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目眩とくちづけ  作者: 猫娘
女の気持ち
2/9

白石涼子

「りょうちゃんは秘密主義やし、ぜんぜん地元帰らんし、噂も聞かんもんねー」

  

 酔ってきた夕子が絡んでくる。


「う~ん。バイトもしてたしね。就職もなかなか決まらなかったし」


 そう、涼子の就職活動は困難を極めた。

 大学からの求人エントリーは全敗だった。

 力尽きかけていた涼子に、地方新聞の求人欄から、母親が偶然見つけたのがG.A. だった。

 帰ってくるつもりは全く無かったが、待遇は悪くない。

 HPを検索すると、小規模ながらも事業内容に興味が湧いた。

 隣の市で通勤に40分かかるが、程よい距離にも思えた。

 大変だったらマンション借りればいい。

 そう思って試験に挑んだ。

 

 結果、涼子は社長面接だけで一発合格をもらい、そのスムーズさに呆気にとられる。

 社長は試験の代わりに、アロマテラピーとリフレクソロジーの基礎をマスターしておくという、課題を出してきた。

 かかる費用は会社負担で、涼子には何の問題もない。

 アロマは独学で勉強して入社後検定を受け、リフレクソロジーは教室に通って1ヶ月でマスターした。

 ついでに、ヘッドスパやアロマトリートメントの講習も受けた。

 

 涼子は専門スキルを求められた事で、入社後は店舗で施術者として働かされるのかな?と思っていたが、南部地区の営業を任される。

 この地区でG.A. マーケット販路を拡大することが仕事になった。

 この地区担当は新人の涼子だけ。

 今までは中部と一緒だったのが、涼子の入社で切り離され単独地区になったのだ。

 三日間の引き継ぎで、涼子は南部地区に一人放り出された。

 

 はっきり言って営利は薄い地区で、高齢者が多く、アロマの普及も何もない。

 大型健康ランドにG.A. のサロン『リフレ』が入っていて、マッサージやリフレクソロジーを施術しながら、アロマ製品の物販をするコーナーを設けている。

 主にというか、販路はその一店舗のみだった。

 

 これはイカン。

 涼子は考えた。 

 高齢者用の需要はきっとある。


 まず、行政に掛け合ってみた。

 ボランティアで、地区の催事時に参加出来ないかと、お願いをする。

 口約束を貰い、即効案を練る。

 ブースを作って、ハンドトリートメントを施術し、アロマテラピーを体験して貰う企画書を社長にも提出した。

 何せ営業社員は、東部担当の中川さん、中部担当の笹井さんと水野さん、南部担当の涼子の4人。

 事務も含めて6人の精鋭?部隊だ。

 社長に直に話を持っていく。

 バツ2の元イージーライダー、今はジジーライダーの社長は面白そうに企画書を捲る。


「この期間の売り上げ見込みは無いっちゅうことか?」


「アロマテラピーやリフレの認知度を高めないと販路は開拓出来ません。行政とイベントを行って信用を高めて、老人施設に売り込みに行こうと思います」


「ふ~ん」


「評判が良ければ、訪問型で公民館等で実施していくのも良いかと思います。先ずは、これからの足掛かりです」


「応援は、中須店と館町店から一人づつ、水野もサブで付けるから。まぁ頑張ってやってみい」


 社長にも受理された。

 それからが、忙しかった。

 行政との打ち合わせとイベントの準備。

 殆どが初めての経験で手探りだった。

 思いの外、人が集中して混雑したり、サンプルが不足したり、不手際もあったが概ね成功に終わった。

 ハンドトリートメントも好評で、継続して欲しいという人繋がりで、地元のグループホームや施設を紹介して貰い、エッセンシャルオイルやデュフューザーの販路も拡大する。

 売り上げは微増だが、確かな手応えは掴めた。

 仕事が面白くなり帰宅は深夜を過ぎる日もあったが、引っ越しするのも面倒で、自宅には寝に帰り、レタスサンドを摘まみながらマイカー通勤をする。

 それが涼子の毎日だ。

 就職してから恋愛する時間も余裕も、全く無かった。

 甘いトキメキも忘れていた頃に、クラス会の案内が届いたのだ。

 

 ハガキを見てから、小学校時代が走馬灯のように蘇り、何かのスイッチが入ってしまった。

 どうしても、大人になった結城くんに会ってみたいと心が疼いて、何故だか彼は来ると、予感めいたものがあった。

 涼子が知っていたのは、社会人野球枠で銀行に入社したというのが最後で……。

 涼子はクックックと、声に出して笑っていた。


「りょうちゃん、どしたん?」


 夕子が赤い潤んだ目で不思議そうに見つめる。

 涼子は何だか全てが、滑稽で可笑しく思えてきた。

 仕事に死んもの狂いで取り組んでいる自分も、心の何処かで結城くんの事を思いながら、五年も前に結婚したことも知らなかった自分も。


 結城くんは、クラス会に来たではないか。

 大人の彼に会えたじゃないか。

 目的は達成!

 思いと現実が空回りし過ぎて、アッハッハーと、大声で笑いたい気分だった。

 


「えらいご機嫌やなぁー」

 

 テーブルの焼き鳥に影を落としたのは、辻くんと涼子を大笑いさせている結城くん本人だった。

 



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