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2.イスニアへ

ジャマールからイスニアへの情報を受け取った翌日、ガイウスは400の手勢を率いてラティシアの港湾地区で大型船2隻を貸し切り、イスニアへと向かう船の旅に出た。

ラティシアからはキラル川を北上し、ビスタ海に出てからは西へと進めば、3日でイスニアの港町、ディシューに到着する。

「陸路で行く案も考えはしたがなぁ……」

ガリツィアから陸路イスニアを目指す場合、ラルベート帝国を通過することになる。

1ヶ月前にガリツィア大公の要請で、ラティシア近郊で挑発行為を繰り返す帝国兵を撃退してほしいとの要請を受け、ガイウスは帝国軍と刃を交えこれを撃破していた。

いくらどこにも属さない傭兵とはいえ、自分達を追い散らした連中が国内を大軍率いて通過すればよい顔はすまい。

下手すると帝国軍と戦闘になるかもしれない。

イスニア到着前に無用な戦闘は避けるべきと考え、最終的に船の旅を選んだ。

「ま、帝国が本腰入れて潰しにでも来ない限り、負ける気はないがな」

今は各地に分散しているとはいえ、クアトロケルベロスはロジアータ地方最強と言われる傭兵ギルドだ。

その数も2000を越えている。

帝国の正規軍相手ならいざ知らず、国境警備隊程度に遅れをとるつもりはない。「とりあえずは、イスニア到着後もマルファス達が合流するまではディシューで待機だな」

ガイウスは遥か海の彼方を眺めながら、今頃イスニアでジャマールからの報告を受けているだろうマルファスのことを考えていた。

マルファスはクアトロケルベロス四人の幹部の中でも最古参、ギルド創設時からの戦友である。

戦場での活躍もさることながら、組織の運営において真価を発揮した。

今やロジアータ地方最大規模の傭兵ギルドとなった自分たちが、面倒なことを考えずに戦闘のみに意識を集中させることが出来ているのは、ひとえにこのマルファスの存在に依る。

航行から8時間、潮の香りを胸一杯に吸い込みながら、独断でイスニア行きを決定した自分に怒り、同時に呆れているだろうマルファスのことを思い浮かべながら、ガイウスは堪えきれぬ笑い声を漏らしていた。




「何っ、ガイウスは既にイスニアに向かっただと!?」ビスタ海の洋上をイスニアへと西進していたガイウス達から150㎞以上離れた、ガリツィアの首都ジャヤカルタの新兵訓練所、その執務室にて、ジャマールからの報告を受けたマルファスは怒りの滲んだ声を発しながら、椅子が倒れるのも構わず力任せに立ち上がった。

「確認するが、それは事実か?」

「は、はいっ!事実です」

「はぁ…」

ジャマールに事実確認を行い、それが事実だという発言を聞いたマルファスは、大きなため息をついて自分が倒した椅子を元に戻し、再度深々と座り直した。

「まったく、我々幹部会の承認も得ずにまた独断で決定してしまうとは…」

頭痛か怒りか、はたまた呆れか、マルファスは再度ため息をつくと額に手を当て天を仰ぐかのように石造りの天井を見上げた。

「あ、あの…マルファス様?」

「ああ、大丈夫だ。ガイウスの奔放ぶりにはもう慣れているからな」

おっかなびっくり声をかけたジャマールに、マルファスは疲れた笑みを浮かべた。

「それに、傭兵としてのあいつの嗅覚は正しい。その点においては、俺はガイウスに全幅の信頼を寄せている」

国の内外共に問題を抱えているイスニア王国は、傭兵の需要も高まっているとちらほら聞こえてきている。クアトロケルベロスの最終的な意思決定機関である幹部会の決定を待たず行動を起こしたことには、合流してから文句の1つも言ってやろうと考えていたが、ガイウスの決断そのものにはマルファスも反対する気はなかった。

「唯一の懸念は、ガイウスがイスニア入国に際し事前の連絡をしているかどうかだが…」

「?どうしてそれが気になるのですか?」

マルファスの考えていることが分からず疑問を投げかけたジャマールに対し、マルファスは分かりやすいようにと努力しながら説明をした。

「考えてもみろ。入国の意図も分からずやってきた、ロジアータ地方でも有数の傭兵ギルドが大軍を率いてきたとなれば、相手の出方として考えられるのは…」

「考えられるのは?」

「まず1つ目、自分達の側に付くよう条件を提示する。2つ目は、国外退去を命じる。最後は、危険分子として正規軍を用い排除するかだろう」

もっとも、ロジアータ地方最強と言われる傭兵ギルド相手にいきなり戦闘を吹っ掛けるほど、噂に聞くイスニア国王は馬鹿ではないだろうが…と、内心でそのようにマルファスは考えていた。

どのみち、我々を排除しようにも国内の貴族達を説得しなければ大々的な軍事行動は取れず、国王軍だけではその数もたかが知れている。

となれば、イスニア国王がとりうる手段は懐柔するか国外退去を命じるかのどちらかだろう。

「そう心配することはない。もしかしたら早合点した地方貴族が兵を差し向けるかもしれんが、その程度なら問題ないだろう。ご苦労だったな、しばらく休んでいてくれ」

「ありがとうございます、それでは」

一礼して退室していくジャマールを見送ると、再度席についた。

最終的にガイウスのイスニア先行は問題ないと判断したマルファスは、次の仕事に取りかかり始めた。

他3人の幹部にも今回のガイウスの独断について説明し、今はイスニアに向かうことが正解であると説得した上で、兵をまとめ海路イスニアに向かうよう書状を書かなければいけなかったからだ。

「まったく、いつも面倒ごとばかり全部俺に押し付けて…」

ガイウスへの愚痴をこぼしながら書状を書き進めていくマルファスは、言葉とは裏腹に笑みを浮かべていた。

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