第6話 黒沢明
今日は2話投稿します。
第6話 黒沢明
第7話 準備
ご注意を
「おい!」
「んむっ!?」
両親の死に少女メイは嘆き、声を上げ泣いていた。
しかし、俺はそれを良しとせずメイの口を手で強引に塞いだ。
少女の小さな体を抱え上げ、体を拘束した。
俺から離れようと体をジタバタさせてくる。
「んぐ!ん~~~!」
「頼む!あいつが居る!黒いのだ!分かるな!?」
そこでピタリと動きを止めて、俺に体を預けてきた。
両親が死んだ壮絶な状況でも、世界は悲しませる事だけを許さない。
最善の行動を選択し続けなければ、鏡面世界では死が待っている。
それを目の当たりにしたのは、メイだ。君は賢い。いい子だ。
『耳』を連続使用して、黒の行動を監視を続行する。
『耳』の使用には制限がある。
ある程度の動きを制限しないと発動しない。
ゆっくり歩く程度だったら、少しくらい発動する。
走ったりしたら、ほんの一瞬しか『耳』が使えない。
まったく動かないこの状況なら、『耳』は使い続ける事が出来る。
2人の吐息だけがこの部屋を満たしていく。
メイが抱えられながら俺を見上げ、まだかと目線で問う。
首を振って否と伝え、監視を続行。
もうすぐ、この家の前を通り過ぎる。
早く。行ってくれ。気づくな―――!
「ふ~~~~……もういいぞ」
1分以上黙っていたおかげで、黒は何事もなく遠くへ行ってしまった。
メイを解放して気まずい雰囲気が流れる。
曲がりなりにも女性の体を抱いていた事に気付いてしまい、何を言えば良いのかと悩んでいたらあっちから口を開いた。
「……柊、さん?」
「……ああ、俺は柊だ。名前を教えてもらえるか?」
「黒沢明です。昨日16歳になりました」
「えっ!?」
「……なんですか?」
「あ……いや、別に」
嘘。小学生くらいかと思ってた。
身長なんて140㎝台だろ、たぶん。高校生?全く見えない。
それでも小学生には無いような雰囲気と、美貌と言っていいのか、端的に言えば美しい。
美しさとサイズから来る可愛さが凄いギャップを生み出している。
16歳と分かるとさっきした事が悔やまれる。
普通に警察に突き出され、手には縄がかかってしまう。
いや、小学生でもロリコンと蔑まれ社会的に抹殺されるだけだが。
「……いいんです。自分でも分かってますから。16歳に見えない事くらい」
自分の胸に手を当てて、少し暗い顔をする。
そこじゃない。そこもだけど。全体的な話だよ?
「だ、大丈夫だ。メイは可愛いぞ。そんな心配しなくても……」
「皆そう言います。……でも小っちゃくて可愛いとかそういうのです。
こんなちんちくりん誰も貰ってくれません」
どうしてこんな話になってるんだ?
こんなとは言わないが、本人にとっては深刻な問題なんだろう。
掛ける言葉が見つからず、また気まずい空気が流れる。
ちんちくりん発言をフォローできず、さらに暗い顔になってしまった。
しまった。否定位するべきだった。
本当に体だけはちんちくりんだから納得してしまった。
こんなこと考えてるなんて知られたら、一発殴られる。
またあっちから声をかけてくれた。
本当にごめんなさい。喋るの苦手なんです。
「お父さんとお母さんをこのままにできません。手伝って貰えますか?」
「何をするんだ?移動させるのか?」
「埋めます」
衝撃で体が固まる。
曇りない眼で遺体を埋める事を提案してきた。
どうしてもこういうのは忌避感が走る。死体に、いや、遺体に関わる事は日本人的な感覚で言うとあまり自分から進んでやりたいとは思わない。
また日本は火葬だ。
土葬は遺体遺棄という考えが先走るのではないだろうか?
