第22話 成功
明日から投稿スピード遅くなる可能性あり。
午前6時を少し過ぎた頃合い。
閑静な住宅街に不釣り合いな爆音が唐突に消えた。空気振動が無くなり、鼓膜を揺らす要因が無くなって静かな空間が戻ってきた。
「死んだな」
爆音の消失は経験から本人の死亡と分かっている。
死亡しても鳴るのではないかとも思ったが、そんな迷惑行為は流石に無かった。
『耳』を使っていても、俺達と巨人以外の足音が聞こえない。これでこの範囲に生きている人間は俺達4人のみになってしまった。
ゲーム開始から11時間程度。
何億人が死亡したのか。24時間で終わるという言葉を信じれば、約半分の12億人程度が死んでいるか。ただ、移動し続けるというルール上、ここから加速度的に死亡者が増える可能性の方が高い。
……時差を考慮してなかった。今日本が朝なら、夜の場所もある。昼をやり過ごした地域もある訳だ。しかし、南半球は冬だと思うから、夜の方がきついかもしれない。
おそらく12億人は死んだはずだ。
巨人を今から倒し、あの家で3時間監禁されれば、残り9~10時間で『巨人』が終わる。
さらにそこから3時間程度歩き、また巨人を討伐すれば残りは約3時間。歩くだけでも終わる可能性もある。
あと2回。
最低2回は巨人を討伐すればかなり安全性が確保できる。
すでに太陽が昇り、明るくなっている道を静かに歩いていく。
「巨人を倒すか」
新藤が信じられないような眼で俺を見てきた。
「何でそんな事を……」
対巨人はこの中で新藤が一番経験している。その上であの巨体と戦うことの危うさを知っているはずだ。だからこそ、俺が正気を保っているのか疑っている。
「新藤さん、やらなきゃダメなんだよ」
「そ、そうなんですか……?」
俺とメイからも巨人を倒すと言われれば、疑問を持ちながらも気持ちの整理をつけるしかない。
作戦の概要を伝えて、時を見計らいながら歩きながら準備していった。
あれから40分以上経ち、あと20分もしないうちに追加の巨人が空から降ってくる時になって行動に移す事になった。狙いの巨人は正方形の範囲の角に移動し始め、他の巨人からを遠ざかる行動をしている。
「ここでやる。メイ頼んだぞ」
メイは頷き返すと地面にボウガンを置いて角を曲がって行った。ここが正方形の範囲の角であり、左に曲がるしかない。
俺、堂本、新藤は油とガスを順次設置していく。
ナイフでスプレー缶の底に穴を開け、地面に放置。サラダ油はできるだけ曲り角の広範囲に撒いて、巨人が転倒するようにしていく。
すると奥から巨人の気持ち悪い声が聞こえ始め、重低音の足音が腹をついてきた。
「来たか……!」
メイは足の速さを活かし、巨人の注意を引くため囮になってもらった。一番危険な役回りではあったが、『靴』のあるメイに二足歩行の巨人では絶対追いつけないという結論になり、俺が巨人を発見し次第注意を引いてもらい、、目的の地点まで引っ張ってもらう事になった。
そして今まさにこの瞬間、メイの活躍により巨人が罠にかかろうとしている。
「準備は!?」
「大体大丈夫っす!」
「完璧じゃないんだな!?」
「ガスがまだ出きってないっすね!」
「なら次の手ですね」
全員武器を担いで曲がり角を曲がって行った。
曲がる先にはメイが巨人に追いかけられているが、速さではメイが圧倒しており追いつくような気配はない。
メイは俺達を確認するとさらに速度を上げて、巨人を置き去りにしていく。
メイとすれ違い俺達が時間稼ぎをしていく。
「殺せるなら殺すぞ!」
打ち合わせ通りに新藤が盾を構えながら突撃していった。
大きな盾に体が全て隠れ、攻撃が直撃する余地はない。さらにこの裏には『服』もある訳か。ダメージはほとんどないな。新藤自身が力負けしない限り、負ける事だけは無い。
「あっぁあっぁ!!」
ゴウッと巨人の右拳が新藤へと振り下ろされるが、新藤は盾を真上に構えて全身の力を振り絞って受け止めていく。しかし新藤の足が止まってしまい、一瞬ではあったが腕時計が鳴ってしまった。この程度は仕方がないと新藤談であり、割り切った戦いとなっている。
完璧に防がれた巨人の顔が痛みにゆがんだ所で、新藤の後ろから俺の槍が伸びる。
「オラァ!!」
俺の腕と槍の長さを考えても最高でも4m腕までしかねらえない。
これは最接近したときの話であり、1m以上も離れた場所から攻撃すれば腹を攻撃するのが精一杯だ。
心臓を狙い一撃で殺したいが、一発狙いはできないのでチクチク刺していく。
しかし最初の巨人を倒した時も思ったが、皮膚がかなり固い。この巨体を維持するために、体全体の強度が増しており刃の通りが悪い。『刃』でもないとスパッと行かないのが実情だ。
それでもチクチクチクチク新藤の後ろから攻撃を加えていく。
「あっぁあっぁあっぁ!!!!」
