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<4>

 ヒューは夏へとさしかかろうとしている深緑と、空の青さを前に大きく息を吸い込んだ。

綺麗に直した眼鏡越しに見た目の前の青々と茂る草原では、のんびりと牛が草を食んでいる。

大きく伸びをして振り返ると、そこには少々古い木造の大きな納屋があった。

大きく開かれた扉の中に、組み上げ途中の実物大のハヤブサが置かれている。翼の大きさが巨大だから、飛行実験をする直前に、丘の上で組み上げねばならないだろう。

 ヒューは手にしていた隼の折り紙を目の前で構えると、森に向かって放った。隼は真っ直ぐに空を飛び、かなり先の方で放物線を描いてゆっくりと水平に着地した。

いいバランスだ。 

 マイヤース事務所を訪れてから早一月が経っていたが、その間は一度も命を狙われていない。

本当にバーンスタインに護衛が付いているからなのか、はたまた偶然なのか、それはまだ判断できていない。

もしかしたらヒューに護衛が付いたことに気がついて、手出しできずにいるだけかも知れないが、気は楽だった。

 夢は捨てられないが、やはり命を狙われるのは嫌だし、他人に迷惑を掛けるのも嫌だ。

 マイヤース事務所で、とにかく現物を組み上げて飛ばそうという話に決まった翌日から、バーンスタインは燃えてしまった別荘に変わる家と作業小屋を探してくれた。

バーンスタインが見つけたのは元は大量の牛を飼っていたという巨大な納屋のあるごく一般的な畜産家の住居だった。

バーンスタインの館に比べれば、大きさは三分の一以下だろう。

 ありがたいことに、バーンスタインの別荘は総て灰になってしまったが、ヒューが資材を買い込んで積み上げていた倉庫は残っていた。

そこには別荘で数ヶ月かけてこつこつと組み上げるだけに削りだしたり、切り出した材料も総て残っていたのである。

これさえあれば、一から作る半分以下の時間で完成させられる。

普段は祈ることをあまりしないのだが、このときばかりはユリスラの守護精霊王である光の精霊王に感謝した。

 その資材は総てバーンスタインの手の者によって、新しい家に運び込まれた。至れり尽くせりの対応に、頭が下がる思いだ。パトロンとは本当にありがたい。

しかもこの小さな家に、ランドルフやその妻マルティナ、料理長ヘルマン、メイド頭メグまで着いてきているから、かなり狭苦しい。

彼らは館が再建されるまでこの家に一緒に暮らすらしい。そこにアンナまでも住み込んでいるし、ときおりリッツもいる。

 一応一人、もしくは一夫婦に一室づつの個室を割り振ることは出来たのだが、一部屋は別荘に比べると格段に狭い。

メグなどは自分が住むならこの広さで十分だが、客を泊める部屋ではないとバーンスタインに向かって怒っていたのだが、最初の一週間で慣れたのか何も言わなくなった。

 だがこの狭い家に暮らし、同じように盛り上がって食卓を囲んでいると、広い別荘にいる時よりも格段に距離が縮まる。

ヘルマンなどは、料理の仕込みを早くに終えてしまい、一日の大半をハヤブサ作りに費やしているほどだ。別荘にいた時はハヤブサに興味があっても、見せて欲しいとは言えなかったのだそうだ。

 メグやランドルフも、そんなヘルマンに何も言わずにいる。この小さな屋敷に暮らしている分には、料理長ヘルマンの仕事は気楽なのだ。

ランドルフだけはそういうわけにもいかないらしいく、一週間に一度はシアーズのバーンスタインの元へ戻っている。

だが妻のマルティナはのんびりと趣味の庭いじりをしていて、付いていくこともない。マルティナとメイド頭のメグが、つばの広い麦わら帽子をかぶって、早朝の庭をいじっているのは毎朝の日課となっている。