それを真っ先に。
俺の移動案なんて現状から目を背けていただけ。
このくそ暑い真夏日に遺体を放置したら、すぐに腐るのは分かっていたはずだ。
何体も見てきた。
驚異の覚悟。
「分かった。ただし俺の指示には従ってもらう。いいな?」
「分かりました」
2人して庭に出て倉庫に手を掛け、シャベルを手に取った。
庭に穴を掘る前に、確認を取った。
「黒が来たら黙ってろ。絶対に動くな。穴を掘りすぎる事に集中しすぎて周りの警戒を怠るなよ」
「クロ?」
「『黒い人物』の事だ。俺はそう呼んでる」
「なるほど」
納得すれば黙々と庭に穴を掘る。
時刻は午後3時過ぎ。
ピークを越えたとはいえ、まだまだ日差しの勢いは止まらない。
肌に太陽光が降り注ぎ、肌を焼いていく。
この鏡面世界ではまだ犬や猫、果ては鳥まで見ていない。
遺体を掘り返される心配はないから、そこまで深い穴は必要ない。
しかし血縁関係、まして直系の親の墓を適当にやる訳にはいかない。
もう十分だと思っても、メイは穴を掘るのを辞めない。
……すごいな。
1時間くらいはこうやっているが、メイは1回も休憩していない。
凄い体力あるな。俺ももう少し行けそうだが、これ以上やってたら黒が出てきたときに対応ができない。
腰を落として少し休憩する事にする。
見た目小学生の女の子だけ働かせて、自分は休む。
……気分悪い。
『耳』!
休憩しながらも周りの警戒は怠らない。
今の所近づいてきた奴はいたが、ニアミスだ。
近づいたと思ったら引き返していったり、道を曲がったりして離れていった。
かなり運が良い。
メイや両親もずっとここに居たみたいだし、ここは安全地域みたいなもんになってる。
さっき2体も出たけど。
警戒する必要もなくなり、久しぶりに会話ができると思い座りながらメイに話しかけた。
メイさんは穴を掘りつづけています。頭が上がりません。
「なぁ、疲れないのか?体力あるな」
受け答えはするが、穴を掘る事は一瞬たりとも止めない。
体は汗だくになって、服が体に張り付いている。
幼児体型だけど、少しエロい。
「一応部活やってますから」
「何やってんの?」
「陸上とライフル射撃です」
こりゃまた珍しい。
「陸上はやり投げをやってます。少しは走りますが、やりが専門です」
少し誇らしげに話し、気分が良いようだ。
得意な事を話すのは楽しいだろう。
「本当は陸上だけやろうと思ったんですけど、第一高校は珍しくて。
ライフル射撃ですよ!?やってみたいと思うのは当然だと思うんです!」
興奮して声を荒げてしまったが、状況を思い出し落ち着いてくれた。
それといい情報だ。
「第一高校の生徒なのか?」
「はい。それがどうかしたんですか?」
「ん、ああ。そこに行こうとしてたからな」
「何でですかっと!」
掘った土をヒョイッと投げ飛ばす。
「誰か居たら良いなと思って」
「……居ますかね」
「……さぁな」
暗い未来に初めてメイの手が止まってしまった。
そろそろ午後5時を過ぎようとしている。
まだ明るいがこの作業もどこかで見切りをつけないと、延々とやってしまう。
休憩を終えて俺も穴を掘る事にした。
庭の土は思った以上に固くほるのに困難した。
メイの要望で穴は一つにして二人を一緒に入れてあげたいとの事だった。
こんな所からも家族仲が垣間見えてしまう。
それだけに、つらい。
午後7時前、暗くなる少し前に穴掘り作業を終えた。
部屋の中に戻って、お二人を抱え丁重に弔う。
穴の傍には佇むメイと俺。
メイは目を瞑って、何を思っているのかは分からない。
数分間は目を閉じ、祈りを捧げていた。
メイはゆっくりと目を開けて、最後の作業を行う。
「……埋めましょう」
「……そうだな」
シャベルを手にとって、掘った土を穴の中に静かに放り込んでいった。
日はすでに落ちかけ、あまり作業も苦ではない。
黙々と土を穴に入れていくと、あっという間に終わってしまった。
作るのは難しいのに、埋めるとなるとそこまででもなかった。
メイはしゃがみ込んで、また祈りを捧げる。
夕暮れの住宅街でその行動は、とても異様だった。
時刻は午後8時を超えた。
日は暮れてしまい、外は暗い。
都会とも田舎とも言い切れないこの地域では、電灯の数がかなり中途半端に設置されている。
少し歩けば山はあるが、そこまで大きいものでもないし、でも「田舎か?」と問われればそうでもない。
そんな場所だ。
何が言いたいかって。
「もう移動できない」
「ですね」
豚野郎はその辺に捨ててきて、もう家の中には生者しかいない。もちろん豚に刺さった矢は当然回収済みだ。
窓が破られた家に居るのはどうかと思ったが、襲撃を受けた時すぐ逃げれるという事を考えた。
逆に静かに侵入される危険もある。
それ以前に室内に沸く可能性もある。
にっちもさっちもいかない状況だ。
しかし外をうろついて、暗闇の中から黒に襲われるくらいなら家に居る。
ここからは防衛戦だ。
今はこの家の2階のメイの部屋で今後の事を話し合っている。
部屋の明かりを点ける訳にはいかず、小さなランプがあってそれでぼんやりとだが部屋の中を見渡す事が出来る。
暗くて分かりにくいが、女の子してる部屋だ。
つーか、入って良かったのか?
