら今度のドラゴンはかなり手強いみたいだぜ。このまま王都に来ないと良いけど」
「おい、モルガンが来たぞ」
「「「「「!」」」」」
食堂の入り口には全身に傷痕が残ったモルガンの姿があった。
彼女はその身にドラゴンの爪痕を刻まれ、見るも無残な状態のままそこに立ち尽くしている。顔にもその傷がつけられており、超強力な魔力の爪で引き裂かれているためか、エンポーでも完全には傷を治せなかったらしい。
「ルビアン、頼むっ! 私たちの傷を治してくれっ!」
モルガンが涙を流しながら俺に頭を下げてお願いをする。
そこには英雄と呼ばれた彼女の面影もなかった。
「お前らには王都自慢のエンポーがあるんじゃなかったのか?」
「この傷を治すには体内にあるドラゴンの魔力を取り除く必要がある。それができなければいくらエンポーを使っても治せないんだ。超一流の回復魔法を使えるお前なら治せると聞いてやってきたんだ。この通りだっ! どうか頼むっ!」
「……嫌だ」
「今までの無礼は謝る。オニキたちにも二度とお前の悪口を言わせないようにする。だからっ……お願いしますっ!」
彼女はそのプライドさえ捨て、今度はより丁寧に涙声でお願いをする。
「……嫌だっ!」
「私たちにできる事なら何でもする。王都に頼んで治療費を出してもらう。王都で一生分は生活できるくらいの治療費だ。私たちを完全に治せるとなればそれくらいはきっと出してくれるはずだ。だからっ!」
「いーやーだっ!」
「何故だっ!? 私たちは幼馴染だろ。ずっと一緒に戦ってきた仲だろ。なのに……何故助けてくれないんだっ!?」
「その幼馴染を平気で見捨てて、退職金すら払わなかったのはどこのどいつだっ!? おかげで危うく餓死するところだったんだぞっ! お金なんて要らない。俺はガーネと子供たちがいれば、それだけで十分幸せだっ!」
「ルビアン……」
すぐそばにいたガーネが顔を赤らめて俺の名を呼ぶ。
俺を嫌っていたアルカディアの連中によって食堂の売り上げが下がっていたためか、彼女もあいつらに対して愛想を尽かしていた。
至極当然である。俺はあいつらを治す気にはなれなかった。
「……私が悪かった。回復が簡単になったからって、すぐにお前を追い出したのが間違いだった。私たちは目先の事しか考えられなくなっていた」
「今更気づいてもおせえんだよ。俺は恩を仇で返す奴がこの世で1番嫌いなんだっ。お前は良い幼馴染だと思ってたよ。悪いがここは食堂だ。食べに来たんじゃないなら帰ってくれ」
「……」
俺は彼女たちを見捨てた事を他の者たちから責められ、また食堂の売り上げが下がってしまった。とんだ巻き添えだ。
できる事ならもう会いたくはない。あいつらが来る度に売り上げが下がると思うとやってらんねえ。
パーティ追放から10年後――。
世界各地ではポーションプラントの数が減少し、どのパーティにも回復薬が不足していたため、王都は再び回復担当を必要としていた。モルガンは以前ドラゴンから受けた古傷を受け入れ、結婚を諦めた。
そんな矢先、またしてもモルガンが食堂へと現れる。
「ルビアン、良い知らせだ。お前をアルカディアに迎え入れたいと思っている」
「断ると言ったら」
「……あの時は本当に済まなかった。今の王都では回復薬が不足していて、どのパーティでも回復担当が見直されてきている。お願いだ」
「断る」
「……どうしても駄目か?」
「ああ、駄目だ。前々から思ってたんだけどさ、これまでもずっとアルカディアは仲間を平気で見捨ててきただろ。そんなところ、もう信用できねえよ。あの時まではずっとモルガンが俺を励まし続けてくれたから、俺だって他のメンバーが嫌でも頑張ってこれた。もうあんな目に遭うのは真っ平御免だ。分かったらもう二度と来ないでくれ」
「……分かった」
モルガンは食堂を立ち去っていく。その背中からは哀愁が漂っていた。
俺はまたしてもモルガンを拒絶した事を責められるが、そんなものは知った事じゃねえ。俺はもうアルカディアの一員じゃないんだ。だからあいつらの扶養義務はない。あいつらはもはや俺の管轄外だ。それを選んだのもあいつらだ。
俺は自分の決断に責任を取れない奴が大嫌いだ。
たとえそれが、幼馴染であったとしてもだっ!
その後、アルカディアはドラゴンの猛攻により全滅し、モルガン、オニキまでもが戦死した。戦場を分析した捜索隊によると、彼女らはエンポーを使う前に全滅させられたそうだ。
そんな時は誰かが時間を稼いでいる間に回復担当がアタッカーたちを回復するのがセオリーなのだが、アルカディアが雇った回復担当は俺のように全体回復魔法を持っていなかったのだ。そのために回復が間に合わなかったそうだ。
かつてアルカディアがドラゴンを倒せたのは、俺があらゆる状態異常を治す高等回復魔法や全体回復魔法を使えた事で、相手が倒れるまで継続的に戦い続けられたからだ。なのにあいつらはそれに気づきもせず、エンポーの普及と共に俺を不要と見なして追放した。
だからあいつらは負けたんだ。ざまあみろってんだ。
後日、アルカディアのメンバー全員の葬儀が行われた。
この時をもって、かつて俺を追放したアルカディアは滅び、俺を散々馬鹿にした奴ら全員が死んだ。王都では常に暗い雰囲気が漂っており、誰もが次の英雄を望んでいる。
俺はガーネと子供たちと共に葬儀に参加する。俺には2人の子供がいる。1人は俺に、もう1人はガーネにそっくりだ。子供たちには強く生きていってほしい。
程なくして王都は次の最強パーティを求めるべく、俺に新たな討伐隊の隊長及び回復担当として働いてほしいと申し込んできた。
俺はそのパーティに快く入隊し、ドラゴン討伐に多大なる貢献をしていく事になる。
給料はアルカディアにいた時よりずっと良かった。
あいつらがいなくなった事で俺の悪い噂が広まる事もなくなり、俺たちの食堂は栄えるようになった。ガーネも子供たちもとても幸せそうだ。
俺はこの幸せをずっと守ってみせると心に誓った。
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