燃え盛れハート! 刻むぞ魂のビート!
ランダムテレポートで転移したグリーダとルルは…真っ白い部屋の中に転移した。
そして、部屋の隅に体育座りをして、今部屋の中心で行われている事を眺める。
邪魔してはいけない雰囲気だったので、終わるまで待ってみる事にした。
『ここは…それに貴女は…』
『私は女神…あなたを別の世界に転生させてあげましょう』
『ま、まさか異世界転生!』
「ルルちゃん、ここテンプレ部屋ですよ!」
「おぉ、ここが噂に聞くテンプレ部屋か。真っ白で何も無いな」
「私だけを見てっていう女神の自意識過剰が成せる技ですね!
ほらっ、バッチリメイクして『あなたを転生させる私可愛い!』って顔に書いてありますよ。
しかもエコー効き過ぎ…『転生させてあげましょっしょっしょっしょっしょっ…』」
「くっ…ぷぷっ…いや、ちょっと声デカイぞ…聞こえているんじゃないか? 女神さん少し震えているぞ」
真っ白い部屋の中心…女神と半透明の男が向かい合い、俗に言う『テンプレ』…とある世界で死んだ者を異世界に特典を付けて転生させてあげる。というアレだ。
女神は金色の髪をゆるふわに巻いてピンクの可愛らしいドレスを着ている。バッチリメイクして、普通の男ならズキューン、ドキューンな可愛らしさを誇っている。
因みに…グリーダとルルの会話は女神にしか聞こえていない。
『……くっ、おのれ…』
『…女神様? どうかしたんですか? あの! どんな特典を貰えるんでしょうか!』
「今の流行りテンプレってなんなんですかね? このパターン少し古い気がしますよ。天の声さんもアレで済ませてますし」
「流行りとかあるのか? 天異界同盟では、この方法が主流だぞ? 地球人は物分りが良いから楽って」
「そうですねぇ、みんな昆虫のロボットを観て異世界に憧れていますから…なんですか? 天の声さん」
天 今の若い世代は昆虫のロボットじゃ通じない。異世界はここ最近、地球人の中で流行っている。
「…えっ? みんな選ばれし者とか好きじゃないですか」
「確かに秘められた力だとか、誰も持っていない力とかは人気だな」
「チートって奴ですか? この界隈では肯定的ですよねー。最近変わり種の方が多いですし…そのせいで…あっ、あの人の特典を決めるみたいですよ」
女神が両手を広げて、男の前に四角いボードを出現させる。
ボードの中には、数々の特典があり、どれにするか大いに迷いそうな内容。
『…この中から好きな特典を選んで良いですよ』
『うーん…悩むなぁ…』
「たまに全部とか言う人居そうですよね」
「よく居るらしいぞ、賭けとか話術で頑張って複数の特典を得ようとするんだ。地球人は賢いな」
『全部!』
『それは出来ません。一つだけ…ですよ』
『お願いしゃす! 一つじゃ足りません!』
『では、特典は無し…という事で…』
『そんな!』
「おっ、ジャパニーズ土下座ですよ。話術に自信が無かったらアレが主流なんです?」
「そうだなー、でも融通の効かない神だったらあんな感じで放り出される」
「問答無用の無慈悲なテンプレエコー女神ですねぇっねぇっねぇっねぇっ…」
『…少々お待ちを』
『はい…』
女神が男を待たせ、グリーダとルルの方へ近付いて来た。
その目は憤怒…キメちゃっている目だ。先程の慈愛の表情とは打って変わって目が血走りしゃくれ顔…怒りの表情だ。
『あなた達…喋らないでくれません? 仕事の邪魔をするなら通報しますよ?』
「はーい」
「失礼した」
「怒られちゃったね…変顔で」
「まぁ私達が悪いだろ…変顔だし」
無理矢理追い出さないのは、グリーダとルルには勝てないと察知してしまったからか…
「「……」」
『全部なんて言ってすみません! ちゃんと特典選びます!』
『えぇ、あまり時間が無いので早く決めて下さいね』
天 シャンッ、シャンッ、シャンシャンシャン♪
グ「あなた~わ~」
ル「わたしの~」
グ「あたま~」
ル「つかんで~」
『……ど~れにしようかな~』
グ ル「「デェェッドエェェンド!」」
『歌うなよ! 口閉じてろ!』
『ひっ! すみませぇん!』
「…」
「…」
男が怯えているが気にせず…グリーダは歌うのも駄目なんですか? きょとん。という顔で見る。しかし、その顔が女神の機嫌を逆撫でしている。
『やめろその顔…伝説のなんたらなんてカンチョーで倒せますよ? きょとん――っていう嫌みな勘違い系野郎みたいで腹立つじゃねえか!』
「自分もその嫌みに加担している癖によく腹立つとか言いますね。きょとん系崇拝の人に怒られますよ? ――きょとおぉぉぉぉぉおおん!
