閑話
お久です。
他の小説があまり読まれないので、こっちのあとがきを書いてみました。
そんな波乱万丈な事はしません。
日常パート。後日談です。
「それでどこに行くの!?」
メイが大声で俺の後ろで抱き着きながら怒鳴っている。怒鳴っているというか大声を出しているだけだ。
今はバイクに乗って移動しているから、声を張り上げないと聞こえやしない。
「そうだな!! 柊孤児院でも行くか!! あそこなら義理の親が生きてるだろ!! あいつ最強だから!!」
放置された車の隙間を縫って、北へ北へと進んでいく。
このバイクはとある家で拝借したものだ。少ない燃料も違うバイクから頂戴している。
「なんだけ俊之さんと麻美さんだっけ? 大丈夫なの?」
メイは二人が生きているのか心配して、若干声が小さくなったようだ。
だがそんな心配はいらない。
「柊流が使えるからな。何だったら俺より強いくらいだ。何かしら力を貰って、他の子供達も守ってんだろ。もしかしたらあの白い女の子も瞬殺した可能性すらある」
第3のゲームで最後の最後に強すぎる女の子が出て、学校から落っこちたのは嫌な思い出だ。あいつによって、堂本も新藤も死んでしまった。しまった。埋葬位するんだった。悪い。
「そんな強いの?」
「強いからと言ってあのゲームを生き残れるとは限らないか。とにかく知り合いがいないからそこしか行けないんだな、これが」
「寂しいねぇ。私が付いていてあげるよ」
そう言ってメイは俺の背中にすり寄る。
残念な感触しかせず、逆にゴツゴツと痛いくらいだ。と言ったら殺されるので黙って少しは柔らかい感触を楽しんでおく。
「3時間位だな。休憩なしで良いか」
「トイレは行かせてね」
◇
朝7時前。
山梨県。某所。山奥。山だけに。
「おい、着いたぞ。ちゃんと起きろ」
「やぁっと? どこか3時間? 倍以上はかかっているけど?」
メイは目をこすりながらつかかってきた。まぁ、間違っていたのは俺だから反論はしようがない。死体がそこらに転がって、移動しづらかったのだ。
今は看板に柊孤児院と書かれた建物の前まで来ている。ボロイ。少し錆びついた建物が哀愁を漂わせている。
朝が早いから誰も居ないのか、それとも選別で死亡しているのか。
門を開いて勝手に中に入る。メイも付いてきて後ろから入ってきた。残暑厳しいと言うより、夏真っ盛りの8月17日だ。暑い。
錆びついた門を引いて、柊孤児院の敷地内に入った。
まだ6時前という事もあり静かなのか、誰も居ないのか。誰か居るが口を開く事が出来ないのか。
「おい、照光だ。戻ったぞ。誰か居るか?」
木造平屋のすりガラスを木枠で格子状に嵌め込んだ、クソボロイ玄関ドアをガンガン叩く。
鳥のさえずりしかしない山奥の孤児院に、けたましい音が鳴り響く。後ろに居るメイもしかめっ面だ。
すると前からでは無く、後ろから声がかかった。
「あら、照光? こっち来てたの? やぁね!! 電話の一本も寄越しなさいよ!!」
柊孤児院の母代りであるところの麻美さんが、いつの間にかたくさんの野菜を抱えて後ろに居た。俺の肩を叩き、次いですぐそばに居たメイに気付いたようだ。
「こちらは? 可愛い子ね。幾つ?」
「……16です」
小学生の対応をされたメイは、麻美さんの問いに不承不承として答えた。もはや型どおりだ。
「あぁら、ごめんなさい。てっきりおばさん照光が小学生攫ってきたのかと思っちゃったわ! そうなったら俊之さんに制裁を受けてもらう所よ。まぁ、それにしても可愛いわね。お人形さんみたい」
麻美さんは野菜類を地面に置くと、メイをこねくり回し始めた。メイは最初こそ嫌そうにしていたが、おばさんパワーに負けて、身を任す選択をしたみたいだ。
「うちの子たちはやんちゃばかりで。照光が居なくなってからは少しは納まったんだけど。昨日まであれでしょ。『選別』? あの子達張り切っちゃってて。誰が一番倒すかなんて遊びまで始める始末よ。おかしいわよねぇ」