いーけど。
「今何時くらい?」
メイがポケットからスマホを出して時間を確認する。
「9時前ですね」
さっき体を拭くなりして時間を取られたか。
やる事無いから別にいいんだけど。
「まぁ、着替えてもらった訳だが、ちゃんとしたの着てるな」
「何ですかそれ?よく意味が分からないですよ」
「スカートなんて履いてきたら一発ぶん殴るとこだった」
「怖っ!最初から言えば良いでしょ」
メイはちゃんと半袖半ズボンの格好で勉強机の椅子に座っている。
俺は床です。
「現状が分かってるかのテストだな」
「……正論なんですか?それ」
呆れた声でため息をつかれてしまった。
親が死んでもこの状態なら大丈夫なのだろう。それなりに精神の強さを見せつけられている。
「それで、柊さん。どうするんですか?これから」
うーん、と声を出して悩みそれから考えを話す。
「メイは黒を何体倒した?」
何言ってんだこの人?、みたいな顔で見られてしまった。
「あんなの倒せる訳無いでしょ。柊さんがおかしいだけです」
ぐさっ。ちょっと心が痛い。
「素手で真っ二つにしてたし。人なんですか?」
死んでいいですか?
結構辛口だな。
「やっぱり家にずっと隠れてたのか?」
「そうですよ。どう考えてもそうです。当たり前です」
「……分かったから」
キッパリと何度も否定を受けると何とも言えない感じになってしまう。
キリッと雰囲気を変えて真面目になる。
「明日には学校に着きたいな。目的が無いと辛い」
「そうですね」
うんうんと頷いてくれた。
初めての肯定か?うれしい。
「それとメイに黒を3体倒して貰おうか」
変な顔をして俺を見てくる。
そこまで変な事言った?
「馬鹿ですか?どうやって倒すんですか?」
……。
「……お前ライフル射撃やってるんだろ?ボウガン貸してやるからそれで倒せ」
「いやいや、そうじゃなくて。何で倒さなくちゃならないんですか?」
ああ、そうか。知らないのか。当たり前か。俺だって知らなかった。
「そうだったな。黒を倒すとだな、力がもらえるんだ。ルール覚えてるか?
『選別』中は『選別』中に手に入れた力を使用することができる、ってやつ」
ちょっとしかめっ面をして思い出そうとして、ようやく記憶が戻ったみたいだ。
「ありましたね。そんなの」
「黒を3体以上倒すと力が貰える。メイがどれくらい射撃できるか知らないが、ボウガンで奇襲すれば行ける。一発で死んでくれる。これは実証済みだ」
「?じゃあ、柊さん何か持ってるんですか?」
「あぁ、あるぞ」
そこから分かっているだけの力の詳細をメイに教えた。
「……じゃあ、『耳』を持ってるんですね?」
「そうだ」
ちょっとメイが黙ってしまい、変な空気が流れる。
えっ?何?何かやった?
「……どれくらい聞こえるんですか?」
あ?えーと?分かんない。適当だった。つーか、具体的にどれくらい聞こえるか分からん。
「よく分からんが、メイの助けを呼ぶ声位は聞こえた。割と離れてたと思うが結構はっきり聞こえるぞ」
「な、何てこと……!そんな恐ろしい物を……!」
何が?スゴイ使えますよ?
メイは澄ました顔で爆弾発言をかます。
「分かりました。柊さんは変態さんですね」
「え!?何が?なんで?」
意味わかんない!!
「女性のトイレの音を聞くためにその力を選んだわけですね!!」
……お、恐ろしい事を言い始めた。
平時の日本ならこれだけで警察に連れて行かれる。
慌てて反論した。
「さ、さっき『耳』を選んだ理由言っただろうが!?」
「いいえ!そんな事ありません。絶対そうです!何て破廉恥な……!」
即否定。冤罪だ!