鬱陶しい俺を倒そうと巨人が拳を繰り出しても、一瞬の腕時計の響きを犠牲に新藤が俺を守る。一発二発三発、盾と『服』の併用は巨人相手でも効果を上げている。
そして巨人の注意が俺と新藤に向いたときに、堂本が俺達の陰から躍り出た。
日本刀が太陽の光をギラリと反射して、獲物を狙い澄ます。
巨人はそれでも俺や堂本に対して攻撃を繰り出し、堂本に注意を払わない。
「喰らえやぁ!!」
体勢を低く保ちながら新藤の右横から姿を出した堂本は、巨人の左太腿に日本刀を根元まで突き刺した。堂本は反撃を食らわないようにすかさず刀を引き抜いて、巨人から距離を取っていく。
人間の3倍とは言え日本刀を串刺しにされたのでは、傷は浅くは無い。巨人は痛みから呻き、そして膝をつく。傷に手を当て痛みを和らげようとする人間臭い動作を見届けた後、俺達は罠を設置した場所まで走り始めた。
「もう行くぞ!」
巨人は俺達の逃走を見て追いかけようとするが、堂本の一撃や俺の攻撃が効いており、数秒の硬直を強いられた。その隙を使い、全力疾走していく。
曲がり角にある油の海を飛び越え、息を止めながらガスが充満した空間を通り抜けるとライターを持ったメイが待っていた。
メイは俺達の姿を見て持っていたタバコに火を点けて、4人分のタバコそれぞれ渡していく。
「はい、これ」
走りながら煙草を受け取っていき、罠設置場所を振り返っていく。
盾を構えながら歩いている新藤の後ろに全員はいる。
「てめー!ちゃんと耐えろよ!」
「分かってますよ!!」
「来るぞ!!準備しろ!」
堂本が新藤の耐久力に不安を持ち、発破をかけていく。
しかし遊んでいる場合ではなく、巨人は足の痛みに耐えて俺達の方向に走ってきている。全員が完璧に新藤と盾の陰に入り、防御姿勢を取る。
この時には完全に立ち止まり、甘んじて爆音被害を受けている。
数秒もせず巨人が姿を現して、油に脚を取られて盛大に体を滑らせ透明な壁に激突した。やや油の量が少なかったが、それでも引っかかるように配置し体全体に油が付着している。
巨人は立ち上がろうとしているが、怪我と油のせいで立ち上がる事が出来ていない。腕で体を支えようとすれば、摩擦係数の下がった掌は地面を捉える事が出来ず滑ってしまい、肩から倒れ込んでしまう。
この隙を使わない手は無く、突風が吹く前に号令を出す。
「やれ!!」
新藤の陰から全員表面温度が700℃を超えるタバコがガスが広まっている空間に跳んでいく。
イソプタンガスと高圧ガスに火気が反応し、連鎖爆発を引き起こしていく。
空間から全てを排除せんとガスが燃焼され、紅蓮の炎が巨人を飲み込んでいく。
「熱っつぁ!!!」
ガスが爆発した音と熱風が周りに襲い掛かり、顔の産毛を焼いていく。髪の毛が焦げたような嫌なにおいが鼻に付き、嫌でも顔歪んでしまう。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
巨人は全身を襲った爆発の衝撃波と炎で全身に大ダメージを受けている。さらに油に火が付き、数時間前の巨人と同じような状況になっていた。
「いや、それよりか」
ガス缶が破裂した事で、破片が巨人の体のいたる所に食い込んでいた。周りを見ると金属製の切片が塀に食い込んでいたり、道路に散乱している。
さながら破砕手榴弾のようになった。
爆心地に居た巨人は破片が貫通した箇所もあり、体がズタズタになっている。炎にのまれ傷を確認しづらいが、血だらけになっていてもおかしくない。
しかし楽観的な状況でもない。
「他の巨人が来てる!止めだ!!」
爆破の余韻で耳が馬鹿になっているが、俺が飛び出ると他の3人も巨人に向かっていく。
全体重をかけ槍を巨人に突きこむ。
「ラァア!!」
転げまわる巨人の背中に15cmの刃が食い込む。引き抜くと同時にメイ、堂本、新藤も攻撃していく。どいつもこいつも火傷なんか気にせず、燃えている地面を通り過ぎて巨人に近づき攻撃を加えていく。
最初の巨人は慌てており、非効率的な攻撃を繰り返していたが今回は違う。頭・首・心臓の付近を狙って攻撃していく。
メイが巨人の頭を蹴り飛ばし、堂本が胸を串刺しにし、新藤は余ったサバイバルナイフで首に攻撃する。脳、延髄、心臓を全て破壊された巨人は動くことを強制的に終わらせられてしまった。
振り返れば3体の巨人がこちらに向かって来ている。
10秒もしないうちに俺達は死ぬはずだったんだろう。
「俺達の勝ちだ」
腕時計から音声が流れた。
さながら勝利者宣言だ。
「『巨人』が一体討伐されました。『巨人』を補充します。また、柊照光様、黒沢明様、堂本耀様、新藤輝元様の4名が転移条件を満たしました。転移します」
燃え盛る炎を背景にして、4人は住宅街から姿を消す。
ここまで上手く行った戦闘は『選別』以来、初めてだったのかもしれない。
感想待ってます。




