第26話 顔合わせ
今日は短めです
「皆さん、1日ぶりです!おはようございます、こんにちは、そしてこんばんは。この映像及び音声は全世界同時に流れています」
いつも通りにスマホの画面に性別不明でボイスチェンジャーで音声を変えた人物が登場した。
「私は各国首脳の同意の元、この放送を行っています。不法行為で無い事はあらかじめ明言しておきます」
お決まりの文句を言うと口角を上げて笑顔を出した。
ただし口から下しか映っていないので、笑ったかもしれない程度だ。目が分からない。
「あなた方は人類の上位25%に君臨する人々です。ここまで来ると感慨深い物があります。かれこれ75億人程度が死んだのですから、苦労もしました」
しかし、と続けると口元は嘲笑に変化した。
「『巨人』は想定通りでしたね。23時間しか持たず、予定より1時間短かったです。……まぁ、『目』を使ったので当然と言えば当然なんですけどね」
目で埋め尽くされた巨人はやはりというか、国連が意図的に出したものだった。他の人類も逃れる事が出来ず、皆殺しにされたのだろう。
「けど、次のゲームは残念ですがあまり予想できません。一瞬で終わるかもしれないし、粘るかもしれません。あなた達次第ですね。10分で終わるのか、何時間もかかるのか……。頑張ってください」
かなり煮え切らない態度だったが、話は続いていく。
「もう『選別』も終わりです。次で12.5%まで減るので気張っていきましょう。……ルール説明に移ります」
画面の人物は一息入れると、雰囲気を変えてルールを声高に宣言した。
「ゲーム名、『死に行く者』。皆さんはこいつから身を守ってください。ルール満了条件は人口が半分になるか『死に行く者』が全滅するかです」
「『死に行く者』?」
疑問は尽きなかったが国連の代表の話は終わっていなかった。
「また今回に限り、こちらから支給する銃火器の使用を許可します」
これにはここに居た全員が舌を巻いた。
途轍もない戦力がこちらに手に入るという事だが、敵もそれだけという事だ。
「採用銃はアサルトライフルとハンドガンの計2丁。アサルトライフルはFN F2000です。ブルパップ式のアサルトライフルで、前方に排莢されるので右利きでも左利きでも使用できます。使用弾薬は5.56x45mm NATO弾。装弾数30発のマガジンを一人3つ。ハンドガンは各国の軍隊の正式採用銃を支給します。マガジンは各2つ」
日本の自衛隊で採用されているのはSIG SAUER P220。9mmパラベラム弾の装弾数は9発。
「90発と18発。合計108発の銃弾か……」
「弾薬を撃ち尽くした場合、30秒後に再度弾薬を支給します。ただし支給された銃弾は、自分にしか使えないので注意してください。存分に射撃してください」
画面の人物は人差し指を伸ばして銃の形にして、手首を上下させて射撃のまねごとをしている。
「それじゃあ、私の出番はここまでで。あとは自動応答さんの指示に従ってください。頑張って生き残ってください」
スマホの画面が暗くなると、組長宅から移動して鏡面世界に突入していた。
屋内から屋外へと移動し、体に風が吹き付ける。太陽は沈み始めており、気温も下がり始めて涼しくなっていた。
「……学校?」
さらに言うなら屋上に居た。
フェンスは無く周りに遮る物は無い。開放感溢れるつくりだ。
「ここ第一高校だね。フェンス無くなってるけど」
隣に当たり前のようにいるメイがそう言った。
メイの所属高校は第一高等学校であり、風景からそう判断した。
この場には6人。
俺達6名は向かい合わせのように円陣を組んで転移させられていた。
何か喋ろうかと思ったが、自動応答の声の方が早かった。
「それでは、足元に落ちているマガジンポーチを携行してください」
言われるまま見下ろすと、迷彩柄のベストが置いてあった。
アサルトライフルのマガジンが3つ、ハンドガンのマガジンが2つ収納されている。
半袖の上からそれを装着し、次の命令を待つ。
「ハンドガンのホルスターを太腿に装着して、ハンドガンを収納して下さい」
黒い革製のホルスターをしっかりと固定し、ハンドガンを収納。全員が行動を終えると次の指示が来る。
「それではFN F2000を肩にかけて、両手で持ち待機してください」
FN F2000には紐のような物がついており、肩から掛けれるようにされていた。ずっと両手で持つ必要が無いので、一応助かる。