……あれ? …きょとんなんて普段使わないから使い所がよく解らないですね……ってか特典なんてあげなきゃ良いのに」
「特典あげないとヤバい世界への転生なんて嫌がられるからな。今の場合は乙女ゲーで言う『君はもう少し自覚した方が良い』『何を? きょとぉん。。』の顔かもしれない。うわ…凄い睨まれているぞ、グリーダ」
「いや、ルルちゃんの方じゃ無いです? 今ヤバい世界って言いましたよね?」
ギロリ――女神が殺意を込めた視線を浴びせ、それに対抗する様に変顔で返す。
しかし能面の様な顔を向けられるだけだった。
グリーダとルルは女神の真顔って面白いねっ! というアイコンタクト。二話目にして息がピッタリな彼女達。
『…さぁ、早く…特典を選びやがれ…下さい』
『はっ、はい!』
男は焦る。女神の目が据わり、声が低くなっている。
キレられたら命は無い。焦れば焦る程、特典が決められない。
グルグルと無駄な思考に支配されていた。
グ「…ブンッ」
天 …キュキュ
『うーん……』
グ「ブンブン」
天 キュッキュキュ
『…こっこれかこれかこれかこれ、どっどっどうしよう~なんだ、口が勝手に…』
『……』
グ「…ブンッ、ブンッ、ブンブンブンツクブン」
天 キュッキュッキュッキュッ
ル「ぷしゅーしゅっしゅっしゅ」
グ「ブンツクブンツクツクツク」
天 キュキュッギュルー
ル「しゅっしゅっしゅしゅー」
天 異界の道進む 期待の新人!
夢にまで見た 異界でチート!
女神への想い 燃え盛れハート!
それすなわち熱きヒート!
刻むぞ魂の…
グ、ル 「「鼓動!」」
『ビートを刻むなぁぁぁぁ!』
『すみませぇぇぇん!』
「…ねぇルルちゃん、『天の声』さんのせいで怒られた」
「まぁ…作詞『天の声』作曲『天の声』歌『天の声』だから勘に触ったんだろ」
「おっさんの声だもんね」
『お願いだから早く出てけよぉぉぉぉぉ!』
『――はぃぃ!これにしますぅぅ!』
バシュン――男は特典を決め、転生して行った…
「…」
「…」
『…』
「…」
「…」
『…出てけ』
「…実は」
「…私達も」
『…』
「…特典」
「…あげたから」
『…んだと』
「…見届けないと」
「…ないと」
『…』
グリーダとルルは女神に近付き、お手伝いしたよ~褒めて~という顔を向けるが…女神は悪鬼羅刹の表情で二人を睨む。
とりあえずこのヤバい二人から、何の特典を与えたか聞き出さないといけない。下手したら世界が壊れる可能性もある。
『…何の特典だ』
「きん術ですよ」
『……は?』
「えっ? グリーダ、それは不味いだろ…禁術とか」
「いえいえ、菌術ですよ」
「菌術? 詳しく」
「右脇からキノコが出てくる特典…【菌術・ワキのこ】です!」
『…それは特典と言わない』
「いやいや、食料事情が大幅に改善ですよ? 素晴らしい特典ですよ! ルルちゃんは?」
「私は普通に光魔法だ。騒がしくしてしまったお詫びだな」
「えー…なんでそこで良い子ちゃん振るんですか?」
「人生掛かっているから真面目じゃなきゃ駄目だろうに」
特典をあげてしまった以上、見届ける責務はある。
保守的なテンプレ女神は仕方無く、奥の部屋を親指で指した。
『ちっ…付いて来い』
「ガラ悪いですね」
「男の前ではって奴か…」
『お前らのせいだよ!』
「きょとぉぉおん!」
「それちょっと違うな」
『…名前は?』
「グリーダ」「ルル」
『…まさかとは思ったが…やっぱりあの神武器師様の弟子か…じゃあ…このアホ面が神武器師様? クソッ、こんなにウザいなんて聞いてねぇ……私は、デュラルディーンだ』
「「よろしくー、デデちゃん!」」
『……それやめろ』
グリーダとルルは、テンプレ女神と友達になった…と思う。
「ルルちゃん、匿って貰える所見付かったね!」
「良かったな。グリーダ」
人物紹介。
【デュラルディーン】
天異界所属。転生の間で、人種等の転生をするアルバイトをしている女神。ルールは守るが、性根は腐っている。
福利厚生で職場の隣に部屋を貰っている。