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人類よ、貴様らは増えすぎた  作者: tempester08
第一のゲーム『黒い人物』
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第4話 意味

今日は2話投稿します。

第3話 力

第4話 意味


ご注意ください。

 1,2時間目を閉じて、緊張も披露がある程度和らいだ。

 この間は平和で、黒は室内には出現しなかった。運が良い。


 腹の中に詰め込みすぎた食料もあらかた消化して調子も良くなってきた。


 ソファーから起き上がり、体中を回す。 

 ゴキゴキと骨が鳴る音がして、だんだん本調子に近づいてきた。

体を動かしていると、俺の体に影が差しかかった。

 待て。


 「……誰だ?」


 ゆっくりと首をめぐらせ、カーテンに隠れるガラス扉に視線を向けた。

 庭にいつの間にか誰かいる。

 カーテンに影が出来ていて、形は人型。

 いつだ?何時からいた?


 ……違う。今湧いたんだ。(・・・・・・・)


 最悪だ。さっさと移動するべきだった。

 絶対ばれている。

 まったく動いていない。

 

 時が止まったかのように、何も動かない。

 時計すら使用不可能なこの世界で、音を作るのは己の呼吸だけ。


 「ふー……ふー……」


 息が荒くなる。近くに置いてあったボウガンを手に取り、矢を装填する。

 矢を装填するのには、コツと20~30㎏の牽引力が必要になる。

 なんて緊張感だ。一つの動きが全てを崩壊させそうだ。


 どう動けば良い?待ちか?こちらから仕掛けるか?


 だが、ガラス扉は鍵がかけてある。

 鍵を開ける、扉を開けるの2アクションが要る。

 これでようやく外に出て、黒と勝負?

 これはどうなんだ?デカい隙になるのではないか?


 ……待ちだ。カウンター。これだ。後の先を取る。


 その時黒と思わしき人物が動き出した。

 ゆっくりガラス扉から離れ、カーテンから影が消えてしまった。

 幾分かの時が流れ、静寂があたりを包み込んでいる。


 くそ……。考え得る中でも、これは最悪だ。

 どうなる?黒に気づかれていないのか―――!!!!?


 視界を外した瞬間ガラスの破砕音が俺を襲う。

 砕けたガラスが部屋中に飛び散り、その中を黒が駆け抜けてきた。


 クソ!!騙された!

 わざと離れて俺の油断を誘いやがった。


 ボウガンを構え発射しようとするが、悪手だと気づいた。


 「―――!」


 黒の手刀が俺の左腕を打ち、ボウガンを取り落としてしまった。

 手持ち最強武器がなくなる焦燥たるや。


 クソ、さっきから何なんだ!!

 接近した黒に膝を打ち出すも、ガード。頭突きを見舞われた。

 視界が明滅して、意識が飛びかけてしまう。


 「がはっ」


 たたらを踏み、数歩下がった時に黒の必殺が襲い掛かってきた。


 「―――!」


 右脚の跳び回し蹴り。ゴウッと脚が空気を切り裂いて俺に迫る。

 クソ!頭に!


 今までの稽古の成果が体を勝手に動かし、腕に劇的な筋力を集約する。

 

 【柊流古武術『尖砕』】!


 俺の左手を添えた右肘と黒の脚が激突した。

 肘と脚の攻防が俺の腕にダメージを与えていく。


 「ぐうぅ!!」


 強い!過去最強の黒だ。


 相打ちとなり両者が狭い室内で距離を取った。


 この黒は頭も良いし、力も強い。

 黒でも序列みたいな物が有るのか?

 だが、強い。それは分かる。


 しかし、やはり防御は低いな。黒の脚にひびが入って、そこから液体が漏れ出ている。


 サバイバルナイフを抜いて、構えた。

 同時に黒が床を蹴り、俺の命を刈り取りに来る。

 黒が再接近してくると同時に、黒が怪我をしていない左脚側にナイフを投擲。

 黒は力の入る左脚によるステップでナイフを回避するが、それが狙いだ。


 投擲と同時に俺も黒に近づき、回避するはずの左側に陣取る。

 自ら死地に赴いた黒にとどめの一撃を加える。


 【柊流古武術『波風』】!


