第7話 準備
今日は2話投稿します。
第6話 黒沢明
第7話 準備
ご注意を
午前3時程度。
照明も消して、小さな明かりしかない部屋に二人の男女。
机の上に置いてあったスマホが点灯し、振動し、うるさく鳴っている。
木製の机とスマホの振動で割合大きな音が鳴っている。
鳴っているのは俺のスマホでは無く、メイのスマホだ。
どうなっている?3体以上じゃなかったのか?
まずは対応だ。
「メイ、スピーカーにしろよ」
「うん」
俺にも自動応答が何を言っているのか聞こえるようにする。
周りにも声が響いてしまうが、そんなに気にするもんでもない。
窓を閉め、扉も閉めれば準備完了だ。
「やるよ」
メイが通話ボタンをタッチして、会話が始まる。
「この音声は自動応答となっています。『黒い人物』を1体以上撃破した方のみにコンタクトを取っています」
俺の時と同じ声がするが、内容が違う。
1体以上?俺は3体以上だったぞ?
「女性の方は、お名前を」
条件を満たしているのが、メイだと分かっているのか。
本当にどうやってるんだ?全然わからん。
メイが困ったような顔をして俺に視線を寄越すが、首を縦に振って続行させた。
「黒沢明です」
「黒沢明様ですね。よろしければ返答を」
「はい、大丈夫です」
「柊照光様のスマートフォンをご覧ください」
俺!?
機械的な音声が宣言をすると、俺のスマホが震え始めて、早くポケットから出せとうるさい。
メイにスマホを渡す。
後ろから覗いてどうなってるのか見る。
「画面の内の一つのみを選べます。制限時間は30秒」
ここは同じか。力も同じ。
「メイ、どうする?まだ先の事だと思って相談してなかった」
「ある程度決まってますよ。今は『棒』と『靴』で迷っています」
「理由は?」
「『棒』は攻撃手段が欲しかったからです。『刃』でも良いですがリーチの長い『棒』が良いでしょう。
『靴』はボウガンを貰ったので候補に入りました。もしかしたら足が速くなるかもしれません。
逃げる事もできるし、後方支援もやりやすくなると思います。
柊さんはどう思いますか?」
スマホを見れば残り半分となっている。
『棒』か『靴』か……。
…………。
「……『靴』だ」
「了解!」
それじゃ『靴』で、とメイが言うと「了解」の返答で音声は終了した。
メイが部屋の中を物色しながら、靴♪、靴♪、と謎の鼻歌を歌いながら靴を引き出した。
「何だそれ?」
「ランニング用のシューズです。お気に入りですよ」
知らんわ。
「それで行くのか?」
「これが一番走りやすいです。『靴』もありますし、良いの履かないと」
自分の部屋だったが靴に履き替えて、ジャンプを数度繰り返す。
どうなんだろ?聞きたい。
「どうだ?良いもんか?」
「こりゃいいですね!大会出たらぶっちぎりの優勝間違いなしです!」
そこまでか。いいなぁ。一つだけだよなぁ。
あれから電話掛かってこないし。
隣の芝は青い。いいなぁ。欲しい。でも『耳』が無くなるのはもっと困る。
これ超便利。『選別』後も使いたい。
攻撃力は無いのか?蹴りオンリーだけど。
「なぁ、ちょっと俺を蹴ってみて」
「……え、……いきなりなんですか?そういう趣味ですか?不潔です」
一歩身を引かれてしまい、軽く傷つく。
「何でそうなる。蹴りの威力だ。軽くだぞ」
「最初からそう言ってください。分かってますけど」
じゃあ何で言った?
からかってんのか?
「行きますよ」
軽く腰を落として、力を溜めている。
え?この子何してるの?さっき軽く古武術教えちゃったんだけど?
「【柊流古武術『波風』】!」
迫りくる魔の脚を避けきれず、尻に足の甲が炸裂した。
強烈な振動が俺の尻を犯していく。こんなのは一部の人が喜ぶだけだ。
俺はノーマル。無理。無理だって、これ。ありえん。やってられん。
「あっ……がっぁぁぁあ」
尻に蹴りを食らい、顔面からベットに突っ込んだ。
猛烈に痛い。やっばい。ヤバすぎて大声が出せない。何これ?
