貧乏ギルド金が尽きる
「……スター? 起きて」
小さい指の感触が頬に伝わる。そういえば視界に差し込む朝日が眩しい。ああ、もう朝か……。
この世界――エルドラに飛ばされてきて今年で三年。
クラスメイトと共に森に飛ばされてきたのだが、入学してすぐのクラスでは協力できるはずもなく皆ばらばらに森を抜けることになった。後にチートと呼ぶような力があったことの気がついたのだがこの時はわかっていなかった。
友達はゆっくり時間をかけて作るタイプの俺は仕方なく1人で森を彷徨いたどり着いたこの村の冒険者ギルドのマスター募集の張り紙飛びついてマスターになったはいいが、それが地獄の始まりだった。よく考えたら仕事教えてすぐ迷宮都市のギルドマスター逃げるように去っていったのを怪しむべきだった。
そこは起きてから語ることにして今、俺こと桐野和樹は、絶賛睡眠中だ。
「あと、もう少し」
「ダメ、今月分をもらってないから」
「ぐぅー」
無視して二度寝をするべく布団をかぶりなおした俺だったが、すぐに布団をはがされてしまう。それでも抵抗を見せていると、
――ガブっ。
腕に走る耐えがたい激痛に俺は文字通り飛び起きた。
「痛ってええええええええ」
「マスターやっと起きた。じゃあ今月分ちょうだい」
俺を噛みついて起こした淡い栗の髪に赤い瞳が特徴的な少女。名前はシャル。見た目は8歳ぐらいの幼女体型の色気のない少女だが、これでも16歳の竜人族の少女だ。竜人族だけあってシャルが放った噛みつきは恐ろしく痛い。
そして彼女はこのギルドの唯一の社員だ。わけあってこんな貧乏ギルドの受付をしている。
先ほどから欲しがっているのは給料の事で、けして卑猥な要求ではないから安心してほしい。
「いや……、そのだな、」
先ほどから俺が給料の催促から逃げているのは先ほどの地獄の話に関係するのだがそれを話すにはまずこの世界ついて少々語らなければならない。
先ほど話した通りこの世界の名前はエルドラ。
所謂異世界というやつでの馴染みの中世ヨーロッパに魔法をまぜたような世界に、江戸時代をぶち込んだ世界で、魔物といった存在が森やダンジョンにたくさんいる。もちろん魔王もいるだが、その魔王がこの世界の侵略のために作ったダンジョンがこの村の近くのあり、それを迷宮都市にしたおかげでうちのギルドには一切冒険者が来ない。
依頼を受けてくれる冒険者がいないと仲介手数料が入らないので給料が払えない。何とかここまでやってきたが、とうとう今月は一人も冒険者がこなかった。あっちの方が儲かるしな。
「マスター昨日も寝ててくれなかった。だから今日は絶対もらう」
「シャル。来月まで待ってくれないか?」
「ダメ、だってマスター強い能力はあるのに全然働かないんだもん、それに約束した」
一応クラス転移を食らった身なのでチートと呼べるかわからないが、生産系スキルと戦闘系スキルを持ってはいるがチートというものがあまり好きではないので、使っていない。
「仕方ない迷宮都市に依頼を受けに行くか。約束の話しを持ち出されたら頑張るしかない」
「冒険楽しみ」
「そっちがメインだろ?」
暇すぎて週に2回ほどギルドを休んで、 (労働基準法を守っています)迷宮都市にある迷宮に潜っていてシャルはそれが唯一の楽しみでもある。見た目が幼女せいで俺がいないと潜れないので何かと理由をつけては潜りにいこうとする。といっても給料を稼ぎに潜りに行くのは初めてだが。
貧乏ギルドのマスター、ダンジョンに潜ります。
今日中もう一話更新する予定です。
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