「ヒューさん、そろそろお昼にしましょうか?」

 物思いにふけっていたら、中からひょっこりとアンナが顔を出す。

「きりがいいし、そうしようか」

「準備してきますね」

 嬉しそうにそういって、アンナは姿を消した。しっかり者で、てきぱきと総ての雑事をこなす有能なアンナだが、食べることには驚くほど、執着している。

なにしろ彼女は時計を見ることなく、一日三回の食事時間をきっぱりと言い当てるのである。リッツ曰く、アンナの腹時計が狂うことは滅多にないらしい。

 とはいえヒューはその言葉をリッツから直接聞いたわけではない。アンナが結婚する前からずっとそう言われ続けているのだと、半分のろけながら語っていたのだ。

実際のところヒューが、リッツと言葉を交わすことは無かった。初めて事務所で会った時からずっと、リッツはヒューに話しかけることもないし、こちらを見る事もない。

何故だか分からないが、敬遠されていることは確かだ。

一度などはアンナを探しに来てヒューと鉢合わせたリッツに、本気で嫌そうに舌打ちされたほどだ。

 アンナから聞くリッツは、陽気で明るくどことなく抜けているが、頼れる人物という感じだが、どうみても無口で目つきが悪く、何を考えているのか分からない、大男だ。

 意味も分からず嫌われるのは嫌だが、ヒューはこちらから働きかけて関係を改善する方法を知らない。ただへらへら笑ってこの状況を流すだけだ。

アンナは一月ほどメイドとして一緒に暮らしてきたから何となく仲間意識のようなものがあるのだが、こんな調子のリッツには一欠片の信頼もない。

とにかく第一印象が最悪だったのだ。目つきは悪いわ、ヒューにあからさまな不快感を表すわ、依頼人が尋ねて行く約束があるというのに、朝からアンナを襲っているし。

 ダンにはちょこっとだけいい印象を持っている。あの後、からかわれながらもホテルまで送って貰い、時間つぶしにと一緒にカフェでお茶を飲んだからだ。

ヒューのつまらない世間話や、発明品のつたない自慢話を、ダンは楽しげに聞いてくれた。きっとダンはいい人に違いない。

 だが彼らは皆、ヴァインの人間だ。仕事で関係があったとしてもそれが終われば会うこともない。そんなことぐらいヒューだってわきまえている。

アンナとダンに関しては少し寂しい気もするが、リッツに関してはホッとする。リッツがいると気が重いのだ。

 だからヒューは仲良くなったアンナとダンとの付き合いを続けるよりも、ハヤブサを早く作り上げてヴァインと関係を絶つ方を希望する。

人に気を遣って雑事を増やすよりも、自分の研究にのめり込む方が心が安らぐのだ。

ずっと追い続けてきた夢を実現に近づけるチャンスなのに、すぐにいなくなる人間の機嫌を伺ってオドオドしている時間が惜しい。

 ヒューは大きく息を吸い込んだ。面倒なことは考えたくない。今はハヤブサのことだけを考えていたい。それが本音だ。

 納屋に戻ったヒューは、骨組みのできあがったハヤブサの翼をゆっくりと撫でた。

想像もしたことのない賑やかで、ごちゃごちゃした生活をしていたものの、お陰で組み上げ作業は、思ったよりもずっと早く進んでいる。

 当初は自分一人でやる予定だったから数ヶ月はかかると思っていたのに、ヘルマン、マルティナ、アンナが手を貸してくれて四人係りでの作業は効率がよかった。

力仕事はヒューとヘルマンがこなし、布を縫い上げるのはマルティナとアンナが担当してくれる。正直縫い物は苦手だったから、ミシンの使える二人の存在はかなり助かった。

 ハヤブサの材料は、主に木と布である。

まずヒューは色々な材木を集めて、一番固くて軽い木を選び出した。一般に手に入る木材と比べると、その木材は少々値が張ったのだが、バーンスタインは笑顔で許可してくれたので遠慮無くそれを使わせて貰っている。