「そんな考えが出るお前の方が破廉恥だ」
ここから睨み合いが始まり最強の反論をぶつける。
「だいたい、そういうのが目的なら『鼻』でも取って、匂い嗅いだ方が良いんじゃないか?」
……終わった。
軽蔑の目だ。蔑んでいる目だ。ゴキブリを見る目だ。
待てよ。最初に言い出したのお前だろうが。
「……と言うのは冗談として、良いですよ。ボウガンがあれば倒せそうですし。やりましょうか」
……何の話してたっけ?
性癖談義になった前の事が思い出せない。
あっ、思い出した。黒を倒すだかの話だ。
「……結構あっさりだな。イヤイヤ言われるかと思ってた」
「しょうがないでしょ。お父さんとお母さんとの約束です。
ある程度いう事は聞きますし、頑張って生き残るんです。
力があれば生き残る可能性は上がります。そうでしょ?」
「その通りだ。良い子良い子してやろうか?」
「……殴りますよ?」
目が据わっていて本気が窺える。
腕を持ち上げ拳を握りこみ始めた。
「……冗談だ。久しぶりに人と話してテンションがおかしんだ。許して」
「……結構苦労してますね」
拳を下ろして、同情気味に呟いた。
「……お前の方がよっぽどだろ」
お返しにと言い返してしまった。
「……そうかもです」
レイプ寸前までいった事や両親の死の事を思い出させてしまった。
……はぁ。ダメすぎ。俺。
何とか慰めて、情報の共有を図る。
もう10時くらい行った?もうそろそろ寝た方が良いかもしれん。
これで最後だな。
「最後に黒の事だな。メイはどう思った?」
困ったような表情をするが、それでも返答はしてくれる。
悪感情はないようで本当に助かってる。
「どうと言われても、スゴイ強いんじゃないですか?」
「まぁ、そうなんだが。俺が今まで何体か戦って分かった事がある」
「……何ですか?」
ここからは真面目な話である事を察して、真剣に聞いてくれる。
「まずは攻撃力が強くて、防御力が低い。おそらく金属バットを全力で振りぬけばメイの力でも倒せる」
「その前に死にます」
……そうかもしれんが。
厳しいなぁ。
「あとはかなり個体差が激しい。防御が紙みたいな奴もいれば、かなり頑丈な奴もいる。
動きもそうだ。ピンキリ。対応を間違えたら死ぬ」
手刀で真っ二つになる奴もいれば、『大崩』と『逆嵐』のコンボを避ける奴が居る。
まったく止めてほしい。
「そうですか……」
少し脅しすぎたか?
だが大切なのはコイツの方だ。
「もっとヤバいのが居る」
「……まだ何かあるんですか?止めてくださいよ」
俺だって止めて欲しいわ。
「声を出す奴が居る。これはヤバい。他の黒を集める。しかも見た目で分からない」
「はい?声なんてさっきの奴らも出してたじゃないですか。『―――!』って」
不覚にも声を出す姿を可愛いと思ってしまった。
反省。反省。
こっちが本物だ。
「ちげーよ。『イィィィィィィイイイイイィィイ!!!!』だ」
メイは耳を押さえて非難抗議を申し立ててきた。
「ちょっと!何やってるんですか!?大声出さないで下さいよ!」
「あ?大丈夫だ。近くにいねーよ」
少しの間辺りをキョロキョロしていたが、俺の言葉が本当だったと分かり俺の方に向き直った。
「心臓に悪いです」
「悪かったよ」
何故か二人とも笑ってしまい、穏やかな時を過ごせた。
あれからメイには寝てもらい、交代で睡眠をとる事にした。
メイは穴掘りをかなり頑張ったようで、あっという間に寝てしまった。
俺は日中仮眠を取ったので、そこまで眠くない。
それ以前に、『選別』前でも割と寝なくても平気だった。
仮眠を取ったなら余裕だ。
良く考えればゲームが始まってから、既に24時間が経過している。
スマホの画面を見れば午前3時。
2日目と言ったところか。
1日使っても学校まで着く事すら叶わなかった。
それ以前に俺のせいでメイの両親が死んでしまった。
損しかしてない。
「……ダメだな」
呟きと同時に、階下から大きな音が鳴った。
立ち上がり、武器の確認をする。
「……掛かったか」
倉庫で見つけた防犯グッズの石ころを家中に敷き詰めてある。
踏むと大きな音がなる奴だ。
