プロローグ1
ギュッギュッという足音でいつもより周りの喧騒が和らいでいるように感じる。
今日、珍しく雪が積もった。
朝の天気予報でも観ていれば前以て分かっていたのだろうけれど、僕はそれを観る習慣がないのでとても驚いた。
そして少し気分が高揚している。
今は大学からの帰宅途中だ。
普段なら絶対に寄り道はしないのだけれど、こんな日は温かいコーヒーを飲みながら帰りたくなる。
これから先こんな雪景色の中歩く経験は少ないだろう、だからこそ寄り良い体験として記憶するために時間とお金を使うのだ。
僕はいつも横切るだけのコンビニに立ち寄った。
おそらく僕と同じ考えの人間が沢山居るのだろう、老若男女問わず、多くのお客さんが各々の感性に則った買い物をしている。
若い学生が友達と肉まんを、中年のおじさんが家族の分もおでんを、そして僕はコーヒーを買い、足早に店内をあとにする。
そして帰路に戻った僕はコーヒーをあけ、口に含んだ。
その瞬間、顔を上げた僕の視界には、より一層幻想的な世界が広がっていた。
きっとさっきまで足もとばかりを気にしていたからなのだろう、重い雪で下がった街路樹の枝や、薄くかかった雪越しに光る信号機、そして気温が下がって澄みきった空気の中輝く星々。
僕は、暫く歩みを止めてしまっていた。
こんなコンクリートの建物が建ち並び、車が常に往来し、その排気ガスに負けないほどの人の呼気に包まれたこの場所でも、普段と少し違うだけでこんなにも素敵な空間になる。
これが本当に何もない、広い平坦な場所で車も人も居ないような場所ならどれだけ美しいのかと、柄にもなくそんなことを考えてしまう。
ふと我に返り歩みを進めようとしたとき、電子音とともに友人からSNSでメッセージが届いた。
歩みを止めたままその内容を確認すると、
「これから共通の友人の祝勝会をするから絶対に来い。」
という内容のものだった。
僕は肩から下げていたバッグの中に財布があることを確認して、踵を返し待ち合わせ場所の居酒屋を目指した。
一気に現実に引き戻された僕は、なぜか少し恥ずかしくなった。