そして色々な布の派材を取り寄せて、風を通さず目の細かい薄布を選び出した。

 この木材を折れたりしないように丈夫に組んで、長い翼を作るのである。

翼は動くことのない固定翼にした。鳥のように羽ばたくことも考えたのだが、ヒュー程度の筋力と体力では、彼らのように翼をはためかせるのは絶対に無理だと分かったからだ。

 そもそも人間の腕は、鳥のようにしなやかに後方まで曲げて前に羽ばたくという動作に向いていない。

かといって肩を支点にして上下に動かしたのでは、とてもじゃないが飛ぶ力なんて出ない。

その点、折り紙の隼のように固定翼だったら、飛ばすだけの力があれば浮くことは容易だと考えたのである。

 翼は横に長い一つなぎの木材で出来た前面に、垂直に 沢山の骨組みを取り付ける。

別荘にいた数ヶ月の間にこつこつと一人で削りだした垂直の木材は左右で三十本ほどあり、総て前側に丸みと厚みがあって、後ろ側は薄い作りになっている。

これもまた鳥の翼を観察した結果見つけた、特性を利用したのである。鳥の翼の前面は骨があり、太いのだが、後部は羽根だけしか無く薄い。

 この翼に、マルティナとアンナが縫ってくれている袋状の布を、先端からすっぽりとかぶせて覆うのだ。

だからアンナたちが縫ってくれている布はかなり巨大で、二人の女性は『男性にこれを縫うのは絶対に無理』と笑われてしまった。

 何しろ片方の翼だけで、横幅は納屋いっぱいに近い。ざっと五メートルはあるだろう。

これは鳥を観察して幾度も作り直した模型通り、ヒューの体重で乗れるサイズにした場合のギリギリの長さである。これより短いと、飛ぶのではなく落ちる。

 この二枚の翼を作り上げたら、後は中央の胴体部分である。ここはヒューの体重を足すことも考えて軽く作らねばならないし、それにハヤブサが落ちてもヒューは助からねばならない。

一回の実験で死んでしまったら、改良してよりよいものを作り上げることが出来ない。

 鳥のバランスを考えて、うつぶせになって乗る形にした。その後ろには、やはり組木によって長く作り上げた尾が付いている。尾は三角形で、左右に開くことが出来る扇形だ。ここにも布が被されている。

 隼の胴体に似せて作った、この胴体部分に二枚の翼を取り付ければ完成だ。その取り付け部分も、折れては元も子もないから丈夫に作り上げねばならない。

そのために、多少重くはなるが覚悟を決めて、馬車に使われるような鋼の金具を使うことにした。それならば簡単に折れることもないだろう。

 翼を撫でながら完成図を思い描いていると、ヒューは唐突に思い出した。

「金具!」

 思わず叫ぶと、納屋の中で裁縫道具をしまっていたアンナが振り返った。マルティナとヘルマンは食事の支度に戻っているから他には誰もいない。

「どうかしました?」

「金具を鍛冶屋に注文していたんだ。昨日取りに行くことになっていたのに、忘れてたよ」

 料金はバーンスタインに先払いして貰っているから、取りに行くのが一日遅れたぐらいでは転売されたり溶かされたりはしないだろうけれど、やはり早く取りに行くに越したことはないだろう。