 右を軸として、左の脚を黒に打ち付けた。

 全力で横に振った左脚は黒の頭を破裂させ、行動不能に追い込んだ。

 黒の体は力が抜け崩れ落ち、液体へと変わってしまった。


 周りを見渡す。

 他の窓から侵入した黒はいない。

 

 だが、外は?


 ……使うか。


 目を閉じて、集中する。


 

 『耳』!!



 周りの音が俺に殺到する。

 小さく歩いている音、呼吸音。 

 何処にも急いで動いている奴はいない。


 「……よし」


 どの黒も動きはない。

 聞こえていなかったか。音に反応しないのか。

 楽観はしない。

 音は届かなかった。だから来なかった、という事にする。



 ――――結局あの時俺は『耳』を選んだ。

 『刃』等はどのように動くかは心配だったし、今の所は【柊流古武術】で黒は倒せている。

 『地図』は精度不明というのがどうしても不安になり却下。

 残るは五感の類だが、住宅街で『目』を強化しても何か良い事があるか分からない、却下。

 『鼻』。要らない。却下。


 なので、『耳』にした。

 『耳』がこんなに使えるなら、他のを選んでも全然良かった筈だ。

 ま、『耳』のおかげでより知覚できる範囲が増えたのはかなり生き残る可能性が上がったのではないかと思う。


 それよりも移動しよう。

 一か所に居るとまた黒に会う可能性もある。移動してもある訳だが。

 目的は学校に移動する事だ。いつまでも居る訳にはいかない。


 時刻は12時。あっつい。

 日差しはじりじりとアスファルトを焼いている。

 動かない冷蔵庫からお茶を拝借して、リュックに詰める。

 武器もすべて回収して、家を後にした。




 あれからさらに2時間以上経過している。

 住宅街をうろちょろする黒の数は依然減らない。『耳』のおかげでなんとか戦いは回避できている。

 やはり『耳』は正解だった。

 一人だったら最善の選択だったかもしれない。

 塀の裏に隠れて一休みする。

 

 「……ここからどうする?」


 第一高校への行程はたぶん半分ほど消費した。

 だが、黒による道の制限でウネウネ動きすぎて、今どこに居るのか把握できていない。

 とにかく持ってきたコンパスを頼りに北へ向かっているだけだ。


 道の選択は住宅街の小さな物だけを選んでいる。

 大通りに行っても良いが、たぶん「黒の数が多いのでは?」、と思ってしまう。


 手ごろな家の敷地内に入り、塀で体を隠す。

 リュックからお茶を出して、温いが喉を通すと不思議を生き返る。

 とにかく暑すぎる。外にいるだけで汗が出るし、命懸けの移動だ。

 もうやってられない。


 「……くっそ」


 『耳』を使えば付近に黒が居て、引き返す事になった。

 こんな事がしょっちゅうだ。

 さっきまでは黒を全滅とか考えていたが、不可能だ。成功する確率0%。

 

 まず黒の数を知らない。

 いったい何体いるんだ?人類と同じ100億?それとも200億?それ以上?


 無理だ。数の把握もできておらず、日本ですらこんな状況だ。

 本当の貧困国の人達は抵抗すらできない。そんな体力があるのか?甚だ疑問だ。


 人類は人口が半分になるまで、この第1のゲームは終わらない。


 取り敢えずまたその辺の家の中に入って休憩を取った。

 別に諦めた訳じゃない。

 冷蔵庫を漁りながら今後の事を考える。


 「やはり数が多すぎる。倒すしかないか?」


 あと数時間でこのゲームも24時間が経つ。

 どの程度の人が死んでいるのか?あと何人だ?

 日本人が全滅しても1億人。残り49億。……どんなもんなんだ?

 仮にすでに半分の25億が死んだと仮定すれば、単純計算であと24時間。


 ……楽観的過ぎるか?

