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妖怪ゲーム  作者: 荒我 紅哉
第1話 「鬼ごっこ」
2/3

(上)

今俺は全速力で走っている。

走っては、塀の陰や物の陰を隠しまた走る。

もう何時間これの繰り返しだろうか。息が苦しく、心臓がうるさい。

どうしてこんな目にあったのだろうか。

走る事しか考えれない今の状況のなかで、頭の片隅で思い起こす。


────それは、数時間前に遡る。



太陽が沈むか沈まないかの夕暮。辺りは夕暮色に染まっていた。カラスが電柱や屋根に止まり黒い塊になっていた。車も人も通らない、寂しい道。夜でもないのに誰も通らないこの時間帯が俺にとっては素晴らしい時間だ。

そんな道を1人で下校していた。

普段通りの学校生活を終え、後は家に帰るのみ。

今晩はどんな晩御飯にしようか、面白いテレビ番組はあったか、そんな事を考えながら歩いていると、ふと、ある前で立ち止まった。

長い階段が続く鳥居の前。

普段は全く見向きもしない場所に、何故か今だけは気になっていた。不思議と勝手に体が動き、気付くと階段を上っていた。

耳に入れていたイヤホンジャックを外し、ポケットの中へ入れる。


「なんだこの感じ」


階段一段一段上がる度、不思議な感覚が肌に纏わりつく。

数分かけて、階段を終えるとそこには一つの神社があった。

祭りの時以外利用者が少ない神社、現に俺も祭り以外1度も来たことがない。何故こんな所に来たいと思ったのかが全くわからなかった。

一応ではあるが、神社の中や周りの庭、裏など全てを散策したが何も無い。当たり前の事だろうけど。

要らない事に時間を使ってしまった。

早く帰って、寝よう。神社に背を向け歩き出したその時、突風とも言える強風が舞い上がった。


「うわっ!?」


いきなりの強風に驚き尻餅をつく。

止まない強風により、動く事ができずその場で目を閉じ、制服の上から着ているパーカーのフードで顔を隠した。

その数分後にピタリと風が止む。

恐る恐るフードを外し辺りを見渡すと絶句した。


「え...なにこれ」


俺は目を開けると驚きのあまり声が小さくかすんでいた。目を見開き、ガバっと立ち上がっては左右上下全てをみた。

まだ、夜までには時間があるというのに辺りは真っ暗と化し、蛍のような丸い光があちこちに飛んでいた。

これは夢か...?

これは夢で今頃家の中で寝ているのではないか、そう考え、よく漫画にでるやり方でほっぺを強く叩いた...が、目の前にある光景は何一つ変わらなかった。

どうしたらいいんだ。

そう思っている矢先

────チリンッ

───リン

──シャリン

鈴の音色らしきものが上から聴こえた。

上を見ようと顔を上げると、突然人影らしきものが目に映り、その瞬間、誰かが落ちてきた。

綺麗に着地する姿がとてもゆっくりにみえた。

男は白い髪に薄い羽織を被り、白い着物を着ていた。頭には耳のようなものがあり、大きい尻尾がいくつも存在していた。

飛び降りてきた事で、風がなびく。

男の髪が揺れ、前髪の隙間から目が見え、現実ではありえない容姿に見惚れ、瞬きするのを忘れていた。



「やっほー!...じゃなくて、やあ人間...あっ、間違った、薬師寺(やくしじ)暮秋(くれあき)だっけ...?」


男は顔を上げると、満面の笑みで挨拶してきた。

片方の目には包帯が巻かさっていてその上に長い前髪があった。

手を振る男はハッと我に変えると、真剣な表情をして俺の名前を確認する。

もう何が何だかわからない俺は首を振ることも声を出す事もできず、そこに立っているだけだった。


「まあ、名前はどうでもいいか。さて、気を取り直して、どーも!! 薬師寺暮秋! 私の名前は銀牙(ぎんが)、妖怪名では九尾でーす」


何を言っているんだ。

名前がどうでもいいことはさておき、妖怪名? 九尾? え? 何言ってんだこいつ。

銀牙と名乗った男は、こちらの様子を金色のような黄色い瞳で眺める。


「んー、反応は予想通りだけどイマイチかなー。もうちょっとさー、ほら、ね? えええ!? とか九尾ってなに!? とかその耳や尻尾は本物? とかあるでしょーが!!!」


いやいや、ツッコミたいけどツッコミすれば負けかなとか思ってたりしたけどそれをあなたが言います?

まず、今の状況が理解出来ないの。俺の思考回路働いてお願いします、ほんとお願いします。今の状況をまとめたいの。...無理だわ。

銀牙はハハハと意味のない笑いをしては、ふっと笑みが消える。

表情豊かだなと腑抜けな事を思っているつかの間だった。


「さて...ほんだ........」

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!! 銀牙様ぁぁぁ!! やっと見つけたぁぁぁぁぁぁ!!!」


真上から再び声が聞こえる、それもしっかりとした声だ。その声に銀牙の言葉は遮られた。

高い声からするに女性だろう。真上を向くと視界が黒く染まった。


ドン!!!


「いったあ...あっ。あわわ!! すみません! すみません!! 私まだ着地の仕方下手でございまして、まさかこんな下に暮秋様がいるとは思ってもみなくて...すみませんすみません! お怪我はありませんか? ハッ! もしもお怪我をされていたら私のせいに...いやいやきっ...」

「ゆめちゃんちょっとうるさいかな?」

「あわわわ!!すみませんすみません! つい興奮してしまい慌ててしまいました、って...! 銀牙様が突然いなくなるからですよ!?」

「ごめんごめん、だってー早くラッキーボーイに会いたくてさあ...ねえ?」


ゆめと呼ばれた女の子は俺の体に座り込む形で落ちてきた。とてつもなく背中が痛い。が、すぐに背中の痛みより早口で話す彼女の容姿とのギャップに落胆した。

桜色の長い髪を結ばないため腰あたりまで伸びている。丸っこく愛らしい紫陽花色の瞳はどこか落ち着いた雰囲気を醸し出している。華奢な体と見た目とは合わない少し豊かな胸、露出が多いようで少ない着物姿をみると、1目みれば落ち着いた子かと思っていたが一瞬にして崩れ落ちた。


「いいから...あの...そろそろどけてくれませんか?」

「えっ...あ!! 忘れてました、すみませんすみません!」


俺の上に座りながら会話する2人に苛立ち、最初の言葉がこれでなんだか器の小ささを感じた。

それよりも、女性が背中の上にいる事に耐えられなかった。目線とかで...


「お、ようやく声を出してくれたね~やっぱりこれぐらい騒がしい子がいなきゃ場の空気も重いのかな?」

「誰だってこんな状況、驚き過ぎて声なんて出ませんよ」

「それもそうだねー。とっ、ゆめちゃんのせいで話がズレてしまった」

「え!? 私のせいですか? いくら私がうるさいと言ってもただ落ちただけでありまして、私のせいではないと思うんですけど、あっ...来るのが遅かっ...」

「「ストップ!!」」


2人でゆめの話を止めた。

ニヤニヤとした表情で俺をみてくる。

ゆめは指を口元に運び、バツ印をつくれば黙りますのサインをだした。それを見て、銀牙は頷くと、俺の方へ顔を向けた。


「では...本題に入るよ」


先程まで騒がしく思っていた場が急に静まり返った。

これから先、何が起こるのか予想がまるでつかない。

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