マジかよ。『選別』を遊び感覚で切り抜けたのか。
「……そんな事出来るんですか?」
「まぁ、あの子達全員柊流覚えてるから。そこの照光と同じよぉ。えぇっと、」
「メイです。黒沢明」
「そ、メイちゃんも見た? この子結構強いでしょ。みんな同じくらいは強いのよ。そしたら俊之さんも暴れて良いぞなんて言っちゃって。ここに来るやつら全員ぶっ飛ばしちゃうの」
「……」
メイは言葉を失って、今まで過ごした一週間近い地獄の日々を思い出す。
ため息を吐くと、麻美さんがメイを解放して野菜を手にした。
「麻美さん、お腹すいたよ。皆は?」
「まだ寝てるわよ。あんまり良い物は無いけど、ご飯にしましょうか」
◇
「おおぅ、照光か。久しいな。生きてたか」
のっそりと大男が過度の部屋から姿を現した。まるで熊のようにデカいその体に、メイは俺の後ろに隠れた。
「あ、悪いな、嬢ちゃん。何もしないから安心せい」
「う、あ、はい。こちらこそ……」
メイはぺこりと見た目で判断した事を謝り、俊之もあまり気にしていない様子だ。これで気にしていたら、こいつは外を出歩く事は出来ない。
「生きてたみたいだな。安心したぜ」
「言うようになったな、照光。ワシらがやられる訳があるまいて。麻美、それより飯じゃ」
懐かしい、おんぼろの我が家を潜り抜けると、小さな子供たちが4人を迎え入れた。
「てるにぃだ!」
俺を見ると全員が突撃してきた。中には柊流で攻撃する馬鹿も居たが、いなして壁に激突させる。大多数は俺に抱き着くだけで、わいわい騒がしいだけだ。
すると8歳の猛が、メイを見て叫び始めた。
「てるにぃの彼女じゃ!! 女じゃ、女!! すごいの、てるにぃ!! ようやく捕まえたんか!」
「アホ!」
俺は猛の小さな脳味噌が入った頭を殴りつけた。
「イッテ―」なんて転がっているが、コイツも『選別』を生き残ったのだ。生半可な8歳児ではない。
「……みんな元気ですね」
メイは昨日まで居た場所を思い出して、非対称な現実に付いてこれていない。
すると5歳くらいだったか、陽菜がメイにくっ付き始めた。
「お名前は?」
びっくりしたメイだったが、小さな女の子を邪険にできる訳もない。
しゃがみ込んで目を合わせ、自己紹介した。
陽菜は嬉しそうにお姉ちゃんと言うと、メイもまんざらでは無いようだった。
2人して遊ぶようで、角っこに行くと人形で遊び始めてしまった。俺はどうすれば……。
後ろから大男が近寄ってきて、自分の体に影が差す。
「照光、久しぶりに闘るか?」
「……やりたいけどな。こちとら死線を潜り抜けたばかりなんだよ。そっちと一緒にすんな」
「青坊主じゃのぅ。あれくらいちょちょいのチョイじゃろうて」
「……昨日の白い女の子。倒したか?」
俊之は少々悩んだようだったが、思い出したように拳を掌に打ち付ける所作をした。
「あれは強かったの。じゃが、ワシの敵ではあるまいて」
「……もういい。勝てない事が分かった」
「なんじゃ。負けて帰ってきたのか。嘆かわしい」
「うっせぇ」
ちょうど時を同じくして、麻美さんが部屋の中に入って、米とみそ汁を持ってきた。
長テーブルにどんどん配膳すると、デカい奴から小さい奴まで行儀よく並んでいく。メイも陽菜と一緒になって、食べるようだ。
俺も俊之と向かい合わせになって、食事をとる。
「はいはい、そこまで。今はご飯の時間だよ」
朝の7時。
皮肉にも黒沢家の朝食の時間だった。
◇
「肝心なのは死体の処理だ」
ご飯を食べ終わり、俺、メイ、俊之、麻美さんの4人で話し合う。
他の奴らは稽古だ。柊流の型を行うため、庭に出ている。
「死亡原因が感染症じゃないからと言って、油断はできない。死体処理をしないで変な病気が蔓延したら、治しようがない。今の内に処理できるものは処理するべきだ」