 もっと厳しく見よう。一週間。7日で終わる。

 7日ここに居たらどうなるか?死ぬ。


 待て。移動したらどうなる?危険度はさして変わらないか?いや、多少上がる。

 が、仲間、生き残りと合う可能性がある。


 今何がつらいかって会話が無い事だ。

 別にお喋りじゃない。むしろ喋るのは苦手だ。女相手なんて考えただけで難しい。

 でも、話したい。


 意外ときつい。

 この鏡面世界はほぼ無音だ。

 人間が出す音が無くなって、自然界の音しかなくなってしまった。

 これがかなり堪える。


 そうでなくても、『力』を持つ奴と共闘できれば俄然生存率が上がる。 

 これを天秤に掛ければ、学校に移動して微かな希望に掛け移動せざるを得ない。


 この家からタオルを勝手に持ち出し全身を拭く。

 ベッタベタだ。

 2階へ行き使えるものを探すと、制汗剤もあったみたいで貰った。

 そばには顔面がぐちゃぐちゃになった若者の死体があった。

 済まない。


 1階に戻り、玄関の前で立ち尽くしてしまう。


 「……突破するしかないな」




 覚悟を決めて外に出て早30分。

 黒の壁の薄い所を探し求め、ついに見つけた。

 この1体を倒せばかなり奥まで進める。


 目的の黒は十字路を俺から見て左方向の奥に行って、姿を消した。

 素早く隠れていた場所から身を出し、曲がり角に体を付けた。


 「……」


 そっと身を出して、左右確認。

 右方向はクリア。『耳』での確認でも未だ来ている奴はいない。


 左を見て黒を確認する。

 真っ直ぐゆっくりと歩いている。距離にして10m。行ける。


 左にボウガンを持ち、右に日本刀を携えた。


 息を大きく吸って、吐く。

 数度繰り返して、決死の勝負を仕掛けた。


 曲がり角を飛び出し、走りながらボウガンを照準。射撃。

 飛んでいく矢は黒の背中に見事命中。黒の体が揺れ、刺さっている部分から液体が漏れ出ている。


 「―――――!」


 黒は特徴的なハスキー音を出して、こっちを向いた。

 遅い。


 片手で持つ日本刀を引き、黒の心臓部分に突きだした。

 吸い込まれていくような感覚で刀は黒を串刺しにした。

 黒の動きは完全に停止して、俺に体重を預けている。


 やった!!成功だ―――!?


 「イィィィィィィイイイイイィィイ!!!!」


 「何!??」


 黒の口部分が大きく裂け、そこから大音声が町中に響いた。

 声を上げれば役目を終えたかのように、液体となった。


 「……最悪だ」


 今までは黒が大声を出さないことを前提に動いていたのに……。

 一気に根底から崩されてしまった。

 何でだよ……。そんな……。

 

 勝手に膝が崩れ落ちて地面に手をついてしまう。

 地面を見つめ暗い思考が頭を埋め尽くしていく。


 「……何やってんだ。まだだろ」


 何とか顔をあげて、現状打破をするため状況の確認をした。


 『耳』!


 ……5体反応したか。かなりのスピードで移動している。

 北から2匹、その他東西南から1匹ずつ。


 確認しながらボウガンの矢を回収する事は忘れない。そして装填。

 北が一番近い。素早く2匹を撃滅して、その他3匹を各個撃破する。


 学校がある方向へ急いで移動する。

 抜刀状態の刀とボウガン、そして1本の矢をを携え、一刻も早く接敵するために住宅街を駆け抜けた。


 10秒もせずに2体が視界に入る。

 後ろからもすでに来ている。速く。


 黒と20mを切った時にその場で立ち止まって、精密射撃を行う。

 このボウガンの有効射程距離は50m。十分当たる距離だ。


 狙いをつけて発射。弦が矢をはじく音が小気味良い。

 黒は腕で防御しようとしたみたいだが、ボウガンはコンクリすら貫通する場合がある。

 防御力の弱い黒では全く防げず、消えてなくなった。


 「よし」


 冷静に、即座に、刀と一緒に持っていた矢を再装填するがすでに発射が妨害される距離。

 射撃不可。刀だ。


 「―――!」


 「シッ!」


 黒の正拳を潜り抜け、抜き胴を撃つが浅い。

 場所が入れ替わり、黒の状態を即座に確認する。

 黒の胸が真一文字に切り裂かれているが、液体になるほどのダメージでは無かった。


 ここで後続の黒達が合流し始めた。ファック。

 攻撃を受け、動きが遅くなった黒にボウガンを撃つ。

 