この女ゴリラの生まれ変わりなのか?あり得ん。もう。なんなの?
涙目じゃん。いってぇ。
「あ、あれ?……大丈夫ですか?え、演技ですよね?
幼気な少女の可愛い脚ですよ?そ、そんな痛いわけが……」
ベットに近寄り、必死に自己弁護している。
お前は終わっている。
「こ、この……あだ名はゴリラ決定だな……!」
「そ、そんな……!よりにもよってゴリラ!?
リスとかなら言われた事あるのに……!」
確かにちっこいからそう言われても仕方がない。
というより、お似合いだ。
少しジッとしていたら、大分痛みも引いて大丈夫になった。
別に?俺の方が強いし。『靴』なんて無くても悔しくねーし!
「ま、気にせずいこー」
お前は気にしろ。
ベットに腰を掛けて脚をぶらぶら。ちっさ!このちんちくりんが!
……ふぅ。すっきりした。
「そうだな。こういうのは大きさがモノを言うな」
「うんうん、そうだね。器が大きい方がモテるよ!柊さん」
そうなの?知らんかったわ。じゃあ、俺かなり器小さいな。
21年の人生が如実に表している。
「あっそ」
「反応鈍いな~。何かあった?」
「余裕であるだろ。蹴られたし」
「……」
そっぽ向いて吹けもしない口笛のまねをし始めた。
このゴリラ……!
「まぁ、そんなのはどうでもいいんだわ」
「そうだね、どうでも良いよ」
俺の言葉を聞いて冷静な声ですぐに反応した。
この糞ゴリラ……!
「……問題は何で一体で力が手に入ったかだ」
「そんなの簡単だよ」
「え?分かるの?」
自信満々に無い胸を張ってふんぞり返り、ふてぶてしく答えた。
「私が女だからだ!」
「……」
いや、あながち間違いでもないのか?
「確かに女性に黒を3体倒せというのはキツイか?」
「キツイか?じゃなくてキツイよ。ていうか無理」
いい武器でも無きゃね、と付け加えてボウガンを撫でる。
銃火器・電気製品が使用不可能な状態で、黒を倒すのはかなり難しい。
女性がある程度優遇されていてもおかしくないのか?
「男女平等なんて嘘っぱちだったな」
「そんなの当たり前だよ。男と女という時点で、平らですら無いし、等しくもない。
どこが『平』『等』なのか教えて欲しいよ」
ど正論を言われた。
男女平等を謳う奴らはこれも反論できるんだろうけどさ。
「それでもこれは運が良い。余計に2体倒す必要が無くなった。
できるだけ戦いたくないからな」
「賛成~。やってらんないよ。あんなのさ」
手を上げてぐちぐち文句を言う。
「凄い怖かったよ。部屋が暗いのに、ギシギシ音を立てて近づいてくるんだから。
こっちからは見えないから想像してたら、暗い廊下を真っ黒な奴が一人歩いている画なんて最悪だよ。
やっても明るい時にしてもらいたい」
想像力豊かな事で。
自分の体を抱いて、さっきの恐怖を思い出している。
ホントに怖かった。
最初から部屋の明かりは点けておくべきだった。
当たり前のように戦ってるけど、異物と戦っているいう感じは全然ぬぐえない。
黒過ぎるんだよ。どこからあんな黒色を調達するんだ。
その前に鏡面世界が意味不明。
考えても俺には分からん。
時刻は4時前。
まだ暗い。
「ちょっと寝る。何かあったら起こせ」
「うーい」
態度が軟化してきた。つーか適当過ぎる。女は捨てるなよ。
メイがボウガンと矢を弄っているのを横目で見ながら、意識を底に沈めた。
『耳』を使用したまま寝れると良いな……。
体が揺さぶられて目を開ければ、外は大分明るくなっていた。
近くにいたメイに時間を聞けば、7時くらいだそうだ。
3時間くらい寝たか?