『耳』を使っていたのに気付かなかったのは、ここで湧いたのか。
音はゆっくりとこっちに向かって移動している。
その内階段を上ってこの部屋まで来る。
アホ面晒して寝ているメイを叩き起こす。
やっぱあれだ。黙ってると可愛いな。
「おい、起きろ。黒が来た」
「ふぇ!?ほ、ホントですか!?」
慌てて起き上がり、タオルケットを吹き飛ばしながらボウガンを手に取る。
「嘘言ってどうする。ボウガンの使い方は教えたとおりだ」
メイは矢を装填しながら頷く。
かなり力のいる作業だが、どこにそんな力が詰まっているのか分からない細腕でさっさと装填した。
石を踏む音もだんだん近づいて、すでに2階に到達している。
メイを部屋の右角に追いやり、俺もドアの正面だけは避けてやや左方向で待ち構える。
ドアをぶち抜く可能性がある。真正面に立ってたら巻き添えだ。
音が1歩1歩近づいてくるのは本当にダメだ。
死神が来ているみたいだ。
あいつ真っ黒だし、イメージぴったり。最悪。
とうとう部屋の扉の前まで来て、そこで音が止んだ。
この扉は鍵が無い。開ける事もできるし、黒なら破壊位できる。
ここで部屋の明かりを小さめに点灯させる。
さすがに真っ暗ではやりづらい。他の黒に見られる可能性もあるが、その前に死んだら話にもならない。
負うべきリスクの一端だ。
キィとドアノブが回り、そこで止まる。
ドアノブを回しきっただけで、そこから何の反応もしない。
……ぐ。それ辞めろ。ここでボウガンを撃たせるか?
だが貫通するかはかなり微妙だ。
コンクリを貫通すると言ったが、本当の所どうかなんて知らない。
試射してない。試した事ねーよ。
クレー射撃ばっかやってたし。
ボウガンは買って終わりだった。
緊張状態が続くが、誰も動かない、動けない。
時間だけが消費されていく。
その時突然にドアが開き、低い体勢で黒が俺に襲い掛かる。
パァン!とボウガンの音が鳴り、黒の左肩を抉ってそのまま欠損させた。
これで右腕のみ。良い働きだ。
「準備してろ!」
「はい!」
リロードの指示を出して、黒との一騎打ちとなる。
左腕の消失で重心がずれて、まったく覇気の無い拳が繰り出された。
腕を捕って柔道の動きで黒を床に叩きつけた。
そのまま肩関節を極めて、黒の背中にのしかかる。
「―――!」
黒は呻き、暴れようとする前にナイフで捕っていた腕を切断して距離を取る。
黒は起き上がろうとしているが、腕が無くなりその場でもがいているだけ。
黒から少し離れたと同時にメイの声が上がる。
「できました!」
言いながらボウガンを構えている。いいぞ。
装填完了。
「撃て!」
掛け声と同時に射撃。横たわって狙いにくいが、完璧に黒の頭を捉えて液体へと変貌させた。
上手い。
最初の射撃もよく当てた。
「やった!倒せた!!」
ボウガンを抱えぴょんぴょん跳ねながら、嬉しさを体を使って表現する。
これはあの両親も骨抜きだっただろう。
「ああ、やったな」
矢を2本回収して、部屋の明かりを消した。
これ以上点けていても良い事は無い。部屋は黒い液体でびちゃびちゃだ。
「汚れちまったな」
狭い部屋で合流し、勝利を分かち合う。
「いやー、しょうがないよ!」
メイのテンションが落ちない。興奮しすぎだ。
頭を押さえつけ、ぐりぐりかなり強く撫でつけた。
「落ち着け、他の黒が来るだろが」
「そ、そうね。ごめんなさい」
大きく深呼吸してようやく落ち着いた。
小さなランプと点けるとメイがボウガンを差し出してきた。
小さな女の子がボウガンを持つ。……嫌な時間だ。
それでも……。
「それはメイが使え。メイの方が上手い」
「えっ!?いいの?やった!」
こいつノリノリだ。さっきまで黒と戦うなんてあり得ないなんて言ってたのに。
調子の良い奴め。
だが思わぬ拾い物だ。
ボウガンは持て余していた。かさ張るし、それに日本刀も持っているから非常に移動しづらかった。
そこに日本人にしては珍しい射撃経験者が仲間?になった。
力よりも得難い。
俺にも運が向いてきた。
未来に一条の光が見えてきた時に、スマホが鳴った。