何しろヒューが設計した特注品なのだ。

幾つもの鍛冶屋に断られ、ようやく引き受けてくれた一軒なのだから、もしこの鍛冶屋怒らせたりしたら、二度と手に入らない。

「今日中にシアーズに戻らないと」

 すぐにでも取りに行きたくて呟いた。ヒューは研究に関してだけは、思い立つとすぐ行動せねば気が済まない。だがアンナは微笑んで、冷静に言い切った。

「じゃあ、昼ご飯を食べてから行きましょう」

「でも……」

 渋ると、アンナに至極真面目な表情で見つめられる。そのエメラルドの鋭い目の輝きには、逆らえそうにない。

「食事は総ての原動力です。食べることで力もわくし、いい考えも浮かぶし、優しい気持ちにもなれます。食べずに慌てて動いても、ろくな目に会いませんよ」

「だけど……」

「食べられる時にはちゃんと食べる。それが重要です」

 ここまできっぱりと言いきられてしまったら、ため息をついて諦めるしかない。

最近気がついたのだがアンナは意外と頑固で、言い出したらてこでも動かないことがある。

「食べたら一緒に行きましょう。馬に乗せてあげますよ」

「馬? 乗ったこと無いよ」

「そうですか? でも徒歩でシアーズに往復したら、日が落ちますよ。後ろに乗せてあげますから、ちゃんと掴まってくださいね」

 当たり前のようにアンナがそう言ってにっこりと笑った。

「一緒に来るの?」

「ええ。だって私、護衛だし」

「あ……そうか」

 アンナの外見からそれをうっかり忘れていた。

興味深そうによく動き輝くエメラルドの瞳に、感情表現豊かな表情を見ていると、その事がすっかり頭から抜けてしまう。

「精霊使いだもんね」

「そうですよ。忘れないでくださいね」

 見るからに年下なのに、まるで子供を諭す教師のような口調でそういったアンナが、ヒューを家へと促す。

こうなれば食事をとってからアンナと出かけるしかないようだ。

「食後すぐに出かけていいかい?」

「いいですよ。酔わないでくださいね」

 楽しげにアンナが笑った。ヒューは馬に乗ったことがないが、馬に酔う人もいるらしいのだ。

少々不安になっていると、アンナに促された。

「行きましょう」

「あ、うん」

 嬉しそうに食堂に向かって歩くアンナの後ろについて歩きながら、ヒューは目の前にあるアンナの後頭部を見つめた。

アンナは女性としては少し小柄な部類に入るだろう。後ろに丸く結った髪には、上品で小さな髪飾りが揺れてたまに光を放つ。

左手の薬指に嵌められているのは、瞳と同じ色の可愛らしいエメラルドの小花が付いた指輪だ。

 本当にごく普通の少女といったアンナなのだが、今までヒューが知った情報を総合すると、ダンよりも年上で既婚者。

おまけに精霊使いでヴァインの一員だ。精霊使いのアンナは一度見ているが、一体どのレベルの精霊使いなのだろう。

一度も聞いたことがないのだが、例えどんな階級でも精霊使いが護衛に付いているというだけで、かなり安心できる。

目の前で怪我をされるよりは、精霊魔法で相手を倒せる方が安心だからだ。

 精霊使いは最上級、上級、中級、初級者がいるらしい。当然ながら初級者は数が多く、ほとんど実戦的な役には立たない。

級が上がるごとに人数を減らしていき、最上級となると、数えるほどしかいないらしい。

 最上級の精霊使いは『竜使い』とも呼ばれる。

エネノア大陸に存在する六つの国それぞれを守護する精霊王と同じ六大精霊の、最上級の力を持つ竜を呼び出し、自在に操ることが出来る人々をそう呼ぶようだ。

 だが『竜使い』はヒューにとっても伝説に近い。発明家と精霊使いは無縁で、生まれてこの方、アンナ以外に精霊使いを見たことがない。

 精霊使いの実力者は大きな街でヴァインと同じように人々の相談に乗ったり、各国の正神殿で力を磨いていたり、軍に所属していたりする。

ヒューにとってそのどれもが全く関係のない場所なのである。最近はヴァインに所属する精霊使いも増えているという話も聞いている。

 アンナに引きずられるように食堂に行き、オープンサンドに、ミネストローネという簡単な昼食を食べてから、二人でシアーズに出かけた。

 馬は確かに早かった。歩いて二時間はかかるだろう道のりを、数十分で駆け抜ける。周りの景色は飛ぶように後方へと消えていく。馬車に乗るときよりも遙かに早い。アンナはかなり優れた乗り手だったのだ。