俺の真面目な話に、麻美さんが口を出した。
「大丈夫よ。遺体になった方は全員埋葬したわ。時間がある家に二人で家を回ったの。本当は助けたかったけど、間に合わなかったみたいね」
「じゃあ、もうこの辺には遺体は無いんですか?」
「そうとも言い切れないわね。もしかしたらあるかも」
「じゃあ、探した方が良いだろう。できるだけ傷口は覆って、露出しないようにしてくれ。破傷風やその他諸々の感染の原因になる」
「それはお前じゃろう。ワシはかすり傷一つ無いわ」
そうですか。
◇
懐かしき稽古の風景を横目に、俺とメイの二人は村の中を散策する事にした。もちろん遺体があれば埋葬するための装備はある。
のどかな田園風景を楽しみながら、早朝の空気を大きく吸い込んだ。
「……はぁ。どうだ? ここは」
「良いですよ。陽菜ちゃん可愛いし」
小学生の体をしたメイは幼女にメロメロのご様子だ。
もう少ししたら穂を付ける田圃を通り過ぎ、一つの家に入った。
「おじゃま」
勝手口に我が物顔で入り、靴を脱いで中に入り込んだ。
ちょっと前ならギリギリの行為だ。
メイは少し躊躇したのち、一緒に家の中に入る決断をしたようだ。
台所、リビング、居間、寝室。
全てを回ったが、この家には人も遺体も無いみたいだった。
「何か心臓に悪いね」
部屋の中を見るたびにドキドキしている。
死体がそこにあるかもしれないと思うのは、流石にキツイ。
「ま、臭くないから無いのは分かるんだけど」
「そうだよな」
当たり前の事に気付くと、作業ははかどった。
この村には、俺の住んでいたようなアパート、その他家の臭いにおいがしない。
本当に全部処理してしまったのか。すごいな。『選別』中にそんな事まで気が回らなかった。
俺達は外に出て、小川の縁に座り込んだ。
清々と流れる川の水を眺め、「これからこれを飲むのかな」と思った。
水道も電気もガスも無い。
「不便になったもんだ」
「こんなもんでしょ。私的にはお風呂がなぁ」
俺の一言でメイにも言いたい事が伝わったようだ。
そしてメイは風呂の心配。ベクトルが違う。
隣に居る一人の女性を見る。
昨晩勢いに任せて、唇を奪ってしまった。黒沢夫妻よ。これで良いのか。
貰っちまうぞ。
割と好きなんだ。吊り橋効果かもしれんがな。
あんたたちの、いや母親の了承だけは貰ってある。父親は反対気味だったが。
胸が高鳴る。まだ早朝だぞ。ここは川だし。屋外だ。そんな事は。
「良いよ」
メイが突然そんな事を言う。
「わたしも」
メイが俺にすり寄ってくる。
近い。
もう目の前だ。
俺はメイに手を回す。
メイも俺の首に手を掛けた。
昨日以来だ。というより数時間以来。もう我慢できなくなったのか、俺は。
猿だな。
もう欲しくてしょうがない。
「あぁ~~~!! てるにぃ、メイ姉ぇとチューしてる―ー!!」
さっきの大声を上げたのは猛だったみたいだが、稽古していた全員がそこには居た。
いや、俊之と麻美もだ。
「あら、ごめんなさい。続けて良いわよ」
できるか、ボケ。麻美さんが悪気が無いように、口に手を当てて「オホホ」と笑った。
俊之はそんな麻美さんや子供たちを引き連れて、家に戻って行った。
あんたも見たんだろうが。クソ。
目の前に居た筈のメイは、顔を真っ赤にして俯いてしまっている。そんな姿も可愛い。
いや、そうでは無く。
「まぁ、なんだ。これからも一緒だ。いつでもできる」
「……柊さん、エッチだね」
「うっさい」
俺は立ち上がると、メイに手を差し出した。
メイはそれを握りしめ、俺は腕を引いてメイを立ち上がらせる。
「ありがと、照光」
「こっちこそな、明」
何か初めて名前で呼ばれたような気がするが、顔が熱くてあまり聞けそうもない。
手を取り合って、家へと戻った。
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