これくらいあれば十分だ。
ていうかなんでこんな時間に起こした?起こす時間は言ってない俺が悪いけど。
……いい匂いする。
「柊さん、さっさと起きてよ。ごはん食べよ。黒沢家の朝食は7時だぜ!」
元気いいな。
勝手に使ってたベットから体を起こして、小さなテーブルの前に座る。
近くには小さなカセットコンロとフライパン。
クーラーボックス。
なるほど。あれが有れば、ある程度鮮度を保てるか……。
「……意外に美味そうだな」
ムッとして言葉を返してきた。
「要らないなら食べなくても良いよ」
そう言って皿を下げようとするのを必死で謝り許して貰う。
簡単だがしっかり栄養が取れそうだ。
ここんとこまともなの食ってなかった。
ガスは無いわ、水道は通って無いわ、冷蔵庫の中は全滅。
食うもんが無い。カロリー○イトくらいだ。口の中パッサパサ。
久しぶりに生の食事というモノを食べて生き返る。
「美味いな」
「そう?ありがと」
ふふっ、と笑い満更でもなさそうだ。
美味いって言われて怒る方が珍しいか。
あまり多くは無かったがパクパクと食べ進めて有難く完食した。
「「ごちそうさまでした」」
皿などは使い捨てのものだったので、ゴミ箱に放り込んで楽に終わった。
再度お礼を言って久しぶりの朝食に感謝した。
……1日しかたってないな。
色々ありすぎて、そんな感覚じゃなかった。
食休みや柔軟体操を念入りにして午前8時。
夏とは言え清涼な空気が空間にあふれている。
それでも数時間もしないうちに、灼熱地獄が待っている。
「帽子ある?あれば貸して欲しい」
「うん?たぶんお父さんのあると思うよ。部屋に行こうか」
隣の部屋に行くだけだが、一人の時に黒が湧いたら非常に困る。
複数の人がいるのに、わざわざ単独行動する必要はない。
父にの部屋と思われる場所に入室させてもらう。
たくさんの本とベットに机が一つ。ベットはかなり大きい。
……仲良いな。一緒に寝てたんだ。
壁に掛けてあった野球帽を2人してかぶった。
「野球好きだったのか?」
「1か月に1回は行ってたよ」
球団にしたら有難いお客さんだ。
あまりそういう事はした事が無いから、どういうもんなのか分かんないな。
「メイもそれで行くのか?」
年頃の女の子としてはもう少しオシャレなのでも良いのでは?
言っちゃ悪いが無骨と言っていい帽子だ。
「……遺品としてね。こっちはお母さんの。柊さんはお父さんのね。二人が守ってくれる」
「……そうだな。あの二人なら絶対守ってくれる」
確信できる。これ以上ない。
1階降りて必要最低限の物を俺とメイのリュックに詰め込んで、玄関前まで行く。
靴をもう履いてるから玄関に行く必要はないが、ある種のけじめに近い。
扉を開ける前に最後の確認をした。
「ここからは隠密行動だ。できるだけ戦闘は避ける」
「オッケー」
メイはボウガンを手に持ち、矢もすべて託した。
俺の手持ちは日本刀1振り、サバイバルナイフ2本。その他諸々。
主力は刀とナイフだ。あと武術。
帽子を被るメイの頭に手を置いて宣言する。
「絶対守ってやる」
メイはキョトンとした目で俺を見上げ、ニヤリと笑った。
「それが約束だからね。……絶対生き残ってやる」
決意は固いようだ。
「頼んだぜ。俺が死にかけたら『靴』で逃げろ。いいな?」
「……それは困ったな」
今までは割とはっきりした受け答えをしていたが、ここにきて言葉が小さくなった。
しゃがんでメイと目線を合わせる。
メイの方に両手を置いて、力強く言い聞かせる。
「困るんじゃない。即座に逃げろ。俺で勝てないなら、メイじゃとてもでは無いが無理だ。
せっかく『靴』を取ったんだ。有効活用しろ」
「……そうならないように柊さんが居るんでしょ?」
「……そうだな。『耳』で未然に回避しよう」
うん、と言った後まだメイは喋った。
「あと、しゃがまないで。何か屈辱」
ニッコリと笑いながら軽く頭を殴られ、家を後にした。
皆さん昨日はたくさん評価して貰ってありがとうございます。
まだしていないという人もできたらお願いします。
原動力です。