全員、準備が終わっていたが自動応答の声はそこで終わってしまい、手持ち無沙汰になっていると新藤から切り出した。
「自己紹介をしませんか?行動を共にするかは分かりませんが、高確率でそうなるでしょう」
新藤が言うと知らない二人の男女の内の男が口を開いた。
「んー、ま、そうだな。俺としても仲間が居た方が良い。レナもそれで良いよな?」
「う、うん……。ヒロシ君がそう言うなら……」
自己紹介によれば、男の方は酒井寛。年は19歳。大学生。見た目は黒髪で短髪。身長は180はあり、がっしりとしている。アクセサリーをつけているが、チャライという印象は無く、むしろカッコいいという感じが大きい。隣の女とは恋人同士。
女は小林玲奈。年は19歳。大学生。身長は170無い程度。女にしては大きいと感じる。茶髪で肩まで髪を伸ばしている。
それぞれ『棒』と『地図』を持っているとの事。
「射撃経験は?」
「無いっすね。FPSでならありますよ」
「基本くらいは分かるか」
「なんとか」
全員でアサルトライフルにマガジンを装填していく。
コッキングレバーを引いて薬室に送り込む。リロードの動作の確認も行い、全員万全の状態になった。
「柊さんだっけ?詳しいっすね」
酒井が不思議そうな顔で目線を俺と銃の間を行き来している。
「元自衛隊だからな。サウジアラビアに行った時に触らせて貰った」
「すっげ、自衛隊だったんだ。ラッキーだな、レナ」
「そ、そうだね……。これなら助かるかも……」
この二人から目線を外して、メイたちにも確認を取った。
「メイは大丈夫か?勝手が違うと思うが」
メイはライフル射撃部という珍しい物に所属しているみたいで、今まででもボウガンで活躍してもらってた。
目の前のメイを見れば、興奮してしきりにFN F2000を弄っている。
「トリガーに指かけんなよ。危ねーから」
「分かってるって!いや、日本に居ながらこんなのに触れちゃうなんて、超ラッキー!!」
心配なし。
堂本と新藤にも確認を取っていく。
「二人はどうだ?撃った事あるか?」
堂本から答えた。手に持つのは|SIG SAUER P220《ハンドガン》。
「韓国で射撃場に連れて行ってもらたっすよ。アサルトライフルは経験無いっすけど」
お次は新藤。
「自衛官になるための訓練で実弾射撃を経験しています。もちろんどちらも行けますよ」
「警察官で自衛官だったのかお前。やりたい放題だな」
「別に良いじゃないですか。日本を愛しているんですよ」
ぶつくさ言いながら新藤も銃を弄り始めた。
かくいう俺も興奮していないと言ったら、嘘になるだろう。
全員向き直って、お互いの顔が見える。
「酒井と小林も行動を一緒にするので良いんだな?」
「お願いしますよ。ここまで来て死にたくないっすからね」
「お、お願いします……」
こうして、俺、メイ、堂本、新藤、酒井、小林の共同戦線が成った。
すると持っていたスマホからまた自動応答の音声が流れる。
「時間になります。60秒後に『選別』を開始します。準備してください」
どうやら自動応答が黙っていたのは打ち合わせのためだったようで、ある程度時間が過ぎたら終わりだったようだ。
さらに1分の猶予が与えられ、作戦会議に移っていく。
「どうする?屋上に留まるか?」
風が吹き荒れるとまでは行かないが、気持ちの良い温度で肌を撫でていく。
「どうなんすかね?『死に行く者』が何かで対応が変わりませんか?」
酒井が早速口を開いて、意見を出していく。
年長者ばかりの空間だが、気後れしている様子はない。
「別にここに居ればいいんじゃないの?ここに転移したならそれなりの意味があるんじゃない?」
FN F2000を抱えたメイの言葉で、全員が黙ってしまう。
「確かにな。移動した事で危険な目に会ってもあれか?」
「動かなかったらマズイ可能性もあるんじゃ?」
堂々巡りだ。情報が無さ過ぎて結論を出す事が出来ない。
するとオドオドしていた小林という女が口を開いた。あまり積極的な性格には見えなかったが、意外に思ったのは俺だけじゃ無い筈だ。
「あ、あの……。じ、時間が……」
するとスマホから開会の宣言が成ってしまった。
「それでは『選別』開始!!」
俺達は屋上から『死に行く者』を始めて行く事になった。
これがどういう意味を持つのかは、まだわからない。
感想待ってます。