 だが思った以上にその道のりは苦痛だった。

最初は人妻のアンナに捕まるのは少し申し訳がないなと思ったのだが、馬が走り出した瞬間に、そんな気遣いは何処かへ吹き飛んだ。

小柄なアンナの腰に振り落とされないように夢中で縋り付くしか落ちない手段がなかったのである。

 それにとにかくおしりが痛い。規則正しく叩きつけられた尻は、絶対に腫れ上がっているだろう。

しかも不規則な揺れと、アンナにしがみついている安定感のなさに、やはり軽く酔う。

 尻は痛い、頭の中がぐるぐる回る、もう最悪だ。下ろしてくれと泣き言を言いそうになる前に、馬が王都に付いてくれたのは不幸中の幸いだった。

ぐったりとアンナにしがみついているしかないヒューをよそに、アンナは開かれたシアーズの北にある大門を通り抜けていく。

 シアーズは城壁の中にある街だ。王国中央部を真っ直ぐに通っている旅人の街道の終着点であるシアーズ大門は、沢山の人々や馬車でごった返している。

王都であるこの街には、観光客も多いし、商人も多い。大門が開いている時間は出入りが激しいのである。

 この大門は朝開かれて、日が暮れると閉められてしまう。夜間でも通れるのは大門の横にある小さな通用門だけだ。

ここから夜間出入りできるのは、軍人か、政務官だ。彼らは身分証を見せることで何時であっても通用門をくぐれる。最近ではヴァインの身分証も同じような役割を持っているらしい。

一般人でも通行許可証を持っていれば通れるのだが、滅多なことでは許可証は出ないそうだ。

当然ヒューも門が閉じてしまえば出入りできなくなる側の人間である。

 アンナは大門を入ってすぐの厩舎に向かうと、そこに馬を預けた。

その厩舎には大きく木の葉の紋章が刻まれているから、ヴァイン専門の厩舎らしい。厩務員もアンナの顔見知りらしく、笑顔で挨拶をしあっている。

シアーズの街は人が多いため、馬で歩くのは軍人や緊急の場合に限られているから、こうして大門の周辺で馬を預けるのが一般的だ。

 そのためか大門の周辺には、厩舎がとても多く、民家や商店は少ない。

そこから少し離れたところには職人たちの沢山住む一角があり、武器や道具、家具や料理器具、装飾品や貴金属まで総てを作る人々がいる。

そこからまた一区画ほど隔てたところから住宅街と商店が連なり始めていくのである。

 ヒューの尋ねる鍛冶屋もまさにこの職人街にある。そこに向かおうとすると、アンナに突然小さなガラス瓶を渡された。片手で持つのに丁度いいぐらいの瓶だ。

「これ、持っててくださいね」

 笑顔で手渡された瓶には、透明な液体が入っている。ヒューの手の中でそれは小さな水音を立てた。

「これ何?」

「水ですよ」

「飲めるの?」

「飲めますけど……出来れば飲まないでください」

 意味が分からないヒューに、アンナはにっこりと微笑む。

「お守りです。困った時は蓋を開けてくださいね」

「え?」

 眉を寄せるとアンナが小さく頭を下げた。

「ここまで来たから、ちょっと本部に寄ってきます。もしかしたら何か情報が入ってるかもしれないし、用事が入っているかも知れないし」

 どうやらアンナはヒューの側を離れるつもりらしかった。

「護衛は……?」

「ですからそれ、お守りですから」

「……そう」

 何だか分からないが、アンナはこの瓶をヒューが持っていれば、絶対に安全だという確信があるらしい。

いいたいことは色々あったが、黙って小瓶をポケットにしまう。

「ヒューさんは用事にどれぐらいかかります?」

「え? あ、受け取るだけだから一時間もいらないよ」

「私もそのくらいですね。じゃあ、一時間後にここで待ち合わせましょ」

「あ、うん」

 てきぱきと今後の予定を決めたアンナは、よく分からぬまま呆然としているヒューを残して笑顔でヴァイン本部に向かっていく。

ヴァインの本部はこの大門から続く大通りに面したところにあるのだ。

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