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山田高等学校放課後雑談部(自称)  作者: 御用人クロニクル
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食べられるテスト

 よくテスト前になると「なぁテスト勉強した?」「テスト?ナニソレ美味しいの?」なんてやり取りしませんでしたか?今回はそっから膨らましたお話です。百合気味です。

二学期が始まり、それなりに過ぎおよそ全国の中高生が嫌う定期テストも近づく10月のある日の眠り姫の自宅での出来事である。


 そこは一部を除いてとてもシンプルな部屋であった。およそ10畳ほどの部屋で正面の入り口から左上の隅には真っ白なシングルベッド、真ん中にはガラス製の丸い小さなテーブル、右端にはクローゼットがある。

おかしい一部というのはベッドの下に整然と並べられている大量の枕群と何故かクローゼットの下に敷いてある布団であった。

 そして今この部屋には一人の少女がベッドに腰を掛けていた。

 少女の顔には普段浮かべている軽薄そうな表情はなく不安そうな顔をしてソワソワしている。

 少女がこの部屋にいる理由はおよそ1時間前に遡る。



 私がいつもと同じように姫と一緒に他愛もない雑談をしながら帰路についていると、姫が先程よりも幾分か饒舌な舌で話題を振り出した、と言っても私以外には変化は解からないだろうが…。因みに昨日からテスト一週間前ということもあり放課後雑談会(自称)は中止となっている。


「……なぁ静香」


「んー?」


「テストって……知ってるか?」


 私はこの質問が姫の現実逃避による遊び心だと考え、私にしてはありきたな、だけど自分の中では気に入っている答えで返した。それが後であんなことになるとは知らず…


「ん?テスト?ナニソレ美味しいの?」


「……あぁ美味いぞ」


 私はこの時までは個人差はあれどおおよそ似通った答えだなと思った、しかし私は更に問い詰めて答えに詰まる姫が久しぶりに見たいなと思い、笑みを深めて眠り姫に切り込んでいった。


「へぇーどんな味でどんな食感なのぉ?」



「あの味を一言で…説明するのは……難しいな…」


 そこまで言うと姫は立ち止まり俯いて真剣な表情で黙り込んでしまった。不思議に思い私は下から眠り姫を覗き込み尋ねる。


「姫ーどしたー?」


 いつもなら姫と読んだ瞬間蹴りが飛んでくる筈なのに、それを聞くやいなや眠り姫は私の腕を掴んで走り出した。


「ちょっちょっとどうしたの!急ぐなんて姫らしくもない!」


「…あの味の説明は難しい……なら食べさせた方が早い」


 私は自分の耳を疑った、テストを食べさせる?さすがにおかしいと思い姫に問い質そうとするが姫がこちらを振り返り先に口を開く。


「それに……親友には自分の大好きな…ものを知ってもらいたい…だろ」


 そう言った彼女は照れているのかやや耳が赤くなっていて少々ぎこちないがはにかんだ笑顔を見せるとすぐに正面を向いてしまった。

 私は幼馴染として姫と16年間ずっと一緒にいたけれども初めて見る表情に不覚にもドキドキされられまた見たいと心の底から思うのと同時に他の誰にも譲りたくないと思い、今まで以上に大切だという思いが高まり言おうと思っていたことも忘れ、ただ引っ張られるがままに姫の後を走っていった。

__________________________________


 そして私は今、約一ヶ月ぶりに姫の部屋に来ている。あたりを見回すけれど必要なもの以外はない相変わらずシンプルな部屋である、けれど私は知っている。ベッドの下の枕群の奥深くには姫が厳選した可愛らしいぬいぐるみがあることを。姫は恥ずかしがって見してくれないけれど。因みに数体は私が姫にプレゼントしたものでもある。

 このままアルバムを覗き見てもいいのだがテストが近いのでおとなしく鞄から単語帳を取り出して勉強しておく。そして私が勉強をし始めておよそ1時間ほど経った頃、入り口の扉が開きお盆を持った姫が入って来た。姫はそのままテーブルへと向かいお盆をその上へと置くと姫も座布団に座りそして喋りだす。


「これがテストだ………とりあえず…食べてみろ」


「ほほう、これが噂に名高きテストですかぁ〜…あ、毒とか入れてないよね!?」


「…親友に食わせるものに……毒を入れるかアホ」


 そこにあったのは鍋であった。とりあえず蓋を開けてみると大量の湯気と共に胃袋を全力で刺激してくる匂いが私に迫ってきて。      

      ぐうううう

     うううぅ 

    ぅぅぅ

   ぅぅ


 と私の大きな腹の虫がなった。それを聞いた姫は僅かに口角を上げ


「そうか…そんなに腹が空いてたか……今よそってやるから…待ってろ」


「あれ?そういえば姫も一緒に食べるの?」


「……折角だしな…嫌か?」


「そんなこたぁございません」


「ならよし…」


 さっき腹の虫を聞いたからだろう私の小皿には大分多めの具材が入っていた。改めて小皿の中身を見てみるとそこには、スープはあんかけのあんのような感じで、そこにひき肉、スルメ、梅干し、ちくわ、エリンギ、うどん、みかん、ナニカの骨、といったカオス具合であった。顔を上げて姫を見ていると既にモッモッモと食べ始めており普段の仏頂面を崩し幸せそうな表情をしていて、私は意を決し鍋を口の中へ放り込んだ。

 

「…どうだ?」 


「な、なるほどこれは…」

「味はしょっぱくもあり甘くもあって後味が酸っぱくて食感はもちもちしてるようなコリコリしてるようなぁ」


「…説明できないだろ?」


「まぁ、確かにね、けど美味しければいんじゃない?」


「…その理屈だと…美味ければ毒でもいい…ってことになるぞ」


「うははは、それは勘弁だわー」


 それから私達は雑談しつつ30分程でテストを食べ終わり時刻は夜の7時前となっていた。


「………今日…泊まってくか?」


「泊まるー」


「…じゃあ今日は…泊まり込みで勉強会だな」


「うへーそれは勘弁してくれー」


 そんな軽口を言い合いながら私は隣にある自分の家へ荷物を取りに向かったのだった。


 

おわり

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