 胸のど真ん中に着弾。


 「―――!」


 ダメージが許容量を超えて、黒は潰れた。

 残り3体。しかし同時に相手。


 敵を向いたままバック。口に全力の咬筋力で刀を咥え、ボウガンに矢をリロード。


 が、追いつかれる。


 「―――!」


 「がほっ!」


 黒の拳が腹にめり込み、勝手に口が開いてしまった。

 刀が地面に落ち、右手が素手のままとなってしまった。


 勢いあまり、尻から地面に倒れるが、そのまま殴ってきた黒に矢を射撃。

 黒の頭に命中して撃破。液体へ。


 素早く立ち上がろうとするが、走って来た黒の蹴りが顔面に直撃した。

 防御なしの正真正銘の直撃。

 

 「―――!」


 「あぁっ!」


 口の中が血の味で充満し、体は地面に倒れてしまう。

 起き上がる寸前に、1体の黒が俺にのしかかり、拳を打ち付けてくる。


 殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、クソ、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る。


 丹念に執拗に殴り続ける。

 機械的に、徹底的に。殴る。

 入念に、しつこく、これでもかと。殴る。


 血が。


 殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、やめて、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、痛い、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、死んじゃう、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る。


 抵抗。頭を防御。それでも殴る。殴る。

 上から殴る。

 腕を殴る。

 殴る。

 殴る。

 防御。

 殴る。

 防御、防御、防御。


 痛い。クソ。止めてくれ。死にたくない。??


 ……??……なんで俺、こんな頑張って生きようとしてるんだ?

 何で抵抗してるんだ?生きててどうするんだ?

 何かしたい事でもあるのか?


 殴る。


 痛い。何なんだ。いったい俺が何したんだ。


 殴る。


 両親もいない。悲しむ人もいない。やる事もない。


 殴る。


 生き残ってどうするつもりだったんだ?

 弱小化した日本で……。


 殴る。


 もはや希望なんてない。何の人生だったんだ?何かやったか?

 ここでもそうだ。


 殴る。


 自分が助かるためにたくさんを見捨てた。

 もしかしたら助けれたかもしれない……。


 殴る。


 済まない。俺が悪かった。


 殴る。


 意味が欲しい。


 殴る。


 生きた理由。


 殴る。


 生きる理由。


 殴る。

 

 目的が。


 殴る。


 「――――――――!」


 殴る。


 「―――――――て!」


 殴る。


 ……『耳』


 殴る。


 「―――――助けて!!」


 ……分かった。今行く。



 「あああああああぁっぁっぁあっぁああああ!!!」


 強引に腰にあるナイフを掴み俺の上に居る黒の喉を掻っ切る。

 首から大量に出てくる黒い液体が俺に降りかかるが関係ない。


 即座に立ち上がり、構える。


 「ベッ!!」


 口に溜まった血を吐きだして、残る最後の黒との戦闘を始めた。


 両者突撃し、黒が拳を突きだす直前に地面をける。

 死ね。


 前方宙返りをして、脚に遠心力を溜める。

 視界が一回転して、脚が黒めがけて一直線に振り下ろされた。

 

 【柊流古武術『輪廻』】!


 「――――――――!」

 「ラァアア!!」


 曲芸めいた動きで黒の脳天に踵落しを叩き込んだ。

 黒は脳天から真っ二つになり、崩壊。存在がなくなり、俺の荒い呼吸だけが残った。

 後には何もなかった。

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